稼ぐぞ信仰!
「それじゃ、投稿しますね……」
「うん……」
あれだけ何度も確認したのに、いざ投稿するとなるとやっぱり緊張する。「ポスト」のボタンへ向かうマウスカーソルの震えが姫柊さんも同じような状況だと物語っていた。
パソコンの動作音だけが響く室内にカチっと左クリックの音が鳴る。少しの読み込み時間の後、画面が更新されて動画つきのポストが投稿された。
僕らはふぅーと吐き出すと座椅子にもたれかかった。それこそ後は神に祈ることしかできなかった。
白色の天井を見つめる。なんだかんだこの一週間頑張ったな。
隣から声が聞こえてくる。
「平坂さん」
「なにー?」
「本当にありがとうございました」
姫柊さんも少し間の抜けた声だった。
「どういたしまして」
もうとっくに夜も更けて、穏やかなまどろみが僕らを包んでいる。僕らはしばらく天井を見つめ続けた。
何分ぐらい経っただろうか。沈黙を破ったのは、意外にも僕らではなく姫柊さんのスマートフォンだった。
ぴこん。
通知音が鳴る。
姫柊さんがスマートフォンを持ち、画面をタップする。僕もそれを覗き見た。
「……!反応よさげですよ!」
「みたいだね!」
更新するたびに数字がどんどんと増えていく。この伸び方だと以前の画像よりもずっと数字を稼げそうだ。
「動画だから画像よりも伸びにくいかなと思っていたけど杞憂だったみたいだね」
「あとは信仰に繋がってくれると良いんですが……」
問題はそこだ。数字が伸びたからと言って信仰につながらなければ意味がない。画像で信仰が稼げたというのもたまたまかもしれないし、画像より稼げるかどうかすら希望的観測でしかないんだ。
姫柊さんの方を見る。少しの間彼女はぼーっと増えていく数字を眺めていたが、突然ぴこんと身体をぴくつかせた。
「……来てます!ちゃんと来てますよ!!」
「本当!?」
姫柊さんの表情が笑顔に変わる。
「はい!これで丸っきり大丈夫ってわけじゃないですけど、写真のときよりも明らかに沢山もらえてます!!」
「おおおお!」
確かな手ごたえを感じながら僕は小さくガッツポーズをした。根本解決とはいかないにしろ、これは明確な進歩だ。
動画なら僕だって手伝えるし、切り取れば画像だって併用することも出来る。動画投稿サイトにも投稿すればリアルタイムでなくても視聴してもらえる可能性だってある。動画で稼げるってだけでこんなにも道が広がるんだ。
「よかったぁ……よかったぁ……」
涙声の姫柊さんが僕に抱き着いてきた。恥ずかしいけど今は嬉しい気持ちの方が勝つ。僕も彼女の背中に手をまわすと、彼女の震えが伝わってきて目頭がじんわりと熱を帯びた。
部屋の中でPCの駆動音と彼女のすすり泣く声だけが静かに響いている。彼女の体温を感じながら、夜は更けていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから3週間がたった。
姫柊さんも僕もだんだんと動画制作に慣れていって、姫柊さんもその容貌もあってか得に躓くことなく収益化可能なラインまで視聴者数を伸ばしていった。
動画だけでなく配信にも手を伸ばして、自信の権能で様々な衣装を見せたりサブスクライブや御捻りを『お賽銭』と称することで信仰を更に加速させている。……僕からすると下着姿で配信し続けているようにしか見えないので目に毒ではあるのだけど。
そういうわけでひとまず問題は解決したという見込みで、僕は自分の部屋で早乙女さんとまったりとお茶を楽しんでいた。
「一件落着だねぇ」
「ねぇ……」
ずず、と緑茶をすする。
もう春も本格的になって初夏への準備をするように寒さは姿を隠し、レースカーテン越しに入る陽光は程よく心を落ち着かせてくれる。
「黒ちゃんはどう?配信も始めたって聞いたけど問題なさそう?」
「とりあえず今のところは大丈夫っぽいかなぁ……。楽しくなってたのかプラモ以外の配信も始め出したのはちょーっと心配だけど」
「まぁ、実益を兼ねた趣味なら良いんじゃない?」
「それもそっかぁ」
あれから結局黒電話も鳴らず、僕も姫柊さんの動画制作やしろうさ商店をときどき手伝うぐらいで穏やかな日々を過ごしている。
「この部屋もプラモが増えてきたねー」
「なんだかんだ楽しくなっちゃって……」
お給料を貯めて買った棚には8体のプラモデルが飾ってある。元々は姫柊さんからの対価という話だったけど、最早それも有名無実化していて趣味で作っているような状態だ。
そろそろ塗装にも挑戦してみたい。自分の部屋にも塗装ブース用意してみたいし、ミキシングとかも試してみてもいいかもしれない。
「平和だねぇ……」
早乙女さんも耳を垂れさせながら目を細めている。平穏無事。まさにその一言であらわすべき日常だった。
その時、玄関の呼び鈴が一度鳴った。
「誰か来たのかな?」
早乙女さんが徐に立ち上がる。
そしてその呼び鈴の音がこの平穏を崩す合図だったことを、この時の僕らには知る由もなかった。




