sunrise.
千暁:夜明け・光が差し込む
――光を彼女に。
✳︎
「だったらアンタが愛してくれるわけ」
彼女は抑揚のない冷めた声で、でも、どこか挑発混じりに何も映さない真っ暗な瞳で僕を見据える。
「それは、」
そのつもりだ、と断言しようとする前に、彼女の冷めた声によって僕の言葉は掻き消された。
「アンタもどうせ私を見捨てるんでしょ」
――彼女は、孤独だった。
生まれて間もない時から親に愛されず、苦痛と恐怖だけの暴力をひたすらその身に受けていた。そして彼女の両親は3年前に離婚し、彼女を引き取った父親に数時間前捨てられた。僕と彼女の関係はというと、皮肉にも彼女を捨てた父親と僕は従兄同士のために血縁関係で結ばれている。
アイツ……昔はそんな奴じゃなかったのに。
アイツと僕は比較的他の従兄弟より年が近く、趣味も似ていた。だから定期的にお互いの家を行き来して会ったり、連絡をこまめに取り合ったりして仲良くしていた。でもそれも大人になるまでで。
何故、実の娘を捨てたのだろう。こんなにもアイツと良く似たこの子を。
何も混じり気の無い純粋な漆黒の髪に、少しだけ鋭く細められた目。目鼻立ちはくっきりとしていて、本当にアイツと良く似ている。
だけど、アイツはこの子を……。
そのことを人伝で聞いた僕は、彼女が捨てられたという薄暗い路地裏場所にすぐさま向かった。向かったところで何が出来るかも分からないし、大人になってから一度も会っていないというのに、だ。
そしてこの有様だ。
彼女を見た瞬間、衝動的に、惹きつけられるように僕の子になるかと尋ねたら、彼女はただそれだけを言った。光の灯っていない真っ暗な瞳で、僕という人間を見定めるかのように。
ただ、彼女は愛に飢えているのだろう。
ただ、彼女はひとりぼっちから抜け出したいのだろう。
瞳は真っ暗なままだけれど、彼女の全身から助けを求める声が聞こえる気がした。
――だから、僕は。
「うん、僕は君を愛すよ――千暁」
――彼女の名前を呼んだ。
そして彼女、千暁はその何も映さない瞳に初めて僕を映し出した。
「おいで、千暁」
そう声を掛けると、恐らく彼女自身気付いていないだろう綺麗な雫たちを流しながら、差し出していた僕の手をとって。
「アンタを……信じてみる」
一瞬、柔らかい笑みを見せてくれた。
このたびは、この小説を最後まで読んで下さり有難う御座いました。
この小説が頭に浮かんだのは、綺麗な夕焼け空を見た後でした。そしてその前から使いたいと思っていた、彼女が発した最初の言葉「だったらアンタが愛してくれるわけ」を繋ぎ合わせました。
彼女は無事、’僕’によって愛を与えられたのか。それは読者の皆様の受け取り方によって、変わってくるのではないでしょうか。
ただ、彼女に幸せが降り注ぎますように。