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藤巴の野心家  作者: 北星
4章 千客万来 動乱引き連れ畿内から
36/105

24話 朝廷さん出番ですよ

決戦直前ですが、ちょっと舞台裏を……すみません。ここを逃したら挟めそうなところが無いので。

 淡河城決戦前 京

 山科言継 


 「挙兵してわずか2年ほどで、ここまでの金額を捻出するか。おそろしいのぉ……」


 非常に実入りの多かった姫路での滞在から戻り、そこで得た献金額の仔細を眺めて、一人杯を傾ける。その額や、西の大国、毛利が寄越してきた額をはるかに超える金額だ。

 更には御料所から毎年上がるであろう、額の試算書を見るに、そこから得られる金額も馬鹿には出来ない。そもそも、試算が出来るという事は、その土地の実入りを完全に整理、検地し、計画を立てた上で施政を行っている事の証左だ。独自性が高く、水の利用程度でも諍い事が起きやすい時勢において、ここまで徹底的に民政に介入する家は皆無に等しい。

 ましてや、地盤の緩い新興の家。よくぞ踏み切った物と感心する。

 彼と同じ姿勢の者をしいて挙げるのであらば、今は亡き駿河の今川治部。時代に先鞭をつけた名法、今川仮名目録追加により、聖域なき領国の支配に踏切り、支配力を高めた彼の姿勢とよく被る。

 ただし、酒の量は圧倒的に黒田殿の方が遥かに上じゃが。


 交渉役として様々な大名とも当たる事があるが、儂としては金を渋る家よりも、いきなりこうも簡単に大金を寄越す家の方が恐ろしい。その事がわかっている者を、おいそれと喜ばさぬ所が恐ろしい。

 

 「やれやれ、主上も大層感激しておられたし、左近将監の位では本当にあたわぬ所じゃったな」


 あのクソ公方から左近将監任官の推挙は来ていた。本当であれば民部大輔や播磨守をとも考えたが、そもそも急遽正五位になる事が例外と考えると、少将昇格が精いっぱいじゃった。しかし、あの様子では任官しても意に介さぬじゃろう。

 つまり、貰った額に見合った動きはまだしておらん。これが金を惜しまぬ家を相手にした時の恐ろしい所じゃ。怖すぎて酒が手放せん。


 「―――して、黒田羽林(近衛の唐名)は早速、儂に何をさせようというのじゃ?」

 「あらー、気付かれちゃったのね」


 杯を傾けながら、振り返ることなく背後に声を掛けると、女の声がした。実を言うと手が震えそうじゃが、そこは精一杯目の前の酒に集中することで抑え込む。


 「これでも、色々と修羅場は潜っておるのでな……流石におなごとは思わなんだ」

 「播州黒田家 情報方棟梁 石川五右衛門が妹、石川卯月よ。この前一緒に呑んだわよね?」

 「おぉ、あの女言葉の……という事は、あの時の男装のおなごか。して、なんじゃ?密書か?」

 「いやー……昼に正面から訪ねても良かったんだけど、予め根回しが必要かな、と思って」

 「ほう?」


 心当たりは……ないのぅ。昼では話せない話となると、周囲には聞かせたくない話か。はてさて……。


 「今、ウチに公方がいるのは知ってるわね?」

 「うむ」

 「そして三好と事を構えている事も知っているわね?」

 「うむ」

 「好機とは思わないかしら?」


 言葉の意図がわからず思わず杯が止まる。何かを見落としている―――そんな心地じゃ。


 「好機、とは」

 「朝廷の権威が回復する好機。三好が推し進めている、将軍位の剥奪を阻止し、その争いに停戦の勅令を出せば、人はこう思うでしょう?―――朝廷の権威復活せり、と」

 「な……に?そうか……そういう事か。じゃが、それで言う事をきかなければ、」

 「ウチの大将を誰だと思ってんの?三好にだってきかせるわよ、無理矢理。今頃、叩きのめしている所じゃないの?だって、あの方、ついに自ら動き始めたわよ?」


 だから、もしかしたら、もう手遅れかもね、と笑うように言ってくれるが、ありえないと言えない所が黒田羽林の恐ろしい所か。2年で3国、うち10日で2国を制圧したことは記憶に新しい。


 「私たちが勝って、落とし所を朝廷が用意する―――いい感じじゃない?」

 「確かに……じゃが、何故儂らを使おうとする?」

 「本人にでも聞いてみたら?ただ単純に面倒だから、かもしれないし、もしかしたら参謀殿の深謀遠慮かもしれないし。ただ、ウチの大将は『朝廷には権威を取り戻してほしい』とは言っていたから、案外あの方の考えかもね」


 朝廷に権威を取り戻させていかがする?朝廷復興の立役者として各地に影響力を伸ばすことが目的か―――あり得ない話ではないが、実際に会ってみた感じどうも違和感が残る。

 儂が会った黒田羽林は徹底した実力主義者。悪く言えば、我こそが覇王、と我道を突き進む独立色の強い男じゃ。歴史を紐解けば朝日将軍、木曽義仲。彼に通じる物がある。ただ、木曽義仲と違う点は、彼は権威に対して劣等感を持っていたのに対して、全て見透かした上で権威を眼中に置いていないという点にある。

 読めぬ……男じゃ。おいしい話にも迂闊に乗れぬ。


 「悩むのはいいけど、こっちはさっさと公方を送り返したいのよ」

 「それがわからんのじゃ。儂が知る黒田殿とその考えがどうしても繋がらん」

 「……さあね。情でも湧いたんじゃない?」


 この言い方は何か知っておるな。それでいて言葉を濁らせるか。 


 「この言い方じゃ拙いか。では一つだけ―――殿の今の本命は畿内じゃない。こんな寂れた上に面倒な所なんていらない」

 「む……京をして寂れた所と言うか」

 「言うわ。わからないならば、京の様子でも見てくれば?だから、今は地を均し、種を蒔いている所」

 「わかるような、わからんような……ふむ」


 種を蒔く……あの公方を手懐けたか。して、本命は西か、あるいは対岸か。和睦をする以上、対岸では無いな。

 三好を和睦で釘付ける―――そんな所か。


 「乗らないなら、別口から行くからいいわ。そうね……他の貴族は嫌だし、傘下に入った本願寺からがいいかしら?」

 「何!?本願寺が傘下じゃと!?」

 「今、上人が実際に姫路に滞在しているわよ?殿とは意気投合しちゃって大変」


 先の献金の多さのカラクリはそれか。本願寺の財力、影響力は計り知れぬ。

 しかしなんという……事を。


 「もう一度言うわ。本命ではないけど、手を抜くわけじゃない。私たちの地均しは既に始まってるの。公方、本願寺―――さてお次は?」

 

 これは……しばらく余所酒が手放せそうにないわい。

五右衛門、隆鳳、官兵衛、小夜から本日の一言。


「うーちゃん頑張ったわね……私を差し置いて」

「俺たちの出番……」

「貴様はまだいい」

「隆鳳さまのお帰りはまだかしら……」


……すまぬ。

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