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藤巴の野心家  作者: 北星
7章 嵐を駆る者
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56話 土間メシリターンズ

ほぼ閑話……なんだけど、作者は自分の欲望に耐えきれなかった。

1564年 姫路

 黒田隆鳳


 一度姫路まで帰ってきました。黒田隆鳳さまだよー……。

 色々あったけれど、全体的には実入りのある当主会談だったと思う。案の定というべきか、毛利の割れっぷりがありありと見て取れただけでも十分な実入りだったと思う。

 もちろん、相手は毛利元就。赴いた先で見た全てが毛利家の現状だとは思わないけれどね。油断させて隙を突こうという魂胆がある事ぐらい、官兵衛が書状で諫言してこなくとも十分承知している。

 故に戦は全力だ。宇喜多率いる第2軍の準備が整い次第合流の運びになっている。


 尚、頂いた|お土産(四男)については、しばらく俺の下で見習いをさせる事にした。毛利四郎、元服はまだしていないが、まあ、四男って事は穂井田元清だよな。地味だけど、三兄弟に劣らぬ戦上手だったはずだ。毛利元就は妾の子の扱いが酷過ぎたのが難点だろう。それだからなのか、四郎はひどく達観した感じの静かな子だ。小さい頃の俺は決して静かな子ではなかったかもしれないが、でも、なんとなくだけど以前の俺に似ている気がする。四郎の眼は決して子供のしていい眼ではない。


 毛利元就の判断は、当主のそれとしては当然と言うべきものかもしれないが、正妻の子と扱いをわけるんだったら、妾なんて持つなと言いたい。


 将来は名将かもしれないが、今、四郎に必要なのは武略でも学問でもなく、家庭の温かさを知る事だろうと俺は思う。

 故に、その件に関しては、おやっさんとも相談のうえでかなり可愛がることにした。今日は小一郎、小六を案内に付けてやった。今頃姫路の観光を楽しんでいるはずだ。


 んで、小姓(というより秘書か)を二人とも休ませて、俺が何をしているかと言うと、


 土 間 メ シ の 刑 執 行 中 だ 。


 くそぅ……忘れていたぜ、この突き抜ける感じ。よもや、結婚して子供が出来てからも同じ罰を喰らう羽目になるとは……。

 だが、不本意ながらも慣れ親しんだこの罰。これぐらいで反省するかと言うと否と答えただろうと思う。

 しかしながら、今回ばかりは事情が違う。


 「隆鳳さま。いかがいたしましたか?」


 箸を持つ手を止めた俺を訝しんで、こてんと首をかしげる小夜。彼女もまた、俺の刑の執行と共に一緒に土間でメシを食っているからだ。尚、愛息たちは、「私たちがみるー」と息巻いている、超猫かわいがりのベビーシッター、春ちゃん、虎ちゃんがしっかりと見てくれている。


 ……奥さんがね。こうして土間で一緒にメシを食っているとね。クるんだよ。マジで……。

 凄くゴメンナサイという気持ちが湧き上がって凄まじく居た堪れない。いいよ、付き合う必要なんて無いと何度言っても聞いてくれないんだ。


 「……すまん、小夜。お前までつき合わせて……」

 「私は構いませんよ。隆鳳さまが敵地に単独で向かった、その理由がある事なんてわかっています。そして、その事を周りの者が心配し、納得する訳が無いという事も当然」


 笑う事無く、凛とした瞳で小夜はこちらを見つめた。


 「なんら恥じ入る事などありませぬ。むしろ、このように笑い話で納まるのでしたら、幾らでも肯じましょう」

 「……そうか」

 「それよりも、今日のお料理はいかがでしょうか?特に今日はいいお魚が入ったので、隆鳳さまから教えていただいた、蛸飯と潮汁となめろうが特にいい出来で」

 「あぁ……これは美味い。漁師メシだから、特に難しい料理でも上品な料理でも無いけど、こういう海鮮尽くしがグッとくるな」

 

 しかも、この潮汁となめろうで使ったであろう、魚――多分イサキだろうな。この刺身と蛸の刺身まで付いてるんだから贅沢な物だ。

 しかし、このなめろう。ショウガと大葉と味噌と……少量の酒が良い仕事している。これ、そのまま焼いてさんが焼きにしても美味いんだよな。

 蛸飯じゃなくて、普通の玄米ご飯だったら、お櫃が二つ三つは必要だったな……多分、それを考えてあえて蛸飯にしたんだろうけど。蛸も今の初夏のこの辺りが旬だから美味い。


 「隆鳳さまが好きですから、厨房の方々は朝から魚の吟味が大変だったそうですよ」

 「吟味できる程いい魚が流通してきたのはいい兆しだな」

 「朝市は凄いそうですよ」


 本当にいいことだ。中央市場化はしていないが、大分市場経済という物が民衆にも浸透してきた。賛否分かれるだろうが、競争力を糧に社会全体の底上げを図るという試みは今のところ巧くいっている。

 流通して、民衆が鮮魚を求めれば、目利きも増えてくるし、そうなってくると、今度は売る側も余所より鮮度を保つために工夫を凝らすようになるし、それがまたうまく循環していく。果たして、生きている内に足の早い魚筆頭のマグロは俺の口に入るようになるだろうか……脂が強すぎるのは苦手だから、トロとかはいらん。ヅケでいいんだ。とろろをまぶしてだな……。

 マグロ。ご期待してます。


 「それにしても、いつも思うんですが」

 「あん?」

 「隆鳳さまって食べ方お上品ですよね」

 「そうか?本当に上品な人間は喋りながら食べないだろうけど」


 まあ、言われてみれば確かに前世のしつけが影響しているのかもしれない。しつけ、といってもごく当たり前の日本人的なレベルだけどね。それに戦に出ればかっ込むよ。


 「いえ、でも、やっぱり食べ方が綺麗です」

 「ありがと。だけど、それだと少し困るなぁ」

 「何がです?」

 「そう褒められると、行儀悪く、小夜の口にあーんって食べさせてあげられないじゃないか」

 「……………………………………………」


 あ、固まった。冗談のつもりだったのにな……。

 黙って「むー」って膨れるのは反則やざ。そんな可愛い反応されても、俺はどうしようもないじゃないか。

 あー、刺身が美味いなぁ。醤油じゃなくて塩でも全然イける。


 「……隆鳳さま」

 「なんでしょう?」

 「宗易先生がおっしゃってました。『不完全なものほど美しい』と」

 「侘びってやつだな」


 まさか、高尚な話をそんなちっちゃな目的に持ってくるとは……。

 それに、その論法の使い方は侘び寂びじゃねぇだろ。トンチだろ。

 

 「……で、その心は?」

 「不完全でも、不作法でも、それごと愛してください」

 「はい、あーん」


 開かれた小さな口に、そっと刺身を一切れ運んであげた。




欲望に耐えきれなかったのはいいけれど、ラブコメを書いたは書いたで、今度は背中がかゆくなり過ぎて耐えきれなかった……本当はもっとまじめな話を続ける予定だったのに。


尚、武兵衛とその嫁の場合


「アタイ参上!」

「ここ最前線!!」


武兵衛の嫁はアホの子でいいと思うんですが、いかがでしょうか?

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