52話 腹を割って話そう
後半ちょっと遊びました。
相変わらず仕様の無い作者だと冷たい目で見ていただければゾクゾクします。
姫路
黒田隆鳳
「……ふむ。また、凄まじい額だな」
「うぇー……またですか」
俺様帰還!黒田隆鳳さまだよー。帰ってきて早々だが、俺は東部戦線の維持に必要となるであろう経費を試算しておやっさんと藤兵衛の監査を受けていた。黒田家ってね……ホント金銭の管理が厳しいの。まあ、俺からお願いした事でもあるんだが。
「で、どうだろうか?」
「当然の事だが、必要な経費である以上、儂らは頷くしかあるまい。だが、幾分かの支障は覚悟しろよ」
「だろうな……どれを削る?おやっさん」
「額を考えると人件費……例の直轄軍の再編しかあるまい。人を雇うという事は、一人にかかる経費に対してその3倍はアガリが見込めんと厳しい。このままの速度で人員を増加させていくと、いずれ破綻する事は見えていた」
人件費の削減については既にかなり前から話が出ていた。だが、まずここが戦国時代である以上、兵を減らす事は無理だ。かといって内政方を減らしても今の黒田家は回らない。職人もそうだ。そこで一つの方針としてあがっていた案が、俺の直轄軍の再組織化だ。
現在、俺の軍は俺が賄い、俺だけが使っている。他の領主たちの軍はその脇にあると言った感じだ。それがかなりの経済的負担になっている上に、俺が他の傘下の領主の軍を頼らない大きな理由となっていた。だってさ、ここの領主が「これだけ兵を集めましたー」別の領主が「ウチはこれだけですー」じゃ、練度も指揮系統がバラバラだし、戦う前に自らの戦力を量る時間が必要でそれが心底バカバカしい。
だが、こうして自らの力だけで大きくなり、主要な土地に自らの仲間を置けた以上、この直轄軍を割ってその土地で養わせるという考え方が出来る様になったのだ。
発想としては織田信長の地方軍に似ているかもしれないが、それよりも一歩踏み込んだ、近現代の軍の在り方、と俺は思っている。
「戦線が拡大した以上、計画を前倒しするのも吝かではないが……」
「出来ぬ、とは言わせぬぞ、官兵衛」
官兵衛が渋るがおやっさんの凄みの前に沈黙する。
軍の再編成など、一日二日で出来る様なものじゃない。俺が現在直轄軍として抱えているのは1万5千。予備、見習い、警邏含めると約3万にもなる。これを割りましょう、これを分けましょうで「はい出来ましたー」という訳にはいかない。どうやってわけるか、から始まり、各地で受け入れ態勢が整うのか、そもそも受け入れてもらえるのかという折衝を行う事を考えると1年はゆうにかかる。
しかも、今は最前線が予断を許さないような状況だ。通常ならば出来るわけが無いと思う。
でもね、おやっさんたちに日頃からとんでもない案件をお願いしている以上、軍側が「出来ません」という訳にもいかんのだよ……。
「こんなこともあろうかと、各地への報せは飛ばしておいた」
「さっすがおやっさん。仕事が早い……んで、詳細は?」
「折衝を行った先は、山陰の友氏(友にぃ)。丹波の明智。丹後の明石。備前の宇喜多。美作の七条(赤松)、三木の別所。直轄軍を各1~3千ほど分け、指揮権を預ける代わりに半分ほど金額を当地で負担してもらえないかと言う打診だ」
「三田の禿と但馬の塩治は?」
「塩治は率いる兵が特殊すぎるからと断られた。休夢は既に幾分かを割って与えている事からこちらで判断した。尚、この判断は休夢が前線で出ているからであって、もう既に事後承諾は貰っている。厳密には友も同じだが、友の場合は見るべき範囲が広すぎる事を鑑みると増員は必須と判断した」
あと、弥三郎おじさんや山名、荻野、櫛橋、神吉、有馬、浦上(海軍)なんかも同じだ。譜代の臣がいない、少ない、あるいはいなくなってしまった連中には既に俺の軍から幾分かの兵を預けている。
左京に鉄砲隊を預けている櫛橋だけは少々毛色が違うが、元々は俺からお願いした訳じゃなくて、向こうからお願いされてやった事なんだけどね。そういった観点からも、軍を起こす時彼らは使いやすい。指揮官が違うだけで、内実は俺の軍だから足並みが揃いやすいのだ。
この流れは最近の黒田家支配圏のトレンドにもなっている。それを少々大きめにやるだけの話だ。
「んで、回答は?おやっさん」
「是、だそうだ」
流石は身内共。多少の負担はあるものの、しっかりとメリットがある事を見越していやがる。
「これが根回しというものだ、官兵衛」
「……恐れ入ります、父上」
おおぅ、おやっさんの凄みにあの官兵衛が悄然と頭を下げていやがる。まー、この親にしてこの子ありって感じだな。間違いなく、史実でも黒田官兵衛という名軍師を育てたのはおやっさんだ。
「これに、武兵衛と官兵衛、あと閣下も追加して……むしろ分けすぎか?」
「9名は分けすぎだな。俺の分は従来通りで……」
「とは言えねぇだろ。お前、東部戦線に張り付くんだろ?もしかしたら、俺が西に赴く事だってありうるんだ」
「……だな」
武兵衛と閣下に3千。これはもう既に送り込んでいる。官兵衛もそのくらい必要だろう。残りで千から2千づつ……まあ、ありな分け方だな。実際、元々が手元に抱え過ぎた感がある。しかも未だ増加傾向だ。むしろ分けすぎぐらいの方がいいのだろう。
その後、喧々諤々と話し合った結果が以下の通りだ。
第一軍 本隊 俺― 弥三郎おじさんなどが指揮下に入る。
第二軍 備前 宇喜多 -西部統括 与力は備前全土の将兵。緊急時は第十二軍も束ねる。
第三軍 山陰 友にぃ -山陰統括 与力に尼子、南條など。緊急時は第七軍も束ねる。
第四は無くて、第五軍 神戸 官兵衛 -東部統括 同時に第十軍を束ねる。
第六軍 丹波 明智 -丹波から主に京方面統括 与力に波多野など。
第七軍 丹後 明石 -北陸方面統括 与力に沼田、奈佐、塩冶など。
第八軍 三木 別所 -東部遊軍 及び淡路、四国備え 与力に淡河、衣笠など。
第九はなくて 第十軍 越水 武兵衛 -東部最前線 与力に神吉、山名、池田。
第十一軍 明石 細川閣下 -東部遊軍、及び淡路備え 但し、兵站、外交戦略なども担う後方指揮所としての性格が強く、参謀、内政官が多い。
第十二軍 美作 七条赤松 -山陰、及び西部遊軍
ナンバリングするとそれっぽく感じるな……なお、各軍の間での兵の異動はあります。あと官兵衛がなぜ第2じゃないかというと、俺の旗が理由だ。死を超える5、苦を超える10は黒田家では特別な数字なのです。
俺には技術系チートなんてほとんどできなくて、出来る事と言ったら戦うことぐらいかもしれない。
けど、システムは残す事が出来る。社会の仕組みであったり、軍の在り方であったり、経済の在り方であったり……多分、それは君主だから出来る事だ。
今回の決断はまだ吉と出るか凶と出るかわからない。
「まだ足りなかったら、またしばらくお前らが『経費』と言って落としている諸々の分を削るからな」
「「うぐ……っ」」
……やっぱ凶だったか。
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備前
宇喜多直家
「まさかこうして、お主と腹を割って話す事になるとはな」
嫌味でもなんでもなく、ただ感慨深げに呟かれた言葉に、内心では冷や汗を拭う。まさか、とこっちが言いたいぐらいだよ。
「数えてみれば、お主が穝所の籠る龍口城を奇襲した時以来か。よもやあの男色狂いに美麗な小姓を送り込んで暗殺するとは、あの時は心底してやられたと思ったわ」
目の前の初老の男は挑発的に笑う。武断一辺倒なのは相変わらずというべきか。このやり辛さはどこぞの婿殿を思い起こさせてくれる。
ただ、こちらの方がまだ付け入る隙は多そうだ……婿殿は自分の事だけでなく、余所の事にも目を向ける。この男は自分の事にしか目を向けない。普通はこっちの方が正しいんだけど、それが婿殿との大きな違いだろう。
「……少し見ない間に老いたかい?三村修理亮」
「何?」
「ちなみに私はまだ老いたつもりはないね。孫も生まれたけどね……昔話がどうも堪える。昔話が好きなのは老人ぐらいだ」
「ふん……食えぬ男だ」
目の前の男――備中の実力者、三村修理亮家親は心底不機嫌そうに鼻を鳴らす。ああ、もう、どうしてかな。本当にウマが合わない、この人だけは。
「『食えぬ』は褒め言葉だよ。さて、さっさと本題でも済まそう――毛利を見限って黒田家に来るつもりって本当かい?三村君」
「いまさら何を。そう仕組んだのはお主だろう」
「そう突っ返されるとどうも言葉を繋ぎようも無いんだけど……」
あーはいはい、そーですね。どうせ乗らないだろうけど揺さぶりぐらいにはなるだろうと、孫の顔を見に行くついでに婿殿から許可を貰って持ちかけたのは私ですよ。
真面目な話。今回みたいに諸々をすっ飛ばして即決されると逆に困るんだ。今は特に東が酷い事になっている。これで三村を裏切らせた事が毛利にバレた日には……。
ただ、三村家は元々細川京兆家と深いかかわりがある。それに目の前の修理亮の嫁はあろう事か同じ細川旧臣の三好家から来た嫁だ。これがわかったら、放置するのも怖いという理由も理解してくれるよね?
官兵衛くんと共にこの備前に居た時といい、何でこう私は交渉事となるといつも貧乏くじを引き続けるんだ……。
「手引きをしたのは確かに私だけど、理由を聞いてもいいかい?」
「……浦上が滅んだあと、初めは、情勢さえ許せば簡単に捻り潰せると思っていた。だが、何だお主らは!?人様の目の前で凄まじい速度ででかくなりやがって!毎日毎日その様子が耳に入り、目に入るこちらの気持ちがわかるか!?もうどうあがいても勝てぬわ!」
「あー……うん。少し前に婿殿と会った頃の私と同じ感想だ」
「ならば分かれ!」
「暴論!」
あー、もう。藪をつついて蛇を出すと言うがまさにそれだ。お陰さまで全てがグチャグチャだ。
拙いな。近いうちに毛利と一戦あるね、これ。
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以下、オマケ。
馬廻りの会話を掲示板風にして見た。
1.名無しの馬廻りさん
突然だが、重大な案件がある。
2.名無しの馬廻りさん
何や?
3.名無しの馬廻りさん
筆頭がまさかの馬廻り離脱で困った事になった
4.名無しの馬廻りさん
筆頭が「風神」と呼ばれていたから、俺達「風神衆」と呼ばれておったが、風神がおらんようなった。
5.名無しの馬廻りさん
>>4
!!??
6.名無しの馬廻りさん
>>5
ホンマや……風神のおらん風神衆なんて、麺の無い鳳麺と同じやで
7.名無しの黒田隆鳳だよー
>>4
え?お前らそんな名前だったん?
8.名無しの馬廻りさん
>>7
姫路城の二の丸界隈辺りではそうだったんです……
9.名無しの黒田隆鳳だよー
範囲狭っ!
10.名無しの馬廻りさん
早速だけど、殿が混じっている件について
11.名無しの馬廻りさん
>>10
諦めが肝心やで
尚、飲んだ後ならば〆に麺無し鳳麺はアリやと個人的には思うわ。
12.名無しの馬廻りさん
何を今更。どこにでも出るぞ、殿は。
>>11
禿同
13.名無しの馬廻りさん
姿が見えないと思ったら、城の屋根でサボって昼寝をしていたり……
14.名無しの馬廻りさん
夜勤明けにメシ食おうと屋台の暖簾をくぐった瞬間に、殿と奥様が腕をふるっている姿が見えた時は流石に言葉を失ったわ……メチャクチャ美味かったんだけど、生きた心地がしなかったわ。
よくよく見たら、隣の席は参謀総長殿だし、他にも色々いたし。
15.名無しの馬廻りさん
>>14
あれか……既に伝説になってる「左近屋」かw
殿が直々に作ったメシとか裏山
16.名無しの馬廻りさん
>>12
この前、辻馬車の御者をしていたとこ見たわw
17.名無しの黒田隆鳳だよー
お前らそんなに俺を目撃してんのか……
随 分 と 暇 な ん だ な ?
18.名無しの馬廻りさん
>>17
そ、そんな事無いです
19.名無しの馬廻りさん
>>17
滅相も無い
20.名無しの馬廻りさん
>>17
左近屋の次の営業日いつですかー?
21.名無しの黒田隆鳳だよー
>>20
しばらく無理だなー。
22.名無しの馬廻りさん
>>21
ですよねー(20、よく話を逸らした!)。
23.名無しの馬廻りさん
で、肝心の本題いい?
24.名無しの馬廻りさん
ええでー
25.名無しの馬廻りさん
風神様が颯爽と嫁を取った後、越水の風になってしまったんで、風神衆とは言えないから他になんか名前無いかな?
26.名無しの馬廻りさん
>>25
風になった、って筆頭が●んだみたいに言うなよw
あと嫁云々は禁句だ。独身負け犬会じゃあるまいし……
27.名無しの馬廻りさん
\まさか!という時の独身負け犬会!/
28.名無しの馬廻りさん
我らの武器は突然の登場
29.名無しの馬廻りさん
そして嫉妬……この2つ
30.名無しの馬廻りさん
更に恐怖。だから3つ。
唐突 嫉妬 恐怖
31.名無しの馬廻りさん
涙ぐましい努力もあった
4つだ。
32.名無しの馬廻りさん
我らの武器は唐突……だめだやりなおし!
33.名無しの黒田隆鳳だよー
>>27-32
グダグダじゃねーかw
34.名無しの馬廻りさん
話、戻していい?
35.名無しの馬廻りさん
>>34
ええでー
36.名無しの馬廻りさん
つーか、普通に、馬廻りでええんちゃう?
37.名無しの馬廻りさん
>>36
否ーッ!断じて否ーッ!
「馬廻りです」って言うより、「風神衆です」って言った方が女子の食い付きが違うんやで!?
38.名無しの馬廻りさん
いや、俺、嫁おるから
39.名無しの馬廻りさん
負け犬会の皆さん、コイツです
40.名無しの黒田隆鳳だよー
俺も嫁おるから
41.名無しの馬廻りさん
負け犬会の皆さん、コ……いや、なんでもないです。
42.名無しの馬廻りさん
>>41
日和やがったw
ところで、殿には何かいい考えが無いですかね?
43.名無しの黒田隆鳳だよー
無茶ぶりするな―……なんだろうな。
「かなぼう」とか?
44.名無しの馬廻りさん
金棒wwwww
45.名無しの馬廻りさん
駄目だ、腹痛いwwwwwww
46.名無しの馬廻りさん
\か な ぼ う 参 上 !/
47.名無しの馬廻りさん
>>46
オイバカ止めろwww
48.名無しの馬廻りさん
誰や、殿に振ったのは!?
御子息に「一郎」「二郎」と名付けたのがこの家興って以来で最大の奇跡と全員に驚かれた方やで!?
以下、グダグダと会話が続く
※尚、新しい名称は決まらなかった模様。
明智くんから一言あるそうです。
「丹波の件はありがたいですが、鳥取だけは、鳥取だけは何卒残していただきたく……」
流浪の人生からチャンスを掴んだ鳥取が特別な場所になった模様。