反省のご飯
「すみませんでした……」
「僕はどちらかというと被害者なんだけど……」
「言い訳しないっ!」
風呂上りに正座させられて、僕らは早乙女さんに説教されていた。彼女の大きな耳はいつもよりもピンと鋭く尖ってまるで角みたいになっていた。
「呼ぼうと思ったら部屋に居なくて何してるのかと思ったら、全くもって不純すぎる!!」
「ど、動画編集の対価のつもりだったんですが……すみません」
「問題は黒ちゃんの方じゃないっ!!」
「「えっ?」」
彼女の意外な発言に僕らは素っ頓狂な声を上げた。
顔を真っ赤にした早乙女さんは、意外にも僕の方に巨大なしゃもじを向けた。
「いいいい、いくらなんでもロリコンが過ぎるだろ!く、黒ちゃんはまだ生まれて50年も経ってないんだよっ!!」
ええ……。いくら何でもそれは理不尽じゃないか?横目で姫柊さんを見ると、僕と同じように思っていたらしく、困ったように眉をひそめながら首をゆっくりと傾けた。
「まったく最近の若者というものは、節度以前に常識というものを持ってほしくてだなー」
「で、でも人間の基準でいえば姫柊さんはどう見ても大人の女性なんだけど……」
「それは君たちの尺度だろ!?……ってそりゃそうか」
あれー?と首をかしげる早乙女さんを見て僕はガックシと肩を落とした。尺度があまりにも違い過ぎる。というか早乙女さん視点だと僕が一方的に悪いことになってたのか……。
姫柊さんも困ったように笑いながら僕の頭を撫でている。姫柊さんはSNSで人間社会に溶け込んでいる分、僕らの思考に近いのかもしれない。
……いや、早乙女さんもしろうさ商店で話してるはずだけど?
僕の疑問を強引に払うように早乙女さんがしゃもじの底で床を一度叩く。
「兎に角だ!あんなえっちなことは禁止!黒ちゃんも別の形で対価を支払うことっ!いいね!!」
「「はーい」」
気の抜けた返事をして僕らは布団の上に寝転んだ。なんだかどっと疲れた。お腹も空いた。早乙女さんのご飯が食べたい。でもそんなこと言い出せる雰囲気じゃないしなぁ……。
横で同じように寝転がっている姫柊さんの方を見る。重力でたわむ彼女の胸部に焦点が行きかけて、慌てて奥の壁の方に目線をそらした。
あの時はもう少しで理性が挫けるところだった。もし僕が本能のまま彼女をを押し倒した後に早乙女さんが来ていたらと考えると肝が冷える。
そう思慮にふけっていると姫柊さんが僕の方を見て口を開いた。
「そういえば動画出来たんですよね?あとで私にも見せてくださいね」
「あ、そうだね。もうエンコードも終わっただろうし、あとでクラウドに上げとくよ」
「ありがとうございますー。あ、それと対価は……」
早乙女さんの咳払いが聞こえる。
「またプラモ作るの手伝ってよ。プラモの代金分が対価ってことで」
それを聞いた姫柊さんの顔がぱぁっと花開いた。
「そうですね!ちょうど平坂くんと作りたいプラモがあったんです!」
「へー、どんなの?」
「創彩少女庭園というシリーズの小石川 エマっていう女の子のプラモで、この前使ったメフィストさんとよくカップリング組まれてるんですよ~」
「女の子のプラモもあるんだね、ちょっと興味あるかも」
「なら対価はそれでお願いします!」
「じゃあ話しまとまったところで、ご飯にするよー」
「「やった~~~~!」」
僕らは布団から飛びのいて101号室へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「「いただきまーす!」」」
3人で食卓を囲みながら、僕らは箸を手に取った。
「今日はなんと松川カレイが手に入ったので、贅沢にムニエルにしてみました!!」
「おぉ~~~」
松川カレイなんて人生で食べる機会はないと思っていた。箸で崩すと身はシッカリと弾力をもって奇麗な塊になってつかめる。米にバウンドさせてから頬張る。
口当たりは白身魚らしい淡白な味わいなのに噛むたびにうま味がぎゅっと溢れ出して、少し食べただけなのにご飯が進む。旨い!
それにパリパリした皮の食感もいいコントラストになってるし、チラリと感じるレモンの酸味も食欲を進ませてくる。
「材料の味を活かそうと少し薄味にしたけどどうかな?」
「めっちゃいい!!カレイってこんなに美味しいんだね」
「ふふーん♪。みんな頑張ったからね、今日はご褒美だヨ」
「カレイってあの平べったい魚ですよね?……そんなに良いんですか?」
姫柊さんは怪訝そうな顔で僕らを見た。早乙女さんは鼻をヒクヒクさせながら答える。
「むふー。時期にもよるけどキロで一万ぐらいはするからね。覚悟して食べるんだぞ」
「い、一万……」
姫柊さんの手が止まる。大丈夫、キロで一万円なら少なくともそのさらに一万円は乗っていない。……まぁそれでも結構な額はするのだけど。
彼女は恐る恐るムニエルを口に運び、一度租借した後にぱあっと表情を輝かせた。気持ちは分かる。カレイという魚のイメージとは全く異なり、うまみをたっぷりと含んだ正統派な良い味がするのだ。
「おいしい……!」
「でしょ~~♪ 」
醤油ベースなのも白米が進んでいい。それに早乙女さんの言う通り複雑じゃないのに重層的な味わいだ。
あっという間に食事は進み、皿の上から料理が消えていく。このままでは本当に太ってしまいそうだ。でも姫柊さん的にもそっちの方がいいらしいし、まあ良いか……。
早乙女さんは相変らずご飯を食べる僕の方を恍惚とした表情で見ている。彼女にとってはこれが人生のご褒美だと言わんばかりの様子だ。ただ、ご飯を食べるだけでここまで喜んでもらえるというのも少しこそばゆい。
空になったお皿の前で皆で両手を合わせる。これもすっかり習慣になった。
「「ごちそうさまでした」」
「おそまつさまでした♪」
みんなで食器をシンクにもっていき、早乙女さんがお皿を洗う。これも習慣化している。個人的には作ってもらっている身分だし皿洗いぐらいさせてほしいのだが、彼女曰く空になったお皿を洗うのもまた一興らしい。
そんなわけで暇を持て余した僕らはお互いに動画と投稿する文面のチェックをして、それぞれ問題ないことを確認した。




