16話 見習い少女、クエストへ
今回から『見習い少女激闘編』スタートです!
明日までミヤト達はお休みです。明後日の話から登場する予定です。
※ブクマーク6000人突破です! 本当にありがとうございます!
冒険者ギルド――ヴァルハラの数多くの街に設置された、冒険者のための互助組合である。元々は王都【リバレイン】にあった小さな冒険者達の集まりだったという。そこから数千年の時を経て、多くの国々や街へ支部が出来上がったとか。その支部第一号が【スタイダスト支部】だと言われている。教会が数多く周辺に集まり、スタイダストという街が形成され、その際に支部第一号として推薦された。多くの冒険者が王都とスタイダストへ集結し、世界中へギルドを広めたと歴史書に残っている。
現在ギルドの役目といえば冒険者達の情報交換、クエストの発注または依頼、雑談、さらに仲間集めの場となっている。今日も多くの冒険者が命を預けあうパーティーを探している。
冒険者見習いのティルブナ・F・アルムントは一人前――レベル200へ到達するため、ユニークモンスター【ブラック・オーガ】に対抗するメンバーを集め、互いに自己紹介をしていた。
「お集まりいただき深く感謝を申し上げます。今回パーティーのリーダーを務めるティルブナ・F・アルムントですわ。以後、お見知りおきを」
三人の人物達へ【スクールシリーズ】のスカートの裾をつまんで頭を下げた。
「レベルは198。このクエストを終えてレベル200へ到達するつもりですわ」
「とうとうティルブナもレベル200か。感慨深いものがあるな」
そう答えるのは、全身を白銀の鎧で包み、腕を組んで頷く大男だった。名前はデスカント・バルドラー。レベル203のホーリーナイトである。ティナとはスタイダストに建設されている【冒険者育成学園】の先輩にあたり、去年、学園を卒業した少年である。少年といったが、彼の巨体と老け顔から30歳といわれても疑いはしないだろう。実年齢は19歳である。
「おっと、紹介が遅れたな。俺はデスカント・バルドラー。ティルブナとは何度かパーティーを組んだことがある。ユニークモンスターも一応二桁は討伐経験があるから、頼りにしてくれてもいいぜ」
にっと歯を見せて笑う。これが色男なら数多くの女性冒険者はくらっときたのかもしれない。だが、見た目おっさんのデスカントではそうはいかないところが哀しい。ティナと他の2人は顔を見合わせて、特に反応するわけでもなく、自己紹介を進めた。
「次は僕かな? 僕の名前はサマエト・ウェイガ。見た目どおり錬金術師だ。今回ティルブナ嬢のパーティに参加できて光栄に思うよ」
サマエト・ウェイガ――彼はレベル183のアルケミストだ。昇華の儀によりレベル1の状態で一年前から上位職として活動している。サラサラとした耳が隠れるほどに伸びきった金髪に、宝石のような青い瞳、整った顔立ちはまさに美少年の言葉がふさわしい。彼は現在学園に在学中で、ティナの一つ上の12学年になる。今年卒業予定だ。【ザ・クリエイティブ】をまだ使えないとは言え、物質の等価交換による攻撃スキルは扱えるレベル帯だろう。
見た目どおり錬金術師というのも、彼が羽織っているローブのことを指す。漆黒のローブにはポーチとは桁違いのアイテムを収納できるポケットが存在する。本来は必要以上のアイテムをポーチなどにあらかじめ収納しておくと動きに制限が生まれ、不利になる。錬金術師はそれを無視して、大量の素材をすぐさま連金可能にするため、不動のスタイルをとることが多い。
「わ、私はナノ・サラカスといいます……。ひ、ヒーラーです。よろしく、おねがいします……!」
最後にあわただしく挨拶をする少女――ナノ・サラカス。かなり小柄な少女で、17歳の少女の平均身長とほぼ同じであるティナと比べても頭一つ分小さい。修道服にも似た格好をしているが、胸元には十字のマークは存在せず、色も黒ではなく青を基調としている。頭には黒のベレー帽を被り、水色の髪の毛が腰の辺りまで伸びている。潤んだ茶色い瞳からは何故か涙がこぼれそうだ。
「ナノ。緊張せずとも大丈夫ですわよ?」
「は、はい! ティナ先輩のお役に立てるよう、が、がんばります!」
ナノはティナの後輩で、こちらもパーティーを何度か組んだ経験がある。緊張するとすぐに泣き出し、学園でもお荷物状態だったという。ティナが積極的にさそい、今ではレベル157まで成長できた。今回も連携が取れやすいだろうと誘われたのだ。
「以上、このメンバーで【ブラック・オーガ】を討伐しにいきますわよ」
「ちょっとその前に」
サマエトがローブから右手を出して発言を主張する。ティナは「どうぞ」と短く答えて発現を許可した。
「みんなも知ってのとおり、今回の【ブラック・オーガ】はイレギュラーだ。ギルドは問題はないと言っていたけど、こんな学生ばかりのようなパーティーで本当に大丈夫ですか、ティルブナ嬢?」
デスカントを除く三人が今だ学園で授業を受けている学生である。不満があるわけじゃない。ただ、本当にこの戦力で戦える自信がリーダーにあるのかどうか確かめたかったのだ。ティナが1%でも彼らと共に戦い、負ける要素があると思うなら、今回はやめておいたほうがよいと彼は考えている。
ティナを試すような発言でもあるのだ。
「それは愚問ではないのかしら?」
質問を聞き、ティナは笑みを浮かべる。
「デスカント・バルドラー、現役学生時代に数多くのユニークモンスター討伐経験を持ち、卒業後もすでにレベル200に到達。彼の守りは私のお墨付きよ」
「よしてくれよ、照れるじゃないか」
デスカントは頭をかいて嬉しそうに笑った。ホーリーナイトの役目は敵の攻撃を受け止め、パーティーを守るディフェンダーの役目だ。また、光属性のスキルを多く使うことが可能で、今回の【ブラック・オーガ】との相性も良い。
「ナノ・サラカス、泣き虫で少々頼りないところもあるけど私は彼女の回復スキルを見込んでいるわ。とっさの判断力もなかなかのものよ?」
「せ、先輩っ。そんなに褒められても……」
俯きながら小さな声で呟く。顔は赤くなり、どうやらこちらも照れているようだ。回復スキルは術者によって効果の効き目が変わってくる。ナノの強みとして、その回復速度だろう。傷の塞がる時間が一般のヒーラー達と比べてもかなり早い。彼女の才能であるが、性格の所為で邪魔されている。
「最後に、サマエト・ウェイガ。スタイダストに100人いるかどうかと言われるアルケミストの一人。現在学年トップの成績を誇り、鉱石を扱った錬金術が得意と聞いたわ。模擬戦で【ソードマン】五人相手に無傷で勝利したことも耳にしております」
「よくご存知で」
対人戦を不得意とするアルケミストだが、学園で行われた模擬戦では【ソードマン】5人相手に無傷の勝利を収めたことは学園でも話題となっている。彼の扱う鉱物系統の錬金術は攻守を両立できる。彼のスキルはレベルアップで覚えられるスキルとはまた別で、【スキル指南書】と呼ばれる本を熟読することによってえられるタイプだ。宮兎も扱えない錬金術をこの少年は発動できるのだ。
ちなみにだが、宮兎も何冊かの【スキル指南書】を読んでいる。その一つが【ベルフエル】戦で使われた【ホーリー・スパーク】だ。【語学力SS】のエンチャントが施された伊達メガネを着用し、三日かけて、あの決戦のために読み終えたと本人は後々語る。
「最後にこのわたくし、ティルブナ・F・アルムントは神の一族であり、レベル200到達への最速記録を狙っていますわ。ユニークモンスターも既に5体は討伐経験済み。自ら言うのもあれなのですが、【先駆者】としての才能はあると自負しております。絶対に勝つ――この気持ちは誰にも負けませんわ」
サマエトは――確信した。これが神の血族かと。彼女のカリスマ的能力はごく稀に見るほど優秀で、上に立つ人間とはこのような人物がなるべきなのだと。十数年の短い人生の中で、彼はティナと言う少女こそスタイダストの未来を背負うべき人材だと認識した。
彼女ほど強さに強欲で――冒険者としてのプライドが高いのならば、レベルカンストも夢ではないのかもしれない――サマエトは胸に湧く感情を抑えきれず、すぐさま跪いて頭を下げた。
「先ほどの発言、ご無礼と分かっていながら大変失礼いたしました、ティナブル嬢」
「いいえ、わたくしも自らの自信をあなた方に示さなければ、絶対の絆は生まれません。こちらこそ、利用するような真似をとったこと、謝罪しますわ」
ティナはサマエトに立ち上がるよう指示し、首を縦に振る。ゆっくりと立ち上がった彼をデスカントが肩を優しく叩いた。
「まあ、気持ちは分からないことはない。俺も何度かティルブナには頭を下げたくなった。それだけの器を持っているということだよ」
「ええ、僕は確信しています。スタイダストの未来は心配無さそうです」
「ふふふふ、冗談がお上手」
ナノですらクスリと笑って場が和む。クエストに出る前はこのように(今回は少々違うが)雑談をして信頼を気づきあげることが大切なのだ。冒険では何が起こるかわからない。危機的状況で仲間を信頼できるかどうか、パーティーが生き残るためにもっとも重要な項目である。
「では、明日の朝9時にここ、冒険者ギルド【スタイダスト支部】で待ち合わせですわ。各自アイテムなどの準備、明日に備えられることは今日中に全て終わらせるようお願いいたしますわ」
「まかせとけ」
「分かりました」
「は、はい!」
三人の返事を聞いて、ティナは頷く。
「これにて今日は解散。明日――【ブラック・オーガ】の首を取り、更なる高みへと!」
こうしてティナ、デスカント、サマエト、ナノの四人のパーティーは【ブラック・オーガ】の待つ神秘の草原へ旅立つことになる。とはいえ、近くの村までは転移用のクリスタルで移動するのだ。スタイダストでは冒険者ギルドの一番奥の部屋に設置され、厳重に管理されている。
仲間との絆を作り、バランスの取れたパーティー編成、優秀な人材、なにもかもが上手くいっている。ここまでは――なにもかも。
彼らは知らない――これから待ち受ける本当の【イレギュラー】と出会うことになる真実を――。