プロローグ1 青年、行き詰る
以下の要素が含まれます。
※主人公つよい……
※生産系スキル所持
※ハーレムの予定になるかもしれぬ
※ガバガバ設定(経済的な)
※戦闘もたまにあるよ
※誤字脱字かなりアルヨ(作者が無能なため)
許せる方はどうぞ。
ソレを言葉で表現すれば、【悪魔】だ。まるで深い闇のような黒い肌。体は肥大化し、達磨が立っているかのようにも見える。頭からはヤギにも似た渦巻く角を生やし、背中からはドラゴンを思わせる翼が広がる。そんな悪魔のギョロリとした目玉はとある人物を見つめていた。
やがて悪魔は恐ろしい牙を生やした口を開き――語りかけた。
『よくぞここまで来た、人の子よ。だがしかし、貴様はこの最下層で我の餌となるのだ』
「…………」
最下層――ここは世界中に千あると言われるダンジョンの一つ。【闇の大神殿】の最下層部分。冒険者の間で【ボス部屋】と呼ばれる場所だった。悪魔がその巨大な羽を広げられるほど広大な空間だ。周りの雰囲気でこの場所を何かにたとえるのなら遺跡だろう。明かりは壁に何百とある松明で照らされ、悪魔の立っている祭壇の両脇に有る【魔力光】と呼ばれる魔力を光に変える柱だけである。天井を見れば松明の光が届かない闇が広がる場所もあり、薄暗い雰囲気が不気味さを増していた。
そして悪魔が語りかけた人物――頭全体をすっぽりと覆い隠すフルフェイスタイプのヘルム、胴を守るプレートと腕を守る篭手、そして脛当てを付け、あとは黒地の長袖シャツ、下も青色の長ズボンである。ただ身につけているアーマーたちは光り輝くシルバーではなく、光沢の無い赤色をしていた。右手には長剣が握られており、腰にはポケットの多いポーチを横にぶら下げている。
悪魔の問いにも無言の人物――男か女かも判断がつかない冒険者だ。悪魔は久々の来客に胸を躍らせ不気味な口をさらに大きく開けた。
『沈黙は了解として認識させてもらうぞ? つまりお前は――』
悪魔が両足に力をこめて――
『餌でいいのだなぁ!』
凄まじいスピードで冒険者に牙を向いた。
巨体からは考えられないほどのスピードで冒険者の目の前まで到達すると、そのまた巨大な腕を振り上げた。悪魔は迷わず腕を振り下ろし、巨大なクレーターを作り上げる。ダンジョン全体がゆれ、天井からパラパラと小石が降り注ぐ。
『なぬ?』
悪魔は腕に違和感を感じたのかすぐさまどけると、そこには誰もおらずぽっかりと穴が開いているだけだ。刹那――悪魔の頬に小さな傷あとが生まれ、魔力が霧のように漏れだす。悪魔が振り向く先には背を向けて、長剣についた魔力を左手で拭う姿が映る。
ここで悪魔は二つのことを考えた。
所謂、ソロで活動する冒険者が最下層来たことは歴史上初めてのことであり、地上では名の馳せた英雄に違いないと解釈した。千あるダンジョンの中でも難易度Sに指定されるほど危険であり、一人で挑戦することは自害することに等しいのだ。目の前にいる人物はこの場所で死ぬとしてもそれが名誉有ることであり、称えられる事が自然なの事だと。
そして悪魔本人が――冒険者を評価したことが屈辱だった。意思を持って数千年。人間をただの餌だとしか認識していなかった。しかしこの瞬間に人間を評価し、称え、さらに感心までさせられたことが非常に悔しいのだ。傷を負ったのは何時いらいだろうか? 三百年? 五百年? いや、もっと昔かもしれない。まして一人で挑む人間の攻撃を見極めることができなかったことに――火をつけた。
『認識が間違っていたようだな。お前は餌ではない――敵だ。我々魔物にとって大いなる脅威となる。害悪を見過ごすほど我は甘くない』
「……………」
依然として悪魔の問いには無言の冒険者。悪魔にとってその態度も気に入らなかった。振り向きはするものの、フルフェイスヘルムで表情が読み取ることはできない。悪魔は心の中でこれほどの実力者の顔も拝んでおきたい――何より【捕食したい】気持ちでいっぱいいっぱいになった。
『ウガアアアアアアアアアアア!』
悪魔は叫び、再び襲い掛かる。右腕を横に振り、冒険者を攻撃する。それを難なくジャンプで回避すると悪魔は狙っていたかのように空いた左腕を今度は上から叩きつける。空中での移動は不可能――そう思われた時。
「…………【シャドウ・ステップ】」
からぶり。
悪魔の左腕は空を切る。冒険者の体はまるで霧のように、または霞のように消えてしまった。やがて霧は悪魔の真後ろに凝縮し、冒険者の肉体を作り上げていく。
冒険者は既に剣を構え――悪魔の右翼を切断する。
『グギャアアアアアアァァァァ!』
悲痛な叫びが神殿に轟く。悪魔は反射的に左手を大きく開き、体を回転させるように勢いをつけた。冒険者は再び【シャドウ・ステップ】を使う――ことはできずに体を丸め衝撃に備える。悪魔の左手はまるで冒険者をボールのごとく吹き飛ばした。壁に激突に、砂煙を上げる。
【シャドウ・ステップ】――職業、アサシン専用のアクティブスキルだ。インターバルは5分。レベル260で獲得できるスキルで、半径10メートルの範囲にワープにも似た移動できるスキルだ。MPの消費も少なく、アサシン職の冒険者が重宝するスキルの一つなのだ。
陥没した壁からゆっくりと冒険者が起き上がる。どれほどのダメージを受けたのかは外見からは分からない。一方の悪魔は荒い息を整え、切り落とされた右翼が小さな虫のように散らばると、元有るべき場所へ再生してゆく。
この【悪魔】――名前を【ベルフエル】と言う。怠惰と好色の悪魔と呼ばれ、再生能力に長けており、魔法すら無力化する力を持っている。暗闇があれば体を自在に変化させ、冒険者達を苦しめる。今回も冒険者の斬撃をまるで無かったことのように。だが、悪魔もといベルフエルは冒険者の攻撃に対して不信感を抱いた。
『貴様、剣士の身形をして本職は盗賊紛いか。面白いことをしてくれるな?』
冒険者の装備を見れば誰もが【フェンサー】や【ソードマン】だと予想する。【アサシン】の装備といえば短剣に身軽なローブだ。ヘルムや長剣を装備する【アサシン】なんて誰も見たことが無いだろう。なにより悪魔が暗殺者を何故、盗賊紛いと呼ぶのか。暗殺者とは盗賊の上位職でベルフエルが盗賊紛いと呼ぶのは間違いではない。【アサシン】になるためには【シーフ】でレベル200になるのが条件である。上位職に着くことは冒険者にとって一人前になることと同じでもある。
『くくく、面白い。面白いぞ人間!』
ベルフエルの右腕が鞭のように冒険者へ伸びる。先ほど言ったように最下層の暗闇でベルフエルは体を自由に変化できる。冒険者が右へ駆けると、木の枝のように冒険者を狙い、追う。体を正面へ向けて長剣を突き出すように構える。こもる声――青年は呟く。
「光の使者、我に太陽の加護を与えよ、【ホーリー・スパーク】」
長剣の先から光の球体が現われ、目を隠したくなるほど眩い閃光を放つ。ベルフエルの右腕は拒絶するように急ブレーキをかけた。ベルフエルの最大の弱点は聖なる光だ。松明や【魔力光】では深い闇を退けるほどの力は持っていない。属性【光】の効果を持つ魔法やアクティブスキルのみ効果が現われるのだ。
冒険者はそのまま光を纏った長剣で腕を切り飛ばす。切断された腕からは大量の魔力が溢れ、地面に落ちた腕は灰になり風で飛ばされる。しかし、どこからともなく黒い虫たちが現われ切断された腕を形成し、再生する。
虫に見えた黒い物体は闇の塊と呼ばれており、ベルフエルの体を形成しているエネルギーだ。つまり属性で攻撃してもこの場所にベルフエルがいる限り無敵に等しいのだ。
『甘いわぁ!』
冒険者の死角となる真上から闇が伸びる。ベルフエルの背中からは尻尾のように細長くなった体の一部が床を這い、壁を登り、天井から奇襲をかけたのだ。冒険者は長剣を咄嗟に頭上へ向けた。ソレすらも予想していたのか、闇の一部は冒険者本人ではなく長剣にクルクルと巻きつき奪い去る。獲物が無くなった冒険者など、魔物にとって赤子同然だ。
再生した右腕が冒険者の体を掴み、天井へ投げつけた。激突し、力なく床へ叩きつけられる。ベルフエルは瞬間を見届けると伸ばしていた体を元に戻す。
やはりソロで挑むことは死を意味する。他のダンジョンを制覇した英雄達はみな最低でも四人組のパーティを作る。お互いの不足している部分を補い、チームワークという絆で生き延びる。彼の実力は群を抜いているが、欠点がないわけではない。火力不足、回復手段がアイテイム以外では無い、そして一人という最大のディスアドバンテージ。狙いをつけられやすいのは四方八方から攻撃できるベルフエル戦にとっては最大の穴だ。
『やはり勇敢さと無謀は違う……か。だが久々に楽しかったぞ、人間……………ん?』
ベルフエルが近づいて捕食を開始しようと思った時、冒険者がゆっくりと立ち上がったのだ。今度は目で見て疲れが分かる。肩で息をする彼の姿は誰が見ても満身創痍だ。
『立つか……じっとしておけば楽に死ねたものを』
冒険者は、二度深呼吸をし――ベルフエルに正面から走り出す。これにはベルフエルも首をかしげた。
『…………良かろう人の子よ。無手で我に挑むこと、それは勇気として称える。せめて最後は苦しまずに殺してやる』
ベルフエルは気づかなかった。冒険者が腰にぶら下げたポーチに手を突っ込み、何かを取り出したこと。それを今、右手に持っていること。
『死ぬが良い! 人間!』
ベルフエルは口を大きく開けて、両腕を地面につき、正面に魔方陣を展開させる。これがベルフエルの最大魔法【ギガ・ナイトキャノン】だ。属性【闇】の攻撃魔法で、魔術師達でもこの魔法を扱えるものは少ない。この魔法で街一つを消せるとまで言われる威力を持つ。もちろんだが人間なんて一瞬で塵となる。
だが――彼は足を止めなかった。
むしろ加速して――
力の限り叫ぶ。
「悪いなぁ! ソレを待っていたんだ!」
右手に持っているもの――透明に輝くダイヤモンド、強力な魔除けの力を持つラピスラズリとアメジスト、竜の鱗をも砕くオリハルコン――四つの鉱石を両手でポンっと潰し、すばやく広げる。
「【ザ・クリエイティブ】!」
彼の両手の間で生まれた光り輝く聖剣――【魔殺しのテトラ・クラウンズ】。右手に持ち替え、突き出された青く輝くその剣は【ギガ・ナイトキャノン】を切り裂いていく。
『貴様ぁ! 今度は奇術者の真似事をぉぉぉ!』
【ザ・クリエイティブ】――職業アルケミスト、錬金術が使えるアクティブスキルの一つ。これはメインジョブ、サブジョブ両方で扱えるスキルである。発動レベルは280。素材さえそろっていれば瞬時に錬金を可能とし、サブジョブでは素材の量が2倍になることが短所となる。
彼が作り上げた【魔殺しのテトラ・クラウンズ】は四つの宝石を素材とした聖剣である。名前の通り魔力無効のパッシブスキルがエンチャントされており、ダイヤモンドとオリハルコンによる強度で切れないものはない。なにより属性が【光】なのだ。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉ!」
『馬鹿な! 我の魔法を切り裂くなどおおおぉぉぉ!?』
一直線に冒険者は突っ込み、大きく開いたベルフエルの口へ――聖剣を突き刺した。
静まり返る神殿――やがてベルフエルの体を作り上げていた闇の塊たちは砂となり、音もなく崩れる。残ったのは【魔殺しのテトラ・クラウンズ】――が突き刺さしたひし形の宝石。これがベルフエルの本体でありコアと呼ばれるものだ。これさえ破壊すれば――ベルフエルは消滅する。
パリンッ。
小さな音を立てて砕け散ったコア。同時にテトラ・クラウンズにもヒビが入り、粉々に消え去る。
沈黙。
だが、すぐさま軽快な短い音楽が流れると、冒険者の前に文字が現われる。
【レベルアップ 499/500→500/500(MAX)】
【新しいアクティブスキルを覚えました】
【新しいパッシブスキルを覚えました】
【ダンジョンを攻略しました】
「……………ふいー、意外と危なかったな」
冒険者は首を回して安堵の溜息を吐く。
「いやー、ガチ装備で来て正解だったな。よかったよかった」
篭手、脛当て、プレートの順に脱ぎ捨て、最後にフルフェイスヘルムを脱ぎ捨て素顔を見せる。
少し伸びたボサボサの黒髪。大きい黒い瞳と少し太めの眉。童顔に見えるなんとも平凡な顔がそこにはあった。黒い長袖のシャツに青いズボン――ジーパン姿はどこにでもいそうな休日の学生だ。しかし彼が今立っている場所――ダンジョンにはあまりにも場違いの格好である。
彼――名前を赤松宮兎と言う。性別は男性。年齢は20を迎えたばかり。
「まあしかしだな、とうとうやることがなくなってしまった…………」
アカマツ・ミヤト――異世界に飛ばされて、はや三年。
最難関と言われるダンジョンを一人でクリア。
人生で到達できる人物が未だに100人を超えないレベル500(カンスト)を果たし。
異世界をたった三年で堪能してしまった青年はやることがなくなってしまったのである。