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はじめてのプラモ

「酷いです、平坂くんに弄ばれてたなんて……」


「ごめんごめん、まさかそんなことになってるとは思わなくて」


早乙女さんが赤いちゃんちゃんこを姫柊さんに着せながら、泣きじゃくる彼女の頭を撫でた。


「平坂くんも一応謝って。事故とはいえ黒ちゃんの下着姿を見たことは事実なんだから」


「す、すみませんでした」


「んぐっ、ひぐっ……」


「ほら、平坂くんも撫でてっ」


躊躇いながらも、早乙女さんに促されるままに彼女の頭に手のひらを置く。


早乙女さんのふわふわした手と一緒に動かして、僕の右手が彼女の頭を往復した。


「じゃ、ボクご飯の準備してくるから、平坂くん後は頼んだよっ」


「えっ!?」


とてとてと早乙女さんがキッチンに駆けていき、引き戸がピシャリと閉まった。


とりあえず彼女が落ち着くまで撫でつづけるしかない。


「なんで指摘してくれなかったんですかぁ……」


指摘しようにも言うわけにもいかないだろという言葉を必死に飲み込んで、ごめんねと呟いた。


右腕が悲鳴をあげて動かなくなりそうになったあたりで、姫柊さんも少しずつ落ち着きを取り戻してきた。数分は撫で続けただろうか。


それと同時にドアが開き、香ばしい香りがキッチンから漂ってきた。


「そろそろご飯できそうだから机片付けて〜」


「姫柊さん、片付けよ?」


「……はい」


ぐずりながらも丁寧にランナーを拾い上げていく彼女を見て、僕はホッと胸を撫で下ろした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「じゃあ、いただきます!」


「「いただきます」」


全員で合掌して、僕らは箸を持った。今朝と変わらずお米は白く輝いている。夕飯の主菜はコロッケだ。衣の表面の油が飴色に輝いて、箸でつかむとサクッという軽い音を立てた。


「揚げたてだから舌を火傷しないように気をつけてね♪」


「はーい」


噛むとジワっと油が弾け、ジャガイモの香りが口内に広がり。滑らかな舌触りの芋のペーストをとうもろこしの粒が泳ぎ、口を動かすたびに旨みが舌の上に広がっていく。ソースはかけすぎないほうがちょうど良さそうだ。


味の余韻が尽きる間もなく白米に箸がのびる。ふわりと盛り付けられた白米は抵抗することなく箸の上に乗った。口に入れると湯気に乗った米の香りが鼻腔をくすぐって、きっぱらがもっとよこせと胃を動かした。


「早乙女さんの作るご飯、本当に美味しいね」


「ですね!」


姫柊さんもすっかり機嫌を直したようで、ニコニコしながら箸を進めている。


早乙女さんはふふんと笑いながら、鼻をひくつかせた。


「それでプラモの方は完成しそうなの?」


「姫柊さん、どう?」


「えと、まだ30%ぐらいですかね…?」


彼女に任せて副菜にも手をつける。ほうれん草は箸でつかむと出汁が溢れ出して、口元に持ってくると胡麻ごまの香りが食欲を進める。


米がいっそう美味く感じる。やはり日本人は米だと遺伝子から感じるようだ。


「結構道のりは長いんだ」


「この調子なら、明日の朝ごろには終わると思いますよっ」


「まったく、徹夜は感心しないなぁ」


「平坂くんはどうです?」


「徹夜までは自信ないけど、楽しいしもう少しやりたいかな」


楽しいという言葉に姫柊さんがぴくんと反応して、彼女が笑顔にかわる。そのまま身体をよせてきて、僕に肩をくっつけてきた。


「ふへっ、平坂くんも作りたいですよね、よねっ」


姫柊さんの美貌でも陰気が隠しきれていない。なんで時々この人は気持ち悪くなるんだろうか。


「日付が変わるまでにはちゃんと寝ること、いいね」


「「はーい」」


その後はひたすら姫柊さんからプラモの蘊蓄うんちくを聞かされつつ、美味しい食事はあっという間にお腹の中に収まっていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あとはこのパーツ同士を合わせれば……」


「出来た〜〜〜〜〜!!」


赤を基調としたアンドロイドにヒロイックなマスクがつけられ、僕の初めてのプラモデルが完成した。


「素組みとはいえ、初心者でこの速度はめっちゃセンスありますよ!」


「そ、そうかな…」


姫柊さんが満面の笑顔で拍手してくる。こうも褒められることなんてこれまで無かったから少し首の後ろがくすぐったい。


窓の外を見ると空は明るさを取り戻していて、鳩の声も遠くから聞こえてくる。思い返せば今日は久しぶりに沢山動いて沢山人と話した。――あ、いや、神なんだっけ。


僕は眠気の限界がきて、机の上に突っ伏した。


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