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藤巴の野心家  作者: 北星
6章 死神共の理想郷
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45話 黒田隆鳳と不思議な再生工場

運営のサーバーがドS攻撃を受けていると聞いてゾクゾクしたので、死体に鞭打って次話投稿です。

 1564年2月 姫路


 明石与四郎より勝報届く――ワレ、丹後ヲ制圧セリ。と。


 戦を仕掛けてから実に一カ月足らず。俺と官兵衛が居なくとも『鬼出電入』と越後の軍神から評された黒田家の戦は既に浸透しきっている事に思わず安堵の息を漏らした。被害は軽微。敵将、一色式部大輔義道は居城の建部山城落城時に逃走を図るも捕縛。こちらに護送されている最中だという。


 「他には目もくれずに朝駆けで敵の本城を強襲か、豪胆な事しやがったな」

 「内通して門を開かせる所か、門が閉じる前に飛び込んだらしいな。そして本城押さえたら、浮足立ったところから各個撃破か。沼田もやりおる」


 報告書によると、与四郎は小雪舞う中300名程で駆け始め、早朝捕捉される前に城へと飛び込んだという。与四郎の動きもそうだが、特筆すべきは塩冶山賊衆と奈佐海賊衆の動きだ。相手に捕捉されないように様々な形でばらけさせていたゲリラ兵たちを一気に集結させて与四郎とは別口から飛び込んでいったらしい。

 やや不穏な気配はあったものの、実際に火蓋を切られていない状態なのに、ある朝突然正門、裏門、海から敵が突入してきたら誰だって持ちこたえられる訳が無い。しかも季節は雪深き冬。戦になったとしても雪解けと共だと油断していただろう。

 だが残念な事に奴らは雪の中が大好きなんだ。

 むしろ、そんな状態なのに一色よく逃げたと褒めてもいい位だ。


 「――大口の 真神の原に 降る雪は いたくな降りそ 家もあらなくに (真神の原【オオカミの原】に降る雪よ、どうか今はひどく降らないでおくれ。このあたりには逃げ込められる私の家があるわけでもないのだから、今降られたら堪ったものでは無い)、か」

 「おや、万葉をそらんじるとは、鬼と謳われる我が殿は中々どうして教養にも通じていらっしゃる」

 「俺の母が良く聞かせていたからな。この阿呆は歌はあまり好かんが書も笛も実は素人裸足だぞ、細川兵部殿」

 「ほう!それはそれは……好かない割には押さえているのはいい事ですな」

 「しかし、雪が少なかったからこそ与四郎オオカミは家無き野を行くが如く狩りをしたのだから、相当皮肉な歌を選んだものだ」

 

 皮肉と雅味を込めて歌を一首思い出してみると、書類片手に細川閣下と官兵衛がクックックと笑い声を洩らした。

 ……うん?何で閣下が居るって?幕府とのつなぎ役としてウチに正式に移籍する事になったからさ。それと黒田家と祖先を元にする京極長門守高吉(浅井長政の姉、京極マリアの旦那)と俺の従兄弟、細川京兆家現当主の細川信良も俺の所に来る事になった。

 タダで貰った訳ではなく、その代わり、公方の下に馬廻り数人を送り込んだ大型トレードだ。正直、閣下以外は使いようがねぇんだが……まあ閣下も含めて全員親戚だしな。


 そしてこのビックディール成立により、俺の下へ室町幕府の四職(赤松、山名、一色、京極)が揃うという嬉しくともなんともないミラクルが発生した。

 俺は黒田家の人間だけど対外的には赤松嫡流(時には細川嫡流)と目されている。山名は俺に滅ぼされ、今回は一色だ。山名は俺の重臣として働いているし、一色も息子の義定は先にこちらに恭順しており、かなりの器量との評価も高いのでこれから大車輪の活躍をしてくれるだろう。領国の近江から追い出されていた京極は……今の所内政と外交に携わって貰って、武門としてはこれから生まれる息子たちに期待って所だな。確か息子は関ヶ原で地味ーに活躍したたかじー&たかちー兄弟だし。

 あと、尼子は黒田と同じく京極の分家(黒田家に関しては異説、諸説あり)、これマメ知識な。


 細川?とりあえず武士としてなっちゃいねぇから、鞍掛山城で矯正中だ。生まれてきた事を後悔するほどのデスマーチを味わうが良い。

 革新を望んでいたのに、何でこう古臭い没落武家共がぞろぞろと揃ってきたのやら……嬉々として送り込んできたあの公方は俺んちを再生工場か何かだと思っているんじゃねぇだろうな?未来でゲーム化された時、黒田家が名門気取りの坊っちゃんズにされちまいそうで……某イマガワイレブンや別ゲームの某ホンダム、某ザビーみたいなネタキャラは嫌だよ、俺。あのゲームの報われない系黒田官兵衛は割とツボだったけどさ。


 まあ、元農民から盗賊の類、血統書付とこの剛腕で纏め上げる事が出来る内は手持ちのカードの色が増える事は悪くないはずだ。人を使いこなす事こそ俺の真骨頂ってな。


 「丹後の扱いだが……隆鳳」

 「与四郎に『海と山どっちが良い』って聞いたら『なるなら鳥の餌より魚の餌がいいっス』って言ってたから、アイツをそのまま丹後に置くぞ。一色は一度、過去の領地から切り離す」

 「明石殿は今度は海軍を率いるのでしょうか?」

 「考え所だな。だが、建部山……舞鶴と名を改めたあの良港は海軍の最重要港にしたい。日本海側の指令所だ」


 軍港にするとなると、港全体の要塞化も必要だ。そういう意味では与四郎は適任なのだが、問題はアイツに船戦の経験が無いという所だ。それに、今回の戦いで陸の戦いの才能を示した以上、海軍に縛り付けるには惜しいという気持ちもある。

 奈佐海賊衆を動かしてもいい、か。


 「ならば宮津に明石殿を置いて、舞鶴に奈佐を動かしますか?」

 「奈佐と与四郎を舞鶴におけばいい。沼田は商業にも強い。抑えという意味でも沼田を商港、宮津に入れる。出石は功を鑑みて塩冶だ」

 「閣下辺りに宮津に入って貰えば安定するんだけどなぁ……」


 史実じゃ確かそうだ。だが、現状、閣下は軍事と政務と俺の幕僚として動いてもらっている以上、宮津では遠すぎる。土地自体はくれてやっているのだが、官兵衛たち幕僚はそれ以上に姫路での仕事が忙しくてほとんど家臣任せにしている。もっとも、気を抜くと他の土地が改革していく中、取り残されて行ってしまうので、査察自体はかなり厳しくやっているらしいが、一大地方プロジェクトを抱える程の余裕は無い。


 「最重要と考えるのであらば御一族の休夢殿はどうでしょう?」

 「妙案……と言いたいが、ハゲも山暮らしが長い。それに今は三田に移って貰って三好に備えてもらっているから、外すのも難しいな。やはり官兵衛案か……海軍設立を念頭に明石一族丸ごと移って貰うかな」

 「空いた場所には?」

 「くれてやりたい奴が多過ぎて困るな」


 播州内の土地は別所を筆頭に昔からの一族か、俺の幕僚で埋まってしまっている。内政官を含めて俺の幕僚が増えてきた事で、むしろ足りないぐらいだ。無論、領地代えを繰り返してはいるが、統治している段階で大きな過失が無い以上そう何度も行う物でも無い。


 「……閣下。最前線だが、枝吉城に入るか?いずれは明石川のこっち側に新しい城を造って欲しい」

 「承りました」


 閣下も宮津では遠いけれど、明石ならばまだ大丈夫だろう。それに公方との連携を鑑みても、東側の最前線という分には問題は無いはずだ。

 とりあえず軍事上の問題から決めなければならない大枠は決まっただろうか。細々とした事はまたおやっさんなどを交えて詰めるとしよう。


 「……人材不足だと言っても、意外と困るんだよな、領地の話は」

 「まあ仕方なかろう。人が育ってくれば必然だろう」

 「育つのが早ぇんだよ」

 「悪い事では無かろう」


 内政方については、算術が出来るならば女子でも問わないと布告を発した。昨今、この姫路近郊では女性でも文を読み、算術を治める子供が増えてきたからだ。流石に戦場に出すのは憚られるが、戦国時代の逞しい女性達の生産力を無駄にするのは惜しい。

 頑張っていい男捕まえろよーと声掛けたら笑われたわ。

 そして、女性には負けたくないと思って頑張る輩が多い訳で……おやっさんと藤兵衛の心労もだいぶ和らいだかな。


 「執務中済みません、兄さん」

 「なんだ?小一郎」

 「備前からまた宇喜多様が来ました」


 瞬間、俺達三人は即座に視線を交差させながら苦笑いを浮かべた。隣国任せているのにあの義父はまたかよ、と声なき声がする。

 目的は……聞かずもがなだな。

 

 「……ちょっと捕獲してくるな」

 「出来れば捕獲したらここに放り込んでくれ。あの方からの意見を色々伺いたいから」


 軍略方の部屋を出ながら振り返らず官兵衛に手を振って返す。行き先は俺の屋敷だ。

 政務所の廊下をどんどんと進んでいくと、各部署から活気のある声が聴こえてくる。以前は悲鳴ばかりだったのだからいい兆候だろう。


 「ふぅ……おや、左少将殿。どちらまで?」

 「また備前から厄介なのが来たから捕獲しに行くところだ。んで、京極はサボりか?」

 「ほっほっほ、流石に歳でな……座りぱなしはちと堪える」


 道すがら煙管を片手に佇んでいた新顔の50程の歳の男、京極長門守は悠然と答えた。ただ、まあ……言葉の最後の方は割と余裕が消えていたけれど。


 「客将扱いなのにこき使って悪いな」

 「なに、学ばせてもらっておるよ。碌にこういう事をやってこなかったものでな。ここにいると、何故我らが国を追われたのかが良く見える……今更だがな」

 「それは重畳。嫁さんも若いんだし、息子も幼いんだし頑張らなきゃな」

 「それな。恥ずかしながらこの歳まで嫁という物もおらんかったものでな。それに私が実家と対立しても黙ってついてきてくれた事を考えると、老け込んでもいられんな。さて、怒られんうちにもう一働きするかね」


 しみじみと語り、小一郎の頭を一撫でしてから戻っていくおっさん5~60代。嫁さん20ちょっと(しかも超美人)。その歳まで嫁がいなかったとつらつらと語られる内容を切ねぇと思うべきか、現状を鑑みるに見廻り組を呼ぶべきかとちょっと判断に困る。悪い人間じゃねぇのは確かなんだが。


 「兄様。なんというか……憎めない方ですよね」

 「一国の主としては頼りなさ過ぎるが、アレはアレで相当な苦労を積んできているからだろうな……」


 元いいところの跡継ぎだった方が、その会社から追い出されてサラリーマンを始めたような……そんな印象。バリバリだった時期にはもう戻れない絶妙な不器用加減なので、マイペースで頑張れよと何となく言いたくなってしまう。

 息子たちへの先行投資のつもりで引き取ったけれど、アレもアレで中々面白い人材……なのかなぁ?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「ばぁ~、じーじですよー」


 案の定と言うか悲報だ。官兵衛が「謀略の先生」とまで仰ぐ謀聖のキャラが大分崩壊している。その大きな原因はというものの、つい先日生まれた俺の息子たちだ。まだ生まれたてて眼もろくすっぽ空いておらず、むずがるばかりの子供たちにこれでもかと満面の笑みを送っている。そんな父の様子に流石の小夜もお付の乳母たちもドン引きだ。


 ……んで、紹介します。先日生まれました息子、一郎と次郎です。お察しの如く双子の息子です。お陰様で非常に安産でした……が、小夜の出産当時、俺が風邪ひいてぶっ倒れていたのは一生の失態です。滅多に風邪をひかないくせにと絶対ずっと言われんだろうなぁ……。


 尚、この時代、双子は忌避される事が多いですが、そこはそれ、黒田家ですから。2人が俺の跡を巡って争う?馬鹿言え、こんな立場なんて2人とも泣いて押し付け合うに決まってらぁ、と一喝したらその場で名付けの為に集まっていた一族重臣全員が頷いた事がすごく印象的でした。

 多分、どの家も跡取り問題は揉めるぞ。子供たちが恐れをなすほど親父共が頑張ってるからな。ある意味それは、子供が親父の偉大さを理解している事の裏返しなので、それはそれで親父の本望ではあるんだが。


 「おいコラ、そこの不審者」

 「はっはっは、お義父さまと呼びたまえ」

 「領地はどうした領地は。岡山の開発は終わったのか?」

 「ぼちぼちだよ。いや、それよりも孫たちの顔が見たくてねぇ……」

 「だから跡継ぎ作れよ」

 「孫はまた別さぁ。自分の子供には厳しく接してやらなければならないけれど、孫は無責任で可愛がれるからね」

 

 その娘夫婦の前でシレっと言うとか性質が悪いぞ、この若づくりのジジイ。


 「隆鳳さま。無駄です」

 「またバッサリ言ったねぇ、小夜」


 あ。でも、ちょっと凹んだぞ。流石に確執のあった娘からの一言は効いてるらしい。

 マタニティーブルーにならないよう気を遣っている俺の苦労を返せよ。まあ、それ以上に歴戦の女房衆たちのサポートがあるわけなんだが。

 

 「「あぁ~っ!!」」

 「あーはいはい、いきなり宇喜多直家が満面の笑みをして覗いてきたら怖いよなー、一郎」

 「ごめんね、次郎」

 「……凹むわぁ」


 案の定、むずかり始めた一郎を俺が、次郎を小夜が抱き上げてあやし、なんとか宇喜多直家を撃退する事に成功した。

 ……まあ、子供のいる場で謀略の話を持ち出さなかった事だけは感謝しているよ。

 

そのころ鞍掛山城では。


細川「ふっ……私こそが名門、細川京兆家当主、細川信良なり」

小兵衛「次行け―っ!」

細川「はいっー!教官殿ーっ!故に、故にこれしきで私はめげてなどいけないの、だー……」

山名「……扱いやすーい」


……濃いなコイツ。

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