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藤巴の野心家  作者: 北星
8章 更に闘う者たち
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83話 戦神

ω')

 1565年8月摂津南部

 黒田隆鳳


 芥川山城を皮切りに、淀川の北側にある各城は予想通りあっさりと落とせた。そして予想通り淀川を渡ったあたりから膠着している。


 淀川を渡った俺たちは常に背水。


 三好(宿敵)の庭でいつ襲い掛かってくるかという恐怖と、読み合いを重ねてゆっくりと進んでいる。何より驚いたのは三好が力任せに追い返そうとするのではなく、俺たちが得意とする少数での消耗戦術を駆使してきたことだ、

 無論、可能性は織り込み済みだった。三好の――松永弾正と三好長逸の能力と勝利への執念を鑑みるとやってくる可能性は十分にあり得た。

 予想外だったのは、緻密な計画性とそれを成し得る能力を一兵卒まで持っていたことと、徹底している事だった。

 夕方に襲撃し、退いたと見せかけてもう一度別部隊が連動してやってくる。奇襲するに絶好のタイミングでは来ずに、あえてワンテンポ外して安堵した所を襲ってくる。かと思えば絶好のタイミングを狙って襲い掛かってくる、地形を読んでこちらの足が止まりそうな頃合いで襲ってくる。分断した所を狙ってくる。逃げる奴らを追っかけてみれば待ち伏せがいる。

 それはまさにオオカミの狩りのような怒涛の攻め方だった。


 ただ、惜しむらくは攻めることと退くことを徹底させているからか、一撃が軽い。火縄の臭いで奇襲を察知されるのを嫌ってか鉄砲も少ない。


 「――そう思って軽んじているとドギツイ一撃寄越してくるヤツだな」

 「わかってるならいい。流石の貴様も武兵衛も鉄砲でドタマを吹き飛ばされたら死ぬだろうからそれだけは気をつけろよ、隆鳳」

 「ド阿保。誰だってドタマ吹き飛ばされたら死ぬわ」

 「どうだか?」

 「武兵衛は中身入って無いだろうから別に平気だろうけどよぉ」

 

 その頭が空っぽの武兵衛は今、兵站線の確保に回している。淀川を渡った以上、物資の補給は最重要課題だからだ。下間頼連や島左近や本田正信のおかげで頭は空っぽでもこと戦に関しては優秀になってきたのか、本人も後方安保に回されたことが当然だといわんばかりのドヤ顔で率先して勤しんでいる。


 だが、武兵衛という先駆けが抜けた所為ではないが、俺たちの足取りは重い。


 地図に描かれている複雑に入り組んだ水の道がまるで蜘蛛の巣のように見える。そしてその蜘蛛の巣の真ん中に大坂がある。だが、蜘蛛は巣のど真ん中にいる事を良しとせずに網に触れた途端襲い掛かってくる。

 実際、あの三好長慶の跡を継いで三好家の当主となった三好義重が名乗りを上げながら少数で攻めてきた時は「あれ、討ち取ったら勝ちじゃね?」と思ったけど、伏兵を警戒して見逃した事もある。そこまで敵は必死に出し入れを行い、俺たちは慎重に慎重を重ねている。ただ、犠牲者を最低限に抑えているので後手に回っているわけではないと言っておきたい。

 

 「飯盛山は取っておきたい。大坂を取らずとも飯盛山さえ取れれば勝ちだ」

 「ただ、詰めが三好長逸なんだよな。今度ばかりは譲ってくれないだろうし、下手すると大坂より堅いぜ」


 なぜ俺たちがゆっくりと進んでいるのか。被害を最小限に抑えたいという狙いも確かにある。確実に仕留めに行きたいという思いもある。


 だが、同時に忘れてはいけないことがある。


 「伝令!越前の朝倉が当家の方針に反発し、敵対姿勢を見せた模様!」

 「……さあて、困ったことに窮地だぞ。官兵衛」

 「自ら窮地をつくった場合は窮地と言うのかね?」

 「さあな」

 「無責任も極まれりだな」


 三好攻めにもたついている。新政府案は既に漏れ出している。なんなら織田信長、浅井長政、武田信玄、北条氏康、佐竹義重、今川氏真、徳川家康、長宗我部元親、竜造寺隆信、島津義久にはわざわざ使者を送って「既得権益を放棄する代わりに配下ともども新政府でのポストを用意するぞ?」とお誘いをかけてみたぐらいだ。尚、東北については面倒――ゲフンゲフン、諸事情により後回しにしてある。

 

 敵になるか?

 味方になるか?


 結論から言えば味方になるわけがない。それでも意外な事に話に乗りそうなのが長宗我部。口説き文句は「世界と戦う日本の海軍をくれてやる」実際のところ、現在の長宗我部はまだ土佐一国も手中におさめていない。そのうえでのこの評価は心が動かされるものがあったらしい。現在は三好攻めについて同調できるか調整が始まっている。


 間違いなく反発すると踏んでいるのは武田。典型的な武家社会の家系、源氏直系の武田としては俺たちと相容れない存在だからだ。実際に使者より前に情報をつかんでいたのか、反黒田の姿勢を明確に打ち出した。

 

 その他意外な動きは敵対も同調も見せずに、一度会談をしたいと申し込んできた織田信長。どうするかを会って決めたいのではなく、多分好奇心だろう。あと申し出の是非の前に周りの情勢が許さないと断りを入れてきたのが文通仲間の徳川家康。


 そしてほかの連中の答えは決まって一緒だ。

 従えたきゃ軍を率いてこい。


 いいね、単純明快で。

 そしておそらく誰も本気になんて思っていない。だが、俺は「こうするぞ」と明確に言った。あとはやるだけだ。毛利戦と同じく、恨み辛みでの戦でもなく、土地が欲しい戦でもない――お互い退けないのなら戦おうじゃないかという話だ。


 三好戦に深入りしなかったのもこのあたりの情報を集め、指示を送る必要があったからだ。もっとも、ほぼ事前に決めた通りの指示だったが。


 「だが、朝倉の反発は予定通りだ」

 「そりゃ、新政権がどうのこうの以前にウチとは若狭を巡って関係が焦げ付いてるからなー」

 「そして延焼するか……」

 「ああ、浅井と六角な」


 浅井は朝倉の配下扱いなので個別に誘いはしてみたがまず離れることは無いだろう。

 そして六角は公方が自らなんとか口説き落とそうとしているが怪しい。黒田家と六角家は血縁関係のある佐々木源氏同士という縁もあるが、俺自身には血の繋がりは無い上に、血縁だからという理由で甘い顔はしないという理由から、六角家中での反発の声も大きい。

 なにより、斜陽の幕府を支えてきた実力者は我らだという自負が奴らにはある。頃合いを見て奴らも決起するだろう。


 そして相変わらず西でモゾモゾ動いてる大友(クソッタレ)


 「京には明智が詰めてる。西は言わずもがな盤石。しかし、北陸は……本当にいいのか?隆鳳」

 「ん?ああ、かまわねぇよ。与四郎だけじゃ大変だったろうからな」


 朝倉に相対するのは第七軍の明石与四郎……と、援軍で休夢ハゲ叔父と毛利元就とそのお弟子の黒田小一郎と山名義親。

 ……控えめに言ってもオーバーキルじゃね?もう朝倉には妖怪ジジイこと朝倉宗滴おらんのやで。全く違う地方に毛利を投入するとか信長〇野望かよ、と思ったけどさ。


 「……正直、毛利ジジイには西に行って欲しかったんだけどなぁ」

 

 だが、今毛利ジジイを西に戻すと政治的にも不味かろうとよりにもよって本人に言われたのだから致し方ない。運転免許の講習じゃあるまいし、路上訓練と言わんばかりに外に出んで姫路で弟子育ててくれねぇかなぁ。

 そして代理に、と西方戦線に捧げられた吉川と小早川は自分の親父を恨んでいいと思う。


 でもまあ、いいさ、と俺は思う。それぞれ個性はあれどどの方面にも武将も兵も知恵者もいる。過信しすぎは禁物だが、この時を見越して鍛え上げてきた。だから焦りがない。こうしよう、ああしなければ、という焦りが出てこない。


 だから、


 「最高にシビれてきたぜ、官兵衛。俺は今、最高に戦が楽しいと思ってる」

 「……そりゃよかった。わかってると思うけどほどほどにしておけよ」

 「ああ」


 目の前の敵の強さが、奴らの姿が身体中の電圧を上げる。俺たちを倒そうと予想も想定も超えるほどに振り絞り、魂を燃やして挑む姿に歓喜する。

 その結果が破滅だろうとしても、耽溺したくなるほどに楽しい。


 無論、大将としては失格もいいところだろう。だけど、おそらくこれが黒田隆鳳という武将としての最後の戦になるかもしれないという予感がある。


 だから、


 多分、


 頭の片隅のどこかでこの戦が終わらないでくれ、と思ってる俺が居る。

北組

爺「此度の戦でどこまでを狙う」

与四郎「若狭から越前西部まで」

爺「冬までに片をつけよ」

小一郎&山名君「「はい」」


西組

小早川「まあ、留守番ですよね」

友にぃ「攻めてくる度胸も無さそうだしね」

吉川「攻めるか?」

友にぃ「取って置かないとあとで隆鳳が怒るよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大戦で後方を任される事を不満に思わずむしろ誉れだと思える辺りが流石の黒田家。でも武兵衛の「そうそう、俺だって出来るんだぜフフーン」を見るとちょっと不安とイラッが湧くな… 長曾我部の先読み…
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