12話 シスター、宣言する
アクセスがゲームがバグったみたいな数字になってて白目むきそう
ウサギ屋は今日も大繁盛だ。客の出入りが激しく、店内に客がいなくなる気配は全くない。むしろお昼に近づくにつれて増えていく一方だ。騒がしくなるであろうウサギ屋でアスティアとセルフィは正面から入る。セルフィは始めて訪れた100ゴールドショップに興味津々だ。
「ほえー、これが全部100ゴールド。そりゃ毎日買い物客がくるわけよ」
「私も日用品はお世話になってます。庶民の方々や冒険者まで大人気なんですよ」
棚に並べられる日用雑貨の数々。店の隅には冒険者用の使い捨てショートダガーや包帯なども揃えられている。目移りする商品をあれやこれやと観察していると、セルフィの目に奇妙なものがうつった。
「ね、ねえアレはなに?」
アスティアの袖を引っ張り動きを止める。アスティアも足を止めて指差す方向を見てみると、例の【クロ】がダンボール箱につめられた大量の商品を棚へと並べている光景だった。アスティアは見慣れすぎて怖い絵に「ああ」と短く返事を返す。
「アレはミヤトの使い魔(の設定)ですよ。【レイン・ゴースト】の【クロ】ですね」
「使い魔? アルケミスト職が使い魔ってことはフラスコの妖精なの?」
「私も詳しいことは分かりませんが、そうらしいですよ」
ここにメインジョブをアルケミストにする冒険者がいれば「絶対違う」と反論してくるに違いない。だが、アルケミスト職につく冒険者はごくわずかで、スタイダストに100人いればよいだろう。そもそも何もかも黙っておけば【不思議な店員】として受け入れられているので問題は全くない、はず。
「ほら、あちらが【シロ】で、レジにいるのは【モーノ】ですよ」
周りを見渡せば他にも2体の【レイン・ゴースト】に気がつける。セルフィはまるで奇妙な存在を認められないような怪しい視線で彼らを見続けている。関心にも、呆れにも、驚きにも感じ取れる。
動きを止めたセルフィを無視して、レジへ向かうアスティア。我に返ったセルフィは慌てて彼女の後を追う。その間も忙しく店内をなめるように見ていた。
「こんにちはモーノ」
「こ、こんにちは」
アスティアの挨拶に続いてセルフィもモーノへ頭を下げる。レジでお客を待っていたモーノはアスティアの顔を見て慌てて頭(に見えるフード)を深々と下げてお辞儀した。ちらりとセルフィを見て首を傾げる仕草をする。
「こちらはセルフィ。私の姉のような方ですよ」
「あ、えっとセルフィ・ファイアット……です」
名前を聞いてモーノは嬉しそうにセルフィの両手を握って握手をする。縦にブンブンふってとても交友的だ。張本人は手を包み込むビニールの布の感触と、何かに握られている不思議な感覚に目を回していた。感触があるようなないような、目には布しかうつらず、人の手のようなものはない。
「な、なんだか社交的なのね」
「私がきちんと接客と人に対しての教育をしましたので、当たり前です」
教育――別に初対面の時のようにスキルを駆使して脅したわけではない。宮兎とともに【接客マニュアル(レイン・ゴースト用)】のレジェメを作り、時間があれば人の常識や数の計算、物の名前まできっちり勉強したのだ。それが彼らがウサギ屋でテキパキと働ける理由でもある。
「つまりはアスティアが教育係なの? ウサギ屋の?」
「別にそうではありません。私はただ、ミヤトに大きな恩もありましたので協力しただけですよ」
「ふーん」
大きな恩とは、これからの未来――アスティアの夢を成し遂げるための投資だ。少女は将来のため、夢のため、そして想い人のために手伝えること、助けれること、背中を押してあげられること、一緒に隣で立ってあげること――彼女の行動にはたった一人の青年への想いが成し遂げる結果であり、結論なのだ。
心の中で彼のことを思い出し、モーノの後ろを覗き込む。
「ミヤトは留守ですか?」
質問にフードを横へ何度か振った。どうやらバックルームで別の仕事をしているのだろう。アスティアは邪魔をしてはいけないだろうと考え、日をあらためようとセルフィへ相談しようと視線を横に向けた。
「あれ? セルフィ?」
「お邪魔しまーす」
「セルフィ!?」
あろうことか不良シスターはバックルームの扉を開けていた。慌てて止めようと背後に回るが、すでに遅かった。そのまま中へ入り、出てこようとは決して考えないだろう。
「モーノ、本当にごめんなさい」
問題ない、まるでそう伝えたいようでアスティアの背中を押してバックルームへ導く。申し訳なさそうにセルフィのあとへ続いて、店の裏へと入った。バックルームに入ると、セルフィはその場で足を止めて店内と同じように在庫の数々を見回す。そんな彼女の背中を無言でつねった。
「いっつぅ!」
「勝手に入ったら迷惑でしょ! セルフィ、今はお仕事中なのですよ?」
「いやいや、目的を忘れてもらっちゃ困るなぁ」
涙目で背中をさすりながらセルフィはこんなことを口にした。【目的】の文字にアスティアは一瞬、今日はウサギ屋に何用で来たのか考えた。それは――セルフィによる恋のいろは――そんな話だった。思い出して、はっとしたが、神様は待ってはくれない。
「誰だー。仕事中だぞー…………って、アスティア? と、セルフィさん!?」
「やっほー。ミヤトくん」
「あ、こ、こんにちは」
宮兎が在庫棚の間から顔を見せ、二人のシスターを確認すると驚いた表情になる。アスティアの訪問よりも、隣にいる赤髪巨乳の不良シスターへの反応があまりにも「嫌だ」と訴えている。宮兎はこの時間デスクワークをしていたらしく、キャスターのついた椅子に座り、背を反り返るようにして覗いているようだ。
宮兎の格好は普段着ているようなTシャツとジーンズではなく、上は腕まくりをした状態のカッターシャツに、下は紺色のスラックスだった。ベルトにネクタイのオプションで、この格好がウサギ屋で働く彼のユニフォームなのだ。これにあとはウサギのロゴマークのついた赤いエプロンを身につける。
手を振って悠長に挨拶をするセルフィとは違い、彼と一番会っている筈のアスティアの挨拶がぎこちない。頭の中でセルフィの恋のいろはがなんとなく引っかかるのだった。まさか宮兎に変なことを言うのではないかと気が気ではない。
「しばらく見ない間に立派な商売人だね。何をしてたの?」
「客注のまとめと配達のタイムスケジュール作成ですけど……って、セルフィさんまだシスターやってたんですか?」
「失礼ね! これでも【ノスティノン教会】屈指の人気なんだから! あたしの大人の魅力に冒険者の男共はメロメロなの!」
「はいはい」
「うわー、その冷たい視線久しぶりだなぁ」
会うたびに行われるコントはアスティアにとっても久々なものだった。二人はお互いアスティアの保護者のような視点を持つ者同士、会話は意外とかみ合うことが多い。まるで長年連れ添ったお笑い芸人のような関係に昔はアスティアも嫉妬していたが、彼らが互いを「ボケ」だの「アホ」だの罵倒するのを見て「ああ、なんか違うかな」と子供ながらも分かっていた。
今では二人のやり取りを、一つの「娯楽」として見るようにしている。それだけ二人の会話はバカバカらしく、聞いていて飽きない。一度は彼らの会話を本にして売り出したいとアスティアはひそかに計画していた時期もあった。
「今からお昼のラッシュに入るんだけどお二人は何用で?」
「あ、ごめんなさい。セルフィ、やっぱり日をあらためましょうよ」
「せっかく可愛い女の子二人が来たんだしお茶ぐらいは飲んで帰りたいわ」
「アスティア、お前は二階でくつろいでいていいぞ。セルフィさんは裏口へ案内しとくから」
「あたしは年下に興味ないけど?」
「大丈夫、帰ってもらうだけだから」
ニコニコしながら笑う二人は仲が良いのか悪いのか――いや、決して悪いわけではない。先ほども述べたように仲はものすごく良い。問題は異性としてではなく、どんな冗談も笑って返せる親友のような存在だということだ。
「冗談はほどほどにして用があるなら二階で待っててくれないか? 今からシロには配達に行ってもらうし、お客さんも増えるから俺も表で接客しないと」
「時間はとらせないわよ。ただ質問に答えて欲しいだけ」
「質問って、いくつ?」
「一つ」
セルフィが人差し指を天井へ向ける。たった一つの質問のために態々訪問したのかと宮兎は戸惑った。だが、それがアスティア一人ならまだしもこの不良シスターことセルフィが絡んでいるのだ。また人様に迷惑をかけるのではないかと心配になる。
「はあ…………アスティア、迷惑だったら嫌ってきちんと言わないと、今後も振り回されるぞ?」
「ちがうもーん! 今回はアスティアの問題だもーん! あたしは付き添っているだけだもーん!」
「アスティアの? 本当なのか?」
「え? あ、そ、そうですね。そういう解釈をすれば、そうなのかもしれませんが……」
アスティアの反応は半分正解で半分不正解――態度を見れば原因は自分自身だが、このような事になるとは思ってもいませんでしたと彼女の目は訴えている。ぎろっとセルフィを睨むと顔を背けて下手糞な口笛を吹き始める。ああ、的を射るとはこの事かと、宮兎は溜息を吐いて机に右肘をついて拳に頬をのせる。納得はしていないが、ほっとくと面倒になりそうだ――宮兎の出した答えだった。
「いいよ。ただし一回だけだぞ? 約束だからな? 絶対守れよ?」
「何で念を押すかなぁ? セルフィお姉さんが嘘をついたことがあったかしら?」
「二年前の夏、【ガヴラバの酒場】で【タイラント・ワーム】から【甲蟲王の宝玉】が低確率でドロ――」
「さてと! 時間がないもんね! 質問しちゃうぞー!」
アスティアにとってセルフィは心の底から信頼している人間の一人であるが、その枠から外そうかと一瞬だけ迷ってしまった。不覚にも――別に不覚でもなんでもないのだが、本当に大丈夫なのだろうかこのシスターは? アスティアはジト目で彼女を見た。
「まあまあ、昔の過ちはもう神様が許してくれたのでノーカンってことで」
「俺はずっと覚えてるからな」
「ぶうー。しつこい男は嫌われるぞ?」
「忘れっぽい女もどうかと思うがな」
これじゃ埒が明かない。アスティアはセルフィの肩を叩いて「早くしましょう」と急かす。
「えー、アスティアの為なのにー」
「話が進まなければ意味がないでしょうに。ほら、質問とはなんなのですか?」
実はセルフィの質問とやらはアスティアも知らない。無理にでも後押ししなければ時間の無駄なのだ。アスティアとしても宮兎の邪魔になるようなことはしたくはない。セルフィはニヤリと笑っていつもの悪戯する顔だ。
「んー、やっぱりアスティアに言わせたほうが後々ポイント高いかも―――」
「セルフィ? 怒りますよ?」
「いふぁい! もうおふぉってる! ほほをつふぇないで!!」
肩においていた手で、そのままセルフィの頬をぎゅっと引っ張る。痛い痛いと抵抗しているが、その表情にはまだ笑顔がこびりついている。宮兎もいつもならここで逆の頬をつねったりして遊ぶのだが、今は余裕がない。
「はいはい、ふざけるのもここまでね」
「んで? 質問って何さ?」
「えっとえっと、ミヤトくんはどんな女の子が好きなの?」
セルフィはにっこり笑顔で――当たり前のことを聞くように質問した。
「は?」
「ちょ、ちょっとストーップ!」
アスティアはセルフィの両肩を掴み、宮兎へ背を向ける。何を言い出すと思えばあまりにもストレートすぎる質問で、顔も赤くなり、頭は混乱し、何より宮兎の顔をみることができそうにない。何故、最初に「アスティアの問題」などと言ってしまったのか。
「ちょっと、恥ずかしがってちゃ進歩しないでしょ?」
「進歩どころか下手すれば後退しますよっ! なんてことを――」
息を呑み、ゆっくりと振り返ると宮兎は顎に手を当てて唸っているようだ。真剣に悩んでいる――のだろうか? セルフィは彼がどのような反応を見せてくれるのか分かっていたのか、くるりと体を元に戻して話を進める。
「いやね? 教会へ迷える女性がアスティアに質問したのよ? 『好きな男性を振り向かせるにはどうしたらいいですか?』ってね。そうだよね、アスティア?」
「あ、はい。そうなんですよ。そこで、直接男性の方々に聞くのが一番の解決策かなーって……」
アハハハっと二人そろって笑顔で誤魔化す。咄嗟だとしても、これは流石に無理があったのでは? アスティアは乾いた笑みをできる限り振り絞り、感づかれないように願った。
「突然セルフィが核心へ触れたから驚いちゃいましたよ」
「だって時間がないっていうじゃん。仕方ないかなって」
「ふむ…………」
宮兎は短く、頷くとちょっと真剣な表情で二人へ視線を向けた。
「経緯は分からないけど、俺だったら隣で一緒に歩いてくれるだけで満足かな」
「隣ですか?」
「俺の経験でしかないんだけど、人って目標に向かったり、過去を振り返ったり、前やら後ろやら忙しいわりに、今――隣を見ないからさ。俺だって人間だから迷ったり、どうすればいいか分からなくなったりする時もある。そういう時はただじっと誰か傍にいて、手を握ってくれればそれで幸せかなって」
目を閉じて、微笑む宮兎にドキっとした。アスティアはまるで自分に対して言われているような――手を握ってくれと彼が求めているような錯覚に陥る。決して宮兎本人は彼女達に向けて言ったわけではない。ただ、将来的に一生を共にする人物が現われるのなら、そうしてもらいたい――彼なりの我侭を言ったつもりだった。
「意外とまともな事考えているのね」
「セルフィさんだって良くカップル見ながらぼそぼそ――」
「その話はまた今度! そんじゃ時間取らせて悪かったわね。アスティア、次行こうか」
「へ? つ、次ですか?」
「ミヤトくんだけじゃ『相談』は解決できないの! ほら、ゴーゴー!」
宮兎に「また今度ねー」と軽く挨拶をしてバックルームを出て行ってしまった。取り残されたアスティアと宮兎は嵐のような彼女を見て深く息を吸って、吐いた。
「セルフィさんといるとなんだか忙しく感じるよ」
「私も同感です。えっと、その……先ほどの答えですが――」
それは私じゃ駄目なのでしょうか? この言葉を言える勇気はない。口走ってしまいあとの言葉が続かない。宮兎は照れくさそうに笑って、ちょっと下を見る。
「やっぱりクサすぎたかな? まあ嘘じゃないし、今はそんな余裕はないけど」
「いえ、私は素敵だと思います。だから、だからですね――」
アスティアは――頬を染め口を開く。
「私も誰かの隣に立って、ずっと一緒に歩き続けれる女性になりたいです」
「……なれるさ。俺が保障する。アスティアはセルフィなんか足元に及ばない立派な女性になれる」
「ありがとうございます。それじゃ、私も行きますね」
「おう、気をつけて」
きっと、彼には違う意味でとらえられただろう。だけど、アスティアは言えたのだ。彼の理想の女性になると。彼の目の前で、きちんと宣言できたのだ。
ウサギ屋の入り口で待っていたセルフィは、出てきたアスティアの顔を見て――何かに気がついて、次の目的地まで彼女の手をつないで歩いたのだった。
家族で唯一、ペットに嫌われている作者です。
皆さんは動物は好きですか? 私は大好きですが、猫派です。
さて、読者の皆様のおかげで日間ランキング24位までくることができました。本当に驚きで何を言って良いのか分かりません。めちゃくちゃ嬉しいのですが、なろうあるあるで、このまま保つか、がくんと下がるか今後が怖いところもあります。
ですが、楽しんでいただける人に楽しんでいただければいいのかなっと思うところもあり、私の作品が万人受けするとは思っていませんしね。
面倒な話もこのぐらいにして、アクセス数は前書きでも書いたようにゲームがバグったかのごとく上がってます。初日の約130倍まで延びてます。マジこのあとが怖い……。
ですが、感想などもいただき作者の励みとなっています。キープできるとは思っていませんが、できるだけの努力はしていきたいです。
じわじわーっとランキングをいじできればいいなーと作者の願望です。
感想を送ってくださった読者の皆様、ありがとうございます。返信が遅くなる場合がございますが、きちんと全て確認しております。かならず返信できるようにしますので、何卒よろしくお願いします。
って、物語に一切触れてませんでしたが前回言い忘れたことがあり、セルフィさんはヒロインではありませんので。
うわー、もう何を語れば良いのか分からないほど混乱してます。
えっと、明日も書けたら書きます! 色々気軽に送ってくださいー!
d(・N・)ヾ