第二十九話 朝比奈明日香
ライジンギルドのギルドマスターでSランク覚醒者のアンリの姉、朝比奈明日香は、ライジンギルドのもう一人のSランク覚醒者とほか二人とパーティを組んでいて、彼女達がライジンギルドのエースパーティだった。
「確かにSランク覚醒者と一緒なら安心だけど、Aランクモンスター相手じゃ、俺では足手まといになるんじゃ……」
「大丈夫。私と本条君は、Aランクモンスターとは戦わなくていいの。私達の仕事は、ダンジョンで見つけた戦利品をアイテムボックスで運ぶこと。つまり荷物持ちね。あとはお姉ちゃん達の戦いを見て、私達が強くなるために色々参考にすることかな」
「なるほど、それなら、ぜひ一緒に行かせて欲しい」
(Aランクモンスターなら、強いユニークスキルを持ってるはず。それをコピーできれば、もっと強くなれる。これはチャンスだ)
「うん。宇佐美君と佐藤さんはどうする?」
「俺は遠慮しとくよ」
「私もです。アイテムボックスもないですし」
「そう。ああ、本条君。一応、一緒に行っていいかお姉ちゃんに確認してみるから、あとで連絡するよ」
「わかった」
その後、星斗達は解散して、皆、家に帰った。そしてその日の夕方、アンリは帰宅してすぐ姉の明日香の部屋にやってきた。彼女が部屋に入ると、姉の明日香は大画面テレビでゲームをしていた。
「お姉ちゃん。二日後の天満ダンジョンのことなんだけど」
「ん、まだ心配してるの? 大丈夫だって。私がアンリちゃんのこと守ってあげるから」
明日香は髪がぼさぼさで黒ぶち眼鏡をかけていて地味な部屋着を着ている。
「違う、違う。そうじゃなくて、私の学校のパーティの仲間のひとりも一緒に連れていって欲しいんだけど」
「んー。それは難しいんじゃないかな。アンリちゃんは強いからいいけど、覚醒者学校の生徒じゃ、天満ダンジョンは危険だよ」
「それが、彼は普通の強さじゃないの。たぶん未知スキルを持ってると思う」
「えっ? 彼? 男?」
「う、うん」
今までテレビ画面を見ながら話していた明日香が、驚いた表情でアンリの方を見る。
「ま、さ、か、彼氏!?」
「なっ、違う!」
アンリは真っ赤な顔になって否定する。
「でも高難度ダンジョンに誘うなんて、その人のこと気になってるんだよね」
「気になってるのは彼のスキルのほうだからね。彼は私と同じくらい強いかもしれないの」
「へー。面白そうね。そういうことならいいよ。その子も一緒で」
「ありがとう! お姉ちゃん!」
そう言ってアンリは明日香の部屋を出て自分の部屋に入り、スマホで星斗への連絡先を探す。星斗、アンリ、智也、美亜の四人は、いざという時のため連絡先を交換していた。
一方、星斗は一軒家の自宅に帰ってきていて、二階の自室にいた。彼は父、母、妹の四人家族で、彼の部屋は二階にあった。
「さて、三体目のモンスターを呼び出せるようになったわけだが……」
星斗は今まで倒してきたモンスターの中で、どれを呼び出そうか考える。
「強敵と戦う時は、補助魔法や回復魔法が重要だ。今日も佐藤さんの補助魔法に助けられたし。なら……」
星斗は自分の部屋の床に召喚の魔法陣を作り出す。
「いでよ! 妖狐!」
星斗がそう言うと、魔法陣から狐の姿のモンスター、妖狐が出現した。
「クォーーン!」
「おお、よく来てくれた。これから頼むぞ」
「クォォォォォーーーン!」
妖狐は、尻尾を振って嬉しそうにしている。一方、星斗はその姿を見てなごみながら、妖狐のステータスボードを確認する。
妖狐
レベル 32
HP 284 MP 335
力 68 防御 66
魔力 80 速さ 85
ユニークスキル(1/3)
回復魔法(B)
スキル
ヒール エクストラヒール キュア
スピードブースト
装備
「おお、最初から回復魔法と補助魔法が使えるのはいいな。後はユニークスキル枠二つを何で埋めるか。いや。その前に考えることがある……」
念願の三体目のモンスターを手に入れた星斗だったが、悩み事があった。
「普通は、ユニークスキルがBからAに上がるのは、かなりの期間が必要だ。スキルによってランクアップに必要な熟練度が違うと言われてるけど、早くても半年くらいはかかる。それが一か月も経たないで召喚がランクアップしたら、絶対に怪しまれる……」
星斗はユニークスキルの熟練度でランクアップしたのではなく、ユニークスキルコピーでランクアップしたので、その言い訳をどうするか悩んでいた。
「みんなといる時は妖狐を呼ばなければいいんだけど、それだと妖狐の上位種族変化の熟練度がたまらない。うーん。まあ、妖狐は急がなくていいか。ゆっくり育てよう」
そう言いながら星斗は妖狐の頭をなでて、そのもふもふの毛並みの感触にほっこりしている。その時、彼のスマホが鳴り、彼は手に取って画面を見る。
「ん。朝比奈さんからか。もしもし」
「もしもし、本条君?」
「そう。それで天満ダンジョンの件は?」
「うん。お姉ちゃんが本条君も来てもいいって。だから二日後の午前九時前に、天満ダンジョンの入口に集合ね」
「わかった。しっかり準備していくよ」
「うん。それじゃね」
星斗とアンリは通話を切る。二日後は土曜日で学校が休みなので、彼らは午前中からダンジョンへ行くことができた。
「天満ダンジョンか。まだ情報がないダンジョンだ。今までは学校の授業でダンジョンの情報がわかってたからよかったけど、天満ダンジョンはAランクモンスターが出現する高難易度ダンジョンということしか知らない。少し調べてみるか」
星斗は机の上のノートパソコンで調べ始める。すると天満ダンジョンの場所は判明したが、内部の詳しい情報はわからなかった。
「うーん。やはり駄目か。上位のギルドなら情報を持ってそうだけど、簡単にその情報は公開しないからな」
天満ダンジョンなどの高難易度ダンジョンは、上位のギルドが利益を独占したいと考えるため、情報を公開するということはあまりなかった。唯一、国内一位のライトウィングギルドだけが高難易度ダンジョンの情報を公開していたが、その中に天満ダンジョンの情報はなかった。
「まあ、今回は荷物持ちだから、俺が情報を知っておかなくてもいいか。そのへんは朝比奈さんのお姉さん達にまかせて、俺はAランクモンスターからユニークスキルをコピーすることだけを考えよう」
そして二日後、星斗は午前九時前に天満ダンジョンの入口までやってきた。天満ダンジョンは地下迷宮型ダンジョンで、その周辺には自衛隊の待機所や覚醒者教会の魔石買取施設などがあるが、このダンジョンに入れるのは一部のレベルの高い覚醒者だけなので、入口付近には数人の人影しかなかった。
「あっ、来た! 本条君!」
天満ダンジョンの入口前に五人の武装した覚醒者がいて、その一人はアンリだった。
「朝比奈さん。おはよう。今日はよろしく」
「こっちこそよろしく」
「へー、あなたがアンリちゃんが言ってた本条君か」
アンリのそばにいる巨大な剣を持って戦士系の装備をした凛々しい女性が、星斗にそう声をかける。
「本条です。朝比奈さんのお姉さんですか。今日はよろしくお願いします」
「あー、違う違う。私は、ライジンギルドの副ギルドマスター、島恭子よ。明日香はあっち」
そう言われて星斗が彼女が示した方を見ると、魔法使い風の覚醒者の陰に隠れて星斗を見ている戦士風の女性と目が合った。
次回 天満ダンジョン戦 に続く




