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俺の奴隷が強すぎて婚約破棄させられた挙句、一夫多妻を強要された件について

 結婚式がめちゃくちゃになった。

 奴隷たちがあちらこちらで飛び跳ねているからだ。


 奴隷の一人、ワーキャットのミーアは、テーブルを飛び回り、綺麗に備え付けられた料理を散らかして回っている。

 もう一人の奴隷、ゴーストのエレナは、人々の憎悪を喚起させ、お互いに因縁をつけさせる。

 そして最後の奴隷、インプのルルは、逃げ惑う人々の足をひっかけたりして遊んでいる。


 大混乱である。

 鳥の丸焼きやら、魚のマリネやら、ワイングラスやら、なんやらがあちらこちらで宙を舞い、人々は積年の恨みを叫び続ける。

 その場から逃げようと、駆け出した人々は、バターやワインで汚れた床でこけて、激しく尻を打つ。

 そのうち、乱闘騒ぎが巻き起こり、執事、客、料理人、ペットの犬を含めて殴り合う。

 俺の隣では、令嬢のエリザベスが真っ青な顔をしている。


「これは一体どういうことですの?」


 今にも倒れそうな顔で、俺に訊いてくる。

 俺は引きつった笑顔で、それに答える。


「これはきっと、奴隷たちの悪ふざけさ!じきに収まるから、待っていれば……」

 

 そう言おうと瞬間に、ミーアが俺の前のテーブルにやってきて、そのまま猿ぐつわを噛ませる。


 「んーーー!!!」


 次にインプが、俺の手足を縛りあげ、そしてそのままゴーストが魔法を使って、俺を連れ出した。

 エリザベスは、唖然とした顔をして、その光景を見届けた。


 こうして、俺は令嬢と結婚破棄をして、奴隷と一夫多妻を強要されたのだ。


 ◇◆◇


 さてその前に、そうなった経緯を説明しなけばならない。

 俺の名前はアルフレッドだ。奴隷商人をやっている。


 奴隷商人というのは何かというと、戦争捕虜とか、借金を重ねたとか、あるいは、犯罪を犯したとか、村を襲ったとか、そんな理由で奴隷になったやつを、売りに出す仕事だ。


 しかし、今宵の奴隷商人というのは、そういうのは扱わない。


 まず第一に、リスクが高い。

 戦争捕虜や犯罪人といった人々は、どうしても反抗心が強かったり、あるいは、逃亡を企てたり、場合によっては主人を傷つける。

 なので、どうしても扱いが難しいし、人気も無い。


 そういうわけで、現状、奴隷商人の主流はモンスター娘となっている。

 いわば、人の形をした魔物を扱うことが多いのである。


 あまり変わらないのではないか、と思うかもしれないが、この世界においては、明確に魔物に対しては人権というものが与えられていない。

 言い換えると、煮て焼こうが殺そうが自由なのである。


 そこで、奴隷という身分の出番なのである。

 

 奴隷という身分は、主人の「所有物」となる。

 所有物であるということは、無暗に傷つけたり、殺したりできない。

 つまり、疑似的に守られる、ということになるのである。


 本来ならば、魔物と人間は平等であるかもしれないが、それでも根本的には魔物と人間は対立し、戦っているわけだから、こうでもしなければ、魔物は人間社会に受け入れられないのだ。

 いわゆる、苦肉の策ってやつだ。


 それで、じゃあその商品の奴隷とやらは、どういう風に仕入れて来るのか。

 まず一つは戦争である。

 人間と魔族は戦争状態に陥っており、そして捕らえられることが多い。

 例えば、インプのルルは捕らえられ、それこそ口で言うこともはばかれるような不埒なことをされているのを見かねて、俺が介入し、お金を支払った。


 もう一つは買い取り。

 基本的に奴隷というのは、犬や猫の家畜と同等の扱いが行われる。

 この表現を使うのは不愉快に感じる人もいるかもしれないが、実際にそうなのだから仕方ない。

 そして、犬や猫が幸せに暮らせるかどうかは、主人によって決定される。

 主人が悪ければ、衆人群衆の前で鞭を振るったりするなどの加虐行為を行ったりする。

 例えば、ワーキャットのミーアはそのパターンで、いい加減にしろと怒鳴りつけ、お金を支払った。


 最後にこれは珍しいことだが、自主的に奴隷になるパターンだ。

 俺たちがワイワイやっていると、迷い込んできたゴーストが「楽しそうだから」と、奴隷になったのである。

 これに関しては、最初は断っていたが、何やら呪い殺すだの物騒なことを言われたので、奴隷にした。

 人間社会に興味がある魔物はこういうのもいるので、深く考えないようにした。


 ◇◆◇


 商人において、重要なことは幾つかある。

 それは、商品の価値を高めることである。


 奴隷の価値といえば、体力であり、知力であり、機敏さである。

 その点に関しては、普通の冒険者と変わらない。


 従って、奴隷を高く売るためには、奴隷教育が重要になる。

 そこで、ミーアは品質のよい魚料理と、いわば毎日のトレーニングによって、体力を鍛え、そして見た目を引き締める。

 次に、エレナには本を買い与え、そして人形のようなフリルのついた服を買い与える。

 そして、ルルには、ダンスを学ばせたり、あるいは手品など、手先を器用にするための技術を学ばせる。


 こうして、奴隷の価値を高めて、高く売る。

 そして、俺は大金もちになる。


 ……その筈だった。


 ◇◆◇


 それは野外での食事のことだった。

「アルフレッドしゃん、お腹すいたですにゃ~!はやく焼き魚くださいにゃん!」

 そう言いながら、ミーアは俺をパンパンと叩く。

 俺は焚き木で焼き上げた魚に塩を軽く振りかけ、そしてレモンを絞ってやると、ミーアに渡してやる。

 ミーアは、嬉しそうな顔をすると、おいしそうに食べ始める。


 一方で、エレナは空になった皿を黙って俺に差し出す。

 俺は、市場で購入したパスタを茹でてやり、それにミートソースをかけてやる。

 エレナは、行儀よく一礼すると、それを受け取る。

 そして黙々と食べ始める。


 その隣では、ルルが行儀悪くフォークを振り回している。

「ねえねえ、ぼくの分は~?僕はお腹ペコペコなんだけどぉ~?」


 そうなのだ。

 こいつら、奴隷なのに俺の手伝いを一切しないのである。

 食事から寝るところまで、全部俺の仕事。

 これだとどっちが奴隷かわからない。


「おい!お前ら、なんで働かないんだ!奴隷なら、仕事をしろ!」

 俺がそういうとミーアは言い返す。

「だってぇ~、めんどくさいですにゃ~」

 エレナも反論する。

「そうですわ。私は本を読むのに忙しいのです」

 ルルに至っては、完全に開き直っている。

「ぼく、奴隷のつもりじゃないし~」


 俺はため息を吐く。

 何故、こう立場が逆転したかと言えば、話は簡単で、要は俺がちゃんと教育を施しすぎた結果である。


 俺は奴隷商人だが、「奴隷も人である」と父から教えられてきた。

 だから、人と同じように接してきたし、教育も与えてきた。

 そして、商品だったとしても、俺は商人として高くうることはもちろんのこと、彼女たちが商人だったとしても、奴隷として幸せに、楽しく暮らせるような最低限のことはしてやるつもりだった。

 そうして、俺の彼女たちへの教育はうまくいったわけだが、しかし強くなりすぎたのである。


 もちろん、彼女たちを奴隷として欲してきた人はたくさんいた。

 しかし、彼女たちはことごとくそれを拒否した。

 奴隷だから拒否権はないのだけど、実際は嫌々引き渡した結果、トラブルが発生する事例が多発したので、基本は合意に基づくものだ。

 そして、彼女たちは首を縦に振らない。


 また、俺もこれには困り果てた。

 今まで教育してきたことが仇となって、ただ売ればいいという売り方ができなくなってしまっていた。

 ちなみに、エレナの本は俺が買い与えているものだし、ミーアの魚も市場で買ってきたものだし、ルルのダンスも俺が教えたものだ。

 俺の教育は、彼女たちにめちゃくちゃ行き届いていた。


 仕方ないから、俺は奴隷を引き連れてダンジョン攻略に乗り出すことにした。

 これがますます仇になって、彼女たちはその圧倒的な力で、どんな高難易度ダンジョンも攻略していった。

 そのうち俺の出番は減っていった。

 彼女たちだけでダンジョンを制覇できてしまったからだ。

 そして、このダンジョン攻略の報酬は結構おいしい。

 ますます強く当たれなくなっていき、俺はますます料理、洗濯、掃除などの家事に追われ、どちらが奴隷かわからなくなってきたのである。


 ◇◆◇


 そんな生活がしばらく続いたが、転機が訪れた。

 一人の令嬢が、俺に興味を持ったのである。


 きっかけは、ルルが気紛れに広場でダンスやら投げナイフやらを披露していたときである。

 その華麗な技に、令嬢が目を付けたのだ。


 「ねえ!あなた!私の家で働かない?肌も綺麗だし、身なりも整っていて、しかも技も一級品。こんなのサーカスでも見たことないわ。私の家にくれば、きっとメイドとして一番になれるわよ」


 しかし、ルルは全く興味なさそうに返事する。


「いやだぁ~、働くのは嫌い~」


 そう言いながら、品物を仕舞うと、俺の後ろに隠れたのである。

 俺は、ルルをなだめながら、その令嬢に断りを入れる。


「申し訳ありませんが、こいつは俺の奴隷でして……売り物ではあるのですが、なにせ気難しくて」


 すると、その令嬢は俺に言う。


「いえいえ。むしろ、一人の奴隷をここまで育て上げた貴方に興味があります。ぜひ、今後社交パーティーに来てください。きっと盛り上がるでしょう」


 俺は、社交パーティーというものがよくわからなかったが、とりあえず、彼女たちを連れてその令嬢の屋敷へと向かったのである。


 ◇◆◇


 俺たちは、あらかじめ令嬢に招かれており、貴族の場に相応しい服装を用意してもらっていた。

 俺は伸ばし切った髭と髪を整えてもらい、彼女たちも俺が仕立てたドレスに着替えさせる。


「うわあ、ちょっと動きずらいにゃあ」

「ダンスなんてできるかしら……」

「……こほん!こほん!」


 三人はそれぞれ不安を口にするが、しかし俺はこれから始まる宴に心を躍らせていた。

 そして、貴族たちが屋敷に入り、パーティーが始まった。


 俺が初めて参加したパーティーは、まさに別世界だった。

 豪勢な食事に酒やフルーツ、そしてきらびやかな宝石の数々。

 俺は呆然とその景色を眺めていたが、それ以上に視線を感じるのである。


「あの子、なんて綺麗なのでしょう、まるでお人形みたい」

「隣の子も、なんだか気品があるわ。きっとどこかの貴族の娘さんかしら?」


 そんな声がちらほらと聞こえてくる。


 ミーアは料理に舌包みを打ち、エレナは本で読んだジョークを披露して人々を笑わせ、ルルは純朴な青年たちを誘惑してはからかっている。

 俺は、彼女たちが褒められてとても嬉しかった。


「なんて素敵な子たちなんでしょうね。奴隷と言われなけば気づきませんね」

「よほど、奴隷商の人が優秀なんでしょうね。私も、欲しいですわ」

「是非お近づきになりたいですわね」


 そんな声がパーティー会場で聞こえてくる。

 俺は嬉しくなっていると、横からエリザベスが俺の手を引き、そして耳元で囁く。


「ねえ、アルフレッドさん。あの子たち、私に譲ってくださらない?私、あの子たちが欲しいわ」


 俺は一瞬耳を疑ったが、しかしすぐに言い返す。


「いや、彼女たちは俺の奴隷でして……」


 するとエリザベスは笑顔で返事をする。


「冗談です。あなたがあの子たちをどれほど大切に扱っているかは、あの仕草や振る舞いでわかります。どちらかというと、私はあなたに興味を持っています」「え、俺に……ですか?」


 すると彼女はしばらく考え込む。

 そして顔をあげると、俺の手を取る。


「ええ、あなたは彼女たちを立派に育て上げました。それで思ったのです」


 俺は首をかしげる。


「何がでしょう?」


 エリザベスは答える。


「あれだけ、あの子たちを大切に扱ってくれるなら、きっと伴侶も、そして生まれる子供たちももっと大切にしてくれるにちがいないと」

「伴侶……ですか」


 俺がそう呟くと、エリザベスは俺の手を強く握る。

 そして、俺をじっと見つめる。

 その瞳には、強い意志を感じさせるものがあった。

 俺は一瞬どきりとしたが、しかしすぐに我に返る。


 彼女は言った。


「ええ。私は、あなたを伴侶の候補にしたいと思っています」


 俺は思わず息をのんだ。

 まさか、こんな大貴族が俺を伴侶に選ぶとは思いもしなかったからだ。

 しかし、俺はすぐに冷静になる。


「いや、しかし……」


 するとエリザベスは俺の耳元で囁く。


「今すぐには無理だと思います。ですから、まずはこうやって、私と仲良くしてくださるかしら?」


 俺は少し考えた後、返事をする。


 「わかりました」


 エリザベスは俺の返事を聞くと、満足そうな笑みを浮かべる。

 そして俺の手を握りながら、パーティー会場を回っていくのだった。


 しかし、俺は気づいていなかった。

 ルルが、そんな俺たちの様子を、じっと見つめていたことに。


 ◇◆◇


 そんなこんなで、エリザベスとの交流は始まった。

 好意のつもりかもしれないが、俺は屋敷の一角の余っている部屋を貸し出してくれた。


「倉庫みたいに汚いですけど、もしよろしければ使ってください」


 それは、貴族なりの謙虚さの表れなのだろう。しかし、俺たち平民にとっては安宿屋よりも綺麗だったし、広かった。


 最初のうちは、俺はそれに落ち着かず、ほうきを持って適当なところを掃除したり、あるいは、納品される食糧を運んだり、あるいは、料理の下ごしらえをしたりと雑用をこなしていた。

 その様子を見て、エリザベスはますます微笑ましく思ったのか、俺に話しかけてこういうのだ。


「なんだかあなたのほうが奴隷みたいですね。奴隷のあの子たちはあんなにのんびりしているのに」


 確かに、ミーアは日向ぼっこをしているし、エリスは詩と創作に明け暮れているし、ルルはメイドたちをからかって遊んでいる。

 落ち着かず、雑用をしているのは俺だけだ。


 「まあ、俺は奴隷商人ですから」


 俺がそう返すと、エリザベスはくすっと笑う。


 ◇◆◇


 しかし、だ。

 エリザベスはある時、俺にこんな提案をしてきた。


「ねえ、あの子たちはあんなに有能だから、一人でやっていけると思います。ですから、奴隷の身分から解放させてやり、自由にさせるのがいいのではないでしょうか?」


 俺は確かにそうかもしれない、と思った。

 既に彼女の育成したコストについては、ダンジョン攻略の報酬金によって回収はできている。

 それに、彼女たちを見ているにつれて、自分には奴隷商人に必要な冷酷さは持つことが出来ないと考えていた。

 なら、いっそ解放して自由を与えるのが一番だろう。


「わかりました。ではそうしましょう」


 俺がそういうと、エリザベスは満足そうにうなずいた。

 そして後日、俺は彼女たちを呼び出し、奴隷の身分からの解放について説明を行った。

 三人はその話を聞くなり、納得いかないという顔をした。

 ルルはつまんなそうに欠伸すると、こんなことを言い始める。


「どうせ、あのエリザベスって女、僕たちがアルフレッドと仲がいいから、奴隷解放を口実に、この屋敷から追い出したいんでしょ?バカバカしいなぁ」


 するとエレナもそれに同意する。


「全くですわ。二人っきりの生活を楽しむのには、私たちが邪魔というわけですね。そんな思惑には乗りません」


 そんな二人の邪推に、俺は反論する。


「そんなわけがあるか。俺はお前たちのことを思って、奴隷の身分から解放しようって言ってるんだ」


 ミーアは皮肉っぽくそれに突っかかる。


「私たちは自由の身になるし、エリザベスは邪魔者が消えるにゃ。そしてアルフレッドは玉の輿で悠々自適な生活。追い出した三人のことなんか忘れてしまってにゃ。これが、いいことずくめってことにゃあ?」


 俺は呆れた。

 彼女たちが、こんな風に考えていたとは。


「何はともあれ、奴隷の身分からは解放だ。これからは、自分の好きなように生きろ。ただ、俺はお前たちのことを家族同然だと思ってる。困ったときは、俺にところに来て欲しい。出来る限りのことはする」


 三人は文句を言うが、ルルはニヤニヤ笑顔を浮かべながら、二人に耳打ちをする。

 そうすると、二人はなんだか面白そうな顔をして、奴隷の身分から解放されることに承諾した。

 ルルが何を言ったのかはわからないが、とりあえず、その場ではほっとしたのである。


 ◇◆◇


 とはいえ、簡単に事は上手くいかない。

 三人が屋敷からいなくなった、エリザベスの本性が段々と見えてきたのである。

 まず彼女が「俺を伴侶にしたい」と言ったことに関しては本気だった。

 実際に、「いままでの」エリザベスにはとても好感を持っていたし、俺も彼女に惹かれていた。

 しかし、それはあくまでも「今までのエリザベス」にである。

 俺は彼女と婚約をし、そして日程も整えた。


 そこから、エリザベスは豹変した。

 今までのは仮の姿だったのだ。


 エリザベスは、自分の屋敷で俺をこき使ったのである。

 しかも、酷いことに俺を召使い同然として。


 エリザベスは、毎日の掃除や洗濯といった雑用を俺に押し付けた。

 さらには、屋敷に関する財政管理、在庫管理、そして食事の手配まで。

 俺はそれらのことを一手に引き受けさせられ、毎日朝から夜遅くまで働かされたのである。

さらには、俺の作った料理に対して文句をつけるし、陰口もたたく。


「全く……アルフレッドは無能ね」


 そう言って笑うのである。俺は流石に頭にきて、彼女に言う。


「いい加減にしてください!俺は奴隷商人であって、召使いではありません!」


 するとエリザベスは笑みを浮かべる。


「あら?私はあなたを伴侶にすると言ったのだけど?」


 そう言いながらエリザベスは、俺の腕を掴む。


「でも、私はあなたを愛しているわ」


 俺は思わずゾッとした。そして、手を払いのけてしまった。


「ひどいわね」


 エリザベスは、わざとらしく傷ついたようなそぶりを見せた。

 俺はそんなやりとりをして、疲れ果てて、自分の部屋のベットに戻る。

 俺は、またしても、奴隷のままだったのだ。


 ◇◆◇


 その夜、俺は悪夢にうなされていた。

 エリザベスに鞭で叩かれ、そして蹴られる夢だ。


「お前は無能だ」


 そう言いながら、俺を罵り、蹴り飛ばすのだ。

 俺は飛び起きると、汗びっしょりになっていた。


「はあ……はあ……」


 俺は呼吸を整えると、窓際で物音がする。

 見てみると、そこにはルル、ミーア、エレナの三人がいた。


「よお、困っていたから助けに来てやったよ。困ったときは来いって、言ってたよな?」


 それは「俺が困ったとき」ではなく、お前らが、と思ったが、実際に俺が困っているのは変わりがない。

 エレナはふわふわと、窓から入りベットに座ると、懐かしそうな顔をして、ベットを撫で、そして俺のほうを見る。


「アルフレッドさんは何か勘違いしてらっしゃったようですが、あなたは私たちがいないと何もできないのですよ?」


 ミーアは軽やかに窓から俺の部屋に入り、そして俺の腕を掴む。


「そうそう、あたしたちがいないと、すぐに死んじゃうにゃあ」


 ルルもそれに同調する。


「そうだよなぁ、アルフレッドは俺たちのモノだからな。簡単には渡さないよ」


 そして、三人は俺を取り囲むと、ニヤリと笑う。


「つーわけで、助けてやるよ。また、あとでな」


 そう言うと、三人は窓から出て行ってしまう。

 俺はそれを見送ることしかできなかったのである。


 ◇◆◇


 そして、結婚当日に戻り、あのようなハチャメチャなことが起きたのである。

 彼女たちが計画したのは、憎きエリザベスの結婚式を滅茶苦茶にすることだったのだ。

 それで、最初みたいなことが起きたのだ。


 俺は手足を縛られ、自由を奪われたまま、三人につれられる。

 そして、乱暴に馬車に詰め込まれると、ミーアは馬に飛び乗り、馬車を操った。


「さあ、行くにゃあ!」


 馬はいなないて、そのままエリザベスの屋敷の門を飛び出すと、凄い速度で駆け抜けていく。

 俺たちは、エリザベスの屋敷を飛び出したのだ。


 馬車の中で、ルルは俺のさるぐつわを解いた。


「おい、お前ら!何をしてるんだ!」


 エレナは、何を当たり前なことを、という顔で返事をする。


「それは、あなた、結婚式を挙げるためですよ」


 俺は耳を疑った。


「結婚式?」

「そうです、私たちの結婚式です」


 そんな馬鹿な!と思った。

 しかし、彼女たちは本気だった。


「私は本で調べたんです。基本、重婚というのは許されないのですが、一つだけ許されるパターンがあります。それは結婚対象の相手が、奴隷の場合です。そのときは、重婚できるのです」


 俺は反論する。


「しかし、お前らは奴隷から解放……あっ!」


 俺は気が付いてしまった。

 俺は奴隷は「奴隷の身分」から解放されたがっていると思っていた。

 というより、普通の奴隷はそうだろう。

 しかし、彼女たちは普通の奴隷ではなかった。


 だから、奴隷を解放したことに関して、合意していなかった。

 合意されていない以上、奴隷のままなのだ。


「近くに魔物と人間を取り持ってくれる珍しい教会があるですにゃあ!そのままそこで、三人と結婚ですにゃあ!」


 俺は頭が痛くなってきた。

 だが、三人は嬉しそうだった。

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