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3.王城【ウィングside】

* * *


『お前……なんだ、今度こそ夢か?つか、現実の俺が今どうなってるのか甚だ疑問なんだが。お前、一体なんだ?』


< ふむ…なんだ、とはどういう意味だ? >


『――んじゃまず…名前』


< 久しく呼ばれていないな。ヒトは我を“氷炎の鳳凰”と言うが >


『鳳凰、ね…精霊か?神か?もっと別のもんか?』


< 知らぬ >


『―――は?』


< ヒトにとっては、あるいはそうかもしれぬ。だが、我はそのように、この身がなんであるかを考えたことはない。気付けばここにいて、ここに在った。それだけだ >


『――…まあ、所詮は人間の分別、か。なら、今度は別の意味で質問してやる。お前はなんでここに――俺のとこにいる?あの時、洞窟で妙な痛みに襲われた。そして、アレスも同じだが気付いたら腕にこの文様が浮き出てた。お前の仕業だろ』


< ならば、我も問おう。そなたは、なにゆえこの世界に居て、これから何を為そうとしているのか >


『知るかよ。別世界からここに飛ばされた意味なんざ不明だし、これから何をやるのかも決めてねえ』


< 我とて似たようなもの。こうして顕現するのは優に500年ぶりだが、なにゆえそなたに惹かれ今ここに在るのかは我も与り知るところではない >


『……なんつーか、よくわかんねえけどよ。つまり、お互いに模索中ってわけか?それはそれでいいけどな。で』


< …なんだ >


『てめえと俺の当面の関係を、はっきりさせとこうじゃねえか。一応聞くが、どうしたいんだ?』


< ――――ふっ >


『ああ?今笑いやがったか』


< おかしな……珍しいことを言う人間だ >


『んだよ、それは』


< まあいい。なれば、同志、とでもしておこうか >


『ふぅん?ま、俺は別に構わねえけどよ。あと、礼、言っとくぜ。助かった。にしても、どういう時に顕現してくるんだ?』


< そなたが呼べば >


『そりゃ、随分と御親切なこった』



* * *



 ズキ…っ


「――――っ!………って……あ…?」


 ぼやけた視界を無理矢理こじ開けながら、俺は首を巡らし辺りを見回した。


 ・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・―――――


「!!?」


 がばっと身を起こせば再び身体中に鈍い痛みが走るが、んなもん今はどうだって良い。


 見慣れない空間…ていうか部屋みてぇだが―――なんなんだ、ここは。


 自分の身体を見降ろすと、これまた見慣れない服。寝着のつもりか、こりゃ。


 無駄にでかいベッドに無駄に広い部屋。ここだけで家一個分余裕で入りそうだ。


 いや、そんなことより、なんだってこんな状況になってやがる?つか、アクアとアレスはどこ行った?


 俺はベッドから飛び降り畳んで置かれていた鳶色の服を素早く着ると、物音をたてないようにしながら窓辺へ駆け寄る。


「――――…つまり、あれか?またお決まりのベタなパターンか?ったく、勘弁してくれよ」


 窓から見えた風景で、俺は一発で自分が置かれている状況を大体理解する。


 つまり、あれだ。


 なんでか知らねえが、俺は王城まで運ばれたってわけだ。これだけ城下町見渡せる場所なんざ、王城以外見当たらねえしよ。醜態晒したのは悔しいが、気を失ったことは覚えてる。


 状況から察するに、アクアもアレスも王城内のどこかにいるはずだ。油断できねえが、俺のこの待遇を見る限り危害は加えられてねえとは思う。


 俺は窓辺にもたれながら、冷静に思考を巡らせどうするか考える。


 どれだけ寝ていたのか全くわからねえが、わざわざ王城に連れてきて無理矢理叩き起こされず牢屋に入れられてもいねえってことは、だ。あっちは目を覚ましたこっちに何かしら言ってくる可能性が高ぇ。


 夢に出てきた鳳凰―――あいつが、この国この世界の人間にとってどういう存在として認知されてるかはわからねえが、少なくとも、あの場に居た騎士三人と……多分、踊り場にいたはずの王とやらに見られたはず。


 あいつは、ヒトにとって自分は精霊や神かもしれないと言っていた。だとすれば、ライトノベルじゃなくても目をつけられるだろうな。現実の人間の貪欲さはファンタジー以上だということは、よく知っている。


 厄介だ。実にめんどうくせぇ状況だな。あれか?“悪魔の三つ子”の二つ名はこの世界でもご健在ってか?


 ――――上等。


 だったら、今度こそ大切なもんを死ぬ気で守ってやるまでだ。














「アクア」


「っ!ウィ―――」


「馬鹿、大声出すなっての」


「なるほどな、やっぱ三つ子は考えることが一緒というわけだ」


「アレスも無事か」


「ああ。無茶しぃでドジなアクアが転げ落ちる前に辿りついて良かった」


「…自分だってそれなりに抜け出すのは鍛えたんだけど」


「程度がちげぇよ程度が。そこに関しては俺とアレスが上段者」


「それは認める」


 思いの外早く見つかった。つっても、ご丁寧にも俺が最上階の部屋に居てその真下の部屋にアクアがいたから、壁と柱を伝ってなんとか降りてきたんだが。アレスは更に階下の部屋にいたらしいから、登ってきたみてぇだな。


 アクアも俺らを捜そうと踊り場から身を乗り出してやがったんだが……器用なんだか不器用なんだか微妙だし、天然だからちっと冷や汗出たぜ。つか、ここって高層ビル並みの高さがあることわかってんのか?


 俺?俺はいいんだよ。


「―――…やっぱ、庭にも見張りの騎士がいやがるな。この分じゃ、部屋の外にもいるんだろうぜ」


「そうだな。どうする?」


「このままいけば、王に謁見とかそういうありきたりな展開しか考えられない、この思考回路が少し悲しいな」


「もしかしたら、この髪と瞳の色、見られたかもしれない」


「こっちも、腕の文様は確実に見られてると思う。包帯が解かれていた」


「それ以上に、なんかもう色々見られちまっただろうぜ」


 アレスも、夢であの竜と話をしたらしい。感覚的にあの洞窟で刻まれた文様と関係があるのは察してるが……マジでなんなんだってんだ。


 アクアを乗っけてた銀狼もいきなり出てきやがるし、わけがわからん。


 それでも、多分……それを見られて連れてこられたと考えるのが妥当な線か。


 踊り場で外の見張りに見つからないようにヒソヒソ話していた俺ら。


 このまま強行突破して抜け出すことも考えたし実際やる気満々でもあったが、それは話しあいの結果、却下。


 なんでかって?別に、見張りがいて無理だからとかそんなちんけな理由じゃねえ。


 これは、昨日の延長線上。つまり、このまま大人しくしていた方が何かと有益な情報が手に入ると踏んだからだ。











 しばらくして、城内がいささか騒がしくなってきた。ちなみに、今は朝方。丁度真上の俺が寝ていた部屋辺りから人が走り回る音が広がっていってるから、いなくなったのが見つかったか?


 とか思っていれば、バタァンと俺らが今いる部屋の扉が開け放たれる。「いたぞ!!」とかなんとか、捜しまわっていたらしい騎士共が大声を上げてるな。


 騎士が何人か、それにあれは官僚とかそういう身分の野郎か?が部屋に踏み込んでくる。そいつは騎士とは違って、一見してお偉いさんだとわかる出で立ちだ。


「お探しいたしました。いや、御無事でなにより」


「そいつぁどーも」


「皆さま、お身体の具合はいかがでしょう」


「特に問題は。ウィングとアレス……は、聞くだけ無駄か」


「王がお待ちです。ご同行、願えますかな」


 見た目は、遠目に見えた王よりも年増な男。敵意や悪意は……とりあえず感じない、か。


 廊下もこれまた無駄に広い。四方を騎士に囲まれながら歩き、視線だけを動かして注意深く見回す。


 随分と仰々しいな。


 「こちらが謁見の間です」と予想通りの台詞を言われて通された、ひと際大きな部屋。すぐさま視界に入った玉座には、やっぱり国王が座ってる。その左右に、ずらっと人が並んでいるのも想像通り。


 あれだ。つまり、リアルワールドでも二次元でも、人間の考えることは同じってわけだ。当たり前っちゃぁ当たり前すぎるが。


 促されるままに玉座の前へ進み出る。


 周りは俺達の一挙一動を監視する様な目線。「おお、あれが…」とか「ついに現れた」とか、「まだ若造じゃないか、取るに足らん」とか「とっとと殺しておけばいいものを」とか、とにかくヒソヒソ言葉が飛びかっている。


 てめえら聞こえてんだよ。


 だが、俺らはすぐに違和感を持った。左右で視線や言葉の意味合いが全く違ぇ。


 向かって右側の野郎共は、どこか羨望っつーか感動っつーか、とにかく俺らを見てかなり肯定的な雰囲気なんだが


 逆に左側の野郎共は、敵意や殺気その他負の感情を前面に押し出してきやがってる。


 なんなんだ、この右翼と左翼みたいなノリ。












 そんなことを思いつつ、目の前の国王をじっと見据えた。あっちもこっちを真っすぐ見据えてくる。


 なるほど、確かに王って感じの風情だ。王だけに王道ってか?


 こっちは、少なくとも表面上は俺らに対して右も左も偏ってない雰囲気がする。


 王がすっと手を上げると、騒がしかった部屋が静まった。


「私はこのルーラン王国第15代目国王、ハルト=ディ=ルーラン。そなたらの名を聞こう」


 落ち着いた声。ちっと厳つい外見とは裏腹に、そこまで威圧的な感じじゃない。


「アクア、と申します」


「ウィング」


「アレスだ」


 名乗り上げたらまた臣下たちがざわめく。うっとおしい。挙句「その態度はなんだ、無礼な!」とか言い出す奴もいるが、無視。


「良い、静まれ―――さて、そなたらは何故ここ王城につれてこられたか、その理由がわかっておるか」


「いえ、全く」


「ただ、怪我の治療だけじゃないことはわかる」


「では、まずは改めて報告を聞こう―――近衛騎士団長、ザック=オーレ=ハインド」


「はっ」


 右手の列の中から進みでてきた男を見て、俺はぴくりと眉を動かす。


 あいつ、俺が槍交えた野郎だ。


「昨日、競技場にて催されたシャバの決勝後、私ども優勝チームはそこの三人に手合わせを申し込み、その試合の途中で警戒していたサーナ王国の刺客が乱入いたしました。私ども騎士団で対処し、幸いにも民間人に大きな被害はなく、刺客の筆頭である男共々捕えることができております」


 そこまで言って一旦言葉を切ったあいつは、ちらりとこっちに視線を寄こす。


「ですが、場内の中心にいたこの三人は一時的に人質同然に捕えられてしまい、我々はその魔術を解くために首謀者の男を捕えんとしていましたが―――その最中、突如聖獣が二体、銀の狼が一匹現れ三人は開放されました。聖獣は直ぐに姿を消し、狼もいずこかへ去ってゆき、残った三人は王の指示の下に場内へ運びこみ、怪我の治療を行って現在に至ります」


「というわけだが…これで相違はないかね」


 王に尋ねられて、俺らは顔を見合わせる。


「――確かに、大会を観戦して帰る途中に手合わせを申し込まれ、その最中に騒動が起きてとばっちりを受けたこと、そしてその後、なんとか助かって気を失ったのは間違いありません」


「聖獣と言ったか?それは、ウィングを乗せてた朱色の大鳥と俺を乗せてたでかい竜のことなのか?」


「そなたらは、あの二体の聖獣について知らぬのか?」


「ああ。いきなり出てきて驚いてる」


「ふむ……そうか。実は、これがそなたらを保護した理由の一つなのだが」


「説明を求めても?」


 受け答えはアクアとアレスに任せて、俺はひたすら耳を傾ける。


「私も間近で見たのは初めて……いや、この500年間、この世界であの姿を見た者はいないはず。あれは、“氷炎の鳳凰”と“風地の青竜”と呼ばれる聖獣。歴史的に500年前も1000年前もこの世に顕現したと伝承で伝わっている存在でな。あの聖獣は……今、様々な意味で話題になっているのだ。ゆえに、そなたらを王城にて直接保護させてもらった」


「陛下っ!!」


 突然、左手から声が上がった。


「こやつらを早く捕えましょうぞ!!今になにをしでかすか――」


「控えよ」


「しかし……っ」


「黙っていろというのがわからんか」


 王の睨みにすごすご下がって行った臣下は、戻った後も俺らに対する侮蔑の視線を向けたまま。


 あー……なんつーか、マジで厄介なことになりそうだぜ。それも、最高ランクの。


「質問しても?」


「うむ」


 アクアがまた口を開く。


「昨日のあれらが聖獣であることはわかりました。つまり、ウィングとアレスの場合は、その聖獣を“連れているように見えた”から、保護したと?」


「簡単に言えばそうなろうな」


「では、自分の場合は?聖獣を“連れているように見えた”この二人と一緒にいたからでしょうか」


「いや……おぬしが“幻蒼の姫”である可能性が高いからだ」


「「「――――――――――…は?」」」


 げんそうのひめ―――聞き慣れない単語を、俺らは胸中で反芻する。


「その、蒼みを帯びた銀の髪と瞳がなによりの証拠。“幻蒼の姫”も、同じく500年前と1000年前に、この世に現れたと伝わっている」


「――――…その存在は、この国……この世界に、何か重要な意味でもあると?」


 でなければ、話の流れにそぐわない。アクアが本当にそういう存在なのかはさておき。


 だが、そう問われた王はいささか妙な……複雑な表情を僅かに浮かべた。


「確かに、重要、といえばそうなろう。とはいえ、では具体的にどういう意味合いで重要なのか、現状でこちらも明確にわかってはおらぬのだ」


 つまり、何かしら重要であることは前提としてあるものの、どういう意味で重要なのかは知らないっつーことか。


 すると、今度は一層増して両脇が騒がしくなる。


「王よ、この方は救い主です!国賓としておもてなしを!!」


 とかなんとか、やたらめったら賛美してくるのが右側の臣下ども。


「何を言うか!!こやつこそこの国この世界を破滅へ導く元凶ぞ!!今直ぐ抹殺すべきです!!」


 そして、ふざけたことを抜かしてやがるのが左側の臣下ども。


 わかった結論――――どっちもウゼェ。















 あまりに騒ぎが収まらないから、俺らは謁見の間から別の部屋に移された。


 そして今、目の前にはさっき王の直ぐ後ろ隣に控えていた青年がいる。その更に後ろ、青年の足元にひっついているのは少女だ。


「私はルーラン王国第一王子、ステラ=ディ=ルーランです。どうぞお見知りおきを。こっちは、私の妹で第一王女のフィオレ=ディ=ルーラン。少々人見知りなのでご勘弁下さい」


 足元を見ながら苦笑する第一王子。まさしく、“感じの良い青年”の代表格みてぇだ。妹の方は……おいおい、完全に隠れちまったよ。少々どころじゃなくねぇか?


「先ほどは臣下が申し訳ない。御気分を悪くされたでしょう」


「まあなんというか……色々反応は予想してたけど、あそこまで綺麗に二分してるのも珍しいな。でも、根拠もなにも提示されてないところで、しかも初対面で罵倒されても何が何やらって感じだ。王子様が謝る必要はない」


「ステラで良いですよ」


「良いのか?」


「はい。堅苦しいのは嫌いですので。それで臣下には五月蠅く言われますけど。私……僕も、名前で呼んでも?」


「ああ」


「んじゃ、ステラ。ここに俺らを連れてきたってことは、さっきのあの状況を説明でもしてくれんのか?」


「ええ、そのつもりです。国王陛下…父からもそう頼まれました。お茶でも飲みながらどうでしょう」


 途端、俺ら三人の腹の虫が盛大に鳴った。そういやぁ、なんも食べてなかったな。















 王子が気を利かせて執事に持って来させてくれた軽食をつまみ茶を飲みながら、俺らは話を聞いた。


「今、この王城内ではある一つの伝承というか、歴史的事実についての研究と議論がかなり活発になっています。つまり、先ほどの“幻蒼の姫”と“氷炎の鳳凰”“風地の青竜”が、その研究調査の大きな題材といいますか……主に500年前にこの地で実際に何が起き、結果としてどうなったかが皆の関心どころとなっています」


 つまるところ、歴史研究ってか?


「1000年前はあまりに古くて証拠となる物が殆ど皆無なのでどうとも言えないのですが……とにかく、1000年前と500年前の二度に渡り、この地にその三つの存在が現れたと伝わっています。そして、その度にこの地は大きな変化を迎えた。500年前と今とでは、この地の景観も気候風土も全く違ったとされています。ですが、正直言ってそれもまだ確固たる証拠がないのですが」


 とりあえず、その“幻蒼の姫”と“氷炎の鳳凰”“風地の青竜”ってのがとにかく何かしら重要だというのが共通認識ってわけか。


「それで、この研究が活発になり始めたのは数年前からなんですが……どうも、意見の相違により派閥が出来上がってしまいまして。特に“幻蒼の姫”に関しての対立が凄まじい。その結果が、あの通りです」


 王城内では、その“幻蒼の姫”を救い主とまで賛美する「肯定派」と、その真逆に疫病神と罵っている「否定派」に大きく分かれているらしい。


 この研究はまだあまり一般人には知られていない……というか、情報が出回るのを禁止している状態で、ただのお伽噺として“幻蒼の姫”と“氷炎の鳳凰”“風地の青竜”は知られているに留まっているという。


「なあ王子サマよ」


「はい?」


 俺は気になっていたことを尋ねた。


「その三つの存在が、どうもあんたらにとって重要だっつーのは、まあ判った。けどよ、一つ言わせてもらえば、俺ら自身の今の認識としては全くもって関係ないっつーか、勝手に議論でもなんでもしてろっつーか……つまり、当事者意識がないだけに『ふぅん、あっそ』ってな感じなんだよな」


「自分も同感」


「俺も」


「一つはっきり訊いておく。あんたらは、“俺ら”自身のことをどう認識してやがるんだ?その“幻蒼の姫”“氷炎の鳳凰”“風地の青竜”っつぅ伝承の存在に対する認識はさんざ見聞きしたからある程度把握したが、今ここにいる俺ら自身は一体どういう目で見られてる」


 この国この世界に伝わる伝承あるいは歴史上の事柄としての、その三つに対する認識はなんとなくわかった。


 だが、俺らは“幻蒼の姫”“氷炎の鳳凰”“風地の青竜”なんざ知らねえし、関係があると認知されてるのはわかるがそれがどういうもんなのか、はっきり訊いてねえ。


「――そうですね…ウィング殿とアレス殿に関しては、鳳凰と青竜との“契約者”として認識されているかと。そしてアクア殿に関しては、まさしく“幻蒼の姫”そのものかと」


「「契約者?」」


「はい。なにやら、腕に文様もあるようですし」


「あのさ、さっき国王も言ってたけど、この髪色と瞳がやっぱり証拠になるのか」


「ええ…というより、これも歴史的事実として伝わってきている事柄なのですが。『“幻蒼の姫”、その御髪は蒼き銀に煌めき、瞳に宿りし光も然り』と。これは共通認識です」


「でも、自分は片方だけなんだけど」


「そこはなんとも……ですが、この世において他にその髪色その瞳の色で生まれる人間はいませんので」


「いや、待て。自分は元々黒髪に瞳も黒色だ。これは途中で急に変わったというか…」


「そうなんですか?ああでも、伝承では『生まれつき』なのかどうかははっきりしてませんし」













 その後も、王子とは色々な話をした。


 まぁ要約すれば、結局はまだまだわからないことが多くて曖昧な部分が多いっつーことだな。


 それを王子に言えば、苦笑して首肯してきた。


「そういえば、王子はどちらかっていうと中立派って感じだな」


「そうですね。父と僕は基本的に中立です。それは立場もありますが、僕自身は個人的にも、どうもあの二派どちらにも相容れないといいますか…」


「こっちとしては大いに助かる。でもさ、研究者の中で中立派っていないのか」


 アクアの疑問は俺もアレスも持っていた。そして、王子は「いますよ」と答えてきた。


「たった一人ですが」


「は?」


「一人??」


「ええ。まだ年若い、けれど熱心な方です。今度紹介して差上げましょうか」


 その時、王子がふと下を向く。


「フィオレ。どうした?」


「・・・・・・・」


 ずぅっと王子の影に隠れていた王女が、しきりに何かを気にしてる―――ってか、ん?もしかして…


「アクア、なんか熱心に見られてんぜ」


「じ、自分か??」


「フィオレ、アクア殿がどうかしたのかい」


 穴があきそうなほど、じーっとアクアを見つめている。だが恥ずかしいのか、やっぱり王子の影に隠れてるが。


「王女様、自分がどうかしたんですか?」


「っ!」


 アクアが立ち上がって、王女の傍にすとんとしゃがんで話しかける。すると、ビクっと反応が返ってきた。


「あー…もしかして、この容姿が怖い、とかか?」


「どうだろうな」


「俺はちっと違ぇと思うぜ?」


「フィオレ、本当にどうした?」


 成り行きを見守る。


「―――・・・おねー・・・ちゃん・・・」


 小さな声が聞こえた。


「・・・いー・・なぁ・・・」


 ん?と俺らは同時に首を傾げる。


 王女が、アクアに向かって恐る恐る手を伸ばした。


「―――フィオレ、もしかして、彼女の髪が気に入ったのかい?」


 何か思いついたように王子がそう問えば、こくんと首が縦に振られる。


「アクア殿、不躾かとは思うが、その髪に触らせてあげても?」


「ああ。王女様、おいで?」


 アクアがそう言って手を差し伸べると、ずっとオドオドしていた王女がぱぁっと笑顔になった。


「王女様、今は何歳なんだ?」


「十、なの」


「王女様の茶色の髪も、綺麗ですよ」


「ほんとぉっ?」


「さっすがアクア」


「幼子には大抵懐かれるんだよな」


「凄いな、アクア殿。妹は初対面の人間には笑わないのに」


「え、そうなのか」


「そういやぁ、ステラは何歳なんだ?」


「僕は今年で19ですよ」


「俺らより一つ年上か」


 抱っこして貰ってご機嫌な王女は、さらさらと滑り心地の良いアクアの銀髪を触りまくっている。


 けど、俺はなにより、嬉しそうなアクアの笑顔が脳裏に焼きついた。




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