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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一週間短編連続投稿

素敵な恋が始まりました

一週間連続短編投稿の4/7です

 僕は恋をした。それは一目惚れだった。吊り橋効果だとかほかのどんな疑似科学理論でもない。僕の本能が彼女を好きになったのだ。

 だから、僕は彼女を思い続ける。



「ねえ、佐々木君。今日の放課後、話があるから教室に残ってくれない?」


 それは突然の話だった。そこまで親しいわけでもない千葉さんに声をかけられた。しかも今日の放課後、話があるから残っていてくれと言われた。

 まだ彼女に伝えたわけではないが僕の思いが伝わったのだろうか。しかし好きになって一ヶ月しか経っていない。ほかの誰かに千葉さんが好きなことを言ったわけでもない。だから伝わるはずもない。


 もしかすると千葉さんはエスパーなのかもしれない! だとしたらいつも授業中に後ろの席から眺めていたことや昼休みにチラリと盗み見ていたことや放課後わざと遅くまで残って下校する姿を眺めたりしたこともバレているのだろうか。

 てっきり、放課後に恋の告白をされるものだと思っていたがこれは千葉さんからの苦情がくるのではないだろうか。


 そう思うと僕は震え始めた。

「おいどうした佐々木。頭なんて抱えて、もしかして……」

 となりの席で二年の二学期の席替えの時に仲良くなった田村が話しかけてきた。

 田村はお調子者でクラスの中ではいつもバカなことをやってはみんなを笑わせていた。しかし時々、お調子者の顔が引っ込み鋭い顔も見せる。

 きっとその鋭い顔を覗かせ僕の恋心に気が付いてしまったのだろう。そして僕を笑いの種にするんだ。


 田村は僕にトドメを刺そうと続きを話し始めた。

「もしかして、先週のテスト結果が悪かったのか?」

 先週のテスト? 田村は何を言っているんだ。

「まぁ、気にすんなよ。俺なんて二番だぜ。下から数えて」

 田村は「英語なんてムリムリ」なんていいながらバカみたいに笑っている。だが田村は僕が先週に抜き打ちで行われた英語のテストが悪かったから頭を抱えていると思い込んでいたる。


 僕は感づかれないようにそれに同調した。

「ああ、ちょっと思ったより出来なくて抜き打ちテストなんてずるいよな」

「だよな。あのあと遠藤に抗議しに行ったら“お前は抜き打ち以前に問題外だ”だってよ。三日でマスターできる教材でもあったらいいのによ」

 遠藤とは英語の教師でよく抜き打ちテストをすることで有名だ。だからそれを予測できなかった田村が悪いと思うんだが。

 そんな話をしていると隣で話していた女子グループが会話に割り込んできた。


「遠藤先生はよく抜き打ちテストやるんだから夏休み明けにテストやることぐらいわかるでしょ。やっぱり田村ってバカだよね」

 彼女がそう言うと彼女を囲んでいた三人の女子達が「だよね」と同調する。

「そもそも、田村が授業中に寝てばっかいるんだからどんな教材があっても無駄じゃない」

「ええ、俺が寝ちゃうのは遠藤の授業がつまんないからだし」

 田村はどうやら女子グループとの遠藤先生の話に移ったらしい。これで僕へ変に目が向けられることはなくなった。


 僕がほっとしていると開始のチャイムが鳴り先生が入ってきた。

「ほら、お前ら授業始めるぞ。さっさと席に戻れ」

 先生がそう急かすとグループになっておしゃべりをしていた生徒達は蜘蛛の子を散らすように自分の席へと戻っていった。


 授業が始まるも頭の中は千葉さんのことしか考えられない。

 五十分はこんなにも長かっただろうか。世界史の松田先生の授業はこんなにも退屈だっただろうか。教科書を開いても板書を取っていてもこんなに分からないほどに勉強が苦手だっただろうか。

 ああ、早く時間が過ぎて欲しい。



 いよいよ放課後がやってきた。僕は勉強道具を全部鞄に詰めると田村と黄田と佐藤がやってきた。

 きっといつものように「一緒に帰ろう」と言い出すのだろう。

 だけど今日の僕には学校に残らなければいけない訳がある。しかし変な受け答えをすれば千葉さんとの事がバレてしまうかもしれない。

 しかしどう言えば怪しまれずに学校に残れるだろうか。頭を捻れば捻るほど分からなくなってしまう。


 それでも出てきたのが「図書館で本を探さなくちゃいけなくて、でもタイトルも忘れちゃったから待ってなくていいよ」

 思いつた時は良策だと思ったがもしも図書館に詳しかったりしたらと思い汗が吹き出そうだった。

「へえぇ、そうか。頑張れよ、俺本とか大量の活字みると身持ち悪くなるから先に行ってるぞ」

 しかし心配とは裏腹に田村はそっけなく帰ってしまった。今日だけは田村がバカであることに感謝をした。

 そして田村たちが校門を潜るのを見届けてから教室を見回した。


 教室では呼び出した千葉さんのほかにも数名が残って談笑をしていた。

 このまま教室でじっとしていてもいいが今何よりも怖いのはただじっとしていることで怪しまれることだ。とりあえず、帰るフリをして校内を回ってこよう。戻ってくる頃には千葉さん以外帰っているだろう。



 校内を適当に回って帰ってくると教室の中は誰もいなくなっていた。千葉さんも含めて誰も居ない。

 まさか本当に帰ったと思い、千葉さんまで帰ってしまったのではないだろうか。

 これでは千葉さんが何を言いたかったのかが分からない。分からないと思うと余計に気になる。明日会って聞いたとしても約束を破ったと思われて話してくれるだろうか。きっと明日には僕の悪評がクラス中、いや校内中に広まってしまっているだろう。一体どうすればいいのだろう。

 そもそも、話とはなんだったのだ。あの時は悪い方に考えていたが良く考えてみれば、このシチュエーションはむしろいい方の可能性もある。

 もしかしてもしかすると告白とかだったりしないだろうか。だとすれば両思いで晴れてハッピーエンドとなる。

 だがそうも浮かれて入られない。千葉さんが帰ってしまったことでバッドエンドに直行だろう。

 もうどうすればいいのだろう。


「あれ、佐々木君何やってるの? そんな所で膝なんて抱えて。ダンゴムシごっこでも流行ってるの?」

 蹲っていた体勢から振り向くと上方に千葉さんが見えた。僕はあわてて立ち上がり千葉さんに直った。

「えっと、千葉さん帰ったんじゃなかったの?」

「佐々木君を呼び出したのは私なんだから帰るわけないじゃん。私も適当に時間潰すためにお手洗い行ってたの」

「なんだ、良かった。帰っちゃったかと思ってヒヤヒヤしたよ」

 素直に千葉さんが帰っていなかったことに安心をした。

 安心したならまず気になるのはどうして呼び出したかだ。


「ねえ、どうして呼び出したの? まさか」

「なんだ、心当たりあるんだ。まぁ、でも当たり前だよね」

 千葉さんはそう言ってニコリと笑った。その笑顔はもう取っておきたいぐらいに可愛かった。

 どうやら千葉さんは僕の気持ちに気が付いていたようだ。やっぱり相思相愛なのかもしれない。

「じゃ、じゃあ呼び出したのって」

「そう、佐々木君に言わなきゃいけないことがあるの」

 遂にこの時が来た。あの時一目惚れしてからいつも千葉さんの事を思い、この言葉を何回夢見たか。

 遂にその時はやってきた。


「私をストーカーしてるのって佐々木君だよね? たぶん一ヶ月前ぐらいから」

 僕のときが止まった。僕が求めていた言葉はそれじゃない。どこを間違えたのだろう。何が悪かったのだろう。

「ストーカーって何かな? 僕はただ千葉さんの事をもっと知りたいから、僕から告白するには千葉さんの事をまだ知らなすぎるから」

「ねえ、佐々木君気が付いてる。それをストーカーって言うんだよ。今だって、その胸ポケットのペン実はカメラなんでしょ?」

「だってどうどうとカメラを構えるわけにはいかないじゃないか。こうやって千葉さんを研究してどうしたら千葉さんが最高に喜んでくれるか模索してたんだ」

 僕は混乱していた。僕が最悪な行為をするストーカーと同じなわけがない。僕はただ千葉さんが好きで告白のために情報集めをしているだけだ。

 それとも僕がはっきりと好きなことを伝えないから誤解をしているのかもしれない。


「千葉さん良く聞いて、僕は僕は千葉さんのことが大好きだ。夏休みに街で見かけた時に一目惚れした。純粋に千葉さんの魅力に本能が惹かれたんだよ。確か彼氏とかは居なかったよね。居たならすんなり諦めるつもりだったんだけど、居ないならぼくにもチャンスはあるんだよね」

 まだ情報不足なところもあるがきっとこのままいけば千葉さんは僕を受け入れてくれる。

「そうだね。確かに彼氏は居ないよ。でもクラスでは見栄を張っているような素振りを見せてた。佐々木君がそれを知ってるってことは私の私生活をのぞき見たってことだよね。それってストーカーと何が違うの?」

「違うんだ違うんだ違うんだ。僕は千葉さんが好きなだけなんだ。ねえ、だから千葉さんの本当の気持ちを教えてよ」

 きっとこれで決まる。ちゃんと好きだという事も伝えたし問題はないはず。


 そして千葉さんの答えは

「そうだね。佐々木君、私は佐々木君の事が好きだよ」

「本当に! じゃあ僕を受け入れてくれるの?!」

「ええ、本当よ。佐々木君は私と一つになるの。ずっと一緒に居るためにだから私は佐々木君を認めてあげる。私は佐々木君が好き」

 ああ、本当にうれしい。千葉さんに認められた。これで千葉さんとずっといっしょに居られる。なんて幸せなんだ。

 千葉さんは腕を背中に回し抱きつくと首筋に顔を近づけてきた。


そして千葉さんは僕の喉に食らい付いた。僕の肉は引きちぎられ千葉さんの口の中で租借されている。

僕は夏休みに薄暗い路地の置く、人を食べている姿を目撃した。

その姿は力強く、美しかった。その瞬間に僕は千葉さんを好きになった。

もっと千葉さんを知りたくなって気が付いた頃には千葉さんに食べられたいと思うようになっていた。だから千葉さんの情報を多く集めて千葉さんの好みを知った。


 次第に意識があやふやになってきた。だけど千葉さんに食べられている感覚だけは鮮明に分かる。きっとこれが恋の感覚なのだろう。

「佐々木君、あなたは美味しいわ」

 千葉さんは笑顔でそう言ってくれた。

 うれしい。

恋愛を書いたつもりなのですが恋愛って難しいですね。

面白かったでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] オチ。 「どうなる? どうなる?」ってハラハラしていたのに安直すぎて「えー……」と落胆。 しかしそう思いかけたところで「そうくるか!」って感じでした。 面白かったです。 文章もこなれてい…
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