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14話 シスター、泣きそうになる

日間2位達成! ブックマーク4000人達成! ありがとうございます!

 教会へ戻った二人は、中で一人の人物が礼拝をしていることに気がつく。教会の一番奥――正面に建てられた巨大な大精霊『アールテミスト』の膝元でじっと目を瞑り、静かに祈る少女がいた。後姿に見覚えがあったアスティアは、祈りが終わるのを待ち、少女が立ち上がったところで声をかけた。


「こんにちは、ティナさん」


「ん? ああ、アスティアに――セルフィ!?」


 揺れる金髪ポニーテル――ティルブナ・F・アルムント、通称ティナはアスティアの隣でぼーっと立っているセルフィを見て大げさに驚いた。


「お知り合いだったのですか?」


「知り合いも何も、わたくしの専属シスターです」


「ええ!?」


「あははは、そうなんだよねぇ」


 ティナの専属――アルムント家は『昇華の儀』を行う際に、専属のシスターを決める。『昇華の儀』を行うシスターや神父によって能力の変化が生じることは決してない。だが、常に強さへの執着が強い神の一族は『シスター』や『神父』でさえも選び、優秀な人材を独占してしまうのだ。専属に選ばれることは名誉であり、スタイダストの『聖職者』達の憧れえもあるのだ。


「セルフィ、いつの間に……」


「いやー、なんか偶然そうなったような感じで。あたしだって好きでやってるわけじゃないし」


「こちらのセリフです。わたくしは今日、午後から貴女と会う約束をしていたはずですよ?」


「あれー? 明日じゃなかったっけ?」


「今日ですわっ!」


 とぼけたように首を傾げるセルフィにティナは溜息をついた。アスティアはアルムント家の考えが良くわからなくなっていた。正直にセルフィは優秀なシスターと周りは認識していない。不良シスターの異名までつけられ、仕事もサボれば酒癖も悪い。聖職者としては失格と言われても仕方がない状態だ。


 だが、アルムント家はセルフィを評価している。何かの考えがあってそうしているのか、本当に『シスター』や『神父』によって『昇華の儀』に優劣がついてしまうのか――アスティアは数秒だけ真剣な顔で悩む。


「アスティア? 難しい顔をしておられますが、いかがなさいましたか?」


「え? あ、ああ。大丈夫です。ちょっと驚いちゃって」


「わたくしもセルフィが何故選ばれたのか理解できません。約束は守らない、仕事はしない、酒癖は悪い。本当に貴女シスターですの?」


「失敬な! あたしはこれでも昔有名な冒険者を数々見てきた優秀なシスターなのよ」


「たとえば?」


「たとえば――」


 セルフィの言葉が詰まる。アスティアは咄嗟に分かった。嘘をつきましたね、と。誰の名前を挙げようか頭の中で選出中なのか、「えーっと、えーっと」の繰り返し。ティナはしばらく見ているだけだったが、なかなか口に出さないセルフィにふと、こんな疑問を抱いた。


「まさか、【赤い影】様とは言わないでしょうね?」


「赤い影? あー、違う違う。だってスタイダストの教会で出入した姿は誰も見ていないし、報告もないんだよ?」


(……私が隠蔽してますからね)


 スタイダストに10ある教会は月に一度。簡単でいいのでどれほどの冒険者を『昇華の儀』でレベルダウンさせたのか報告しなければならない。リーリフィル教会は月におよそ5人ほどで、セルフィが所属するノスティノン教会では300人ほどの冒険者が訪れるという。これは、冒険者ギルドが管理する目的であり、レベルの低い状態で無理なダンジョンやクエストへ行かせない為である。


 ちなみに赤い影――宮兎は態々自らのステータスをギルドへ報告しに行っていたとか。徹底的に身元を隠すために、足を運んでいたという。


「ふむ……赤い影様の昇華の儀を担当していたシスターか神父には一度お会いしてみたいです」


「さあね。噂じゃスタイダストじゃなくて、外の教会で儀を行っているんじゃないかと話にはなっていたけど。ね、アスティア」


「ええ、そうですね…………」


 適当に話を濁して、アスティアは苦笑した。


「それはそうと、会いに態々来たならここで話せばいいじゃない? 別にアスティアに聞かれて嫌な話じゃないでしょ?」


「そうですが、アスティアは退屈ではないでしょうか?」


「そ、そんなことないです! 冒険者の話が聞けるだけで私が満足です!」


 冒険者を夢見る少女は純粋な気持ちだった。彼女の反応を見て、ティナは「なら」と頷き、セルフィに一枚の紙を手渡した。受け取り、内容を確認すると、どうやらクエストの発注書のようだ。日付は3日後の出発になっている。


「これは?」


「スタイダストから西の方角――神秘の草原でユニークモンスターが出たとの情報があり、さっそくクエストの発注がありましたわ。わたくしの予想では、このモンスターを討伐できればレベル200に上がると思っていますの」


 ティナはメニューを開いて自分のステータスくるりと反転させ、二人へ見せる。


=================


  【ステータス】


  Lv.198/200 

  MP753/753

  STR 350

  VIT 232

  DEX 346

  AGI 227

  INT 368


  メインジョブ 【ソードマン】

  サブジョブ  【マジシャン】


  アクティブスキル数 14

  パッシブスキル数  36


=================



 レベルは198――ユニークモンスターを倒せばレベル2は確実に上がるであろう。


 ユニークモンスター――ダンジョンのボスもこれに該当するが、多くは魔物の突然変異が起こした状態を示し、特殊な名前を与えられる。種類によっては一定の時期に現われ、発見され次第討伐される。人類にとって壮絶な脅威になる可能性があるからだ。危険が大きい分だけ、与えられる経験値は大量だ。


「モンスターのレベルは230。レベル200ほどの四人パーティーで挑めば大丈夫だろうと、お父様の見解です」


「なるほどねえ」


 セルフィはクエスト発注書をじっと確認して、「んー」と静かに唸る。アスティアも横からクエスト発注書を覗き込み、内容を確認する。


「他の冒険者達は?」


「赤い影様は近頃姿を見ません。週に1度簡単なダンジョンへ潜って日帰りで帰ってくる程度。姿を見たのは3日前。この発注書をまだ確認していないかと。精華のレジニーは他のクエストでスタイダストを離れています。他のレベル300を超える冒険者達はおいしくないと、見向きもしていません。わたくしの様な下位職の冒険者達と、上位職になりたての冒険者達は悩んでいるそうですが」


 ユニークモンスターは他のモンスターと比べ物にならないほど強い。通常モンスターのレベル230とユニークモンスターのレベル230はまた違うところがある。これは冒険者の昇華の儀による差に似ている。


「個人的には上位職は2人連れて行って欲しいわね」


「最初からそのつもりですわ。予定ではアルケミストと、ホーリーナイトを。回復職にヒーラーを連れて行こうかと思っています」


「ふむふむ……」


 アルケミストは言わずも知れた上位職の錬金術師だ。ホーリーナイトも同じく上位職、聖騎士。ヒーラーは回復スキルを専門とした下位職業、僧侶だ。回復職はパーティーに一人は必須だ。ある程度の実力が備わっていれば下位職でも問題ないとティナは判断したのだろう。


「まだ、誰とは決めていませんが。ギルドで声をかけてみようかと思っておりますの」


「そうだねえ。前衛のホーリーナイトとティナちゃんのソードマン。中衛にアルケミスト、後衛にヒーラー。絵に描いたような陣形ね。まあ、レベル230のユニークモンスターなら負けないと思うけど…」


 セルフィは不安が残っていた。クエスト発注書に書かれているユニークモンスター、【深淵の鬼】の異名を持つブラック・オーガなのだ。攻撃力に極振りしたようなモンスターで、一瞬の隙さえつければ確かに平均レベル200のパーティーでも倒せないことはない。だが――


「この時期にブラック・オーガって大丈夫なの?」


 セルフィが引っかかっていることはブラック・オーガの出現時期だ。ブラック・オーガの特徴は夜の長い冬に多く発見され、春になれば出現報告は全くない。スタイダスト周辺の地域は既に春を迎えている。ブラック・オーガが出てくることはかなりイレギュラーなのだ。アスティアも首をかしげてティナに問う。


「何か理由とか分かっていいるのですか?」


「いえ。ギルドはイレギュラーと認識していますが、通常のブラック・オーガと変わりないとのことでクエストを発注していますわ」


 ギルドは事前に調査員を派遣して、ユニークモンスターの状態を観察し情報を取り入れる。最低でも5日間は観察を続け、変化がなければそのままクエストの発注となる。今回はイレギュラーとのことで念を入れて1週間の観察を施した。


「私は反対じゃないわよ。ただ、危ないと思ったら逃げること。命がなくなったら、できることもできないからね」


「承知いたしました。セルフィの顔を立てるためにも、必ずや討伐してみますわ」


 ティナはにっこり笑って頷く。セルフィも彼女の自信を見て問題ないだろうと確信した。それからしばらく三人で雑談して、ティナはギルドへクエストを申請しに行くと言い残し、去っていった。





 ティナが去ってすぐ、セルフィは話題を振った。


「そういえばミヤトくんもメインジョブはアルケミストだったよね? ティナちゃんに付いていってもらおうかな?」


「駄目ですよ」


「おや? 嫉妬かな?」


「違います。すでに引退した状態ですし、ミヤト本人が嫌がります」


 冒険者を引退する場合、特別な申し込みなどはない。いつでも復帰は可能である。しかし、多くの冒険者が怪我やトラウマにより引退する。一度身を引いた冒険者がダンジョンやモンスターと再び戦うことは難しいとされている。


「ミヤトは怪我で引退していますし、古傷が開いたら大事おおごとですよ」


「それもそうだねー。まあ、アルケミストがメインジョブってなかなか居ないからね。ティナちゃんは見つけることができるかなとちょっと不安なんだ」


 宮兎もメインジョブはアルケミストではない。赤い影になる前はそうであったが、身分を隠すためにサブジョブとメインジョブを入れ替えたのだ。そもそも職業とは、教会で与えられる【特技】と【成長の補助】を意味する。ジョブチェンジの際は教会で行われる。つまり、神の恩恵により与えられる力の名称――それがジョブシステムだ。


「で、ライバルがあのティナちゃんとはねぇ」


「はい…………はい?」


「気づいていないとでも思った?」


 アスティアの顔が青くなる。これまた面倒な人物に知られてはいけないことを知られてしまった気がした。セルフィは食事の後のアスティアが焦る反応を見て、既にライバルが居ることは感じ取っていた。ティナの後姿を見た瞬間、少しだけ驚いていた彼女を見逃さなかった。


「たぶん、考えていた相手がまさかここに来るとは思っていなかった。そんな反応だったよ」


「……意地悪」


「はいはい、泣かない泣かない。大丈夫だって。アスティアの味方だし、私が今からいい事してあげる」


「いい事?」


 すると、セルフィはメニューから【コール】を選択する。誰に連絡をとっているのだろうか……。アスティアが首をかしげ、想像したが予想ができなかった。なかなか相手がでないので、セルフィは切ってはかけなおし、切ってはかけなおした。四度目の【コール】でようやく相手が出たようだ。


「あー、あたしだけど。セルフィーってうっさ! 怒鳴らないでよ! え? 仕事中? 知ってるわよそんなこと。それで手短に伝えるわね。明日の14時に【フェアリー・ツリー】の下に集合ね? なんでって、アスティアの相談に乗って欲しいのよ。ね、いいでしょう? ミヤトくん」


「ミヤトっ!?」


 【コール】の相手は、ミヤトらしい。アスティアは飛び上がってセルフィに通話をやめるように指示する。だが、ぴょんぴょん跳ねる彼女を無視して、話を進める。


「それじゃあ明日ね。え? ああ、大丈夫。アスティアには私が行くよう伝えるから。拒否権ないからー。じゃねー」


 プツンっと切れた【コール】にもはやアスティアは口を大きく開けることしかできなかった。


「明日、ミヤトくんとデートね」


「…………」


 アスティアは泣きそうになった。

次回でシスター奮闘編は終了です。

次の編はバトル多目のティナ主体の話です!


ミヤトも戦いますよ?



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