第四十七話 物欲
「グオオオオオオオオオオオオオ!!!」
フェンリルが、獣の雄たけびをを上げる。獣の雄たけびは、自分よりレベルの低い者に恐怖を与えて行動不能にするスキルだった。
「ぐっ!」
「なっ! 体が!」
「うわわわ!」
フェンリルの雄たけびを聞いた人間達は、恐怖で足がすくんで震えだしたり、その場にしゃがみ込んだりしている。
「む、無理だ。こいつは倒せない……」
「恐ろしい……これがSランク上位のモンスターか」
フェンリルは人間達をにらみながら強烈なプレッシャーを放っていて、この場にいる人間達は恐怖で震えていた。だがライトウィングギルドのエースパーティの三人は、そのプレッシャーに負けずに前に歩き出し、フェンリルの前に移動する。
「ドラゴンオーラ!」
「戦乙女の誓い!」
「魔法装術! からの魔力チャージ!」
彼らは能力強化系のスキルを発動し、三人の体が赤いオーラに包まれる。さらに魔法使い風の女性は、魔力を集中させて高めている。
「むっ、プレッシャーが少し和らいだ」
「ほんとだ。体が動く」
フェンリルの意識がライトウィングギルドのエースパーティに向いたので、ほかの覚醒者達に少し余裕がでてきた。
「体は動くようになったが、足が前に出ない」
「俺もだ。あんな奴とはとても戦えない」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
フェンリルが再び獣の雄たけびを上げると、覚醒者達の感じていた恐怖がさらに増大する。
「うわわわわわわわわ!」
「逃げろ!!」
「引けーーーっ!」
「撤退だ! 撤退するぞ!」
覚醒者達と自衛隊員達は、フェンリルにおびえながら急いでこの場から離れていく。
「みんな、いけるか」
「おう。ほかの奴等が逃げる時間くらいなら稼げるぞ」
「やりましょう」
「あいつらの援護くらいしてやるか」
浅井と彼のパーティメンバーは、ライトウィングギルドのエースパーティの三人に続いてフェンリルの前に歩いていく。
「このプレッシャーの中で前に歩きだせるとは、さすがライトウィングギルドだな。だが俺だって負けない。榊原。いけるか?」
「もちろんだ」
ドラゴンファングギルドの酒井と榊原も、フェンリルに向かって歩きだす。
「恭子。私達も行くよ」
「うん。鈴木君とあずさは、うちのメンバーを連れて撤退して」
「わかった。あいつらのことはまかせろ」
「二人共、無理しないでよ」
明日香と島もフェンリルに向かって歩きだす。これでフェンリルの前に、日本にいる十一人のSランク覚醒者全員が集まった。
「アンリちゃん、本条君、撤退しましょう」
「はい」
「……」
成田あずさのその言葉に、アンリは素直に従おうとするが、星斗は返事をせずに考え事をしている。
(今の俺の強さでは、フェンリルとはとても戦えない。でもSランク上位のモンスターなら、絶対、強いユニークスキルを持ってるはず)
「本条君?」
(勝つ必要はない。十五メートル以内に近づけさえすれば……)
「本条君!」
「えっ? は、はい」
成田とアンリの声を聞いて、星斗は我に返る。
「恐怖で混乱するのはしかたないわ。さあ、撤退しましょう」
「ええと……」
「まだ混乱してるの?」
「いや、俺はここに残りたいんですが」
「えっ?」
「えっ?」
星斗の言葉に、成田とアンリが驚く。
「む、無理よ! フェンリルは、明日香達でも生き残れるかわからないほどの敵なのよ!」
「そうだよ。私達じゃ、とても戦えないわ」
「いや、フェンリルは逃げる人間を見ても動いてない。たぶんライトウィングギルドの人達を警戒してるんだと思う。最初の攻撃もエースパーティの人がバリアで防いでいたし、勝算はあるはず」
「なら本条君は、明日香達みたいにこのプレッシャーの中、フェンリルの前に立てる? ここに残れるのは、フェンリルの前まで進むことができる人だけだよ」
「なら……」
星斗は炎の剣と精霊の盾を構えながらフェンリルに向かって歩いていく。
「なっ! 私でも怖くて前に進めないのに!」
星斗が迷いもなくフェンリルに向かって歩いていくのを見て、成田が驚く。
(フェンリルのユニークスキルをコピーできれば、俺はもっと強くなれる。あの人達の足手まといにならないくらいに強くなれるはずだ)
星斗は、恐怖より、強いユニークスキルを手に入れたいという物欲の方が勝っていた。
「このプレッシャーを克服できるなんて、本条君はいずれSランクになれる素質があるんでしょうね。あっ、アンリちゃんは駄目だからね」
「はい。ここは私も引きます。お姉ちゃん達の邪魔したくないですし」
「ふぅ、よかった。アンリちゃんまで残るって言ったら、私が明日香に怒られるところだったわ。じゃあ、撤退しましょう」
成田とアンリが走って撤退を開始する。その間もフェンリルはその場から動かず、Sランク冒険者達とにらみ合いを続けていた。
(シルバーナイト達を召喚するのはやめておこう。今の俺達の強さでは、明日香さん達の邪魔になる)
星斗は熟練度のことを考えるとモンスターを召喚したかったが、それはせずに一人で歩いていく。
「本条君!? どうして?」
星斗が明日香と島のいる場所まで来ると、彼女達がその姿を見て驚く。
「私でも足が震えてるのに、ここまで来るなんてね」
「へー、一歩進むごとにフェンリルのプレッシャーが強くなるのに、ライジンギルドの新顔はなかなかやりますね」
星斗の姿を見て、浅井がそう話す。
「彼はうちがスカウトした期待の新人なんですよ」
「新たな強者の出現は大歓迎です」
「浅井君。そろそろみんな離れたから、始めていいかな」
覚醒者達と自衛隊員達が、この場からかなり離れた場所まで撤退したのを見て、ライトウィングギルドのエースパーティの戦士風の男性が浅井にそう話す。彼らは皆が避難するのを待っていたようだ。
「うん。頼む。俺達も可能な限り援護するよ」
「了解。じゃあ……摩利支天顕現!」
戦士風の男性は、持っている剣に揺らめく特殊な魔力をまとわせ、フェンリルに突撃していく。
「ウルスラグナ召喚!」
次に戦士風の女性が、美しい白色の毛並みの馬を召喚し、その背中に乗ってフェンリルに突撃していく。
「グオアアアアアアアア!」
「竜牙一閃!」
「ハイオーラブレード!」
フェンリルとライトウィングギルドのエースパーティとの戦いが始まった。
次回 Sランクユニークスキル に続く




