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SF作家のアキバ事件簿211 イチゴ銀行の襲撃

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第211話「イチゴ銀行の襲撃」。さて、秋葉原の金融センターにある銀行が強盗に襲われ、主人公とヒロインは人質にw


タフな交渉の末に、人質解放が実現するかに見えた時、銀行が大爆発!犯人達は木っ端微塵に吹っ飛んで、全員が死亡しますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 イチゴ銀行、襲撃

真昼のアキバ中央通り。末広町に近い一角は昔から銀行が多かったが、今は世界的な金融センターだ。


その一角で。


「アンマリだわ!コレじゃまるで高利貸しょ!」


ミユリさんが絶叫スル…メイド服で。


「しかし、ミユリ姉様さん。コレは、とてもお得な金利なんですょ。ただし、連帯保証人にコチラの国民的SF作家テリィたん様がなるなら、ですが」


僕をチラ見するイチゴ銀行アキバ支店長。


「だめだめだめ。借りるのは私です。カンパニー(ミュージカル劇団)の稽古場の修理費とテリィ様は何の関係ありません」

「ミユリさん、そんなの良いから僕が保証人になるって。何なら僕が払おうか?修理代」

「テリィ様。私は、コレでもメイドミュージカルの座長です。テリィ様のお金は結構。連帯保証人にもなって頂く必要はありません。ソコは譲れナイの」


じゃ何で融資の申込みに僕を呼ぶ?


「では、ミユリ姉様さん。ソコを譲れなければ金利は変わりません」

「あぁどうでもよくなっちゃった。ちょっち失礼。トイレタイムだ」

「よろしいですか?私は、今度のメイドミュージカルには既に大金を…」


ミユリさんは初老の支店長を指差す。ムーンライトセレナーダーに変身してれば、あの指先からは青い電光がほとばしって支店長は丸焦げになってるw


僕はスマホを抜く。


「あら、テリィたん?何の用?」

「お願いだから、僕を呼び出してくれ」

「何ですって?」


ラギィは、万世橋警察署の敏腕警部だ。


「ミユリさんがローンを組むと逝うんで、末広町のイチゴ銀行に来たんだけど、恐ろしく退屈なんだ」

「悪いけど、今日はスーパーヒロイン殺しの通報は無いわ。それより書類仕事を手伝ってよ」

「書類作りをスルくらいならコッチの方がマシだ」


スマホの向こうでラギィは溜め息。


「犯人を捕まえる時には相棒だとか言うくせに、書類仕事は協力しないってワケ?」

「まさか…おや?」

「何?」


スクラブにコートを羽織った女が入店。女医か?


「ほほう」

「だから、何?」

「多分だけど、この銀行は強盗されるぞ」


長い溜め息をつくラギィ。


「ソコまで退屈なワケ?」

「色とりどりのスクラブを着た"節操なき医師団"が入店した。全員コートに何かを隠し持ってるみたいで、怪しげな膨らみがある」

「SF作家の妄想力が暴走中?」


ラギィは聞き流す。次の瞬間、医師団?は銀行のドアにバールを差し込み、一斉に短機関銃を抜く。


「全員、床に伏せるんだ!」


悲鳴が上がる。白い蒸気はサイキック抑制蒸気だ。


「おい、早くしろ!全員ボッとするな」

「ウソでしょ。テリィ様、何ゴト?」

「テリィたん。どーしたの?もしもし?」


早くも伏せ始める人質?の間を短機関銃を手にボストンバックを持ち歩く女。


「テリィたん、今どこ?ヲタッキーズ!銀行強盗ょ現場に急行して!」

「いつからヲタッキーズに強盗の連絡が来るようになったの?筋違いだわ。契約違反」

「ミユリ姉様とテリィたんが人質になってる!」


メイド達は、文字通り窓から飛び出して逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「全員スマホを出せ!さっさとしろ。携帯を前に投げるんだ!」

「おとなしく前に出せ!ノロノロするな」

「…ミユリさんとカウンターの後ろに隠れてる。何とか店内の状況は見える。犯人は全員色違いのスクラブを着てる。犯人の女性の1人が金を詰めてる」


冷静に状況を報告スル僕。カッコ良いな。


「支店長は来い!」

「もう1人が支店長を捕まえた。胸から何かの鍵をむしり取った。1人で奥へ行くぞ」

「今、緊急展開チームを向かわせてる。良く聞いて。犯人は何人?」


僕は素早く数える。


「多分犯人は3人」


その時、後ろで拳銃の安全装置を外す音。恐る恐る振り向くと…目の前に音波銃のラッパ型の銃口だ。


「ラギィ。訂正、4人だった」

「ちょうど良いな。先ずお前を見せしめにしよう…

悪いが話は終わりだ。先に切るぞ」

「ちょっと待った!ソレより自分の心配をするコトね。今、警察が向かってるわ」


何とラギィが銀行強盗とスマホで話し出すw


「警察?…お前、通報したのか?」


またまたラッパ型の銃口が僕に向く。おい、ラギィ!


「たまたま警察の人と話してたんだ」

「聞きなさい!未だ怪我人はいないし、何も盗まれてナイわ。ココでこのママ何もせズに帰った方が賢明よ」

「ほぉ?そうすれば見逃すってか?」


ラギィは一歩も引かないw


「逆らう気なら話は別よ。地獄の果てまで貴方を追うわ。でも、今、ヤメれば明日の新聞の片隅に乗るだけで済むけど」


何と強盗は考え込む。しかし…


「せっかくだが断るよ。俺は1面に載りたい」


スマホを床に叩きつけ踏み潰す。僕のだが…


「Dr.ハウザ。Dr.クイン。間も無く警察が来るぞ」

「聞いた?Dr.ハタブ、急いで」

「監視カメラは停止。メモリも壊した」


サイレンの音。シャッター越しに外を見る犯人。


「もう来やがった。Dr.諸君。全員やるコトはわかってるな?打ち合わせ通りだ。アンタらとは、長い付き合いになりそうだ」


床に伏せてる人質に短機関銃を向ける。サイキック抑制蒸気が立ち込める中、ミユリさんと手を握り合う。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


黒の防弾チョッキにヘルメット。コチラも短機関銃を構えた完全武装の特殊部隊がイチゴ銀行を包囲。


「5分で状況分析。建物の図面を用意しろ…誰だ?」

万世橋(アキバポリス)のラギィ警部ょ」

「所轄?死人が出てから来い。今は邪魔なだけだ」


ヤタラ高圧的な桜田門(けいしちょう)。狭い現場指揮車の中でイバり散らす。


「相棒が中にいるんです」

「刑事がいるのか?」

「いいえ、南秋葉原条約機構(SATO)です。彼と通話中に事件が発生。犯人はスクラブを着た4人とのコト」


興味を示す指揮官。


「他にはなんだって?」

「私は、犯人と話しました」

「様子はどうだった?」


少しもったいぶるラギィ。


「とても冷静でした」

「なるほど、わかった。相棒の件は俺達に任せろ」

「先ず何をしますか?」


主導権を握ろうとするラギィ。だが…


「先ず、ココから出て行ってくれ」

「はい?」

「相棒を助けたいなら、俺達の邪魔をするな。おい!電話はつながるか?犯人と話がしたい」


オペレーターが振り返る。


「わかりました。ダイアル中」

「良し…聞こえなかったか?さっさと出て行け」

「最悪」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


銀行の中では、人質全員が車座になって座らされている。色とりどりのスクラブを着たDr.達が短機関銃で威嚇スル。


「良いか?ルールは簡単だ。動いたら殺す。わかったな?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWATの指揮車から出るラギィ。ヲタッキーズが駆け寄る。


「何かわかった?」

「まるで邪魔者扱いょ。マリレ、緊急展開チームに友達がいたわよね。情報を集めて来てくれる?」

「ROG」


駆け出すマリレ。ラギィはエアリの方を見る。因みにエアリもマリレもメイド服だ。ココはアキバだからね。


「マリレは、似た手口の犯行がないかを調べて。犯人の情報は多いほど良いわ」

「ROG」

「ラギィ警部。ピタソ隊長がお呼びです」


振り返るとオペレーターが手招きしてる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び狭い指揮車内に戻るラギィ。


「君はどーゆーつもりだ!」

「手伝おうと思っただけですが」

「違う。どうやって犯人をタラシ込んだンだ?俺が犯人と話そうとしたら、さっきの女警部を出せと言って来た。あのエロい声が聞きたいとな。アンタの参加を認める。俺のチームに入れ」


状況一変だ。こーなると焦るラギィ。


「でも、人質交渉の訓練は受けていません」

「今から訓練を受けている時間はないが、スーパーヒロイン殺しで覚えたコトの逆をしろ。怒鳴ったり威圧したりするコトはせズ、先ず犯人を落ち着かせろ。ラギィ警部、どうだ、出来るか?」

「もちろん」


ジャケットを脱ぐラギィ。


「話を長引かせろ。電話中は犯人も人質に手出しは出来ないからな」

「ROG」

「しっかりな」


うなずくラギィ。電話が鳴る。


「誰だ?」

「ご指名のラギィよ。私と話がしたいんだって?」

「さっきの男は嫌いだ」

「私もょ」


傍らで苦虫を噛み潰したような顔のピタソ隊長。


「名前を教えてょ」

「トラパ・ジョンと呼んでくれ」

「あら。シットコムの登場人物ね。そっちの様子はどう?必要なモノとかは?」


笑い出す犯人。


「おいおいおい、ラギィ警部。マニュアル通りだな。さっきの警部に刺激するなとか言われたな?相手を落ち着かせろ、信頼関係を築け。話を長引かせて情報を引き出せってか?フザけるな。ルールはこうだ。ウソをつけば人質を殺す。ナメたマネをすれば人質を殺す。警察が銀行に突入したら人質を殺す。で、最初に殺すのはアンタのTO(トップヲタク)だ」


音波銃を握った手を僕の肩に置く。


第2章 アンクレットのモールス

銀行強盗の現場。早くも集まり出した野次馬がスマホで撮影を始める。実況放送(ポッドキャスト)?を始める輩もいる。


「1つわかったコトがアル。奴等は、警察のマニュアルを知っている。恐らくプロだ。銀行の監視カメラに接続は出来たか?」

「未だです…イチゴ銀行の本店から隊長にお電話です」

「私は何をすれば良いでしょう」


SWAT指揮車内。背を屈めて立ち上がるラギィ。


「何もスルな」

「何ですって?」

「コレは殺人事件の捜査とは違う。下手に動かん方が良い。犯人に考える時間を与えよう」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


イチゴ銀行の中。車座になっている人質。傍らで札束を勘定してるDr.クイン。僕は小声で責められる。


「君が悪いんだぞ。君が警察を呼ばなければ、俺達が人質になるコトはなかった」

「違います。どうせ警察は来た。犯人は、キャッシャーの底の最後の紙幣を取った。そうすると自動的に無音警報機が作動するコトになっています。コレは誰のせいでもない」

「そうなのか」


支店長に諭されて男は黙る。


「貴女は妊娠してどれくらい?」

「32週ょ。何でわかるの?」

「私も"覚醒"したスーパーヒロインょ」


ミユリさんは傍らの銀行員に微笑みかける。


「妊婦は解放されるべきょね」

「解放されるワケがナイ。誰1人として解放されないさ。俺は映画で見た。みんな殺されルンだ」

「その映画、最後まで見たのか?誰も死んだりスルもんか。僕には警察で働いてる元カノがいる。僕の元カノが必ず助けに来るハズさ」


みんなの顔が一斉に心配そうになるwソンなモノか。奥から強盗の親玉トラパ・ジョンが出て来る。


「支店長。あの扉の向こうは?」

「トイレと休憩室と警備室です。あと貸金庫だ」

「首にかけてた鍵を盗られたみたいだけど、アレは何の鍵?」


千切れたチェーンを見る支店長。


「貸金庫の銀行錠の鍵です」

「やっぱり何か妙だ。なぜ貸金庫室に逝くのかな。そこら中にお金がアルのに」

「テリィ様。好奇心を出し過ぎると、ロクな目に合わないですょ」


ミユリさんは、溜め息をつく。


「でも、ミユリさん。何が起きてるのかは突き止めないと。どうすれば良いかはワカッテル。ダイハードを何度も見てるからは」

「ソレは…とっても安心ですね」

「Dr.ハウザさん!」


立ち上がる。短機関銃が一斉に僕を狙う。


「殺されたいのか」

「死ぬ前に1度トイレに逝きたい。膀胱が小さいんだ。まだ当分ココにいるんだろ?」

「何?」


Dr.ハウザがDr.クインを振り向くと、クインは微かにうなずく。どーやらクインは階級が上らしい。


「ありがとう。ねぇ海ドラだと、Dr.のドラマはたくさんあって偽名も選び放題だ。なぜハウザなの?」

「うるせぇンだょセンセ」

「僕はセンセじゃナイょ」


トイレに逝きがてら、貸金個室で貸金庫を開けて中身を調べているトラパ・ジョンがチラ見えスル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWAT指揮車の外で。


「マリレ、何か情報は?」

「緊急展開チームも中の様子を知る手段はナイみたい。監視カメラは切れているし、壁は分厚くて破れない」

「突入するとしたら?」

「手探り状態での突入になるわ」


ラギィは聞き辛いコトを聞く。


「マリレの今までの経験から言って、人質の生存率はどんな感じ?」


答えは返って来ない。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


イチゴ銀行。フロアに車座に座る人質達。


「その、先程の融資の件ではトンだ失礼を」

「良いのょ支店長さん。気にしないで」

「実は、私は貴方のファンなんです。"夏の夜の夢"のタイタニアの役が素晴らしかった」


初老の支店長は、胸に手を当てる。


「え。池袋時代の公演でしょ?良く覚えてらっしゃるわね」

「忘れられないんですよ」

「…そう。もし今日死ぬとしてもファンの方と一緒で幸せだわ」


何なんだ支店長。僕のメイドに手を出すな。


「あとトイレに行きたい奴は?」

「はい」

「立て。早くしろ」


Dr.ハクスが先ほどの男をトイレに"連行"。


「テリィ様。何か発見は?」

「2つある。先ず、ココのトイレは綺麗だ。しかし、脱出出来るような窓は無い」

「今のが2つですか?」


ミユリさんにクスクス笑われる。


「とにかく!何か妙なコトが起きてる。トラパ・ジョンが金庫を1つだけ開けて、中の手紙や写真を見てた。しかも、ちゃんと鍵を2つ持っていた。1つは銀行錠、もう一つは客側の鍵だ」

「テリィ様。トラパはナゼ自分の金庫を開けるのでしょう?」

「ミユリさん。ソレは自分の金庫じゃないからさ。

彼等はワザと警報を作動させ、人質を取ったんだ。プロがうっかりキャッシャーの底の紙幣を取ったりはしない」


支店長が身を乗り出す。


「でも、目的は?」

「恐らく時間だ。鍵に番号はふってナイ。支店長、北側の左から4列目、上から3段目の金庫は?」

「それなら120番です」


即答スル支店長。優秀だ。


「その金庫の契約者がわかれば、犯人の狙いがわかルンだけどな」

「でも、コンピュータが使えないんじゃ、契約名義は検索出来ませんょ」

「コンピュータは必要ナイ。別の方法がある。ミユリさん、アンクレットを貸して」


珍しく即答のミユリさん。


「イヤです。テリィ様からのプレゼントだし」

「また買いに逝こ?」

「…わかりました」


推しからアンクレットを渡される。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWAT指揮車。


「隊長。犯人から架電です」

「ラギィ警部、慎重にな」

「はい」


ヘッドセットで電話に出るラギィ。


「Hi。そっちはどう?」

「今のトコロ、極めて順調だ」

「人質の様子はどう?産休届が出てる妊娠中の銀行員がいるみたいね。彼女だけでも解放するっていうのはどうかしら」


キッパリ拒絶される。


「ソレはダメだ。先ずコッチの要求から聞けよ」

「わかったわ。要求って何なの?」

「バスだ。リクライニングのついた豪華な奴。俺達と人質全員を神田リバー水上空港まで運べ。ソコから好きな国へ行けるようにスルんだ。そうしたら、離水前に腹デカ女を、残りは着水後に解放スル。3時間で用意スルんだ、ラギィ」


指揮車内でピタソ隊長が小声で命令。


「急いでバスを手配しろ」

「待って!犯人の要求に応じるの?」

「まさか。奴らの未来は逮捕が死だ。イザとなったら、バスで外に誘き出して狙撃する」


オペレーターがモニターの画面を4分割にスル。


「隊長、見えますか?」

「あぁ。何か光ってる?何だ?」

「モールス信号だわ!」


急いでメモするラギィ。


「わかった!IDB-120の繰り返しね。何の意味かしら。苺デジタルバンク?」

「DBは、恐らくデポジットボックスだわ。貸金庫の120番?その貸金庫に何の関係がアルの?」

「でも、テリィたんが送るなら、何か重要なコトに違いナイわ」


オペレーターが銀行情報を閲覧スル。


「イチゴ銀行秋葉原支店、貸金庫120番の契約者はフィズ夫妻です」

「何か変わった点はあるか?」

「2人ともホボ毎月利用しています」


ヒザをピシャリと叩くラギィ。


「調べてみましょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「テリィ様。クイン情報」


何気ない顔してミユリさんがつぶやく。恐らく女傭兵のDr.クインが短機関銃を構えて歩き回ってる。


トイレから男が戻る。


「おい。トイレから戻って来る時に奴等の荷物の中が見えた。タイマーとワイヤーがついた白い物体があった。多分C4爆薬だと思う」


泣きそうな顔で報告スル男。 


「確かか?」

「モチロンだ。銀行を爆破する気だ」

「良いから落ち着け」


男の腕をつかむ。


「離せ。僕には家族がいるんだ。無理だ」

「誰にでも家族はいるわ。落ち着いて。お名前は?」

「サルマ・ティノ」


頭を抱える男。


「そうか。奥さんと子供がいるんだね?」

「そうなんだ。息子だ」

「名前は?」


微笑む男。


「コナーだ」

「君は、コナーに会いたくて、どうしようもないんだろ?」

「当然だ」


僕は諭す。


「ソレなら、今は息子のコトだけ考えてろ。この後、直ぐに会える。その再会をイメージするンだ」

「息苦しい。新鮮な空気を吸いたい」

「…しかし、どうなってルンだろう。何でC4が必要ナンだ?」


ミユリさんの見解。


「貸金庫から何を盗んだか知られたくなくて、何もかも爆破スル気なのカモしれませんね」


第3話 イチゴ銀行の爆発

神田花籠町の古いアパート。薄いベニヤのドアをノックするエアリとマリレ。


「フィズさん。ヲタッキーズです」

「エアリ、意味わかんないわ。年金暮らしの老夫婦が何で銀行強盗と関係してるの?」

「深い関係がアルわ。夫婦2人とも月1回銀行を利用してルンだけど、今ラギィからメールが来たけど、夫は4年前に死んでるそうょ」


溜め息をつくマリレ。


「じゃ毎月銀行に通ってるのは誰?」

「とにかく、ご対面しましょ。アグネ・フィズさん。開けてください…ん?ラジオがついてる」

「待ってエアリ。理由もなく押し入れない。でも、ミユリ姉様達が人質に取られてるし…」


マリレは、急に小声になって何かつぶやく。


「聞いた?助けてって誰かが呼んだわ」

「うん。聞こえた。じゃ行くわょ…」

「ヲタッキーズ!動くな!…わっ」


文字通り、ドアを蹴破り踏み込んだヲタッキーズだが、中は酷い臭いだ。思わず鼻をつまむメイド達。


正面のソファに…老婆の腐乱死体。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWAT指揮車内。エアリから報告を受けるラギィ。


「アグネ・フィズが死んでる?」

「YES。死後1週間ぐらい。何者かに絞殺された痕がアル。部屋は荒らされてて、アグネがクビにかけてた鍵がなくなっている」

「恐らく貸金庫の客用の鍵ね」


みんな大事な鍵は首からかけるのか。


「昔、大企業の秘書秘書をやってた老婦人にココまでスル?あの貸金庫には、一体何が入ってるの?」

「月面ナチスの金塊。伝説の宝島の地図?」

「マリレ。テリィたんの影響を受け過ぎ。もっと姉様サイドで考えて」


余計なお世話だ。壁に掛かった絵の後ろから何かをつまみ出すエアリ。


「あら。コレを見て」

「何なの?」

「盗聴器だわ。しかもプロ仕様」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。イチゴ銀行。


「ラギィにC4のコトを知らせなきゃ」

「テリィ様。お願いだから人質らしく振る舞って。ギャンブルはサイキック抑制蒸気が晴れて私がスーパーパワーを使えるようになってからにしてください…あぁテリィ様!」

「Dr.クイン!」


僕は立ち上がる。短機関銃が一斉に僕の方を向く。


「何なの?早く言って」

「妊婦に硬い床は辛いだろう。向こうのソファにあるクッションを取ってきても良いか?」

「良いけど、サッサとやって」


短機関銃の銃口を下ろす女傭兵(Dr.クイン)


「ありがとう…おい、どーした?」


その時、先ほど僕を責めた男が突然立ち上がり、胸を掻きむしって倒れる。ピクピクと痙攣を始める。


「全員動くな!動いたら撃つ!」

「息が、苦しい息が…」

「撃つな!発作を起こしてる。サルマ・ティノ、大丈夫か?癲癇だ。助けなきゃ!」


僕はサルマを抱き起こす。女傭兵が叫ぶ。


「なら、アンタが助けな」

「彼は癲癇を起こしたンだ。"外神田ER"に連れて逝く。アンタら、どうせ偽物の医者なんだろう。早く病院に連れて逝け!」

「奥のトラパ・ジョンを呼んで」


大袈裟に呆れてみせる。


「ニセ医者が別のニセ医者に相談か?最悪だな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


イチゴ銀行前。黄色い非常線テープを潜ってスピアが飛び込んで来る。受け止めるラギィ。


「ラギィ!テリィたんとミユリ姉様は中にいるの? 2人ともスマホに出ないの」

「どうか落ち着いて。2人は中ょ」

「神田明神も照覧あれ!どうすれば良いの?」


完全に舞い上がってるスピア。僕の元カノ会の会長だ。先ず落ち着かせないと。


「スピア。私達に任せて」

「大事なヲタ友なの。あの2人が私の全て」

「聞いて。2人とも絶対無事に戻って来るわ。だから、舞い上がらないで。ヲタクでしょ?」


ラギィを真っ直ぐに見るスピア。


「絶対だよ」

「ラギィ警部。犯人から電話です。警部を出せと」

「彼女をお願い」


警官に頼んで指揮車に飛び込むラギィ。スピアはスマホを抜く…留守録だ。


「…Hi。シュリだょ。NYの天気は晴れ。伝言を」

「シュリ!忙しいとは思うけど、今、貴方が必要なの。テリィたんが…とにかく!コレを聞いたら直ぐ電話を頂戴」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWAT指揮車内。


「ラギィょ」

「人質が癲癇の発作を起こした。ほっといて死んでもラギィのせいだが、他の人質を刺激したくないので、彼を解放する。救急隊員を1人よこせ。だが、その代わりにバスを20分で用意しろ」

「モチロン20分じゃ無理ょ」

「ソレはラギィの都合だ。俺には関係ない。病人を連れ出しバスを20分で寄越す。そうならなかったら人質を殺す」


通話は切れる。車内はシンとなる。


「バスの到着は?」

「35分後」

「ラギィ警部。も1度交渉しろ」


無茶を逝うピタソ隊長。


「拒絶されるだけだわ」

「なら、緊急展開チームを突入させる」

「状況もわからずに突入すれば、人質が殺されるだけです」


ますます無茶を逝うピタソ隊長。


「全員が殺されるよりマシだ。他に方法は無い」

「あります。発作を起こした人質を使えるカモしれません。救急隊員の代わりに婦人警官を送り込みます。警官ならSWAT突入のための情報を集めるコトが出来ます」

「そんな気の利いた婦人警官が何処にいる?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


銀行の正面ゲートに張り付いてたDr.クインが扉を開き素早く短機関銃を構える。

ストレッチャーが姿を現す。推しているのは婦人警官…のコスプレをしたラギィ。


「調べろ」


婦警コスのラギィを身体検査スルDr.クイン。僕が代わりたいょ。床ではサルマがノタウってるけど。

僕は、傍らの振込用紙に"C4"と殴り書きスル。


「この人の容体は?」

「良くない。彼はサルマ・ティノ。緊張から癲癇の発作を起こしてる。数10分経つが痙攣が止まらない」

「こんにちは、サルマ。調子はどう?」


ノタウつサルマに話しかけるラギィ。身を乗り出すフリしてラギィのポケットに振込用紙を推し込む。


「サルマ、聞いて。愛スル人が貴方の帰りを待ってる。どうか頑張って。約束するわ。必ず無事に出してあげる」


意味深に僕の方をチラ見。


「おい、婦警さん。口じゃなくて手を動かすんだ。ソコのお前、ストレッチャーに載せるのを手伝え」


僕の頭を短機関銃(MP-5)でこずく。


「やれやれ人使いが荒いな…ミユリさん、3で持ち上げるょ。1, 2の…」


楽々持ち上げるミユリさん。サイキック抑制蒸気が大分薄れてきたみたいだ。


「しっかりサルマ。も少しだ。外に出たら、みんな元気だと伝えてくれ」


Dr.達の短機関銃に囲まれて、搬出されて逝くストレッチャー。扉が閉まる瞬間にラギィが投げキスw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


銀行から出て来たラギィは、ストレッチャーを救急隊員に任せ、泣きそうな顔のスピアに話しかける。


「大丈夫。2人とも無事だったわ…あら大変!」

「何?どうしたの?」

「スピア。黄色い線の後ろまで下がって!全員退避!耐ショック、耐閃光防御!」


その時、スピアのスマホが鳴る。


「シュリ?シュリなの?NYから?」

「…またかけ直すょスピア」

「そんなの嫌ょ!」

「ごめん。良く聞こえないんだ」

「シュリ、聞こえないわ」


通話は切れる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWAT指揮車内。


「C4?奴等、そんな高性能爆薬を持ち込んでるのか?何のために?」

「テリィたんから渡されたメモの情報です。多分、突入部隊を吹っ飛ばすつもりでしょ」

「なら、突入は出来ないな。良し、バスに乗る時に1人ずつ狙撃しよう」


ソレはソレでうれしそうなピタソ隊長w


「あと20分は来ませんよ。バスが到着する前に人質が殺されます」

「なら、警部が時間を稼ぐしかないな」

「また私?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


イチゴ銀行アキバ支店の代表電話が鳴る。カウンターの黒電話をとるトラパ・ジョン。


「ラギィか?バスは?」

「あと20分で到着スルから待って欲しいの」

「リミットは2分だ」


ラギィは深呼吸。


「待ってちょうだい。首都高で渋滞にハマってるの。も少し待って」

「ラギィラギィラギィ。約束しただろ?バスを用意出来なければ人質を殺す、だ」

「だから、用意はスルって言ってるでしょ」


トラパ・ジョンは獲物をいたぶるモード。


「俺をナメたら後悔するぞ。ラギィ、俺が本気か試したいンだな?」

「わかったわ。お互い落ち着いて話しましょう」

「話は以上だ」


銃声。僕は恐る恐る目を開ける。未だ生きてる傍らでカウンターの花瓶が粉々に砕け散ってる。


「何をしたの?」

「今のは警告だ。次は、お前のTO(トップヲタク)が死ぬぞ。ラギィ、血まみれのTO(トップヲタク)を見たいか?」

「私の御主人様に触らないで!」


ミユリさんが叫ぶが、背後からDr.クインに銃把で殴られる。抱き起こす僕の顎を拳銃(グロック)で突き上げるをトラパ・ジョン。


「なだめろ」


ラギィの耳元でピタソ隊長がささやく。ところが…


「おい!テメェふざけんな!良く聞けょこの包茎野郎。渋滞ナンだから20分待てって言っただろ!」

「あと1分で寄越せ」

「だ・か・ら!20分って言った!聞こえなかったかテメェ。20分だ。もし、テメェが今、引き金を引いたら、アタシはドアを蹴破って銀行に乗り込む。命乞いするテメェの頭にホットな劣化ウラン弾を3発ブチ込む。ヤワな音波銃ナンかは使わねぇテメェの頭はザクロみたいに吹っ飛ぶぜベイベ!」


不思議な沈黙が数秒。やがて…


「わ、わかったよ。あと20分だ」


両手を広げて天を仰ぐピタソ隊長。


「なんて交渉をスルんだ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


イチゴ銀行。急な真面目な顔になって、僕の顔を覗き込むDr.トラパ・ジョン。


「…アンタ、おっかない女と付き合ってるな」

「付き合ってナイ。元カノだ」

「そうか。手に負えなかったんだな?」


トラパ・ジョンは、少し長目の溜め息をつく。男同士の不思議な連帯感が生まれる。


「トラパ・ジョン。何でこの銀行を襲った?」

「伝説的な強盗ウィリ・サトンと同じさ。そこに金があるからだ」

「アレはサトンの言葉じゃない。記者の創作だ。物描きっていうのは、状況に合った事実から物語を作る天才さ。この状況で、僕にも物語が見えて来た。思うに、君達の目的は金じゃないな?」


見る見る肩の力が抜けて逝く銀行強盗。


「そうか。なぜ、そう思うンだ?」

「医師団のくせしてビニ手もせズに指紋を隠さないのは、警察に登録されてないからだ。君達は傭兵だろ?バスをリクエストしたくせに、多分乗る気はナイな?貸金庫No.120の中身は何だ?何にC4を使うんだ?…ソレと俺達をどーするつもりだ?」

「ほぉ気に入った。アンタを殺すのは最後にスルょ…うん、わかった」


トラパ・ジョンに何かささやくDr.ハタブ。


「準備が出来たそうだ…よっしゃ!全員立つんだ。早くしろ」

「何をするんだ?」

「アンタは賢いンだろ?自分で考えろ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWAT指揮車内。


「あと18分でバスが来るから準備しとけ」

「了解。緊急展開チームは49丁目で合流。スナイパーは、各所で待機せょ。桜田門(けいしちょう)とのビデオ回線を開け」

「…交換条件がなかったわ」


つぶやくラギィ。ピタソ隊長は怪訝な顔。


「何だ?警部」

「犯人は、20分の猶予の代償を、何も求めませんでした。主導権を握りたいなら、必ず何かを要求するハズなのに…こんなに簡単に行くなんて、きっと何か裏があるんだわ」

「どーしてそう思う?考え過ぎだろう」


イケイケなSWAT隊長。


「待って。絶対おかしい。私達は何かを見落としてるわ。どうして銀行強盗がC4を?アグネ殺害の意味もワカラナイ」

「隊長、ローマ巡査部長からです」

「もしもし?あぁ私だ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


イチゴ銀行の中ではC4爆薬のセットが進む。


「ミユリさん。イチゴ銀行はサービスが悪過ぎる上に爆破されるみたいだ。融資は他所に頼もう」

「テリィ様。許してください。テリィ様をココに連れて来なければ…」

「ミユリさん、僕には謝るな。大好きだょ」


半泣きの笑顔が返って来る。


「その言葉、そのままヲ返しします」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWAT指揮車の外。悩むラギィ。


「ねぇヲタッキーズ。アグネの捜査は?」

「ソレが色々調べてみたけど何も出て来ないのょ」

「ソレじゃアグネの近況についてはどう?毎月の銀行利用について何か情報は?」


お手上げポーズのメイド達。


「今のトコロ、何も。孤独な身の上ょ。夫は既に他界し、娘と孫も事故で1年前に死亡」

「元義理の息子に留守電を残しといたけど」

「折り返しを待ってる時間はないわ。だから…」


その時、イチゴ銀行が爆発!赤い焔と爆煙が銀行の窓から一斉に噴き出る。野次馬から悲鳴が上がる。

包囲していた緊急展開チームが、爆煙の中を短機関銃を構え、負傷者を肩に担ぎながらジリジリ後退。


呆然と立ちすくむラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


後退スル特殊部隊と入れ違いにラギィ&ヲタッキーズが爆煙立ちこめるイチゴ銀行の中へ飛び込む!


「ヲタッキーズ!ミユリ姉様、何処なの?」

「テリィたんは?来たわょ!」

「ラギィ。ココだ」


爆煙の中、ライトと拳銃を手に前に進むラギィ。1条の光に向かって、貸金庫室の中から僕は叫ぶ。


「トラ箱の中だ。人質は全員無事さ」

「コッチょ。いたわ」

「みんな、逝ったろ?彼女が僕の元カノだ」


ラギィが姿を現すと、貸金庫室の鉄柵の中から歓声が上がる。全員がビニール製の手錠をされている。


「手錠を切るわよ。はい、順番で」

「テリィたん、大丈夫だった?」

「私もいるんですけど」


ラギィに手錠を見せるミユリさん。


「ごめんなさい。怪我は?大丈夫?」

「ありがと。耳鳴りがするわ」

「ヲレもー」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ほどなく、緊急展開チームに護られてピタソ隊長がやって来る。遅いンだょ。


「全員無事か?」

「まぁね。医師団は?」

「全員爆死だ」


え。


「奴等、C4は脱出用に準備したようだ。金庫室の床を爆破し、地下鉄の廃駅へ逃げようとした。作戦は良かったが、奴等はしくじった。自分達の安全を確保する前に爆発が起きちまった。全員、木っ端微塵に吹き飛び即死だ」

「…ソレはヘンだな。C4は安定性が高い。信管の用意もナイのに爆発するハズがない。しかも、医師団は医師としてはマガイモノだが、兵士としては高度に訓練されていた。起爆をミスるハズがナイ」

「そうかもしれんが…とにかく、死体はボディカウント済みだ。もっとも肉片だけだがな」


何か腹落ちしない救出劇だ。


「とにかく、銀行の外に出ましょう」


ヨロヨロと中央通りに出ると、野次馬達から大拍手と大歓声が沸き起こる。ニコやかに手を振る妊婦。

初老の支店長がミユリさんに名刺を渡してる。大声で何か叫びながら、スピアが胸に飛び込んで来る。


「テリィたん。テリィたん!」


ラギィと逝い、スピアと逝い、僕の元カノ達は、推しの前だと逝うのに遠慮というモノを知らないな。


「エアリ、マリレ。医師団は全員死んだんだって?」

「YES。訳ワカンナイわ。貸金庫の鍵を目当てに老婆が殺されたのも、ニセの夫が毎月イチゴ銀行に通ってたのも、医師団が全員爆死したのも…私達、何か見落としてるわ。アグネの元義理の息子は?」

「名前をロンブ・ランド。海外出張が多いらしくて、今も連絡が取れない。住所は東秋葉原のアッパーイースト」


スマホでIDカードの画像を示すマリレ。ミユリさんが即座に反応スル。


「ちょっち待って。コレが元義理の息子?」

「YES。ミユリ姉様、お知り合い?」

「えぇさっきまで。この人、銀行で発作を起こした人だわ」


ヤバい。スマホを抜くラギィ。


万世橋警察署(アキバP.D.)のラギィ警部です。トーゴ先生?イチゴ銀行の強盗現場から搬送された患者は?そう、サルマ・ティノ氏は?…なんですって?サルマが?護衛の警官の目を盗んで?」

「どーしたんだ、ラギィ?」

「サルマ・ティノ、改めロンブ・ランドは"外神田ER"を脱走して行方をくらましたわ。あの男ょ。あの痙攣男が今回の医師団強盗を全て仕組んだんだわ」


第4章 元カノ達の結末


「ロンブ・ランドは、民間軍事会社(PMC)の経営者。彼の会社は、世界各国の特殊部隊に傭兵を派遣してる。今回の"節操なき医師団"は、彼の手駒の傭兵集団だった」

「その傭兵に銀行強盗させて、用が済んだらC4で爆殺?傭兵って消耗品なの?たかが貸金庫の中身のためにそこまでスル?どうせ思い出の写真や手紙の類でしょ?」

「恐らくロンブは、トイレに行った時に"何か"をトラパ・ジョンから受け取ったんだ。そして、発作を装って銀行の外に出た」


ようやく立ち上がった万世橋(アキバポリス)の捜査本部で、全員で妄想ハレーション中だ。

ミユリさんナンか張り切ってムーンライトセレナーダーに変身してる。


「でも、義理のお母さんの貸金庫が、どーしてソンなに大事なの?」

「え。義理のお母さん?何ソレ?」

「YES。あら、知らなかった?ロンブは、腐乱死体で発見された老婆アグネの娘タニャと結婚してる。まぁ、そのタニャも息子も1年前にボートの転覆事故で死んでるけど」


おいおい初耳だょ。


「でも、ロンブは息子のコナーは未だ生きてて会うのが楽しみだって逝ってたぜ?」

「良くわからないけど、記録には死亡とアルわ。確かに2人の遺体は未発見だから、生きてる可能性も否定出来ナイ」

「じゃ死んだフリをしてるのか?何のために?」


謎は深まる。その時…


「コレは死を偽装してるのょ!ロンブは、いつも家庭内暴力を金とコネで揉み消してたと調書にアル」

「タニャは自らの死を偽装し、暴力夫から逃れようとしたのね?ソレまでの人生を全て捨て去り、過去の絆を断ってまで?」

「でも、母親のアグネとの関係は断てなかった。イチゴ銀行の貸金庫は、ソンな母と娘の貴重な連絡手段だったのか」


スゴい連絡手段だ。冷戦時代のスパイかょw


「誰がタニャの手紙を貸金庫に入れてたんだ?」

「ソレはアグネの夫を装ってた男でしょ?その人が郵便配達人。彼は毎月タニャから手紙を受け取り、私書箱代わりの貸金庫に届けてた」

「何しろ銀行の中だからな。ヘタな私書箱よりも、よっぽど安全だ」


状況証拠がドンドン積み重なる。特にミユリさん…じゃなかったムーンライトセレナーダーの妄想ハレーションが冴え渡って止まらない。


「きっとボート事故での母子死亡を疑ったロンブは、アグネを疑って傭兵に盗聴させたのね。そして、貸金庫の存在を知り、イチゴ銀行の"客鍵"目当てにアグネを殺害」

「貸金庫を開けるために、銀行強盗の傭兵団まで立ち上げた。全ては愛する息子を取り戻すため?」

「貸金庫に入ってた手紙には、恐らくタニャの隠れ家が描いてアル。そして、ソコには偏愛息子のコナーが匿われてる。ロンブは今頃、母子の隠れ家に向かってるわ」


立ち上がるヲタッキーズ(ミユリさん含む)。


「タニャと息子のコナーが危ない!」

「待てょ。タニャの隠れ家を見つけるためには、先ず配達人を特定しないと。アグネの夫として違和感がなくて、ロンブが疑わない人物。しかも、友人、隣人、同僚以外でタニャが信頼してる人物だ」

「テリィたん。たくさん条件付けてくれてthank you。新聞に尋ね人広告出すなら1ページ必要ね」


も1つ追加。


「あと郵便配達人への謝礼は、追跡されないように現金、あるいは小切手だ」

「…待って、テリィ様。老婆アグネは、アキバ最強新興宗教"洪水教"の信徒です。しかも、教会の過去ログを見ると、タニャ母子がボートで事故死したとされる時期に、アグネは小切手で"洪水教"に多額の献金をしています」

「え。洪水教?」


世紀末の大洪水から逃れるためには祈りましょうと逝うシンプルな教義の新興宗教だ。その大司教は…


僕の古い元カノ←


「テリィ様。どーやら郵便配達人の容疑者No.1は、タニャの結婚式を執り行ったマキャ・スキャ神父って方みたいですけど!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「マキャ・スキャ神父?」

「いかにも。しかし、こんな夜中に突然、大司教サマから直々にお電話を賜り、テリィたん様にあらゆる便宜をはかれ、との勅命が下っておりまする。しかし、ムーンライトセレナーダーさん、モノホンとは初めてお会いしたが、マジでメイド服なのですね(しかもヘソ出しのw)?」

「…(おヘソばかりジロジロ見ないでw)マキャ・スキャ神父サマ。タニャとコナー母子の居場所は?」


単刀直入に尋ねるムーンライトセレナーダー。もともとエロ神父はミユリさんのコトしか見てないし。


「何のコトですかな?あの母子は1年前に亡くなっておられるが」

「神父サマ、良く聞いて。タニャの元夫ロンブは、アグネを殺害しイチゴ銀行の貸金庫No.120の中身を入手、今、この瞬間にも母子の下に向かっているのです」

「まさか!なぜそんなコトに?!」


思わズ教会の重厚な机から立ち上がるマキャ神父。


「大洪水も照覧あれ!あの貸金庫を活用スルことにより、絶対的な安全が確保されていたハズなのに」

「母子の安全はヲタッキーズが守ります。だから、隠れ家の住所をヲ教えください」

「モチロンだ。乙女ロードのスカラ通り14」


次の瞬間、教会の窓から文字通り飛び出すムーンライトセレナーダー。

彼女はロケットパンツ装備で音もなく空を飛び、池袋へ一直線に飛ぶ。


「頼んだぞ、ミユリさん」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


乙女ロードのスカラ通り14。タニャがアパートの呼び鈴に薄くドアを開けると目の前にロンブがいるw


「ハニー。ただいま」


慌ててドアを閉めようとスルが鉄板入りの安全靴を差し込まれ閉まらない!傍らのバットを振り回す!


「近づいたら殺すわ!」

「ソレがダーリンに対する態度か?」

「ぎゃ!」


バットを難なく手掴みし、元妻を床に殴り倒す。


「大丈夫か?頭とかブツケたら大変だ」


タニャの手からバットをもぎ取り、子供部屋へ。


「コナー。パパだよ。寂しかっただろ?」

「ママー!」

「コナー、逃げて!早く!」


悲鳴をあげ、窓から逃げようとするコナー。ところが、外から室内に押し返される。や?Dr.クイン?

死んだハズだょクインさん?スクラブから黒レオタードに着替えてる。悪の女幹部みたいだが…正解w


「お願い、コナーを連れて行かないで!」

「お黙り。シングルマザー」

「ああっ」


床に押し倒されたタニャの顔面をブーツで踏みつけるクイン。ノタウつタニャ。ロンブが拳銃を抜く。


「死ね」

「コナーの前ではヤメて」

「神田明神に祈れ」


引き金を引く…空砲?


「弾丸は入ってない。殺す訳ナイだろ?息子を奪われたシングルマザーという生き地獄の中で、せいぜい長生きスルんだな。今度は俺が姿を消す番だ。お前がいくら探しても絶対に見つからない。俺も。コナーも」

「あら。ソレはどーかしら」

「何?…ムーンライトセレナーダー?モノホンを見るのは初めてだがマジでメイド服(以下省略w)」


Dr.クインはテコンドーのポーズを取るが、その前にムーンライトセレナーダーのロケットパンツが…


いや、ロケットパンチだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


事件が解決し、解散が決まった万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「"節操なき医師団"って木っ端微塵になったンじゃなかったの?桜田門(けいしちょう)のボディカウントってマジ当てにナンない」

「どーでも良くナイ?みんなミユリ姉様が片付けちゃったンだし。特にレオタードのクインおばさん、スゴい痣を作って大の字ノックアウトで痙攣してたって」

「やっぱりミユリ姉様がアキバ最強!」


エアリとマリレのお喋りに割って入る僕。


「あのさ。ミユリさんは、シングルマザーの味方をスル時が最強なのさ。いや、最凶かな」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜。当のミユリさんは"潜り酒場(スピークイージー)"にいる。


「ただいまー。あれ?常連のスピアは?」


ミユリさんは唇に指を当てて目配せ。奥からスピアの小さな声(リトルボイス)


「…だって、シュリ。今日だけじゃナイ。私はズッと放ったらかしだった…違うわ。遠距離なのは関係ナイ。貴方からのメールを待って、一喜一憂スルのはもうイヤなの」


少し声高になる。


「また言い訳スルの?…ねぇもう付き合うのは無理だょ…別れょ?」


太平洋を隔てた通話が突然切断される。僕は、傍らの壁をノックする。振り向くスピア。泣いている。


「平気?」

「ダメ」

「だょな」


大きく手を広げると泣きながら飛び込んで来るスピア。何もかも昔みたいだ。懐かしい既視感(デジャヴ)が襲う。


「しばらく、昔みたいにこのママでいさせて。今はもう、元カノだけど」

「もちろんさ」

「大丈夫。明日は、きっと聞き分けの良い元カノに戻るから」



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"銀行強盗"をテーマに、ミステリー系のサスペンスを描いてみました。はっきり申してSF以外の部分は、苦手(SF部分が得意という訳でもありません)ですが、小説の基本を抑える、という意味で頑張る内に、いつか楽しみながら描けるようになりました。


今回は、前から厄介な存在だった元カノのシン恋の終わりをサイドストーリー的に描いてみて、内心実は少しホッとしてます笑。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みをイメージしながら、すっかりインバウンドが安心して食事をしているアキバのマックで描いています。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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