初春荘の管理人
「でも管理人だなんて、僕そういう資格?とか持ってませんよ」
「いーのいーの。ここ普通のアパートじゃないから。あ、君の住んでる101号室を除いてね」
湯呑にお茶を注ぎながら、それが普通のことだというような様子で早乙女さんは話を続ける。
「この初春荘はね、他にもボクみたいな神様が住んでるの。もともとは石巣比売神さまが皆をまとめてたんだけど、天上の座に帰ることになっちゃってね。管理人が不在になって困ってたの」
お隣さんが神様だったなんて、全然気づかなかった。
「早乙女さんが管理人じゃダメなんですか?」
「んー、今住んでる子たちとボクってほとんど同格だから、管理って感じじゃないんだよねー。石ちゃんはボクらより圧倒的に格が高いから良かったんだけどぉ……」
人差し指を頬に当てながら彼女が話す。なるほど、人の身の自分なら全員より格下だから却って角が立たないという理屈だろう。
「あ!もちろん報酬は出すからね。普通のお仕事じゃないからあんまりお給料は出せないかもだけど、私が毎日ご飯を作ってあげる!」
どうせ生きててもやることはなかったし、早乙女さんの料理が食べられるなら願ったり叶ったりだった。
「というか、もしかして敬語の方がよかったですか」
「普通の人間だったらおこだけど、平坂くんは特別許してあげる♪ ……ちょっと面白いし。それに管理人なら立場的にはボク達より上だからねっ」
早乙女さんはふんすと鼻を鳴らした。
「じゃあこのままで……でも管理人なんて何をすればいいんだ?」
「基本的にはお庭のお手入れと、周囲のお掃除かな。後はたまに神の悩みでも聞いてくれればいいよ」
「神の悩みって、そんな大層なものを扱える自信はないけど、大丈夫?」
「まー、とりあえず聞くだけでもスッキリするものだから。何かあったらこの電話が鳴るから聞いてあげてね」
そういうと早乙女さんは柏手を打った。パンともぽんとも付かない音が鳴る。それでも遠くまで響くように感じるのは早乙女さんの力なのだろうか。
……というか片手がないのにどうやって柏手を打ったんだ?いや、気にするだけよそう。膝や机を叩いたのかもしれないし、そのために片腕のことを聞くのも気が引ける。
「えと、今のは合図みたいな感じ?」
「うん!初春荘のみんなに管理人のことを伝えたよ。まぁ流石にすぐにSOSが来るとは思わないけどね~」
直後、黒電話のベルが部屋に響く。早乙女さんと目が合う。彼女は真っ黒な受話器を手にして、僕の方を見て頷く。僕もそれに頷き返すと、白いふわふわが受話器を持ち上げた。
早乙女さんがそれを耳に持ってくる間もなく、受話器から女性の声が聞こえてきた。何を言っているかはうまく聞き取れなかったが、とにかく泣いていて叫んでいることは伝わった。
早乙女さんが困った表情で僕の方を見る。
「ごめん……早速助けてほしいって」
大きな耳がふわりと揺れて、部屋にはしばらくの沈黙が流れた。




