7話 ウサギ屋、騒がしくなる
遅くなりやした!
一方その頃、アスティアはパンや果物が入った紙袋を両手で抱え、中央区へと向かっていた。水曜日は学校や教会では休息の日とされ、子供達や教会関係者は休日を楽しむ。水の大精霊――ウィンデネ様の加護により決められている。一般的に日曜も休日とされ、この日は武器屋も道具屋も昼に店仕舞いをしてしまう決まりだ。
休日を迎えたアスティアは同じく休日を過ごしているはずの宮兎がいる【ウサギ屋】を目指していた。オープン初日に様子を見てきたアスティアだったが、あの調子じゃ今日は何もできないだろう。なら、私が料理ぐらい作ってあげなきゃ――そんな使命感にうたれたのだった。
(ミヤトは前、料理ができる女性はすばらしいと言っていました。ここでポイントを稼いでおけば、一ヶ月間の無駄な時間も無しにできるはずです)
無駄な時間とは、【ウサギ屋】ができあがるまで宿無しだった宮兎がリーリフェル教会に寝泊りしていた期間のことだ。二年ぶりに一つ屋根の下で寝泊りをしたが、これといって進展することはなかった。進展できなかった……が正しいのかもしれない。アスティアなりに努力はしていた。
宮兎が寝坊すれば起こしてあげよう――結果は自分が寝坊する始末。
目を回してお昼は忙しくなるなら手伝ってあげよう――宮兎の働きっぷりに驚き、むしろ邪魔になりそうだった。
夕方になれば教会へ子供達が遊びに来るから頑張らなきゃ――宮兎の作り出すおもちゃに子供は釘付け。
お風呂は一緒に入ってあげて背中を流してあげよう――彼はカラスの行水だった。
抱き枕が欲しいはず。な、なら私が――アサシン職は立ってでも寝れる。
毎日毎日、枕を一人寂しく濡らしながらアスティアはあの手この手で宮兎の気を引こうと頑張った。頑張っていたのだ…………。結果は見ての通りである。「無駄な時間」と吐き捨てるほどに何も起きない。
原因は何! 教えてください神様!
(原因は分かっています……。どうせ私は妹分ですよ)
宮兎は幼いころの彼女を知っている。それが尾を引いているのであろう。アスティアもそれは分かっていたつもりだ。分かっていたつもりなのだが、ここまで状況を泥沼に変える障害物になるとは予想していなかった。
(た、確かに昔からぺったんこで成長は…………うんうん! そんなことないはずです。私だって成長しているはずなんです)
ブツブツ言いながら落ち込んだり、ガッツポーズしたり、周りの人々から見れば可笑しな人である。それがまたシスターであれば更に視線は多くなる。本人は気にもせずにいちいちリアクションをしながら進んでいった。
スタイダストの住民は半分以上が冒険者である。故に【冒険者の街】とまで言われているのだが、その冒険者達が昼間からぶらりぶらり放浪したり、居酒屋で酒を飲んで酔いつぶれている光景は珍しいことではない。冒険者はギルドからのクエストを好きな時に発注できる。つまりは、好きな時に休めて好きな時に働けるのだ。
もちろん年がら年中遊び呆けている冒険者はギルドからの信用を失い、安い報酬しかもらえないクエストしか発注できなくなる。冒険者は信用が第一。名を売れば、膨大な富を手に入れられる。冒険者に憧れているアスティアは好きな時に働きたいとか、好きなだけ休みたいとか、怠惰な理由で冒険者を夢見ているわけではない。
冒険――ただそれだけだ。
広大な大地、深く続くダンジョン、強大な敵、仲間との絆――御伽噺で語られていた物語が目の前に広がっている。アスティアは乙女ながらも少年のような心を持っている。彼女にとって冒険とはすなわちロマン。宮兎もこの話を聞き、大きく頷いてくれたのはもちろんのことだった。
「あれ? ティナさん?」
「おや? アスティアではありませんか?」
目的の場所に到着したと思えば、伝説の冒険者であり神として称えられるアルムントの血を引き、セーラー服にも似た装備、ポニーテールの金髪が良く目立つ少女――ティルブナ・F・アルムント――通称ティナがウサギ屋の前で立っていた。
「どうしたのですか?」
「それが、今日が休日と知らずに来てしまったの。定休日を前もって調べておくべきでしたわ」
ウサギ屋の扉には【クローズ】と書かれた札がしてある。
「ノックしても出てこないのは留守だからなのでしょうか?」
「たぶん、バックルームに居るのでしょう。……買い物はできませんが会いに来られたのではないですか?」
「そ、それは……」
顔を赤らめてもじもじ恥らうティナを見て、首をかしげた。アスティアから見て、ティナの印象といえば【赤い影信者】の一言だ。どの神よりも【赤い影】を信仰し、知ってか知らずか宮兎の前でペラペラとマシンガンのように話し続ける。彼が「なにあれ怖い」と言った日は同情するしかなかった。
だが、今目の前に居る少女は【赤い影】の名前も出さずにまるで恋する乙女のような仕草をとっている。
(一ヶ月前も似たようなこと感じたような? うーん、これは多分……)
アスティアは首を振って考えるのをやめた。他人の心配より自分の心配だ。しかし、彼女をこのままほったらかしにするのは意地悪ではないかと思った。
「ティナさん、これから私とミヤトで昼食を食べるのだけどご一緒にいかが?」
「え? し、しかしそれは――」
「別にミヤトは気にしませんよ。ほら、裏口から入りますよ」
流れるような動作でティナの左手を掴み、誘導する。抵抗するかと身構えたが、ティアは下を向いたまま反応を示さない。これにはどうしたものかとアスティアは頭を抱える。
(はあ…………とうとうライバル出現、かな)
むしろ今まで居なかったことが不思議だと叫びたい。面倒見もよく、困っている人は助け、かと思えばふざけたり、黒い部分を見せたり、一緒にいて飽きない男性だ。彼の魅力はアスティアだけが理解していると勝手に一人で思い込んでいただけのようである。
アスティアは知らない。
彼女の知らないところで宮兎は名前のように【ウサギ】――【獲物】として女性冒険者から狙われていた時期があった。若いというだけでも評価は高いのに、顔もまあまあ平均的だが好みという女性も多く、アルケミストとしての実力も申し分ない。優良物件である宮兎は、本人が知らないところで争奪戦となっていた。
しかし、これもある日を境に終戦を迎える。たった一人の少女がこの争奪戦に参加したことにより、状況は一変。彼が引退しなければ、今頃その少女と結ばれていたのではないかと噂されるほどであった。その少女すら今は宮兎の前には現われない。理由は後日、アスティアが最大のライバルと公言するほどの事件が起きて発覚するのだがもう少し先の話。
この瞬間的なライバルはティナ一人だけで十分なのだ。
と、裏口の扉を見つめる二人の少女は互いに顔を見合わせて動きを止めた。
なんだか扉の向こうがやけに騒がしい気がする。曇りガラスからは人影が一つ、二つ、三つ、四つせわしなく動きまわっているようだった。ティナは何事かと見ていたが、アスティアは疑問を述べた。
「今日、お客さんが来るとは聞いていませんけど……」
「わたくしにはなんだか暴れているように見えますわ。ミヤトが何かを追いかけているような……」
「た、確かに」
影が右へ、左へ、はたまた上へ下へと飛び回り、宮兎と思しき影がそれを捕まえようとあっちこっち影が移動する。ふとここで、ティナはギルドに貼られていた掲示板を思い出す。【ディアボロ盗賊団】――犯人は3人以上のグループで被害は北区から中央区へ移動している……と。
「アスティア、もしかしたら盗賊団かもしれませんわ!」
「え、うえぇ!? と、盗賊団!?」
考えても居なかった単語に、驚くアスティア。対照的にティナの表情は真剣になり、鋭い眼差しで扉を睨みつける。現役冒険者らしい対応だ。アスティアもすぐさま扉へ視線を戻して最悪の場合をイメージする。
「わたくしが合図を送ったら扉を開けるのです。私が先制で攻撃を仕掛けます!」
メニューを開き、アイテム覧から【エストック】を選択肢、取り出す。異様に細長い剣は先端に向かうほど細くなり、刀身は130センチ以上ありそうだ。
ティナのジョブはまだ下位職の【ソードマン】だが、アルムント家の教育のおかげでパッシブスキル【剣技A】を取得しており、上位職【スピードフェンサー】のランクDまでの武器を装備できる。100%の力を発揮できるわけではないが、それでも低級モンスターには十分の威力を発揮する。
「わ、私も戦えます!」
手荷物を地面に置いて、【マリンズ・ロッド】を取り出す。ランクCC武器を見て、ティナの表情が緩む。
「流石、ね」
「褒めるのはあとで聞きます。ミヤトの援護が先です」
「それもそうですわ。では――」
アスティアがドアノブに手をかけ、緊張が二人を襲う。
「今です!」
ガタッ! 大きな音を立てて、二人はウサギ屋へ飛び込んだ。
焼き鳥屋に行けば、当たり前のようにブタバラを頼む地域に住んでます。
皆さんはブタバラは好きですか? 僕は牛肉が好きです。
てことで大変遅くなりました。予定では00時ごろかと思ったのですが、学校だったりなんだりで忙しくてすみません。
さてさて、昨日は1800人ほどのアクセスがありました! なんか、どんどん増えていきますね!
当分の目標は日間ランキングに入ることにしようかな……、100位とか、200位でいいんで。
とはいえ、作者はかれこれ長いこと「なろう」で活動していますが未だにランキングのポイントが良くわかっていなかったり……。
んー、やっぱ評価されないとダメなんすかねぇ。
まあ、のんびりやっていきますのでこれからも見守ってやってください。
明日も書きますよー。頑張りますよー応援お願いしますよー。ε=「(・N・)」




