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藤巴の野心家  作者: 北星
2章 嫁取り話
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8.5話 黒田家の事情

婚礼話の前に、閑話を挟む事にしました。

前回やった官兵衛さんのむせる予告は次回に掛かってると思ってください。

 面倒な事になった。

 少し贅沢な悩みかもしれないけど、本当に面倒だ。


 身を立てると決意した時から、政略結婚に関しては覚悟をしていた。そりゃもう、姫様と呼ばれる方々とお近付きになれるのだから、この際文句を言うもんじゃないと思っていた。たとえ、それがバンシーの鳴き声や、デュラハンの予言並みの死亡フラグである、宇喜多家からの嫁取りだとしても、だ。しいていうならば、可愛い子だったらいいなぁ、と思う程度でしか無い。


 では、何に頭を悩ませているか。


 今、俺の目の前に布団が敷いてある。俺自身の屋敷がまだ未完成な為、姫路城内で未だに居候している黒田家の屋敷(おやっさんの家)だ。そこはまだいい。いつもの事だ。


 枕が二つ置いてある。


 ちなみに宇喜多家から嫁さんはまだ届いていない。んな昨日の今日で、日取りすら決まっていないのに枕だけあったとしてもどうしようもない。

 ちなみに話がわき道にそれるが、婚礼は俺の屋敷が出来る頃―――丁度年が明けた頃、俺の誕生日頃になりそうだという話だ。逃げ道が……俺が嫌がっていると知り、嬉々として話を進める官兵衛君、君も一緒に人生棒に振ってみないかい?


 さて、枕の件であるが、その前に一つ前提条件として、黒田家には何人か子供がいる。俺のような養子もいたし、おやっさんの子にしても、官兵衛を一番上に、弟が二人。妹が二人。母親の違う一番下の弟に至っては今年生まれたばかりだ。ちなみに同じく養子として引き取られていた姉たちは皆それぞれ嫁いでいる。


 いきなりこんな事を……と思っただろうが、察した人もいるのではないだろうか。

 端的に言えば、俺の婚礼話を聞いて、おやっさんがゴネた。


 養子として、黒田の娘を娶るべきだろうと。


 俺としては、いずれそうなってもいいだろうと思ってはいた。俺達は義理の親子である事に何の疑問も持たないが、傍から見れば不安定な関係だろう。だから、必要とあらばそれでもいいと思っていた。


 では、何が厄介で、何が問題か。


 「兄さま……父上から今日はここで寝なさいと言われましたけど、どうしましょう?」


 今、同じく困ったように布団を眺める黒田家次女、虎ちゃん。御歳5歳。


 「……………………………」


 アウトォォォォォッ!!


 ひとこと言わせてくれ―――馬鹿じゃねぇの!?

 ただの添い寝か!?一番下の子が生まれたばかりで手かかかるから子守しろってか!?


 「どうしようもこうしようも……虎ちゃん」

 「何?」

 「とりあえず、二人で親父。ぶっ飛ばしに行かないか?」

 「なんで?」

 「んー……そうだな、だって、虎ちゃんだっていつもと同じ所で寝たいだろ?いつも一緒の春ちゃん(黒田家長女、6歳。生来の盲目)だって心配しているでしょ?」

 「うん」


 君はまだそういう事を知らなくていいんだ。兄ちゃん守っちゃるけんね。


 さて、何をトチ狂ったんだかわかんねぇが……これは説教ッ!が必要だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 悪は滅びた。というより、滅びていた。

 成敗しようと赴いた先では、話を知ったのであろう官兵衛兄貴が鬼の形相でおやっさんを叩き切ろうとしていた。

 すげーよな。俺、真剣白刃取りって初めて見た。


 「酷い目に遭った……」

 「自業自得という言葉を知っているか?おやっさん」

 「……今日、身をもって知った」


 黒田家おなじみ、反省は土間で正座。小さく縮こまる姿は父親の威厳まるで無しである。ちなみに虎ちゃんは剣呑な官兵衛の姿に恐れを成して泣き始めちゃったので、先にいつもの子供部屋に寝かしつけてきた。


 「本当に頭が痛ぇ……」

 「苦労してるな、官兵衛」

 「まったくだ」


 俺達はといえば、土間で正座する馬鹿親父を前に、胡坐をかいて酒を酌み交わしている。こんなバカげた事態、呑まにゃやってられんよ。おやっさん、物欲しげに見ているけど、立場わかってるよな?


 「おやっさん。これからウチがでかくなる以上、今後こういう事が多くなるって事ぐらいは覚悟してるよ。けど、今回は流石に焦り過ぎだ。アンタ、娘をどうしたいのさ?」

 「……すまん。あまりにも急な事だったので、動揺し過ぎた」


 悄然と項垂れるおやっさんを前に、俺と官兵衛は何とも言えない顔で肩をすくめながら杯を開けた。


 「そういえば、貴様の婚礼についでに思い出したんだが」

 「あん?」

 

 俺が官兵衛の空けた杯に酒を注いでいると、ふと思い出したように官兵衛が口を開いた。


 「和泉守殿(宇喜多直家)と挨拶した時に思ったんだが、貴様も当主として公式の場で使える避諱を考えたらどうだ?」

 「あー……そういえばそうか」


 現代の記憶がある俺からすれば変な習慣だが、この時代はまだ言霊という物を信じている。特に人の名前には特別な神霊が宿るとされ、本名を名乗る事は忌避されているのだ。

 その為に、よく歴史物で聞く「~守」「~介」だという官名で名乗るのだ。ちなみに、『官兵衛』という名前もその一つだ。

 俺の場合は、本名で呼ばれても構わない相手―――つまり、身内の目上の人間相手しか今まで居なかった事や、普段の「りゅうほう」読みであまり意識をしていなかった気がする。武兵衛や古参ならば今まで通り「りゅうほう」読みで別にかまいやしないが、これから俺を当主として勢力が拡大していく上で、音読みだけでは少し不便かもしれない。

 対外的にも官位を名乗る名乗らないだけでも、箔が違うという理由もあるし。 


 「やっぱ必要か」

 「必要だな。ついでに今考えてしまえ」

 「こういうのって勝手に名乗っていいもんだっけ?」

 「別に構わんぞ。たとえば儂は『美濃守』と対外的には名乗っているが、それ

も先祖がそうだったからだしな」


 さいですか、美濃守様。土間の座り心地はいかがでっしゃろか?


 「適当だな、おやっさん。何か無いか?」

 「そうだな……確か、」

 「確か?」

 「……いや、ウチに他に何か有ったかと思ってな」

 「…………………………………」


 なんでこう……官兵衛はおやっさんの一言に噛み付いたんだろうか。官兵衛って通称はそんなに嫌だったか。


 「―――左近将監、はどうだろう?確かいたはずだ」

 「長く無い?」

 「文句いうで無い」

 「貴様にはもったいない名前だな」


 通称は左近になるのか、将監になるのか……左近っていうと俺の中では島左近だから将監でいいか。いや、厳ついな。略して黒左でいいか。時代劇っぽいし。

 いやしかし、黒田左近将監隆鳳……中二病っすか。いや、確かに今それぐらいの歳だけど。嫁さんもらうけどね!


 「んじゃ、面倒だからそれでいいか。左近将監って事でよろしく」

 「うむ。ならばそれで家中にも伝達するとしよう」

 「本名で名乗るなよ?」

 「やりそうだなー……」


 戦国時代の風習っていうのは本当にややこしい。

 だが、なんとなく、これで戦国時代なんだなーという実感が出来たのは秘密である。

「光源氏計画」

「おやっさん少しは懲りろ」

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