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藤巴の野心家  作者: 北星
7.5章 富国の刻
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77話 雲外蒼天 黒田小一郎利高

遅くなったお詫びに

つ格好良い弟

 もたらされた凶報と共に目の前で男の人が平伏している。援軍を求めて使者として赴いていた荒木信濃守殿だ。赴く際はやや挙動がおかしかったが、いざ失敗すると腹が据わるのかその佇まいはまるで別人のようにふてぶてしい。

 かつては敵方として実力を示した彼を兄上は不当に思える程追い込んできた訳だが、成程、実に兄上が気に入る訳だ。追い込まれた時の腹の据わり方が面白い御仁である。

 だが、手放しに彼の品評を行っている訳にもいかない。彼の腹が据わる程に困った知らせだ。


 「休夢様の援軍は望めず……ですか」

 「は……面目の次第もございませぬ」


 ちらりと兄達の顔が思い浮かぶ。どうやら先に手を回していた……というより、こちらの打つ手などお見通しだったという訳だ。まあ、私でも思い浮かぶ程度の先読みなのだけども。

 

 「……だからと言って頭に来ないという訳ではありませんけどね」

 「はっ!?」

 「いえ、貴方に、ではなく余計な手を回した兄上たちに、です」


 私の反応があまりにも予想外だったのか、その場にいたほとんどの人がピクンっと反応が面白かったですが、それを笑う事はありません。既に私の中では何かがパチンッと弾けているのです。


 「凄い顔をしているぞ、小一郎」

 「お陰さまで」


 張りつめた空気の間隙を縫うように天井から聞き慣れた声がした。まったく、表から堂々と来ればいいのに、この年上の友人は忍ぶ事がとてつもなく好きらしい。


 「何か用?小六」

 「本営より伝達」


 シュタッと音を立てて頭上から私の前に友人が降り、片膝を立てた状態で頭を下げる。成程、この淀みのない一連の流れは練習した甲斐があったようだ。


 「一部戦場にて決着。これより広域演習を第二段階へ移行する」

 「……小一郎様」

 「ええ」

 

 第二段階なんてあったのか、という呆れにも似た気持ちが私と山名さんの間で生まれたが、それ以上に戦局が動く何かを確信して頷き合った。

 逆風ばかりだったが、これは悪い知らせでは無い。


 「これより各戦地の勝者にはそれぞれの裁量で他の戦場への介入を許可する」

 「山名さん!」

 「はっ!情報の再精査を急ぎ終わらせます!」


  逃してなる物か。ただそれだけの執念が即座の判断と流れを産んだ。山名さんが転がるように軍議の間から飛び出ていった。


 「荒木信濃守」

 「ハッ!」

 「貴方に一部を託します。なんとしてでも反攻のその時まで最前線を最低限の消費で持たせてください」

 「承知ッ!」


 即座に挽回の機会を得られたのがありがたかったのか、遥かに年下の私に対して深々と頭を下げた。そして即座に動こうとしたその背中に声を掛ける。


 「そして、反攻の時、先陣は貴方です」

 「実に……堪らん。実に心躍(しびれ)る大役ですな」

 「最前線で毛利の若君に〝かくあれ”という背中を見せてあげて下さい」


 肩越しの笑み。今まで目立つ事無くぼんやりとしていた印象があるだけに、冴えわたって見える。頭を下げずに振り返る事無く響いた金丁の済んだ音が暗闇に溶けていく。

 ああ、不遜にしてなんと頼もしい背中だろうか。


 ならば応えねばならん。


 「……意外と大将似合ってるんだな」

 「まあね。さて、他になにかある?小六」

 「官兵衛様から言伝が一つ――『吉川が来る。それまでもたせてみせよ』」

 「官兵衛兄はなんだかんだで甘いなぁ……」

 「まあ、その吉川の部隊を大殿が思いっきり邪魔しているみたいなんだけど」

 

 即座に頭を抱えたい気分になった。おそらく官兵衛兄も同じく頭を抱えているに違いない。下手したら援軍に来る前に壊滅しているかもしれない。

 そして、ついでにどこの戦場で決着がついたかがわかった。間違いなく隆鳳兄の所だ。


 「……その辺りは山名さんに丸投げしよう」

 「……まあ、精々頑張って」

 「はいはい。お役目御苦労さん」

 

 隆鳳兄の行動を予測するなど、私には荷が重すぎる。来た時と同じように天井へと音も無く消えていった友人を見送って一つ息を吐く。


 ここからだ。


 相手がなんであろうと誰であろうと、勝ちに行く。勝ちに行かずして勝利など望めない。

 官兵衛兄のように兵を手足のように操る眼も頭も無い。隆鳳兄のように真っ向から飛び込んでねじ伏せる腕も無い。おそらく成長してもいつまでも敵わないだろう。

 けど、『敵わないから挑まない』という選択肢を選べるほど諦めは良くない。

 私が何を目指すか、毛利様からお褒めの言葉をいただいたが、自分で深く考えるのは勝ってから考えようと思う。勝った時、私は何かになっているはずだから。


 「この戦、勝ちます」


 賽を投げた。改めて言葉にして口から出すと、確かにその感覚が自分の中にあった。安定を捨て、安寧を振り払って勝負を仕掛ける。


 「若いな」

 「ええ、こう見えて実は」


 私の返答が予想外だったのか、私の様子を危惧して声を掛けてくれた毛利様は一瞬目を丸くした後、クックッと微かに笑った。


 「成程。忘れておった」

 「もう10を超えました故に仕方ないかと」

 「生き急ぐ事無かれ……若人よ。だが、若い内はそれも悪くない」

 「ええ。勉強させてもらいます」


 四郎はなんやかんや言っていたが、毛利様は本当にいい人だと思う。というより、官兵衛兄に近い感じなので私としてはそう苦ではない。

 私としては官兵衛兄より隆鳳兄の方がもっと怖い。

 なぜならば、官兵衛兄や毛利様は後ろに位置して人を操る人だ。なので人の限界を見極めて察す。

 

 お前ならば出来るだろう。やれ。


 出来るからやれと言われる事はそんなに怖くない。そして何をしたらいいか明確にわかるから余計ありがたい。


 だが、隆鳳兄は先頭を進み人を纏う人。だから、人が限界を超えると疑う事無く信じ抜く。


 限界を超えろ――進め、進め、立ち止まるな、(ともがら)よ前へ征け。


 だから征きましょう。やって見せましょう。


 私は黒田小一郎利高。

 貴方の弟です。

次回予告は弟繋がりで小早川さんにお願いしようかな。


小早川

>゜))彡 やめて!遭遇、追撃戦とか前回の戦いと同じようなやられ方で負けたら、兄上もいい加減精神的に燃え尽きちゃう!

お願い、負けないで兄上。

貴方がここで倒れたら、置塩城で待つ小一郎殿や四郎はどうなっちゃうの?


「兵はまだ残っちょるけぇ、ここをきばれば、あいつに勝てるけぇ」


次回 「吉川散る」 デュエルスタンバイ!


※尚、予定は未定。

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