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藤巴の野心家  作者: 北星
6章 死神共の理想郷
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53話 真夜中の微笑み

どーも、読者さん。知ってるでしょう~?北星でぇございます

\おいケーキ食わねぇか/\おいチキン食わねぇか/\おいローストビーフ食わねぇか/

\おいパイ食わねぇか/\おみまいするぞー/


毎度の事ながらこんな年末突入です。もしかしたら年内最後かと。

 石山

 松永弾正久秀


 「クックック……ハッハッハ、ハーッハッハッ!よもやこの情勢で自ら毛利を刺激するとは相変わらず愉快な事をする」


 殿のご機嫌、斜めならずか。だが、どれだけ高笑いをしようとも、眼が笑っていない所を見ると、御心の内は知れずだろう。

 殿は混沌、と常日頃から口にするようになった。だが、今回齎された、黒田家が退き、あろう事か毛利を刺激したという報のような類の意味のない混沌はあまり心良く思っていないはずだ。

 無意味な振り回しはどうしても、かつての公方や先代の細川右京兆を思い起こさせてくれる。


 気取った言い方をしたが、要は考えなしの馬鹿が嫌いなのだ、殿は。


 それでも哄笑する辺り、余程黒田左少将を買っていると見える。私としても、確かに、と思う所はある。

 先の本願寺奇襲に際しても、あっさりと退く事を決め、長期戦の構えを見せた。しかも、それと同時にかなり大掛かりな軍組織の刷新を行っている。見方によっては戦力を分散させたようにも見える。だが、各地に直轄の将兵を置く事により、黒田左少将自身がいついかなる時でも、広大になった領地のどこにでも現れるようになったとも捉える事が出来る。

 普通は逆だろうと思うだろう。だが私は思う――黒田左少将は寡兵を率いる時こそ怖い、と。極端な事を言えば、大軍を率いる時はそれほど怖くはない。大軍ゆえに行動がとらえやすい上に、常識の範疇をあまり超えることは無い。むしろ単騎でいる時が最も怖いだろう。本質的に、黒田左少将にとって軍とは自らを縛り付ける枷に等しいものだ。

 ……それを克服しようと、精強無比な軍を生み出そうとしていたようだが。


 もし、先の三村調略が、東西で戦端を開く目途が立ったからこそのものだったとしたら――殿が笑うのも致し方ない事であろうと思う。


 「毛利は動くか、弾正」

 「半々、といった所かと。現在、毛利の眼は九州に向いておりました。三村の離反――備中東域を失うぐらいでは、本腰は入れますまい」

 「ならば黒田家」

 「直接的な侵攻を開始する事はまず無いかと」


 だが、この様子ではこの機会にと、策謀による侵攻の手は止めそうにないだろうが。毛利の眼が向いていない事をわかっていて、毛利が本格的に目を向けないよう小さく小さく浸食する恐れはある。隠居後も依然として実権を握る毛利翁の事だから何かしらの応手はあるだろうが、毛利としては堪った物ではないだろう。


 「黒田が大友と結んだという可能性は?」

 「無い。アレはそういう男ではない、長逸。ただ利害が一致した、ただ毛利に対抗する者同士という程度では余所とは結ばん。結ぶようであれば、我と左少将はとうの昔に手を取り合っていたであろう」


 黒田家が旗揚げした時。別所と事を構えそうになった時。但馬と因幡を制圧し、尼子、毛利との勢力争いに足を踏み入れた時。利害が一致しそうになった時はいくらでも存在していた。特に黒田家が元は商家と言う事――そして風聞に聞く重商政策を見れば、瀬戸内交易を目論んで、我らと結ぶ機会などいくらでもあった。

 だが、殿のおっしゃる通り、黒田左少将はその全てを拒んできた。


 ……それは偏に、歩み寄ってくるだろうとたかを括り、そして細川京兆家に連なる者だという風聞を受けて二の足を踏み、こちらから一切手を差し伸べなかった殿と私の痛恨の失策でもある。手を差し伸べるべきだと思った時には、もう既に機は逸していた。

 もし、手を取り合う未来があったならば――……と思わなくもない。


 「自ら動くのが好きな男よの、左少将は」

 「余程、背中を預けるに足る者がいたのでしょう」


 黒田官兵衛。左少将の影に隠れているが、それだけの何かがあったと見るべきだろう。私より遥かに年下ではあるが、殿の敵が左少将ならば、私の最大の敵はかの男だ。殿ほどではないが、そう思えるとつい笑みが零れそうになる。


 「その黒田家に対しての一手だが、毛利と結ぶか。なんなら陸奥守の息子を養子に迎えてもいい」

 「黒田家だけに視線を向けるのであらば順当かと。ただ、養子を迎えるのは……」


 視線の端で長逸殿も首を微かに横に振る。余計な家中の内紛を招く事だけは我らとしてはなんとしてでも避けたい。御一門が減っている今、余所から後継候補と目される人物を招く事は後々の禍根を招く事他ならない。


 「長逸。打診だけしてみよ。正妻の子で無くて構わん、と」

 「は、はっ!」


 ……切り出し方を間違えたらすべてが終わるな。長逸殿と後で話を詰めよう。


 「そして、だ。弾正」

 「はっ」

 「……もし、もしだ。その養子が黒田家に奪われたとしたらどうなるだろうなぁ?どうだろうなぁ?」

 「……御意」


 ぞくり、とした。奪われろ、と殿はおっしゃっているのだ。中小の勢力同士ならば、奪われた側が負けだ。だが、拮抗した大勢力同士の場合は話が別だ。まして、今、殿が要求した養子は正妻の子では無く側室の子。毛利から見ても――特に毛利家では側室の子の優先順位はかなり低い。かなり高い確率で毛利はなりふり構わず黒田に噛み付く事だろう。


 しかし……果たしてこんな見え透いた策に黒田左少将が乗るであろうか。黒田官兵衛が予見しないとでもいうのだろうか。

 否――命は下されたのだ。全ては御心のままに。


 してのけよう。我が渾身の借刀殺人計を。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 因幡 井出友氏


 出番なんていらないよ……まったく、上手の手から水が漏るとはこの事だろうか?宇喜多殿も一寸迂闊だったかな。

 毛利かぁ……いよいよって感じだけど、まあ僕達山陰側はそこそこに留めておけばね。だって山陽道と違って移動するだけでも一苦労だし。


 「来るなら来るで『いらっしゃーい』って感じかな。ねぇ?将監殿」

 「随分と軽いですね」

 「自分達だけで攻め込むならいざ知らず、防戦しろってだけならばこれほど楽な戦も無いでしょう?」

 「しかし……」

 「じゃないと、僕らがここに居る意味が無い」


 隆鳳とか官兵衛とかちょっと癖のある者たちばかりだったから、逆に急かされるような立場になるなんて思っても見なかった。それを抜いても、ちょっと真面目すぎかなぁ、将監殿は。伯州の南條殿といい、ボクの与力、お目付け役としては最高にいいのかもしれないけどね。まず、この両名は仕事が確実だから。


 特に――目の前に座る吉岡将監定勝は隆鳳が因幡統治時に明智十兵衛や塩冶と並んで重宝され、更には左少将になった際には「左近将監」の名をくれてやったほどだから。その名に恥じぬ働きをしてもらわないとね。


 「……大いくさですな」

 「そうだねぇ。ま、いつも通りやりましょ」

 「宥めて賺して?」

 「そうそう、それで逃げる背中に『んべっ』って舌出してやればいい」

 「性格悪いですよ」

 「でもそういう戦が好きだし、得意だよね?将監殿は」

 「文句は殿に言ってください」


 にやりと性格の悪さがにじみ出た笑みをわざと見せあう。真面目一辺倒じゃ無い、遊び心は大事だ。


 「さ、準備しますか。将監殿」

 「そうしましょう」


 軍議がいらない副官って素敵だね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 姫路 黒田隆鳳


 「んじゃ、俺は行くぜ」

 「あいよー」


 今の内にと顕如ダチの見舞いを済ませ、思いのほか元気な声に送られて帰路に着く。一息着いた、といった所だろうか。信者の多い英賀城に入らず、療養用にと姫路内の小さな庵を選んだ辺り、思う所はあるみたいだが、それでも、近所の子供に読み書きを教えたりと、人との繋がりを拒否していないだけまだマシだと思う事にする。


 案の定というべきか、北陸の一揆衆はほぼ顕如の手を離れた。風聞ではもう収集がつかないほど酷いらしい。伊勢長島は何とか踏みとどまったが、相当心に深手を負ったはずだ。それでもいずれは嫌でも表舞台に引き出されて本願寺を引っ張っていくハメになる。しばらくはそっとしておくべきだろう。

 

 考え込みながらも道を歩いていると、またしても、というべきか、姫路は人でにぎわっている。特に本願寺陥落と共に畿内から流れてきた者が多いせいか、やや混乱気味にも見える。元が食い詰め者の集まりだ。ここの対応を間違えると、この国の転落が始まるだろう。幸いにして、治安システム及び、職業斡旋等の保護政策についてはしっかりと整備し、苦戦しながらも導いてはいる。逆にここをこのまま凌ぎ、混乱が落ち着けば更なる飛躍は約束されているだろう。


 こうやって過渡期に城を出て街の様子を見ると、この繁栄の街の根底には黒く深い激情がある事を感じさせられる。

 そりゃ、誰だって今日の食い扶持すら儘ならない生活なんて嫌に決まっている。そうした人としての最低限の危機感に囚われている段階では、まだまだこの街の本当の意味での活気など訪れていないと思う。この最低限のラインを脱出し、「さあ、明日はなにしよう?」と思うようになってからが本当の活気だ。今日をどうやって生きようと足掻くのは活気なんかじゃ無い。

 

 そして、そんな事を民に思わせないのが、俺の仕事だ。


 それはわかっている。わかっているんだが……こうしてこの姫路にいなければならない事が恨めしい。姫路に居たって家族の時間なんて中々作るのも大変な程だし。

 

 西に行っていい加減毛利を殴り倒したい。海を渡って四国を太平洋の向こう側までぶっ飛ばしてやりたい。畿内と中京の魔王を地獄に送り返してやりたい。最前線で今、血が流れている。戦友たちが吠えながら戦っている。叶う事ならば今すぐにでも轡を並べて戦いたい。焼け焦げそうなほどの戦意がこの身体に満ち足りている。

 だが、今はまだ――。


 時折声を掛けてくる民の声に笑顔で応えつつ、無性に叫びたい衝動を押さえながら城へ向かって歩き始めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 神戸 官兵衛


 到着早々、最前線からの報告が届く。三好は本腰入れて石山を拠点にしたいのか、小競り合いを仕掛けてくる事はあっても、淀川を大きく飛び越えてくる事は無い。むしろ余程淀川を渡って欲しくないのか、こちらが渡ろうとすると本腰を入れて動こうとする気配があるとの事だ。

 この警戒具合――こちらが考えている以上に俺達の事を警戒していると見える。あるいは、その水面下で何かまた動き始めているのか――どちらにしても警戒は怠る訳にはいかない。


 宇喜多が三村を調略してしまった、という報告が上がったのはそんな頃だった。初めはあの裏切りの手引きの名人が塩梅を間違えてしまうなどと珍しい事があるものだと逆に感心してしまったが、実は悪い傾向では無いのかもしれない。毛利は言っては悪いが地侍の集まりが元だ。それを必死で集権化している段階だが、実は切り崩し方としては一番正しいのかもしれない。

 一向宗の信者も多く、かつ寄せ集めとなれば付け入る隙などいくらでもあるだろう。隆鳳が以前、「毛利は実はウチと凄く相性が良いと思うから怖くない」と言っていた事があるのだが、まさにその通りだろう。火が木を燃すように、水が火を消すように、俺達の強みは毛利の弱みと上手く一致する。


 とはいえ、時期が悪いのは否めない。備前、美作など今本格的に毛利の目が向けられたら困るのだ。そういう意味では非常に頭が痛い問題だと言える。

 いざという時は隆鳳が赴く事になっているが……それまでに俺と武兵衛は目の前の三好を押さえなければならない。


 だが、だ。それでも先日宇喜多と直接話し合った時には、思わず笑ってしまった。


 毛利との関係の焦げ付き。

 そして、軍の再編成。


 偶然だろうか。策が出来た。上手くいけば三好長慶の命に届く策が。既に宇喜多にも山陰の叔父上にも明智にも、当然隆鳳にもその概要は既に話してある。


 あとは、その時が来るのを待つだけだ。それまで戦線を保てばいい。たったそれだけで成る策だ。


 首を洗え、三好長慶――黒田家最強の刃が貴様を狙う。


 真夜中に一人そっと笑みを浮かべて待つ。

 

隆鳳から一言。


「はい、というわけでこの章は一度ここで終わりという訳ですが、一つ懸念が。官兵衛が神戸に動いたことで、神戸が「かんべ」と呼ばれそうなんですが……」


という訳で、皆様良いお年を。

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