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がんばれ!姫柊さん

酒盛りの翌日、僕らは改めて姫柊さんの部屋に集合することにした。久しぶりのアルコールにまだ慣れていない身体を動かしながら、僕は彼女の住む106号室のチャイムを鳴らした。


ほどなくして姫柊さん――Tシャツ一枚にレギンスと相変わらず薄着姿だが――がドアから顔を覗かせて僕を招きいれた。意外だったのは、靴を脱いだ後に彼女が僕の手を引いたことだった。


あっけにとられる僕の方を見て、彼女がくすりと微笑ほほえむ。自然体ながら艶やかなその視線に思わず僕の身体は電流が走ったように硬直してしまった。


「ひ、姫柊……さん?」


「ふふっ。どうしたんです?」


「いえ……」


吸い込まれるように彼女の部屋へと連れていかれる。しかし戸を引くと部屋にはすでに早乙女さんがちこりんと座っており、僕は二つの意味で大きなため息を吐いた。


「平坂くんどしたの、そんな疲れた顔して」


「いや助かったよ、ありがとう……」


「??」


昨日と同じ場所に座る。離れていく彼女の手の平が少しだけ名残惜しかったが、同時にこのままだと心臓が爆発しそうだったので助かった。


そうしてちゃぶ台の周囲に3人がつく。


少しの間お互いに様子見をする時間が流れたが、最初にその沈黙を破ったのは早乙女さんだった。


「えと、平坂くん。君に道を示した神としてボクの意見を表明させてほしい。黒ちゃんを働かせる案にはボクは賛成できない」


意外な一言に姫柊さんが肩を一度震わす。


「理由を聞いてもいいかな」


「いいよ。理由は二つ。一つは単純に黒ちゃんに働くのが向いてなさそうだから。もう一つは……多分ボクと同じやり方だと信仰の量が足りないと思うから」


「信仰が足りないって?」


早乙女さんがちらりと横目で姫柊さんを見る。


「しろうさ商店での取引は、実はボクの信仰に縁がある行為なんだ。だから得られた信仰がボクの方へと正しく伝わってくる。でもプラモデルを司る黒ちゃんが同じようにやったとしても、プラモデルの神様の方向に伝わるとは限らない。……寧ろつながらない可能性の方が高いんだよネ」


「でも、それだったらプラモデル屋や売っているお店でバイトするってのは?」


「勿論それなら稼ぐことはできると思うよ。でもその場合は『お賽銭』という形も取れない。権能を見せているわけでもないから儀式面での増加も見込めない。……つまり、黒ちゃんを現世に留めておく分だけ稼ぐのは難しい」


僕は返す言葉を失った。作戦が暗礁に乗り上げたというのもある。しかし、そのことよりも自分の思考の短絡さを自覚したからだ。


確かにそんなことで解決するなら姫柊さんはもとより僕に頼る必要なんてない。早乙女さんと相談して解決する話だ。


「すみません、思慮が浅かったです……」


「いや、ボクの見せ方も悪かったよ。信仰を稼ぐ件については改めて考えなおそう」


別に状況が変わったわけじゃない。宗教に入っているわけでもない自分にそんなこと出来るのだろうか。それにプラモデルの信仰だなんて……。


ダメだ、思考を切り替えないと。2人も困って僕に相談してきてるんだ。それに助けて貰った恩を返すのに今ここで踏ん張らないでどうする。


「えと、状況を整理しよう。信仰を稼ぐには対象……プラモデルへの祈りや崇拝、もしくは姫柊さんへのお賽銭が必要なんだよね」


「うん。それに金銭じゃなくて献品でも構わないのと、あとは儀式をしたり権能を見せることで効果を高めることもできるかな」


早乙女さんの言葉を頭の中で繰り返す。儀式・権能・献品……信仰。プラモデルと結びつけるにはあまりに遠い言葉だ。


それにもっと大事なことがある。姫柊さんの気持ちだ。嫌々やっても長続きしないだろうし、なにより僕のようにこの世界のことを嫌いにならないでほしい。


「姫柊さんはどう?たとえば最近信仰を感じたことはない?」


「最近ですか?えーと……」


少しの思慮の後、姫柊さんはあっと声を上げた。直後彼女が取り出したのは意外にもスマートフォンだった。


「これですこれ!この写真を上げた後、ちょっと信仰が増えたんです!!」


僕らに向けてスマホの画面を突き付ける。画面にはSNSのとあるポストの画面が表示されていた。


『こんにちは姫柊です。プラモ初めての子と一緒につくりました。ぶいぶいっ』

 リポスト:249 いいね:3632


「これです!!この時来たんですっ」


……なにこの拡散力。というかフォロワー多くね?


いや、それより今大事なのはこれで信仰が増えたということだ。僕らが作ったメフィストというプラモデルの写真の乗ったこのポストで、何故?


早乙女さんの方を見る。彼女も怪訝そうな表情で、首をひねりながら言った。


「わかんないけど、敬意とか羨望みたいな形で信仰に変換されたのかな」


「なら、このまま姫柊さんがプラモを作り続ければ……!」


彼女が首を横に振る。


「これまでもプラモのツイートはしてきましたし、増えた分はちょっとだけですから、作るペースを考えると足りません」


「そっかー……」


再びの暗礁。それでもこれは大きな収穫だ。SNSにそこまで詳しくはないけど、ただのプラモデルの写真でこれだけの反応を得られるのはかなり凄い状況だと思う。彼女の持つ拡散力はそれだけ多くの人間から信仰を集められる可能性を秘めているんだ。


「画像でも十分稼げるとしたら、他の媒体だとどうなんだろう。たとえば動画だったらもっと稼げるとかないかな」


「ど、動画ですか?声とか入れるって事でしょうか……?」


「黒ちゃんが嫌なら大丈夫だよ。あくまで黒ちゃんの気持ちが大事なんだから」


早乙女さんの言い方を聞いて、僕は子供の頃のことを思い出していた。親の顔色をうかがって塾に行きたいと言ってしまった時のことだ。


何かを決めることは常にある程度の負荷がかかる。加えて失敗したときに自分の責任になってしまう。もちろん姫柊さんがすることだから理想的に言えばその方がいい。でも僕はそうする事の辛さを良く知っていた。


姫柊さんは僕らの顔を交互に見ている。あの時の僕と同じ、自分の意志よりも他人の意志を優先している顔だ。保護者として、彼女の相談役としてやるべきことは決定の意志を彼女にゆだねることじゃない。


「とりあえず、実験でいいから一旦やってみない?姫柊さんに向いてなさそうだったら途中でも僕が止めるから」


姫柊さんの目が少し開いた。彼女の肩の荷を少しでも肩代わり出来たらよかったのだけど。


「そういう感じなら、一度やってみたいです!」


「本当!?」


早乙女さんが身を乗り出した。姫柊さんも握りこぶしを作ってやる気になっているようだ。


僕らは早速どういう動画が信仰を稼げそうか、お試しでやるならどうするのがいいか、作戦を練ることにした。


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