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藤巴の野心家  作者: 北星
7章 嵐を駆る者
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68話 おやっさん 怒りのフランケンシュタイナー

タイトルでオチとるがな。

 神戸

 官兵衛


 理由はわからないが即座に拙いと思った。


 父上が物凄い形相で走ってくる。馬から飛び降りて物凄い速度で駆けてくる。


 ただでさえ中々姫路から離れられない人がわざわざ神戸までやって来るなんて、その時点でいい予感がする訳が無い。挙句、出迎えてみればこの様子だ。せめて俺を殴る前に理由だけは教えて欲しい……。

 まだ少し距離があるにも関わらず、父上は思いっきり飛び上がった。


 「官兵衛ぇえええええええええええっ!」


 足かぁ……と冷静に思った俺を何とかして欲しい。そう思いつつも冷静に飛び蹴りを避けると、そのまま両足で頭を掴まれた。

 えっ、あっ……ちょ、拙、


 「この馬鹿息子がぁああああっ!さっさと隆鳳を止めてこぉおおおおおおいっ!」


 そのまま身体ごと引っこ抜かれて、頭から地面へと叩き付けられた。咄嗟に背中を丸めて受け身をとったのがせめてもの抵抗だ。状況の混乱具合もそうだが、叩き付けられた衝撃で視界に星が瞬く。何でこの人はこんな動きが出来るのに内政の長をやっているんだろうか……頭痛ぇ。

 俺と隆鳳を同時に投げたり殴ったりして制圧できる人が他にいると思うか?俺は知らない。


 「……お久しぶりです、父上。早速ですが何かありましたか?」

 「おお!大ありじゃ!これを見ろ!」


 仰向けになって青空に瞬く星の数を数えていると、パラッと書状を落とされた。見た所、報告書のようだが……。


 「お、大友……?毛利は?」

 「同じ使いの者が寄越したが、首尾よく降したらしい。どうも吉川を落とした事が決定打のようだ。長門、周防で大内の旧臣による反乱が起きた事で纏めきれぬと踏んだようだ」


 大内の旧臣については俺は手を伸ばしていない。隆鳳が安芸まで侵攻すれば勝手にそうなると踏んだからだ。実際ここまでは計算通りと言える。

 毛利を降す事は賛成どころか俺の主導だ。だが、長門、周防まで抱えて降られると、その後始末がとてつもない事になる。特に、対岸を見たら渡りたくなる奴がいるからな。だからあえて毛利の手から離れるように、俺達は長門、周防に謀略の手を伸ばさなかったのだ。

 

 だが、父上から渡された書状には、間違いなく無駄に達筆な隆鳳の字で「このまま大友ぶっ飛ばしてくる。補給ヨロシク」と書かれている。


 「父上たちの苦労を慮ってわざと長門、周防すら手放した戦略をとったのに、何がどうなったらあのバカは九州上陸を口にしやがるか……」

 「使いの者が言うには『俺の喧嘩に手を出した奴はブッ殺!』と相当頭にキていたらしい」

 「……ありうる」


 あの馬鹿は基本のほほんとしているが、時折とんでもない戦闘狂になる。

 ひとつ例を挙げるとすると俺の額にある大きな傷。これは隆鳳が黒田家に来て間も無い頃、些細な事から武兵衛と喧嘩になり、それを止めようと入った時に叩きのめされて出来た傷だ。彼奴は自分が敵だと定めた相手と争っている時に、それに介入される事を最も嫌う。相手をすっぽかして、介入してきた人間をこれでもかと言うほど叩きのめす程に。

 だから、未だに俺や武兵衛と隆鳳が殴り合っても誰も介入してこないのだ。戦いの化身と言わんばかりの鬼気を纏った時の隆鳳の怖さは黒田家の人間ならば全員が身に染みて理解している。


 そして、今回大友は毛利との和睦を破棄して、毛利の領地に手を伸ばした。俺達から見れば味方する形だが、あの馬鹿は介入と見るだろう。

 更に言えば、大友と毛利の和睦に公方が仲立ちした事も拍車を掛けている。公方が調停、和睦の仲立ちをしたにもかかわらず、大友はそれをあっさりと――それこそ年を跨ぐ事すら無く破り捨てた。そんな真似をされた公方もいい面の皮だろう。

 そして、公方の後ろに立つ俺達も――侵攻の大義は彼奴の手中にある。


 「止めてこい、官兵衛。長門、周防までは堪え切れても、海を跨いでまで行かれると流石に破綻する」

 「やはり、彼奴一人で行かせたのは失敗だったか……」

 「失敗どころでは無いわ!何度同じ真似を仕出かせばお前は学ぶのだ!?因幡奪取に始まり、その度に儂や藤兵衛殿が割を食ってきたではないか!」

 「しかし……」

 

 もし仮に、共にいたとして止められたと思うか?認めるのは少し悔しいが、もし仮に隆鳳が黒田家の当主で無かったとしても、戦略を考える時にまず主軸に据えるのは隆鳳のあの凶暴な破壊力だ。あんな戦力が手中にあって活用しないのは軍略家の性に反する。最も活用できるように――そう考えると、アレは放し飼いにしていた方がよく動く。

 隆鳳は軍制を整えてきたが、それは自らの檻を作るに等しい行為のようにも見える。間違いなく、組織の中では埋没するであろう才能だ。


 「官兵衛。奴を止めないと、儂は本気で隠居するぞ。小兵衛と藤兵衛殿とそうだな……揃って隠居してのんびりと過ごさせてもらおうか」

 「なんとしてでもやりましょう」


 この状態で父の仕事を継げと?冗談では無い。ガバッと身を起こして、ガリガリと頭を掻く。頑丈になった所為か、あれだけの勢いで叩き付けられても瘤になっていないようだ。

 

 しかし……さて、如何したものだろうか。今の隆鳳を止めるとなると、アレが風を巻いて飛び込んでいく前に、『戦以外の方法』で大友に落とし前を付けさせなければならぬ。

 

 「……まず公方だな」


 公方は毛利と大友との停戦の仲立ちをした際に、大友から多額の献金を受け取っている。それ自体は別に悪い事ではないのだが、ここは幕府として、受け取った金を耳揃えて叩き返して糾弾するぐらいの筋を通してもらいたい。

 

 「それと情報の拡散か。大友の振る舞いに隆鳳が激怒して、周りに止められるまで、そのまま攻め込もうとした事実を全国にばら撒く必要がある」


 それに隆鳳自身も、結婚して子供がいるのだ。昔とは違い、大人になった所を見せてもらわぬと……。

 はぁ、気が重い。後始末は嫌いなんだ。


 「西より報告!殿が毛利を降したとの事。そして殿は更に西進する意向」

 「報告が遅い!儂より遅いではないか!」


 そうは言うが、父上……貴方が速過ぎです。どれだけ隆鳳の暴走に嫌な思い出を持っているんだ。


その頃の藤兵衛さん。


「美濃ぉおおおおおおおおっ!逃げやがったな!」


不幸は連鎖する。

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