謝罪と仲直りとご飯と
「ごめんって、でも話を聞いてほしいんだよ」
「嫌です!いくら平坂くんの頼みでも労働だけはダメです!!」
姫柊さんは布団にくるまって動かない。無理やり引きはがそうとしても、女神だからなのか力が強くてピクリとも動かない。
「頼むよ姫柊さん……!安定して信仰を稼げるのは大きいんだって!」
「嫌です!私はプラモで遊ぶためにこの世に来たんです!!なのに働かなきゃいけないなんてぜぇ~~~~~~~~ったい嫌です!!」
なんか碌でもないことを言っていた気がするが、正直自分も定職についてないし反論の余地がない……。
いや、今は心を鬼にするしかない。僕は布団と床の間に足を引っ掛けて強引に布団を転がした。相変わらず薄着姿の姫柊さんが布団からまろび出て、そのままだんごむしのように丸まった。
「ひぐっ、ひぐっ……」
「姫柊さんの命がかかってるんだから、こればっかりは譲れないよ……」
いても立ってもいられなくなり、僕は姫柊さんの頭を撫でた。しかし以前と異なり嫌々と頭を横に振り続けている。
「だいじょーぶー?」
早乙女さんが心配そうな顔で部屋に入ってきた。僕らの様子を見るや否や少し困ったように笑いながら、一緒に姫柊さんの頭を撫でる。
「平坂くんが泣かしたの?」
「すみません。強引すぎでした」
「全く、しょうがないなぁ」
早乙女さんが退くようにジェスチャーをするので一歩下がると、彼女は姫柊さんの前にしゃがみ込んだ。
少しの間、早乙女さんが姫柊さんの泣く様子を見る。僕は手持無沙汰で立ち尽くしていた。罪悪感と無力感がこみ上げてきて、胸の奥が苦しい。
彼女が僕の方を振り返る。
「ここはボクに任せて、平坂くんはいったん食事を楽しんでおいて」
普段より一段落ち着いた声色だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
彼女の言葉とは裏腹に、一人で食べる鍋は楽しめるものではなかった。もちろん早乙女さんの味つけは素晴らしいのが、味わう僕の方がそれを正しく受け止められないのだ。頭の中は姫柊さんにどう謝ろうかで一杯だった。
机に置かれた姫柊さんの飲みかけのビール缶を見る。僕は小さくため息をついた。
思い返せば僕が全面的に悪い話だ。働かなきゃいけないというのは人間のルールだし、ましてや仕事をしているわけでもない自分に言われても説得力なんて欠片もない。
彼女のために何かしたいけど今は何もできない、するべきではない。そのことを考えると食事も殆ど喉を通らなかった。
せめて何か役に立ちたいと思って料理に使った調理器具を洗ってみてはいるが、申し訳ないと思う気持ちはいっそう強まるばかりだった。
その時、玄関のドアがゆっくりと開いた。白くふわふわした早乙女さんが先に入ってきて、彼女に先導される形でうつむきがちな姫柊さんが入ってきた。
「あっ……」
漏れ出た僕の声に姫柊さんの肩が少し動く。僕は思わず目をそらしてしまった。
洗い物に意識を集中する僕のシャツを、早乙女さんの白くふわふわした左手が引っ張る。「食べよ」と優しい声で僕を誘い、僕は彼女に続いた。
席につく。早乙女さんが卓上のガスコンロの火を点けて、しばしの沈黙の後に鍋が再びぐつぐつと音をたて出した。
「「あ、あのっ」」
僕と姫柊さんが同時に声を出した。
「「ど、どうぞ……」」
再び同時に声を出す。おかしくなって僕が笑い出すと、釣られて姫柊さんも笑い出した。
頭を下げてから、僕から切り出すことにした。
「じゃあこちらから。姫柊さんごめん。姫柊さんの気持ちも考えずに無理やり仕事させようとしちゃって、間違いだった」
「いえいえ、こちらも動転してすみませんでした」
姫柊さんは一度頭を下げる。その後飲み賭けだったビール缶に口をつけた後、姫柊さんが僕の方を見た。
「……あの、私もお仕事します」
「えっ、でも仕事はしたくないんじゃ」
「なんでも……は難しいかもしれませんが、それでも、私も頑張りたいんです。それに……」
「それに?」
彼女は首を横に振った。
「いえいえ、忘れてください!」
「まーまー、まずは仲直りってことで。仕事の話は明日にして今日は食べようよ」
その意味を考える間もなく、早乙女さんが僕らに小皿を渡してきた。僕らが話し合っている間にお鍋からよそっていたようだ。
「ですね。早乙女さんの左手のお祝いもありますし」
「そういうこと!」
「じゃあ改めて……」
「「「いただきます!」」」
その日のご飯は、この2日間で一番おいしく感じた。




