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藤巴の野心家  作者: 北星
7章 嵐を駆る者
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66話 リバースタイフーン

相変わらず戦までのもったいぶりを惜しまないスタイル。

戦書こうと思うと作風の軽さとのバランスを取ろうとしてどうしても長くなるんや……。

 出雲

 黒田隆鳳


 「総員せいれぇーつ!番号ぅ!」

 「「「「1っ!!」」」


 白鹿城押さえの軍と合流早々、コントみたいにいきなりずっこけました。黒田隆鳳さまだよー。

 おいコラ、南條豊後のおっさん。なんでお前、「やってやったぜ……」みたいな顔しとんねん。決戦前の閲兵やぞ、これ。


 「点呼の意味ないじゃん……」

 「お言葉ですが、大殿。全員馬鹿正直に数えたら日が暮れまさァ」

 「まあ、そうだけどさ」


 釈然としねぇ。将というより渡世の豪傑のようなおっさんの事だから、面倒くさかったのだろうが、はてさて、この一連の流れを仕込むのにどれだけ時間を使ったやら。


 「まあいい。で、できそうか?」

 「大殿がいるならば」

 「そうか……もし仮に単独でやれと言ったら?」

 「差し違えなら」

 「片腕じゃ済まんか」


 傍で聞いていると訳の分からん会話だが、この南條豊後、左腕の肘から下が無い。かつて酒の席で謀殺されそうになった所、左腕を差し出して、斬りかかってきた敵将を返り討ちにしたというとんでもないエピソードを持つ。咄嗟の判断で左腕を犠牲にした本人曰く「死ななきゃ安い」だそうだ。逃げるならともかく、咄嗟に返り討ちするって……まあ、俺も人の事はあまり言えんけどさ。

 そういう癖のある人材は好きだよ、俺は。

 なんたって、ここは戦国時代のロクデナシの集まりだ。官兵衛、赤松、細川、山名、宇喜多、明智、荻野、沼田、五右衛門、村上水軍、別所、小寺、奈佐、塩冶、鹿之助、本願寺、足利将軍――ほらな?まともな奴なんざ一人もいやしねぇ。史実でも善良だったのはおやっさんぐらいか……?

 

 「というより、勝つ、負ける以前に『やり辛い』んでさァ。大殿に大恩はありやすが、あっしにとってはこんなごく潰しを一時でも受け入れてくれた毛利さんも同じ事で。刃を向ける以上、死ぬ覚悟でやらんと仁義が立たんのですよ」

 「そうか……元は毛利に仮寓していたんだったな」

 「へい」


 正面切って言ってくれる奴は少ないが、この辺りが本拠地だった奴らはそういう奴が多い。この地方は毛利か尼子か、だった。双方に戦略上の思惑しか無かったとしても、恩がある奴もいれば恨みのある奴もいる。横から全てを掻っ攫って支配するという事は、そういう奴の想いを総て呑みこむ事だ。余計な気遣いは無用、と鋭い視線だけで語り掛けてくる南條豊後の肩を一つ叩く。


 「さあ、そろそろ状況が動く頃だ。行くぞ」

 「へいっ!野郎共、出立だ!」

 

 すぐさま南條豊後が号令を下し、城を囲んでいた軍が徐々に下がっていく。既に友にぃが率いる本隊は吉川を封じ込めると見せかけて吉田郡山城へと至る城へと攻撃を始めた。これを看過できない吉川は乾坤一擲の勝負を挑む為に打って出る可能性が高い。

 そして、もし仮にそうなったとすれば、この部隊は真っ先に狙われる。俺が「出来るか」と訊いたのは「餌になって尚、生き延びる事が出来るか」、という問い掛けだ。答えは……まあ、決死の覚悟だったけどな。


 もちろんそんな事にはさせない。


 先の事を考えても、俺がこっちに居る事は秘密にしておきたい。だからこそ、城を落とさず誘き寄せようとしている。本音を言えば乱戦の中で有耶無耶にしたかった。だが、配下の命が懸かっているならば話は別だ。吉川がこの部隊に噛み付くと同時に俺は介入する。

 人は城、人は石垣、人は堀、という武田信玄の名言があるが、俺はあえて言う、俺が城だ、と。全ては無理でも、少しでも被害を軽微な物にさせようと考えないで――配下を護ってやらねぇで、戦国時代で大将が張れるか、ボケェ!

 

 「殿。たった一人の馬廻りでございやすが、この南條又四郎がお伴を致しやす」

 「おう。久し振りだな、又四郎。十兵衛が気にしてたぞ」

 「十兵衛の兄ぃとも久しく会ってねぇですなぁ……愚痴とノロケならばたまに届くんですが」


 整然と進む列の最後尾に、自らの姿を隠す事無く身を置くと、当たり前のように横に並んだやんちゃそうな少年が感慨深げに呟いた。俺の馬廻りで南條豊後の長男坊だ。直情な奴で、当時妻子を越前に置いてきたという十兵衛に同情した事から友誼が始まったとは聞いている。確か又四郎は俺より年下だから、十兵衛とは20近く年が離れているんだけどな……同期とはいえ息子ほど年が離れた少年に気を使われるなよ、十兵衛。


 「愚痴とノロケか、そりゃぁ最高に迷惑だな。今度お返ししてやれ」

 「そりゃいいですな。その前に嫁を捕まえにゃ……」

 「決まった相手いないのか?」

 「あったちゃあったらしいンですが……それが……その、吉川一族の娘らしくて。あの城の大将の従兄弟?従兄弟の子?そんな辺りらしいンで」

 

 ロミオとジュリエットかよ!?

 あー……成程。親父の豊後が毛利に居た時に決まっていたのか。


 「さ……流石にそれは流れたんじゃねぇ、のか?」

 「多分……まず、会った事ねぇンで」


 コイツ、ここでそれを認めてしまったら完全にフリーになってしまうから、認めようと思っていねぇな?独身だけど許嫁がいるといないじゃ、全然見方が変わってくるし。でも、そこで義理立ててとんでもない女だったらどないすんねん。政略結婚で運命の相手を引くなんてそうある事じゃ……あるな。この件に関しては俺は何も言えんわ。

 しゃーねぇ。


 「……また、戦わなきゃいけねぇ理由が出来ちまったな」

 「なんす?」

 「この戦に勝って吉川を降しゃあ、お前も大手振って嫁を迎えに行けるだろうが」

 「え。いや、あの……殿?そういう問題です?」

 「男ならば奪い取って来やがれ。気合入れろよ。腑抜けた姿を見せた瞬間死ぬぞ」

 「へ、へい」


 さあ、気合が入った。駄弁りながらも警戒は怠らない。背後に聳える白鹿城の様子は慌ただしい。まあ、囲んでいた兵が退いていくのだから、それも当然の反応だ。それに加えて、俺がここにいる事を把握したようにも見える。

 鎧こそ三好長慶に貫かれて最新の南蛮胴に新調したが、金色の角が光る血染めの乱髪兜に紅の南蛮外套の出で立ちは変わらない。抜き身のまま引っ提げた野太刀。千里を走る黒鹿毛の愛馬。テメェらが喉から手が欲しいであろう首がここにある。


 俺はどこにでも現れる。強い奴を求めてやってきた。戦いを求めてやってきた。

 一際強い動揺と殺意に満ちた視線を感じる。

 さあ、来い。まだか。来い――来い!


 「……流石にすぐには来ねぇですか。やっぱ『ここに殿がいた』という衝撃がデケェ」

 「勇将だと思っていたが、違うな。名将だな、吉川は」


 明らかな罠を目の前にすると、大体反応は二通りに分かれる。

 即座に食いつくか、押し止まるかだ。吉川が押し止まったのは、自らが標的だと気が付いたからだろう。


 だが、同時にここで見過ごせばどうなるかも察したはずだ。俺をここに送り込む事で、遥か東にいるはずの官兵衛が王手飛車取りを仕掛けたのだという事を。ここに食いつけば自らが危険を冒す事になる。ここを見逃せば吉田郡山城まで一気に抜けられる。

 仮に、山陽道の毛利本隊を信じて、吉田郡山城、及び安芸国を捨てたとする。いつまで物資が持つか?どこを狙うか?吉川がこの地に残って暴れまわる事を俺たちが予測しないわけが無い。ならば、石見まで退くというのも一つの英断だ。だが大勢力の一地方軍としては下策だろう。

 

 そうなると吉川の選択は一つだけだ。だが、なりふり構わず罠に飛び込むのもまた下策だと俺は思う。ここで押し止まったという事は、「襲い方」と「機会」を即座に考え始めているはずだ。この判断が出来るだけでも吉川の将器を問うに足る。ウチの武兵衛を見ればわかるが、勢いと直感任せに駆け抜けるよりも、押し止まって考える事の方が難しいのだ。


 「より的確に、より周到に、より迅速に……前評判以上に厄介な戦になりそうでサァ」

 「なーに、人生ヒリついているぐらいが丁度いいんだ」

 「心底嬉しそうっていうのがまた……」


 三好長慶がうつったかな。獲物のデカさが、敵の凄さがわかるほどに楽しくて仕方がねぇ。

 

三好「ククク……呼んだか」

隆鳳「呼んでねぇっ!!」


随分とお早い再登場で……。

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