自販機
おててをつないでうれしいな――っと。
「…………」
なんか、勝手に幼さを演出して、わけもなく空しくなった。
左手に食材の入ったビニール袋の重さが手を引き、右手に少女の柔らかな掌のぬくもりを感じる。
五分くらい歩くと、目的の公園前の自販機にたどり着いた。
俺は左手の荷物を地面におろして、ポケットから財布を取り出した。
なんで左手なのかって? おいおい、野暮なこと聞くなよ。
「ほれ、やるよ」
「…………。ん」
イクミはしばし不思議そうに、俺の掌の中のホットココアを見つめていたが、こくりとうなずくとつないだ手を放して両手でホットココアを包み込む。
その様子を見届けた後、掌に心地よいぬくもりの残滓を感じながら、俺も続けてホットコーヒーを購入した。取り出した缶コーヒーはひと肌よりもずいぶん熱くて、掌に残った熱は呑み込まれるようにして消えた。
……自分から手をつないでおいて、自分から手を放すのって、なんだか違う気がしたんだよなァ。
俺はプルタブを押し開けながら、若干首を熱くしてそんなことを考える。
その熱で浮上したのかは知らないが、ふと隣の少女のことが気になった。正確には、彼女の名前だ。
「……そういや名前、イクミでいいんだよな?」
「え……あ、はい。……? どうして知ってるんですか?」
不思議そうにするイクミに、立てた人差し指を回して答える。
「ほら、あの青服がなんちゃら言ってただろ? その時に聞いて、心の中で呼んでるうち、覚えちまった」
「心の中で……」
いや、確かに言ったけどさ。……そのセリフだけピックアップして反駁されると、すっげえ恥ずかしいんだが。
俺は熱を鎮めるために、開けた缶コーヒーに口をつけたが、今更ながらホットだったことを実感する。
……いや、熱をごまかすためにあったかい飲み物を飲んだんだ。さっきのは間違い。ちくしょー。精神が不安定な時は、どんな季節だろうがアイスよりもホットだと思って買ったのがあだになったか……。
本当のコーヒー好きからすれば邪道に映るかもしれないが、ブラックが苦手で、コーヒー自体の味の違いも判らない俺にとって、缶コーヒーは喫茶店の味よりも割と好きだった。
「…………」
缶コーヒーの甘さとミルクがたっぷりの味が口に広がり、わずかな苦味がのどに残って、腹に消える。その余韻に浸りながら、隣の存在に気をかける。
彼女は困った顔で、ちらちらとこちらを見て、同じくらい手の中のホットココアを見ていた。
――彼女はまだ、プルタブをあけてさえいなかった。
「あ?」
「え、あ……。す、すみませんです」
あまりの不意打ちに、思わずガラの悪い声が上がる。急に委縮した彼女を見て、俺は自分の反応がまずったのだと知った。
こういう時、ちょっとだけ頭をかすめるのは、ギャルゲーの主人公だ。あいつらはよくもまぁ、あんなに人畜無害を素で行えるなァ、というある種の感心だった。
……けれど、俺は主人公じゃない。
だから俺は、俺のケツを自分でふくことでしか、周囲に対しての誠意を見せることはできない。
「あー、いや……別に怒ってねえぞ。……で、どうした? もしかして、甘いの嫌いだったか?」
「あ……いえ。あの……これってどうやって飲むんですか?」
「……は?」
俺の若干ガラの悪い、きょとんとした声に反応してか、イクミは再び肩を縮こまらせる。
彼女の着ている服を見て、思い出す状況は、あのわけのわからない――異世界と呼びたくなるほどに、世界の中二病を疑うほどのファンタジックな世界だ。そして現状は、そこから地続きだ。
――彼女とは、あそこで出会ったのだ。
「……もしかして、開け方わかんねえのか?」
「は、はい……。すみません、です」
「だから謝らなくていいって……。ちょっと貸しな」
俺は彼女に自分の缶コーヒーを預け、逆に彼女のホットココアを受け取り、プルタブに手をかけた。
――ぷしゅ、と気味のいい音がかすかに響く。
その時に少し考えるのは、彼女はもしかしたら、この世界の人間ではないのかもしれないということ。
――自分があの世界のことを、何一つわからなかったのと同じように。
――彼女もこの世界のことを、何一つ知らないのかもしれない。
「……ほれ、あまくておいしいぞ」
プルタブをあけたホットココアを、預けていたホットコーヒーとトレードする。
彼女はまるで小鳥がエサをついばむように、小さな口で恐る恐るという形容が似合うほど少しずつ飲み始めた。
「……かわいいなぁ」
「ふぇ?」
イクミが驚きの声を上げたことにより、俺は自分が何を言ったのかを理解する。口が滑ったか。
「ああ、キニスンナ。独り言だ」
「は、はぁ……?」
それでもこちらを気にかけながら、徐々に飲み方が早くなるイクミに合わせて、俺も自分のコーヒーに口をつけて、改めて思う。彼女には、聞かなければならないことがある――と。
「…………」
「(こく……こく……)」
喉を鳴らしてココアを喉に流し込む彼女を流し目でとらえて、ふと思う。
――俺は彼女に、何が聞きたいのだろう。
「…………」
缶コーヒーのふちに口をつけ、傾けたり戻したりを繰り返して、考えをまとめた。
――気になることは、それこそいっぱいある。
先ほどの見知らぬ風景のことに、青服の集団のこと、彼らと彼女が使った、色の付いた光のことも。それに、彼女のこともわかっていない。
それでもそれらは、『気になること』であって『聞きたいこと』ではない気がする。
仮にそれらを聞けなかったとしても、多分俺は後悔をしない。いつか、ただ『不思議な』経験をしたという記憶として片付けられ、与太話のような思い出として、笑いの種にでもなるのだろう。
不思議なことを今納得できなくても、結局いつかは折り合いをつけるだろう。
……それでも、聞きたいことは確かに存在する。
さらに思考をまとめると、それはあらかじめそこにあったかのように顔をのぞかせた。
――俺が聞きたいこと……。それは、ずいぶんと単純なようだった。
「…………」
よしっ、と意気込んで、いつの間にか残り半分以下になっていた缶コーヒーを、隣でぼぅーとしているイクミの頬へと押し付けた。
「ひゃわっ!」
「よう。もうのみ終えたのか?」
「え……あ、はい。飲み終えましたです」
そういって掲げたスチール缶からは、確かに揺れた時に水音はしなかった。……あ、別に、これが聞きたかった事じゃねえぞ?
俺はじっとイクミの方を見て、口を開いた。
「ど……どうかしましたですか?」
「……さっきから思ってたんだけどさ」
イクミが緊張で喉を動かす。ごくりと、固唾をのむ音が聞こえそうだ。
「お前、変な日本語使うよな……」
「そ、そうですか……?」
あ、普通だ。まぁいいか。これも、別に聞きたいわけでもなかったし。
イクミもしばし首をかしげていたが、少しして手の中のスチール缶が気になったらしく、興味はそちらに移ったようだ。
「あの……それで、これってどうすればいいのですか?」
「ああ、もらうよ」
そういうと俺は扱いに困っていたスチール缶を受け取ると、俺も残っていたコーヒーを一気に飲み干して、自販機脇のごみ箱に捨てた。
「……さて、これで遠慮なく聞けるな」
「はい?」
思い切り不思議そうな顔をされましたよ。ええ、わかっていますとも。自分が勝手に用件を立ち上げては勝手に話を先延ばしにしていたことくらいはっ!
しばし、無言で向かい合う。おもに俺が落ち着く時間が欲しいがためだ。約十秒、無言で向かい合った俺は、ようやく重たい口を開いた。
「……なぁ。お前、これからどうするんだ?」
一番聞きたいこと――聞かなければ後悔をするであろうことを、ようやく尋ねることができた。
えーと・・・この話はですね、二度目の執筆です
一度目の完成後、サブタイを変えようと操作したらですね……
投稿前だったので、内容が全部消えちゃいましたのですよほほほほ…
・・・・・・はは、もうね、熱意とかやる気とか・・・・・・何より精神力がごっそりやられて、財布を川にドボンしたような気分に一瞬だけなりましたですよ;;
バックアップはもちろんとってないわ
内容もこまごました部分はいちいち覚えてないわ
数時間分をポイしちまったことへの徒労感だわ
・・・・・・その他もろもろで、結構キテマス
(その後、執筆中小説とかいう保存のきく?執筆法を知り、力の抜けた断末魔を上げたくなりましたよ……;;)
――というわけで、そんな精神状態で書いた二本目です。一本目よりだいぶ文章力とか内容とか、落ちてるかもしれません
・・・・・・ま、批評する一本目は、俺の頭の中も合わせて消えてるんですけどね
ある程度は沿って作ったはずですが、もう気力は擦り切れ状態なので無理に確かめたりしませんし、これからも確かめないでしょう
……え? やるからにはすべて自己責任だ、言い訳するなって?
・・・・・・まぁそうなんですけどね!
(プロじゃないんだから多少?言い訳したっていいじゃないですか!)




