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「短編」

「嫌悪」

作者: 晒す者


 僕には親友がいる。

小学校一年生に出会ったので、もう十年以上の付き合いになる。

彼は優れた能力を持っていた。

勉強をさせれば、たやすく学年首位の成績を取れるし、

マラソン大会では、県大会で優勝した陸上部員に勝ったことがある。

生徒会に所属し、高校生とは思えない発想で次々と教師に提案をしていた。

書類作成もお手の物だ。

かといって、彼は孤立していたわけでもなかった。

クラスメイトとの会話では、自分か過度に喋ることはせず、

相手の話をきちんと聞いた上で問題点を指摘していた。

当然のことながら、彼には友人が多い。


だが彼は数多くいる友人の中でも、僕を一番の親友だと言っている。


僕はそれがとても嬉しい。

正直言って、僕は勉強も運動も得意ではなく相手を愉しませる話術も持っていない。

引っ込み思案で消極的、自分の意見をうまく伝えられない。

だがそれでも、彼は僕と親友でいてくれる。

数多くいる優れた友人よりも、僕を親友だと言ってくれる。

それがとても嬉しい。


「□□、今日俺の家でゲームしないか?」


僕の親友――××くんが、今日も僕を誘ってくれる。

僕を選んでくれている。

なんというか、周りの人に勝っている気分になった。


「うん、いいよ!」


当然、僕は快く返事をする。

彼は新しいゲームを買っていて、その日は日が沈むまで遊んだ。



「□□、新しく出来たショッピングモール行かないか?」

「□□、今から遊ばないか?」

「□□……」


××くんは、頻繁に僕を誘ってくれる。

とても嬉しい。そう、とても嬉しい。

僕なんかを誘ってくれて、とても嬉しい。


だから思ってはいけない。



「面倒くさい」なんて思ってはいけない。



彼がせっかく誘ってくれるのだ。

誰でもない、僕を誘ってくれるのだ。

光栄なことではないか。

彼がいなければ、僕は何も出来ない。

遊びに行くにも彼が行き先を全て決め、

彼が行きたい店に行き、

飲食店では、彼が僕の分まで決めてくれる。

消極的な僕にとっては助かる。

僕に行き先を決めてくれと言われても、

何も出来ないのだから。


「××と□□って本当に仲がいいよな」

「そうだな、喧嘩とかしたことないだろうし」


そうなのだ。

僕と彼はとても仲がいい。

喧嘩もしたことがない。

それはとても仲が良い証拠ではないか。


せっかく彼が、僕と遊んでくれるのだ。

だから――



「遊びたくない」なんて言葉は絶対に出ない。



「□□、今日はお前の行きたい所に行こうぜ」


ある日、××くんが提案した。

珍しいことだったが、たまにはいいかと思った。

しかし……


「行きたい……ところ?」


それはどこだ?

何もない、いつも彼が決めてくれたから。


行きたいところなど、何も無い。


「ううん、僕はいいよ。□□くんの行きたいところで」

「……そうか」


その時の××くんは、とてもさびしそうな顔をしていた。



転校生がやってきた。

とても可愛い女の子で、ちょっと制服を着崩していた。

男子は歓喜の声をあげ、彼女への質問を浴びせかけた。

そして、クラスメイトを紹介していた。


「○○ちゃん、このクラスの××って、何でも出来るんだぜ!」

「ははは、それは言いすぎだよ」

「そんでこっちが、××の親友の□□だ!」

「ふーん……」


○○さんは、僕をじっと見た。そして言った。



「親友って言うより、金魚のフンって感じだけど」



その言葉に、教室が凍りついた。

その時を境に、皆が○○さんから距離をとった。

だが、僕は――




「珍しいな。□□が俺を呼ぶなんて」


その日はおそらく初めて、僕の方から××くんを呼んだ。


「ちょっと話があって……」


そう、話だ。とても勇気がある話だ。

しばらく無言の時間が続いた。


そして僕は――切り出した。



「しばらく、僕を誘わないでくれるかな」



言った、言ってしまった。

後戻りは出来ない。


「……どういうことだ?」

「××くんは……僕を頻繁に誘いすぎだよ」


本当は前から思っていたことだった。

遊びに行くにも、僕は基本的に彼の買い物に付き合うだけだった。

彼の欲しいものを買いに行き、彼の行きたいところに行くだけだった。

そこに僕の意思は無かった。


「××くんは……一人で遊びに行くのがつまらないから、

 一番誘いやすくて扱いやすい僕を誘っているだけじゃないの?」


そう、僕と彼は喧嘩をしたことがない。


それは――仲が良いのではない、上下関係だ。


いくら親友だとしても違う人間である以上、必ず主義主張がぶつかるはずなのだ。

だが、僕らにはそれが無かった。

それはいつも、僕が抑え込んでいたからだ。


自分の意思を抑え込んでいたからだ。


彼はとても優秀な人物だ。僕にも優しくしてくれた。

だから、このままでは僕は駄目になる。

彼のお陰で僕は駄目になる。


「僕は、恐れていた。君との友情を失うのを恐れていた。

 でも、僕らの関係は親友ではなく、上下関係だったんだ」


もう恐れない。僕は彼から自立しなければならない。

彼と対等の立場になりたい。

だから――



「だから僕は……君を『嫌悪』する」



真の意味で、彼と友達になるために。


「……」


××くんは、真剣な顔で話を聞いていた。

そして――


「そうか……それがお前の意思なら、受け入れよう」


そう言って、××くんはその場から立ち去った。


これが彼との決別となってしまうかもしれない。

けれど――

彼の身勝手な部分を感じたことで、彼を身近に感じた。




俺は□□と別れた後、公園のベンチに座っていた。


「ここまで人に嫌われたのは……初めてかもな」


俺の周りにいる人間は、いつも俺の行動を認めてくれた。

俺がどんなことをしても認めてくれた。

だから俺は傲慢になっていたのかもしれない。

□□なら、なにをしても許してくれると思っていたのかもしれない。


「どんだけ甘ったれなんだよ、俺は……」


だけどあいつは言ってくれた。

俺を嫌いだと言ってくれた。



――なぜかそれが、無性に嬉しかった。






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