表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤巴の野心家  作者: 北星
6章 死神共の理想郷
70/105

48話 掌の上で

ちょっと短いですが

 1564年

 黒田隆鳳


 軍議の終了と同時に第一次警戒令を発令してから半日での出陣。

 数は直轄の5000。三木より別所大蔵、淡河弾正など東播にも出陣命令を下し、行軍初日の野営地である明石で合流を果たした。これで合計は1万2000ほど。その他にも三田に異動していた休夢の禿オヤジらが別ルートから既に進軍を始めている。今のところは順調と言ってもいいだろう。だが、それでもずっと俺には嫌な予感がしていた。

 どうしてもあの時に会った三好長慶の姿が頭によぎる。狂気的で享楽的でその実、怜悧な物が確かに残っていた。

 あの三好長慶が誘っている。これは罠だ――そんな事はわかりきっている。

 では次は何が待っているのか――。


 「わからん……」


 ただでさえ、今回の電撃戦はリスクが高い。途中、摂津でも屈指の国人、伊丹、池田が待ち構えている。特に池田だ。少なく見積もっても8000近くは動員できる。それも鉄砲など、この時代の最先端を行く装備を構えてだ。

 城に籠ってくれるならばそれでいい。だが、俺たちが素通りしようとしている事を知った上で野戦を仕掛けられたら相当な激戦になる事だろう。

 だが、この事が三好長慶の本命だとしたら、これほどありがたいことは無いだろう。今のところ、池田家は当主池田勝正を中心とする親黒田派と、前池田家当主、池田長正の嫡男だった池田知正、その義弟、荒木村重ら親三好派が家中での主導権争いを行っており、籠城の可能性が濃厚だからだ。この辺りの分裂工作は流石の官兵衛と言っておこう。


 おそらくだが、俺たちが通り抜ける際に別所らに押さえを任せれば十分事足りる。伊丹も誰かを押さえに回して切り離せばいい。三好長慶のかつての本拠、越水城に丹波を追い出された松永長頼が詰めているが、これも同じだ。おそらく、本隊の5000は通り抜ける事が出来る。今回は戦が主目的ではない。通り抜けて、顕如と合流すれば当座の目的は達成される。


 だが、果たしてそれで問題は無いのだろうかという疑問がどうしても払拭できない。それは官兵衛も同じで、共に帯陣しているにもかかわらず、終始眉間にしわを寄せてうろつきまわっている。

 だが、既に賽は投げられた。三好が投げ、俺が勝負に応じて兵を率いた。


 いずれにせよ、死力を尽くして戦うしかない――今はただその覚悟しか出来なかった。

 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 3日後午前


 三好の勢力圏に入ると自然と行軍速度は落ちてしまった。誘いに乗って敵地を横断している以上、伏兵の類は警戒しないとならなかったからだ。

 だが、そんな警戒に反して戦況は割とすんなりと進んでいる。池田、伊丹ら国人衆はすんなりと籠城の体勢に入ってくれた。越水城もルートを少し変える事で回避する事に成功した。伏兵の類も未だに遭遇していない。


 「火縄の臭い、か?」

 「何?」


 そんな中、馬上で嗅ぎ取った臭いが俺の警戒心を一気に高めた。微かにだが確かに火縄の臭いがする。それもかなりおびただしい数の臭いだ。狙撃主の類……ではない。


 「音もするな」

 「戦闘を行っているという事か?隆鳳」


 行軍でやや物音が聞き取りにくい中で思わず耳を澄ませば鉄砲の物らしき音も微かにする。ォォと小さく聞こえる音は鬨の声だろうか?

 まだ本願寺の姿は見えないがもう近くまで来ている。そんな場所でそんな音がするとしたらそれは……。


 「拙いな……斥候は戻らんか!?」

 「急いで向かう方が早いぞ、官兵衛!」


 同時に状況を理解した俺と官兵衛は思わず馬を一気に走らせ始めた。それに軍が遅れることなく続いていく。そうして一刻程進んだだろうか。俺達は戦闘を行う本願寺の兵と三好軍の姿を視界にとらえていた。


 だが、状況はおかしい。

 本願寺兵が本願寺ではなく、こちらに向かって逃げているのだ。それもかなりの数が逃げ惑っている。しんがりが組織的に鉄砲を放ってはいるが、それはもう戦闘というより壊走と言った方が近い。そして、追う三好兵も少なくとも1万は超えている。


 「三好はどこからそれほどまでの兵を引いてきた!?本隊は大和。京でも戦線を引いてなぜそこまで動員できる!?」

 「クソッ!内藤の旗と松永の旗が見えるか?官兵衛。松永長頼だ!奴ら俺たちが越水城に手を出さずこちらに向かうと読んで、空城の計を仕掛けやがったんだ!」

 「そんな馬鹿な計略があるか!」

 

 状況を罵り合いながらも、急ぎ手だけで突撃の指示を下す。確かにこんな馬鹿な事があってたまるか。少なくとも他の国人衆は留守になどしていなかった。越水城も必要最低限の斥候を放ち、おさえの軍を置いてきただけだ。それだけでは他の三好直轄の軍がどのように分散しているか掴みようがない。


 「殿!拙いわ!」

 「何か掴んだかぁっ!五右衛門!」

 「本願寺が燃えているわ!」

 「ありえねぇ!本当かそれは!?」

 「本当よ!昨夜未明に出火!宗主顕如が負傷して混乱極まる中、三好軍が寄せてきたことで姫路への撤退を決意したみたい!」


 そんな馬鹿な話があってたまるか!一瞬であの本願寺が落ちた?あの本願寺が燃えた?顕如が負傷した?4月馬鹿も甚だしい。


 ……だが、それがもし本当だとしたら、あの逃げ惑う軍勢の中には。


 「話は後だ!隆鳳!軍を分けるぞ!俺がまっすぐ本願寺勢を回収しにむかう。お前は迂回して三好軍の側面をぶち抜け!」

 「おお!聴いたなお前ら!左京、閣下、神吉の親父は官兵衛と向かえ!武兵衛、弥三郎、一色!お前ら俺にお供しろ!」

 「「おおぅっ!!」」


 混乱も取り置き、頼もしい返事を受けて一斉に軍を割り、俺達突入組は一層速度を増して突撃を敢行し始める。三好軍も既に俺たちの存在には気が付いている。だが、遅い!


 「槍っ!」


 即座に手渡された槍を握り、大きく振りかぶって思いっ切りぶん投げる。弧を描かず、レーザーのようにまっすぐ飛んで行った先で何人かを貫通し、かなりの動揺が広がった様子が見て取れた。


 「いくぞ武兵衛!」

 「応よッ!」


 俺と武兵衛が一気に突出する。岩融を煌めかせ、槍を振りまわし、お互いの愛馬が渾身の速度で狂ったように走り出す。鉄砲は……前面に出ているせいか側面には少ない!よし!


 「続けッ!立ち止まるな!食い荒らせ!」

 「総員吶喊ッ!武兵衛見参!」


 一閃二閃、突入と共に妙にゆっくりと血煙が舞い、配下たちの怒号が響き渡る。足は止めない。喰らい付いたら喰い尽くす。

 舐めた真似をしてくれた。散々振り回してくれた。


 ――俺のダチが随分と世話になった。


 口から言葉と認識できない咆哮が零れ出る。目に付く全ての者が真っ赤に染まって見える。

 極限まで怒り狂った一己の獣が、何倍もの敵に喰らい付いた。

突然ですが、長慶語講座


「何も決まっていない」

=次の手は既に打ってある。


最近、奴がラスボスに思えてきた(元からか)

という事は、織田信長は裏ボスになるんでしょうか?(登場すらしていないのに描写をどうしよう……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ