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藤巴の野心家  作者: 北星
4章 千客万来 動乱引き連れ畿内から
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27話 三好家の団結?

三好さんちの様子をどうぞ

 1563年2月

 芥川城 三好長逸


 状況は思わしくない。

 癪ではあるが、黒田家との交渉に松永弾正を送ったが、あまり楽観はしていなかった。殿は負けたと思いたくなかったようだが、先の戦はどう見ても我らの敗北。智者を一人送った所で、状況を引っくり返すとは到底思っていなかった。

 その予想は、播州から帰ってきた松永弾正が、殿に復命する前に儂に相談を、と言ってきた時点で確信へと変わった。よりにもよって、実力こそ認めるが、我らとそりの合わない松永弾正が、である。


 それに加えて、我らを取り巻く状況。殿の弟御である、十河又四郎殿が逝き、物外軒殿(三好実休)も逝き、あろう事か此度はこの芥川城の主、嫡男孫四郎殿が床に伏しているこの状況。一族重鎮が死に、世継ぎまでもが危ういこの状況を切り抜けるのは容易ではない。

 彼らがいれば、先の戦いは勝てたであろうか―――このような状況でなければ、あの気に食わない男を頼りにすることなど無かったであろうか、ふとそんな考えが頭をよぎるが、考えても詮無きことだ。今こそが正念場である。


 「すまぬ。待たせた」


 一目のつかない奥まった部屋へと入ると、阿波からは三好笑厳殿、河内より三好下野守殿(三好政康)、そして城に到着したばかりの松永弾正が既にいた。この男が補佐としてずっとつき従っていた、孫四郎様の容体よりも優先する事、か。


 「ご足労いただき忝い」

 「いい。して、何か遭ったか?否―――何を掴んだ?」


 殊勝にも弾正が頭を下げている内に、2人の重鎮へと視線で問いかけたが、彼らもまだ何も聞かされていないようだ。


 「おおよそ、殿にはすぐに聞かせられぬ事を」

 「ほう……ヌシにしては珍しい」

 「それほどの事か」


 やや意外そうに2人は息を呑むが、一度直接対峙した儂には想像に難くない。小僧の様な、予想の外をいく行動をする男だ。儂らとはとことん相性が悪い。松永弾正ならばとは思ったが、それでも駄目だったかと思う程度だ。


 「その前に、向こうの提示した条件から聞かせてもらおうか」

 「……丹波の譲渡」

 「無茶苦茶だ!何故それで交渉が進む!弾正!」

 「落ち着け、下野守。詳細を聞かせてもらおうか、弾正」


 かろうじて冷静さを保った笑厳殿が促すと、松永弾正は苦々しげに吐き捨てた。


 「既に付け込まれておる。情勢の安定せぬ丹波―――そこに奴らの手が伸びている」

 「……ふむ。断ったら一斉に蜂起させ、和睦と言いつつ我らを疲弊させようという事か。その程度ならばやってのけるだろうな」

 「まさに」


 丹波を放棄して、安定を図るべきか。または無理を通して丹波を力で押さえつけるか。あるいは、弟が統括し、その内情を知る土地の事だ。松永弾正ならば、あえて黒田にくれてやり、その安定せぬ土地の統治に四苦八苦させようという腹積もりなのかもしれない。


 だがしかし、頭では分かっていても、腹の中では了承したくもない。実にあの城に居た総大将にふさわしい、そんな腹立たしい駆け引きだ。


 「曹魏の漢中よな……丹波は」

 「笑厳殿。わかるが、鶏肋にしては身が多い。確かに面倒な地ではあるが、奴らへ都への道を開けてしまう」

 「あくまでも私見だが、下野守殿。奴らは都など眼中にない―――そうであろう?弾正」


 儂が問いかけると、弾正はまさに、と頷いた。

 なんとなくだが、朝廷に和睦の仲介をさせるその手段、そして公方を送り返すという行動から想像は難しくない。意図は流石に読めんが、それでも弾正が肯る理由もそこにあるのであろう。


 「奴らの狙い―――それは、公方自らの手による将軍位返上。そして幕府の終焉」

 「「「―――ッ!?」」」


 揃って、言葉が出なかった。誰かの手で弑するわけでもなく、利用するわけでもなく、円満なる終焉を求め、何を狙う?そこまで権力に固執せぬか。


 「幕府の終焉により、この混沌とした状況の激化こそが奴らの狙い。奴らは一度この国を焼野原にして、新たな秩序を創る気だと言った」

 「……これは、確かに殿に直接言えんわ」


 下野守殿の言葉に思わず儂と笑厳殿は頷いた。殿は―――三好筑前守長慶は、そういった権力に固執する方だ。体制を、権力を利用し、その為に戦ってきた。奴らの真逆の理論など、到底受け入れられる物ではない。あるいは、今すぐに和睦交渉を打ち切ってなりふり構わず総力戦になってもおかしくない。

 だが、奴らを相手に衝動的に行動する事は、此度の件でわかったように下策中の下策。


 儂らにとって最悪の一手を打ってきたか。


 「公方を殺す事で、止める事は―――」

 「そうなった場合、間違いなく奴らは総力を上げて攻めてくる。此度のように播州勢だけではない」

 「ふむ……まず止められんな。進むも地獄、退くも地獄、か」


 考えうるとしたら、今の公方を退位させ、別の者を据えるしかないが、奴らが公方の背後に着いた以上、それも難しい、か。


 「故に、日向守殿に相談をしたいと思った」

 「ふむ……聞かせてもらおうか」

 「これより、我らを取り巻く状況はかなり危うくなる。隣国は強大になり、畠山、六角と他にも敵を控えているこの状況下で、このようなおおよそ受け入れがたい策謀が発動している。更には重鎮が死に、若さえも……我らはなんとしてでも、この状況を覆すべく、一丸とならねばならない」

 「……成程。確かにそうだ」


 儂と松永弾正、三好家の双璧とも言われているが、実の所、お互い良くは思っていない。松永弾正とその弟は強烈なまでに殿と若に尽くし、故に家中でも一目置かれている。ただ、外様ゆえにその伸長を快く思わぬ者も多く、また、儂のようにその松永弾正の腹の読みづらい性格を苦手とする者も少なくない。


 だが、それでは破滅の道であると儂にもわかる。故に、歩み寄らぬか、という『相談』なのだろう。外様と一族が巧くかみ合えば―――それでも危うい所だろう。


 視線を儂と同じ立場である2人に向けると、彼らも一様に頷いた。儂としても、気にくわぬであろう儂らに自ら歩み寄ってきたその忠信を無下にするつもりもない。


 「苦しい……冬だな。弾正」

 「まことに」


 しみじみと確認するように頷き合っていると、部屋の外に人の気配がした。早速何か遭ったという事か。


 「報せか。そのまま、申せ」

 「は……丹波にて反乱が勃発致しました!黒井城の荻野、それに呼応するように荒木、そして波多野らが次々と挙兵!丹波の内藤様が苦境に陥っております!」

 「何?」

 「黒田家……奴らの仕業か!」


 和睦交渉のその最中に仕掛けてくるとは、心底我らを虚仮にしてくる。本当に度し難い連中だ。


 「いえ……荻野に至っては、黒田家の竹田城を攻撃しているとの報も……」

 「「「「……?」」」」


 それどころではないという事はわかっているが、その場にいた全員が同じ方向へ首をかしげた。

 一体、どういう状況だ……?


 「早速だが、丹波は……捨てるが吉と思うか?弾正」

 「……左様、かと。日向守殿。弟には撤退させるべきかと思うのですが……下野守殿」

 「うむ。とりあえず、後詰に行くぞ」

 「では、儂と日向守、弾正は3人で殿を説きに行くとするか」


 よくわからんが、これで丸く収まりそうか。

隆鳳と官兵衛さんからひと言。


「こいつら、グダグダだな」

「貴様は、ウチの様子を見て人んちを笑えると思うのか……?」

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