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藤巴の野心家  作者: 北星
甘話&閑話
58/105

甘話 ショートショート Sugar!!

ショート形式で何話か纏めました。

ときめけ悶えろ。

 ◆二度寝◆


 まだ外は暗いけれど、おはようボンジュール。黒田隆鳳だよー。

 俺と小夜、どちらの方が朝が早いかと言うと、実は俺の方が早い。戦陣が長いと特に眠りが浅いのだ。そりゃまあ、戦場で熟睡していたら知らん内に殺されても文句は言えない。早起き、早飯は武将の性なのだ。

 んで、いきなりそんな事を言って何が言いたいかというと、


 小夜の寝顔ごちそうさまです。


 朝っぱらからごめんねー。備前から帰って来てから一番の楽しみなんだ。なんて言ったらいいんだろうな……こう、凄く穏やかな気持ちになる。やましい気持ちが無いと言ったら嘘になるけれど、それ以上にほっとするんだ。

 安心しきってすやすや眠る顔。彼女はいつも俺の方を向いて寝ている。無意識なんだろうけど、それが愛おしくて堪らない。規則正しい慎ましげな寝息。時折可憐な唇から洩れる「ん……」という言葉にならない声。

 もう少しすると彼女も徐々に目が覚めてきて、寝ぼけてとろんとした瞳でこっちを見て笑う。それが最高に可愛いのだが、その様子を見れるかは俺が二度寝の誘惑に負けないかどうか次第だ。


 目が覚めると誰かがいる事は贅沢だと思う。戦陣が長いと特に思うのだ。瞼を開いた瞬間、安心できる日常があるという事は幸せだ。だからそんな幸せな気持ちに浸りたくて彼女の様子を見ていると、俺もここが戦場では無いと思い出して「もう一度寝ちゃおうかな?」なんて気分になってくるのだ。


 んで、今日もだけどちょっと分が悪いかなー。日中は忙しいけれど、晩夏の朝のゆっくりと流れる様な時間がどうしても心地良過ぎて。

 小夜の寝顔も拝んだしね。

 んじゃ、おやすみー。



 ♣恋の歌♣


 蝉の鳴いている声が変わるとそろそろ夏も終わりかなぁ、という気分になる。大合唱されると情緒も減ったくれも無いけれど、ここの所落ち付いてきたかと思う。流石は現代と比べると寒冷だったと言われる戦国時代。温暖化とは無縁だ。


 「隆鳳さま?どうかしましたか?」

 「いや、蝉の声が変わったから、そろそろ夏も終わりだなぁ、と思っていただけだ」

 「そういえば、ここの所、朝夕と涼しくなってきましたね」

 「体調には気をつけろよ?」

 「はい」


 小夜は愛おしげにお腹を撫でて頷いた。もう大分お腹も目立ってきた。戦後処理や領内の再編成などで忙しい時期ではあるが、ここの所は俺もなるべく彼女との時間を作ろうと頑張っていた。

 まあ、相変わらず彼女は結構な甘えん坊だ。そんな事を絶対に口に出さないが、どれだけ空間があろうとも、距離を徐々に詰めてくる。いつの間にか至近距離だ。

 

 「蝉と言えば……そういえば知っているか?小夜」

 「なんでしょう?」

 「短歌なんかだと割と悲恋の題材になる蝉だけど、実は蝉が鳴く理由は求愛らしいぞ」

 「へぇ、そうなんですね」


 なんとなくだけど、場を持たす為に披露した小ネタに小夜は感心した後外の蝉の音に耳を傾けた。


 「実はこの声は情熱的なんですね」

 「まあ、周りに迷惑を掛ける程度には必死なんだろうな」


 それは人間も同じだろうと俺は思う。いや、自分はどうせ……なんて思ってなにもしなければ、何も起こらない。声をあげて、自分なりのアピールしてそれでダメだったらしゃーないけど、何もせずに諦めるのは勿体ない。蝉も人も最初から諦めてしまったらあとは一生土の中だ。


 なーんて適当な事を徒然と思っていると、小夜が腕を俺の腕に絡ませてきた。一体何をする気なんだろうかと思っていると、


 「みーん、みーん、みーん」


 大変です。嫁から熱烈に求愛されてます。いつもは澄ましたその表情は真っ赤で、だけどイタズラが成功したかのように唖然とした俺に笑いかけてきた。いや、うん、鳴くのはオスの方なんだけどな?

 幾度の戦場を潜り抜け、様々な策謀を踏みつぶしてきた俺だが、正直に言おう。


 俺の負けだと。


 それを認めて項垂れた瞬間、「してやったり」と言わんばかりの表情をされた事を絶対に忘れはしないだろう。

 反則や……こんなん。どこで仕入れたんだこんなネタを。



 ♠天然♠


 「むっかしーむっかしーうーらしまはー♪」


 隆鳳さまは時折、どこで知ったんだろうと思うような知識を洒脱に話す事が得意です。だからですか、春ちゃんや虎ちゃんも非常に懐いています。面倒見が良くて、公私を分けているので、たとえ忙しくとも、私たちの前では優しさを見せてくれるお兄さん――そんな人がいてくれるなんて、ちょっと羨ましいなぁと思う時があります。


 「たーすけたカメに捨ーてられてー♪」

 「お兄様。うらしまさん助けてあげたのに捨てられちゃったの?」

 「へ?」 


 ……ただ、なんでしょうね。時折、とんでもない奇跡を起こす気がします。そう言えば以前、「鬼が島ってどの辺りの山?」と訊かれた事がありましたけど、本当に的確な所を間違える事があります。


 虎ちゃんに不意を突かれてオロオロする様子もまた面白くて、傍でその一部始終を聴いていた私の呼吸は半刻ほどかなり苦しい事になってしまいました。

 本当にこの方は……。


 ❤クール系なので猫舌❤


 妊娠中は割と食事制限が多い事を俺は知っている。よく前世のバイト中、マタニティの方から「生魚は~」とか「ノンカフェインで~」と言った要望をよく受け付けていたからだ。なので、その知識を活かして、帰ってきてからは、なるべく俺自身で料理を作る事にしてある。

 まー、とは言っても戦国時代の夏は本当に献立に困る。現代では定番の夏野菜はほとんどなく、それこそ夏休み期間中のオカンじゃないが、毎日素麺にしたいと思わないでも無い。だが、妊娠中は身体を冷ますことはあまりよくない。


 結局スープスパにしました。鶏ばかりだとワンパターンなので、魚やエビをふんだんに、生姜のアクセントをきかせた苦し紛れの和風ブイヤベースです。あ、もちろん魚は小ぶりな奴を。貝類も外して水銀対策を練っているよ。


 いい加減、トマト欲しぃ……。


 それはさておき、現時点で出来る最良の作品の実食だが、


 「熱っ……」


 ……はっ!?ヤバい!今、一瞬目の前の楽園に意識が飛びかかった。

 実は小夜。結構な猫舌だ。なので熱い麺類を食べる時はいつも俺の頭の中でファンファーレが鳴る。何回レベルアップしたかわからんぐらいだ。


 想像してみてくれ。

 器の中にはアツアツのスープと結構な量の麺が入っている。通常、箸で食うとなったらラーメンの時の様な光景になるだろう。

 だが、彼女は猫舌だから、麺を一本づつ持ち上げ、「ふー、ふー」と息で冷まして、チュル……チュルとゆっくりと口にはこぶ。それでも時折汁が予想以上に絡んだ時には、小さく「熱っ」と言いながらチョロリと舌先を出すのが癖だ。

 それを目の前でやられてみ?わかるか!?計算でもなんでもない、素でその一連の流れをやられるこの破壊力が!普段は割と澄ましている彼女が見せるこのギャップが!


 「……?どうかしましたか?」

 「いや、なんでもない。いい出来だな、と思ってな」

 「そうですね。美味しいです」


 平静を装って自分の分の麺をすすると、彼女もまたもたもたと麺を食べ始める。

 なんというか……久方ぶりの夫婦生活満喫中です。

 

 

 

蝉の小話のオチ


「みーん、みーん」

「遊びに来たよー……って何この状況」

「……あんたの娘に聞け」


小夜。父親に見られて大爆死。

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