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藤巴の野心家  作者: 北星
6章 死神共の理想郷
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51話 近畿狂騒曲

もう年末なんですね……忙しい。すみません遅くなりました。

 京

 足利義輝


 その凶報が届いたのは、見廻りを終えて鹿之助ら黒田家の面々と共に屋敷の前の掃き掃除をしている時だった。


 興福寺瓦解と弟の死……正直、弟にはあまり思い出も無かったが、多少なりとも心が動く音がした。失わなかったらこの心も動く事が無かっただろう。憤るよりも先に目を閉じてその冥福を心の底から祈る。

 奴もまた足利の生まれという呪いを背負った男だった。

 力を喪った棟梁――権威しか無く、それを取り繕うしかない無念。その気持ちを分け合う事が出来る唯一の存在だったかもしれない。


 いい兄では無かった。

 いい棟梁でもなかった。

 語り合う事無く逝ってしまった。これからという時に、この理不尽な死。湧き上がってくるのは三好長慶に対する恨みではなく、余の咎なのだという自責の念だ。


 いい加減目を覚ませよ、足利義輝――そう声がする。誰の声でもない、余の声で。


 「誰ぞある」


 眼を開き、門を振り返ってみると、同じく凶報を聞き付けたらしき一色藤長、和田惟正、三淵藤英、米田求政らが既に平伏して待っていた。


 「弾正忠(和田惟正)、兵を纏めよ」

 「はっ!」


 命を受けて厳粛な声が返ってきたが、背後では鹿之助らが怪訝な気配を見せたのがわかった。


 「恐れながら、公方様」

 「鹿之助。そなた等の言いたいことはわかっておる」


 以前の余ならばどのようになっていただろうか?激昂して「殺せ!」と喚いていただろうか。

 だが、今ならばまだ正確に判断が降せるだけの冷徹さが残っている。怒りに任せて彼我の戦力の差を忘れては困る。

 だが、座して待つわけにもいかぬ。


 「……守りを固めて奴らの出方を見定めつつ、後詰を待つ。頼めるか?」

 「必ずや」


 即座に行動を始めた黒田家の面々の背中を見てふと思う。三好長慶は何を求めてこの蛮行に及んだのだろうかと。

 ただ単に大和の支配を強めたいだけ、という訳では無かろう。余に仇をなすならば直接ここを攻めに来ればいい。黒田左少将を引きずり出す事が目的だとしても、同じことだ。興福寺と黒田家は何の縁も無い。むしろ、左少将は興福寺を焼きに行く側の人間だ。

 同じ寺社仏閣の本願寺を揺さぶる?まあ、妥当な所だろう。


 「公方様。各大名にも触れを――」

 「……いや。今少し待て、式部(一色藤長)」


 以前ならば、当然の事の如く各地へ触れを出して「三好長慶を討て」と叫んでいただろう。だが、現実を顧みるにどうだ?触れを出したところで、動く人間などほとんどいない。地理的には六角らもありえるが、浅井との戦いに負け、お家騒動が起きたばかりでは動くとは思えない。

 畠山?まず無理だ。

 いや、そもそも、従来の如くただ「兵を出せ!」と声に出すだけならば、今までと何ら変わりないではないか。


 かといって、やみくもに自ら兵を動かしていいものかと言うと違う。三筑(三好長慶)の意図がわからん以上、慎重に慎重を重ねて動くべきだ。


 「待ちの一手だな……黒田家の面々が来る前に余はひとまず参内するぞ」

 「……何ゆえに?」

 「幕府の意義に従い、三好が握っていた都の守護についての統帥権、軍事行動の名目を手に入れる。名前ばかりの統帥権だが、今後の足元を固める為の多少の足しにはなるだろう」


 諮る必要があるだろうが、おそらく、軍を動かしたとしても行って伏見辺りまでか。


 惰弱と罵られようが一向に構わん。余は、黒田左少将のような天性の気質も、上杉弾正のような非凡な武略を持ち合わせておらん――ただの凡人である。

 凡人であるが故に余は鍛錬を積もう。

 凡人であるが故に余は一歩、また一歩と自らの足で歩もう。


 以前、黒田左少将には人材を服に例えて諭された。


 未だに裸の将軍様であるが、今ならば余は答えよう――ならばまず自らの心に化粧を、と。権威と言う衣に穴が空こうとも、襤褸を纏おうとも、泰然自若と貫き通す中身でありたい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 越水城

 黒田隆鳳


 「これが越水城……か。武兵衛にはもったいないな」 

 「というか、武兵衛には無理だ」

 「待って!?というか、大将はともかく、弥三郎どのまで!!?」


 俺はともかく、ってどういう事だよ。黒田隆鳳さまだよー。


 伊丹、池田が落ちた事が決め手になり、越水城近隣に居た篠原率いる四国勢は速やかに陣を畳んで去って行った。それまでゆっくりと戻っていた俺たちだったが、一気に襲い掛かって敵の殿のケツを蹴り飛ばした後、件の越水城へと立ち寄る事になった。また、この地で従軍していた閣下は先に明石に戻り、左京はライレーンら本願寺主力を除いた他の者たちを保護しつつ姫路に向かってもらっている。


 さて、一回して実況見分を済ませた歴史の彼方に名前が消えていたこの城だが、この時代においては目を見張るものが多い。一辺が数百メートルはあるであろう縄張り。城下町を有した経済拠点としての価値。


 そして、天守。実を言うと、天守のある城を見たのはこの戦国時代に来てから初めてだ。


 流石は三好長慶のかつての居城。間違いなくこの時代の最先端を行っていた城だと心から感心する。


 「居城としては最適かもしれないが、防衛の拠点と考えると今一つ足りん、といった所か……」

 「官兵衛は結構辛い評価だな」

 「実際、貴様らでもこの城を攻めた際の落とす為の手立てがいくつか思いつくだろう?」


 官兵衛の指摘に反論の言葉が見つからず、俺達は素直に頷いた。

 確かに最先端を行く城ではある。ただし、最前線の城のそれではない。もちろん、ある程度の防衛能力は有しているが、同じ城下町を有していても防衛能力は姫路城と比べても数段劣る。三好長慶がこの城から芥川山城、飯盛城へと拠点を移したのは、京を中心とする畿内への利便性を考えただけではなく、この城の本領が中継拠点や経済拠点だった事も影響しているのだろう。


 そして今回、三好長慶はこの城を捨て、代わりに石山――のちの大阪城を獲った。比べるまでも無くこの国におけるイニシアチブはとられっぱなしだ。

 さて、軍議と行こうか。


 「……改造して間に合うか?」

 「奴らも獲ったばかりの石山を拠点として使いたいはず。幸い、この城は水が豊富だ。防備さえ固められていれば持つだろう。やはり要点はそれまで凌げるか、だ。そこさえ凌げれば長い膠着に陥ると見る」

 「いずれにせよ、ここから北東の伊丹、池田と構築する防衛線が重要になってくるな……」

 「むしろ、その2城の方が狙われる可能性が高い。特に線の真ん中に位置する伊丹の改装の方が急務かもしれん。ここに武兵衛を入れるのであらば、防備は軽い手直しで済まし、出撃の拠点と見るが吉か」


 そう考えると、前線はここではなく尼崎、吹田まで進めたい気にもなってくる。


 「そうなると越水(西宮)-伊丹-池田の直線の防衛線ではなく、越水-池田-吹田で三角を築く形に持ってこれないだろうか」 

 「そうなんだが……おじさん。それ現状無理でしょう」

 「まず吹田の取り合いが激戦だろうな……」

 「しかも海を掌握され、かつ背後に不安を残した上での激戦だ。最低でも10万近くの兵が必要になるな」


 はぁ、と弥三郎おじさんが深いため息を漏らす。三角形の防衛線は確かに安定性があるし、目指すべき目標だ。だが、現状、そこまで戦線を広げる余裕はこちらにはない。話題に上がった吹田は、こちらから見てもかなりの戦略要地だが、それは同時に芥川山(高槻)-石山(大阪)-飯盛(四条畷、大東)の三角形の防衛ラインを完成させた三好からしても相当な重要拠点である。


 こうして考えてみると、三好長慶が越水を捨てて石山を獲ったのは、完全に俺たちを封じ込めるための合理的な戦略だったと窺い知れる。今後、状況次第では芥川山を捨て、淀川を防衛線にする目論みもあるのかもしれない。

 あぅー……頭いたい。


 「殿たちの読みの内容と話の内容が高度すぎて何が何やら……」

 「奇遇だな、五郎。俺もだ」


 お前は分かれよ、武兵衛。


 「ひとまず、一つ一つ必要な事を潰していくとしよう。まず、伊丹の扱いだが、腹案はあるのか?隆鳳」

 「あん?腹案ってほどじゃねぇが、京に向かった山名が戻り次第、山名だろうなーとは思っている。こんな難解な最前線に武兵衛を置く以上、何よりも大事なのは連携と信頼関係だ」

 「確かに武兵衛にとっては舅である以上、これ以上ない人選ではあるが……軍事的にはどうだろうか?我は正直疑問だ」


 10日足らずでかつての領国を全部奪われましたしね。奪いましたしね。

 

 「ならば小兵衛を入れるか?」

 「怖っ!!」


 そんなに親父が怖いのか、武兵衛。いや、確かにあのオヤジ、顔の整った武兵衛が子供だと思えない程ヤ○ザ面しているけどな。絶対あのオヤジ何人か人を殺しているぜ……戦国武将だから当たり前っちゃ当たり前だけど、ってそんなツッコミは言わんといてー。


 「小兵衛殿を動かすと俺たちの軍の根本が崩れるから現実的ではないな」


 人材的な意味でな、官兵衛。

 人は鉄砲玉。人はミサイル。人は爆弾。情けは無用。仇は殲滅、黒田家です。


 「ならばカンキチ。親父付で」

 「「………………ありだな」」

 

 俺たちが会話を行っている部屋の襖の向こうでムキッと何か音がしたが、それはどの部位の反応だい?まあ、美筋肉の謎の反応はともかく、その鋼のような容姿に違わずこと防衛関連に関してはカンキチはウチでも別所大蔵と随一を争う。手元に置いておきたかったらしき武兵衛だけはやや不満げだが、2人が同意する以上悪くは無い人選だろう。神吉下野守という外付けの安全装置も付けた訳だし。


 「あとは……そうだな。官兵衛。直轄軍割って、お前こっち残るか」

 「一度は姫路に戻らないとならないが、必然的にそうなるだろうな……場所は?」

 「閣下の隣。例の新都市の候補地」 


 神戸の皆さんゴメンナサイ。三好長慶のせいで、神戸は当初の予定を大幅に変更して軍事都市になりそうです……。


今回の一番の被害者枠


おやっさん「……ふむ。本願寺吸収。最前線の城を二つ改装。新都市神戸計画発動……ふむ、して、その予算は?」

官兵衛「よろしく」

隆鳳「しくー」

閣下「明石城建設の件もー」

宇喜多「大都会岡山も宜しく」

おやっさん&藤兵衛&内政方の皆様「「やじゃぁあああああああっ!!」」


内政方 かつてない程の危機。

破綻しない辺りが黒田家。


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