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藤巴の野心家  作者: 北星
4章 千客万来 動乱引き連れ畿内から
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22話 無双の裏で潜む影

官兵衛たち参謀無双回です。


 1563年1月姫路

 黒田官兵衛


 隆鳳らはそろそろ三好勢とぶつかっている頃だろうか。数では劣るが、東播の歴戦諸侯に加えて、見違えるようにもなった古強者らがあの馬鹿共に率いられている―――この時点で心配する事など無駄だろう。既に父上たちとの会話は、戦後の処理と、三好との落としどころの探り合いが焦点になっている。


 他に目を配らなければならない事と言えば、三好以外の動向。正直俺自身が馬鹿だと思ったが、意外と過剰なまでの警戒態勢は機能している。どこぞに踊らされた反乱―――特に但馬での旧山名勢がポツポツと反乱を起こしたが、どれもこれも勃発してから数日も経たずに鎮圧している。特に奥但馬においては、塩治周防守、奈佐日本之介の働きが目覚ましい。雪の深い奥但馬を跳梁するそのさまは、隆鳳が因幡、奥但馬を統括している時に重用された理由がよく分かる働きぶりだ。


 逆に一番の懸念だった因幡は驚くほどおとなしい。鳥取城を守る俊英、明智十兵衛、現地組から隆鳳に抜擢された防己尾城の吉岡将監ら新たな面々に加え、旧守護所の布施天神山に移った山名元豊の代わりに鹿野に入った叔父上が盤石の統治を進めている。敵の立場に立って因幡を見てみると、付け入る隙が見当たらないのだ。いずれ、因幡の内の誰かはこちらに呼び寄せても問題は無さそうだ。


 対外的には、出石の明石与四郎、沼田の手が空いたことが大きい。特に丹後に縁戚が多い沼田の調略により、丹後の情勢は悪化の一途をたどっている。

 西は伯州―――実は叔父上が旗色の悪い尼子氏の足元を見て、隠密裏に交渉を進めている。同盟と言うほどの物ではなく、むしろ外交戦に近い。つい先日も、隆鳳旗揚げ後からすぐに頼ってきていた南条親子を旧領の羽衣石城に復帰させ、これを楔に戦をせずに侵攻をしている。南条の息子と馬廻りで同僚だった明智十兵衛の発案だったが……味方から見ても相当悪辣な手だ。即座に叔父上に図って実行させた価値があった。


 ……あの馬鹿は頭いいくせに、根が単純なのか、搦め手はからきしだからな。城持ちになって家族を呼び寄せたという十兵衛殿には悪いが因幡から人材を呼び寄せるとしたら彼だろうな……。


 懸念の浦上は宇喜多が完全に抑え込んでいる。宇喜多だけでは抑え込めなかっただろうが、宇喜多が既に調略した明石、長船ら他の重臣が同調して抑え込んだ事が大きい。

 俺の兵糧攻めなどの外的要因があったとはいえ……あの人は本当に人を裏切らせることに限っては天才的だな。知らず知らずの内に丸裸にされている浦上には少し同情をしたい。


 「官兵衛様。石川様から報告が―――波多野、調略完了との事です」

 「ようやく成ったか……これで丹波は隆鳳がこだわって已まない荻野を落とすだけだ」


 各地の参謀らとの書簡、報告、提案、指示書のやり取りを整理していると、善助が新たな朗報をもたらしてきた。他の地方も統括しているとはいえ、俺が担当する地域だけ出遅れたらどうしようかと思っていた所だ……思わず深いため息が口からこぼれ出る。

 しかし、あの馬鹿どもの活躍で目立たないが、こうしてみると相当な智者揃いだよな……俺はむしろ味方である彼らと戦っているような気がしてならないんだが。

 うかうかしていると、後ろから追い上げられそうだ。


 「摂津はどうだ?」

 「先の戦いで勝ち過ぎてしまった事が原因で、今はあまり芳しくないと。あ、赤松様から一つ」

 「赤松様……有馬氏か」

 「はい。有馬本家はまだ静観の姿勢ですが、殿の従兄弟にあたる分家の方は、こちらの提示した赤穂編入に同意。既に淡河に向けて援軍を送り出したとの事です」

 「隆鳳の従兄弟か……血かな。まんまと本家を出し抜いたな」


 願わくば常識人であってほしい。アレが2人もいるとなると流石の俺でもどうなるか分からん。


 「あと、山科様を頼りに、朝廷とのつなぎも取れたとの事です。直に和睦の勅命が降るかと」

 「そうか。では、この戦は終わりだな。全ては隆鳳の掌の上、か」

 「ただ、殿はどうしても戦がしたかったようですが……?」

 「ただ講和するだけでは負けに等しい。打ち破って講和するからこそ価値がある―――そういう事だ」


 それに、公方を穏便に京に戻すには、これぐらいの謀略が必要だ。あの馬鹿はそういう前向きな謀略ならば俺を凌ぐことがあるから厄介極まりない。

 ……ただ、朝廷を動かすとは、あの馬鹿の謀略は金が掛かり過ぎだ。父上と藤兵衛さまが不憫でならない。


 「さて……次だが、」

 「はい」


 本当にどいつもこいつも。

官兵衛、十兵衛、沼っち、友にぃら参謀たちからひと言あるようです。


「最近影が薄いと言った奴、一歩前へ」


この人たちは目立たない方が怖い。

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