第14話 スキル習得
神々の助言に背中を押され、ふと思い出した。
【スキル習得】――そんな項目が、確かに【メニュー】の中にあったはずだ。
胸の内に小さな期待と、不安めいたざわつきを抱えながら、俺は指先で画面を開く。
淡く光を放つ一覧表が一行ずつ姿を現した。
――剣士 10p
剣の扱いに長ける。
――槍士 10p
槍の扱いに長ける。
――弓士 10p
弓の扱いに長ける。
――斧士 10p
斧の扱いに長ける。
――拳士 10p
拳での戦闘に長ける。
神々によれば、この中から最低でもひとつを習得しなければ、俺みたいな平民はすぐに死んでしまうらしい。
剣士、槍士、弓士――。
選ぶなら、この三つのどれかだと自然に思えた。
剣士は、言わずもがな俺の憧れだった。
幼い頃、村の外れで見た放浪剣士の影を、今でも覚えている。
夕日を背にして振るわれた剣先は、少年の俺には英雄そのものに映った。
槍士は、一定の距離を保ちながら敵を穿つ洗練された戦法。その一撃には、剣とは違う静かな迫力があった。
そして弓士。
遠距離から敵を屠る……怪我をする心配が一番少ない武器。
正直、安全圏から勝利を掴めるなら、それが一番性に合っている気さえする。
:で、どれにする?
神々は、まるで審判を待つかのように沈黙していた俺の選択を、じっと見つめている。
「……弓士にしようかな、って思ってる」
ためらいがちに本心を漏らした瞬間――
:こいつアホだわ
:あーやっぱり農民か
:なんも分かってねぇな
:どうせ遠くから射抜いて楽したいだけだろ
:弓士はやめとけ
「なんでだよ。弓士は一番安全だって分からないのか? 怪我したら意味ないだろ」
気づけば少し語気が強くなっていた。
自分でも、ムキになっていたのが分かる。
だが、それが気に障ったのか、コメント欄は怒涛の勢いで埋め尽くされていった。
:モンスターが単独で行動するとは限らん
:接近されたら終わり
:仲間いないんだろ?
:矢が尽きたらただの的ね
:狭所戦どうすんの?
:遮蔽物多いと当たらんぞ
:風で軌道狂うの知らんのか?
:奇襲されたら弓なんか構える暇ねぇよ
画面を睨みつける俺の顔は、間違いなく歪んでいただろう。
だが――どれも、反論できないほど的を射ていた。
口の悪い神々を前にしても悔しさを覚える日は来ないと思っていたが、どうやら甘かったらしい。
胸の奥で、じわりと無念が滲む。
「……なら、どれがいい?」
自分でも驚くほど素直な声が出た。
口の悪い神々ではあるが、先程から彼らの意見は的を得ている。そこはさすがに神と言うべきか。
:その中だと無難に剣士
:拳士もおすすめ。武器破損しても戦える
:ただし装甲持ちには微妙
:槍士と斧士は持ち運びクッソだるそう
:狭い空間じゃ不利だしな
:剣士は短剣・長剣・大剣まで扱えるぞ
:ソースは?
:↑ググれカス
:ソース星人うざ
「……剣士、か」
小さく呟くと、胸の奥にひそりと熱が宿るのを感じた。
本当は、ずっと憧れていた。
けれど剣は、騎士や貴族が振るうもの――農民の俺には似合わないと思い込み、外していた節がある。
ハヴィス――あの貴族に会ったことも影響していたのかもしれない。
だが。
神々が勧めてくれるのであれば、選ばない手はない。
俺は一度深く息を吸い、胸の内の濁りを吐き出してから、そっと目を閉じた。
己が剣を振るう姿を、想像してみる。
風を裂く剣閃。
大地を蹴り、敵へと走る自分。
稚拙ながらも、確かな闘志を帯びた剣先――。
「……ぐふっ。悪く、ない」
無意識に口元が歪み、頬が緩む。
たぶん、今の顔は相当気持ち悪い。
:ニヤけすぎだろ
:一体どんな妄想してんだよ
:ピンチのユリアナ助ける妄想?
:ユリアナちゃん聖堂十二宮だぞ
:え、マジ?
:↑後でアーカイブ見ろ
:こいつが聖堂十二宮助ける未来なんかねぇよwww
:いや、配信者に選ばれたんだしワンチャンあるだろ
:使いこなせればの話な
:その前に脱落するに一票w
脱落、なんのこっちゃ。
今はそんなの無視無視。
ここから俺の英雄譚が始まるんだもんな。
想像するだけでわくわくが止まらん。
「よし! 俺は――剣士スキルを習得する!」
勢いよく画面に触れる。
【剣士 10p】をタッチすると、見慣れた確認画面が淡く浮かびあがった。
【剣士スキルを習得しますか?
はい/いいえ】
この手順にも、もう慣れてしまった。
迷うことなく【はい】を選ぶ。
――ピー。
【ポイントが不足しています】
「……は?」
脳内で歪に甲高い音が跳ねた。
不快な音に思わず顔をしかめてしまう。
「ポイント……そういえば……」
そんな説明書きを読んだ気がする。
“人生を面白おかしく神々に見せることで評価を得、その評価がポイントになる”――そんな感じの内容だったと思う。
そして、その“人生を面白くする”ためには、当然剣士スキルが必要となる……。
「……詰んだ? いやこれマジで詰んだだろ……」
胸の熱は一気に萎み、やる気が霧のように散っていく。
神々の期待に応えるどころか、冒険者になる前に人生が沈み始めた気さえした、そのとき――
:メニューからメールBOXを開け
:初回ポイント受け取れ
:それで剣士スキルいける
「お、おお……!」
絶妙なタイミングのコメントに感謝する。
先ほどから思っていたが、意地の悪い神々の中に、時折とても親切な神が混じっている。
――福神様、これから彼らのことは福神様と呼ぼう。
勝手にそう名付け、画面を開く。
メールBOXの中には初回ボーナスとして【30p】が用意されていた。
迷うことなく再びスキル画面を開く。
【剣士スキルを習得しますか?
はい/いいえ】
「今度こそ……!」
震える指で【はい】を押す。
刹那、画面から淡い光がふわりと浮かびあがり、蛍のように揺れながら俺の胸へ吸い込まれていく。
「くっ……こ、これは……!?」




