第三十〇話 天満ダンジョン戦
「よ、よろしく……」
星斗と目があった明日香は、小さな声でそう挨拶する。
「ええと、よろしくお願いします」
「お姉ちゃん、極度の人見知りなの」
「なるほど……」
「国内第三位のギルドマスターなのにねー。テレビの取材とかも断ってるから明日香の顔も誰も知らないし。それにマスコミ対策は私がしてるから、私の仕事が増えちゃってねー」
ライジンギルドの副ギルドマスターの島が、明日香の顔を見ながらそう話す。
「ダンジョンじゃ迷惑かけてないんだからいいでしょ!」
「そうなのよ。戦いになると人が変わったかのように強くなるんだから不思議だわ」
「もう、私のことはいいの!」
明日香はライジンギルドの仲間とは普通に話すことができるようだ。その後、豪華な鎧と盾を装備した筋肉質で短髪の男が星斗に挨拶する。
「俺は鈴木秀幸だ。このパーティの前衛を担当してる」
「私は成田あずさ。後衛で、攻撃魔法と回復魔法が使えるわ」
続いて明日香の前にいる魔法使い風の色気がある女性が挨拶する。
「本条です。よろしくお願いします」
「よろしくね」
「さあ、あいさつも済んだしダンジョンに入りましょう。ああ、報酬の件だけど、貢献度によって明日香が戦利品の分配を決めることになってるから。それと本条君はアイテムボックスを持ってるのよね」
「はい」
「じゃあ、戦利品をアイテムボックスで運んでもらえれば、その分の報酬を渡すことになるわ。あとは私達と一緒にいれば経験値ももらえるから、それも報酬といえば報酬ね」
「わかりました。ありがとうございます」
(経験値増加があるから、Aランクモンスター相手なら、かなり経験値がもらえるはず。俺には得しかない)
「じゃあ、中に入りましょう」
星斗達は、天満ダンジョンの入口で覚醒者協会の職員に覚醒者カードを見せて中に入っていく。天満ダンジョンの一階は迷路のような通路になっていて、その通路を歩いている途中、成田が星斗とアンリに話しかける。
「戦いになったら、アンリちゃんと本条君は、私と一緒に後衛で待機ね。明日香達が強いから、後衛まで敵の攻撃は滅多に飛んでこないから安心よ」
「そんなに強いんですか」
「そりゃあ、明日香と恭子はSランクだし、鈴木君は防御力だけなら明日香達より高いからね」
「なるほど」
(後衛か。Aランクモンスターが現れても、たぶん十メートルに近づけない。まいったな……)
「おっ、最初の敵発見!」
島は、通路の先から近づいてくる三体の人型のモンスターに気づく。
「あれはBランクのオーガね」
「さっさと片づけちゃいましょ」
前衛の三人が武器や盾を構えて前に出て、後衛の成田と星斗とアンリは、その場で待機する。オーガは、頭に二本の角があり、肌が青色で身長が二メートルくらいある筋肉質の人型のモンスターで、三体とも鋼鉄製の胸当てと巨大な鋼鉄の斧を装備していた。
(Bランクのオーガか。何のユニークスキルを持ってるんだろう。あの体だから力激化とか持ってそうだ)
「はっ!」
「やーーーーっ!」
明日香は高速の動きでオーガに剣で斬りかかり、恭子は大剣を豪快に振るってオーガに斬りかかる。鈴木はオーガの斧の斬撃を巨大な盾で受け止めつつ剣で反撃している。
「スキルも使ってないのに圧倒してる」
前衛の三人は、余裕を持って三体のオーガと戦っていて、後衛の場所までオーガが来るとは星斗には思えなかった。
(まあ、Bランクだし、無理しないでチャンスを待とう。本番はAランクモンスターが現れた時だ。今は強い人達の立ち回りを見ておこう)
星斗は明日香達の戦いを見学している。
「はっ!」
一方、明日香は、高速の斬撃を放って最後のオーガを倒して戦闘が終わる。彼女達はこの戦いで傷一つ負ってなかった。
「さすがSランク覚醒者だ。Bランクなんて相手にならない」
「ダンジョンでのお姉ちゃんの戦いを初めて見た。ほんと、人が変わったかのようにカッコいい。家じゃあんななのに……」
アンリは、明日香の家での姿とダンジョンでの姿が、あまりにも違うので驚いている。
「家での朝比奈さんのお姉さんって、そんなに違うの?」
「全然、違う。ずっと部屋に閉じこもって『色違い来い!』とか叫びながらゲームばかりしてるし」
「ちょっとアンリちゃん! 余計なことは言わなくていいの。アンリちゃんは、私がモンスターを倒すところを見てればいいの」
「う、うん……」
「やれやれ。さあ、先に進みましょうか」
その後も明日香達は順調に天満ダンジョンの一階を進んでいく。すると紫色の巨大なサソリのデススコーピオンや、巨大な鋼鉄製の人型のアイアンゴーレムなどのBランクモンスターが出現したが、彼女達は苦戦することなくそれらを倒して進んでいく。その間は星斗がモンスターの十メートル以内に接近するチャンスはなく、彼はアイテムボックスで宝箱からの戦利品の運搬をしていた。
「むっ」
島が通路の先から巨大な体のモンスターが一体、近づいてくるのに気づく。
「あれは……ミノタウロスね」
現れたのは頭が牛で体が筋肉質の人の姿のAランクモンスター、ミノタウロスだった。ミノタウロスは、オーガの物より巨大で重い鋼鉄製の斧を持っている。
「やっとAランクのおでましか」
「一体なら余裕でしょ。いつも通りに」
「了解。ほんとに戦いの時は人が変わるわね」
「ヴモーーーッ!」
明日香達に気づいたミノタウロスが、斧を持って叫びながら走ってくる。
(Aランクモンスター! ユニークスキルをコピーするチャンスは来るか!)
「ヴモーーーーーーーーッ!」
「うりゃあ!」
ミノタウロスが巨大な斧を振るい、それを鈴木が巨大な盾で受け止める。その直後、
「烈火斬!」
明日香が持っている剣に火をまとわせて高速の火の斬撃を放ち、それがミノタウロスの腹部に命中する。
「ヴモーーーーッ!」
「オーラクラッシュ!」
さらに島が魔力をまとわせた大剣を豪快に振るい、その斬撃がミノタウロスの背中に命中する。
「二人とも、少し離れてて」
魔法発動の準備中の成田が、アンリと星斗にそう指示し、二人は彼女から離れる。
「みんな! いくよ!」
成田が前衛の三人にそう叫び、ミノタウロスを取り囲んで攻撃していた明日香達は急いでその場から離れる。その後、
「サンダーストーム!!」
成田は高威力の雷をミノタウロスに向けて放った。通常、サンダーストームは広範囲に雷をばらまく魔法なのだが、彼女は雷の放出を調整し収束させて放っていた。その雷系上級魔法が、傷だらけのミノタウロスに直撃する。
「ガガガガガガガ……」
その雷によって全身が感電したミノタウロスは、持っていた巨大な斧を手から落とし、意識を失って前のめりに倒れた。その後、その体が消えてその場に魔石が出現する。
次回 Aランクモンスター に続く




