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帰還

さてさて、いったい誰がこの小説を見ているのか知りませんが、自由気ままに登校します

 ガツンっ。

「うぁっ!」

 音を立てて地面に後頭部をぶつけた俺は、掌の中のぬくもりを必死に手繰り寄せて、胸に抱いた。

「ひゃぁ!」

 あー……あったけぇ。

 閉じたかどうかすらも判別がつかない目の前が、真っ白に染まる。

 火花が散るような錯覚を、全身を走る痛みと同時に感じながらも、どうしてか胸の中のぬくもりを実感できた。

「ぅっ……~~っ!」

 火花が収まるまでの間、全身の緊張は説くことはできなかった。それが何を示すのかも知らないまま、正面のぬくもりをぎゅっと抱きしめることおよそ十秒。

 ようやく火花が収まったと思えば、不意に悪寒が――次に衝撃が、俺の脳天を突き抜ける。

「っ! なにをするんですかっ!」

「いってぇ! ちょ、おま……落下の衝撃から少女を守った小さな英雄たる俺に、その仕打ちはひどくねえかっ?!」

「英雄を自称するのなら、自分さえも守って見せてくださいっ!」

 ――くっ。確かにそうだ。英雄を自称できるほどのことはやっていないが、やってること自体は正しいはずっ! 『小さな』英雄の自称くらい認めろよ! ……いや、別に、ノリで言っただけだから認めなくてもいいけどさ。

 ちぇー……と、息を吐きながら、あおむけに倒れた俺は抱きかかえた腕の力を抜くと、するりとイクミが胸の中から抜け落ちる。

 ――あっ、しまった。

「……もうちょっと役得を得ていてもよかったかもなぁ」

「よくありませんっ!」

「ぐほっ」

 げしっ。ぐるんぐるん――。

 表現力がなくてわかりにくいだろうが、俺の些細な欲求に対してイクミの足が出た結果、俺は路上を二転三転というわけだ。そのまま俺は、うつむいて物言わぬ人に。

 予想出来ない結果だったのだろう。青い顔で俺を見つめる気配がするが、確かめることもなく俺は動かない。ただ持っていたぬくもりを、冷たいアスファルトに分け与えるのみ。

「え……ちょ、ちょっと……? だい、じょ……ぶ……です、か……?」

「ん? あぁ、だいじょぶだいじょぶー」

 ふぇ? と驚いて目を見張るイクミを、さらに回って地面から確かめる。――む、これ、スカートの中を覗いているみたいか?

 俺は「よっ」と掛け声付きで、すっと立ち上がる。

 驚いている美少女は見ていて絵になるものではあるが、若干良心の呵責を感じないでもない。――さっきの蹴り、小石を蹴飛ばす程度だったからなぁ。後は俺の悪ふざけ。

「おどろい――」

 ――た? と聞こうとした瞬間に、俺は言葉を失った。

「っ……。……ぅ」

 泣いていたのだ、声もなく。

 その瞳のガラス体から溶けだしたような透明なしずくが、音もなく流れていた。

「ちょっ!? おいっ、どうした? 大丈夫か?!」

 見事なまでの位置変換。一瞬で気遣いの立場が逆転した。

「ぅ……。……っ。……だい、じょうぶ……です」

「…………」

 とてもそうは見えない。

 ――大丈夫というのなら、その根拠を見せてみろよ……。そんな悪態が浮かんでは、泡のように消えた。……言えるわけないか。

「……そうか」

 ――根拠なんてないのだ。間違いなく、強がりなのだから。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 約一分、無言で成り行きを見守った後、俺は耐え切れなくなったように声をだす。

「……なぁ」

「……なん、ですか……?」 

 動かねえか? そう聞くと、彼女はこくりとうなずいて、固まった。一応許可が出たので、「行くぞ」と声を出して歩き出す。けれど、俺が軽く動いてもまったく反応がないので判断に迷った。

 俺は心を決めて、動きだしそうにないイクミの手を握り、ぎゅっぎゅとその手をほぐすように力を籠め、相手が少しだけ握り返してくれたあたりで、そっと握って歩き出す。

 ……とりあえず、近くの自販機にでも行こう。

 掌にぬくもりを握り、暗い道を歩きながら、あまり覚えのない道の記憶を必死に思い出す。

(さてさて、これからどうなるのかねぇ……?)

 何が起こったのかもわからないまま、俺は掌にある、この脆そうなぬくもりを大事にしようと心に決めた。

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