作って遊ぼう
ぱち、ぱち、とプラモデルのパーツを切り離す音が二人の呼吸音に混じる。プラモデルのパーツがついている板をランナーと言うらしい。そしてちゃぶ台の上にはそのランナーが何枚も並んでいた。
「ゲート処理と言って、切り離した後はデザインナイフで切断面を滑らかにするんです。本当はヤスリ掛けまでした方が奇麗になるんですけど、今回は最初なのでサクっと行きましょう」
隣に座る姫柊さんがボールペンのようなものを渡してくる。しかし先端はペン先のように放っておらず、短いカッターナイフのようなものがくっついていた。
「交互の方向から削ると奇麗になるので、あっ、でもケガには気を付けてくださいね。結構切れ味鋭いので……」
「りょーかい、先生」
寝かせてナイフを入れると表面が曲線にそってなめらかになる。これをランナーから切り離したところ全部にやる必要があるらしい。最初は面倒だなと思ったが、なかなかどうしてパーツが奇麗な表面になっていくのがクセになる。
「それで説明書の通りにその二つのパーツを押し込んで……」
パキっ、と心地よい音がして、二つのパーツが一つに合わさった。
「おぉーー。ちょっと楽しい……!」
「ですよね!次はこのランナーとこのランナーを使って……」
「はいはい」
子供のようにはしゃぐ彼女をなだめながら、パーツをニッパーで切り離してデザインナイフで整えていく。赤と白と目の水色、三色のパーツがそれぞれレイヤーの如く嚙み合わさって、ヒロイックな男性型アンドロイドの顔が完成した。
「顔になってる……!」
「はいっ!平坂くんは手先が器用なんですね、初めてでもこんなに綺麗にできるなんて凄いですっ」
「そんなことないよー。でもぱっと見よく分からないパーツが組み合わさると顔の形になるの面白いね」
「でしょでしょっ!次は胴体ですよ胴体っ!」
先ほど作った顔パーツはちゃぶ台の上に置いておき、説明書の指示通りにパーツをまた切り出していく。楽しい。
「プラモって接着剤とか塗装とか必要で難しいイメージだったんだけど、切って組み合わせるだけでいいんだね」
「昔は必須技術だったんですよー。人間さんの技術の向上に感謝ですね」
そうしているうちに引き戸が開く。白い兎の獣人――早乙女さんがセーラー服の上にエプロンを付けて、僕らの方を見た。
「どう?ちゃんと出来てる?」
「はいっ!平坂くん筋がよくて教える方も楽しくなっちゃいます」
「なら良かった」
胴体も組みあがり、頭のそばに置く。次は腹部を作るようだ。姫柊さんも満足そうに僕の方を見る。
「ところで、信仰を増やすのってどうすればいいか姫柊さんは知ってる?管理人だからって任されたけど、正直全く取り付く島がなくって」
「ん-と、基本的には祈りと崇拝ですね。祠を立てたり儀式を行うことでそれを強められます。あとは逸話を広めたりお賽銭をもらったり……」
「なるほどー。それで僕らは代わりにご利益を受け取ると」
「そうですね。昔なんかは直接立って権能を見せたりしてたらしいんですが、私が生まれてからは聞いたことが無いですね」
「権能?」
「はいっ。ご利益とは別に、私達が使える特殊な力のことですね。たとえば早乙女さんだったら見えない長ーい手足を出すことができたりします」
長い手足……よく分からないが、確かにあの背丈なら料理するときあると便利そうだ。テレパシーっぽいパフォーマンスもしてたりしたのかな。
「恥ずかしいから秘密にしてたのに、勝手にばらさないでよー」
トントントンと包丁の小気味よい音に交じり、キッチンから不服そうな早乙女さんの声が聞こえてくる。姫柊さんはすみませんと両手をあわせて彼女に謝った。そんなに恥ずかしいことなのだろうか?
パーツ同士を組み合わせながら、僕は姫柊さんに尋ねた。
「姫柊さんも権能はあるの?」
「はいっ!私のことよーく見ててくださいね」
彼女は得意げに答えながら立ち上がった。グレーのショーツが目と鼻の先に近づいて、僕は少し後ずさりした。
「ほいっ!ほいっ!ほいっ!!」
姫柊さんが少し後ずさった後、声に合わせて様々なポーズをとる。雑誌で見るような姿勢に彼女の肉体の凹凸が強調されて、僕は思わず視線を外した。不満そうな声で姫柊さんが声を上げる。
「ちゃんと見てくださいよ~、これでもエネルギー使うんですからね」
「は……はいっ」
見よというからには仕方がない……と自分に言い聞かせ、僕は正座して彼女をまっすぐ見ることにした。動きに合わせたゆん、たゆん、と跳ねる彼女のふくよかな肉体は、たとえ控えめな姿勢な時でも刺激が強すぎる。
姫柊さんが肩で息をしながら、得意げな表情で話した。
「はぁ……はぁ……どうですか。このように私はプラモデルの如く衣服を好きに変えられるんですよ!」
「え?」
「まだ下着は作れないので自分で着てるんですけどねっ」
彼女の言葉を理解する前にキッチンの方から早乙女さんの「あっ」という声が聞こえてきた。そのまま慌てた様子でこっちに駆け寄ってきた。
「言うの忘れてた!平坂くんは管理人になるにあたって神々《ボクら》の権能は効かないようになってるの!」
「えっ」
「だって権能で強引に抵抗出来たら管理人の仕事が務まんないじゃん。そこは平等にしないと」
「そうじゃなくて、じゃあ私の姿って……」
視線が僕に集まる。この二人を…特に早乙女さんを誤魔化せる気はしなかった。
「下着姿に……見えてます」
「~~~~~~~~~~~~~っ!!」
声にならない悲鳴を上げながら、姫柊さんは布団の中に隠れた。




