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藤巴の野心家  作者: 北星
7章 嵐を駆る者
82/105

60話 嵐の前の

ちょっと短いですが。

 京 南郊

 明智十兵衛


 嵐の前には静けさが伴う。


 そんな不安が心の中を支配していた。


 三好長慶の近江電撃侵攻に対して、黒田家――その作戦立案を担う黒田官兵衛が示した方針は、各方面からの三好領への一斉侵攻だ。

 非常にらしからぬ方針だが、無理からぬ事情が存在する。黒田家と歩調を合わせるべき公方様が、三好長慶の近江侵攻に並々ならぬ関心を示したのだ。三好長慶との政争に明け暮れていた頃の公方様は、負けると都落ちして近江で保護されていた過去がある。関心はそれ故だった。


 だが、現在、我ら黒田家は肝心の左少将様が西で勃発した毛利との戦を収めに向かっている。左少将様がお戻りになるまで、この膠着状態を維持したかったというのが本音だ。それを考えると、三好長慶の本当の狙いは公方様と黒田家の分断だという事がわかる。


 問題はその後だ。我らを分断した後、三好長慶が何を狙うか。それが未だに掴めない。

 もっとも考えられる可能性は、三好長慶が反転して我らの各個撃破を狙う事。もしそうなった場合、最初に狙われる可能性が高いのは、京であり、公方様である。何故かというと、京と黒田家を繋ぐ道が丹波しか存在しないからだ。逃げるにしろ、増援を送られるにしろ、過酷な山越えを敢行しなければならない。ここは半分孤立した土地だ。

 今、京の南側には三好長慶の後継者、三好重存を大将に、岩成主税助、松永長頼らが軍を構えている。これだけならばまだ勝算はあるが、これに他の軍が加わるとなると……流石に看過できない状況に陥る。流石に近江側からだと、巨椋池が邪魔になる為、早々には動けないだろうが……。


 「十兵衛。嫌な予感がするな」

 「やはりそう思うか」


 轡を並べる荻野悪右衛門が吐き捨てるようにつぶやいた。丹波平定の際に、その居城を落としたのが私という事もあって、少々気まずい思いはあるが、不思議と意見がぶつかり合ったことは無い。


 「公方様もそうだが、どいつもこいつもノせられ過ぎな感があるな。窮地なのに浮足立っていやがる」

 「旧尼子の者たちか……彼らも、六角と同じ佐々木源氏の流れだ。致し方なかろう」


 だからこそ、私と荻野が前に出て、公方様と旧尼子の者たちは後備に回している。一斉攻勢に転じるとは言っても、今、京を空にするのは得策ではない。


 「雲行きも怪しい。これは乱戦に――……」

 「どうした?」


 空を見上げ、そして京の方面へと何となく視線をくれた悪右衛門が固まった。私も同じ方向へ視線を向けてみるが、特に……いや、微かに比叡山の方に煙が立っているか?


 「斥候!三好長慶の足取りはどうなってやがる!?」

 「は……近江に入ってから何度か六角とぶつかり、これを勝ちに収めた後、何故か西に……」

 「さっさとそれを言え!」


 その報告と、比叡山の不自然な煙の数が繋がった時、さぁっと血の気が引いていくのがわかった。悪右衛門ではないが、怒鳴りつけたくなるのもわかる気がする。


 「まさかとは思うが」

 「まさかで済んでほしい。殿は俺がやる。急ぎ戻れ、十兵衛」

 「……恩に着る。武運を」

 「なに、目の前にはどうも腐れ縁の怨敵が居てな。その為にこっちを志願したんだから、譲ってくれると助かる」

 「なんだ。嫌な予感がするとは言いつつも、乗り気だったんじゃないか」

 「まあ、そういうな。行け――十兵衛」


 お互い軽く拳を当てて馬首を返す。


 

 「急ぎ京に戻る!公方様にも伝令を飛ばせ!」


 まさかとは思うが、まさかか。だがこれで京は半包囲された。

 ポツリと雨が肩に当たる。この様な時に雨とは……。

 この死線は……果たして潜り抜けられるか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 比叡山

 三好長慶


 「思ったより手こずったか」


 京に気取られたくなかったため、山中では焼き討ちを禁じていたが、結果として半焼けになった御堂を横目に小さく呟く。この分だと、比叡山で何かが起きたのかを気取られるのも時間の内だろう。まだ遠くからは断末魔の悲鳴が何度か耳に届いている。何人討ち漏らしたかでも、状況は変わってくるだろう。


 だが、それでも構わぬ。


 もう遅い。生き残りが急ぎ伝えようとも、煙が空に棚引こうとも、比叡の山はこの手に堕ちた。

 眼を向ければ、京がこの手に掴めるが如く拡がっている。背後を見れば、灰燼に帰した堕落した街が広がっている。もうすぐだ。


 「ククク……応仁の乱より凄まじくなろうぞ。法華の乱より酷くなろうぞ」


 公方は敵たりうるか。嗚呼……そうとも。そうでなければ、このような余計な事は思いつかなかった。


 「さあ!三好の旗を立てよ!我らが旗を立てよ!一晩でこの地を固め、払暁より京に入る!」

 「「「はっ!」」」

 「殺せ!殺せ!戮せ!灰燼に帰したその時――新たな世が明けようぞ!」


 さあ、奴らの足を止めよ。弾正、日向。

 さあ、共に京に攻めかかろうぞ、ともがら共よ。


 全ては――我の掌の上で。

 森羅万象、全てを転がし我が美学。後は蠱毒らしく、醜く殺し合うのみ。


 この毒は――……。


恒例のオマケを書こうと思ったけど、本編が静かに盛り上がってきたので、今回はお休みということで


思い付かなかった訳じゃありませんからどうかお命は>orz

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