その96.最高の親友だと思ってて
……でかい。
何度見てもでっかいな。
洋風なその家……家? いや屋敷ですこれ。
由緒正しいお家柄で親御さんも大きい会社の人だって聞いている。
一度お会いした事があるがご両親は凄く聡明そうな方で高校生の僕にさえ礼儀正しい振る舞いをしてくれていた。
そんな親御さんにも関わらす。
というか、なのに。
なんっっっっっっで!!! あのバカ二人はすざまじい馬鹿(二回目)なんだろう!? いやー不思議だわ!
それに関しては何も言えない本当!
僕が最初に来たのはサクの家だ。
サクに無理矢理連れてこられたのが数回、縁に幾つか引きづられたのも数回。
あんま良い思い出が無いけど、いやもーデッカイ家だ。
広い分部屋に筋トレ用具だらけの部屋もある。
与える玩具間違ってるよね絶対!
「っふ……っふ……」
荒い俺の息遣いだけが部屋に響く。
無我夢中で体を動かす。
自分の家のトレーニングセンターは、何度も通っているがこんなに心が落ち着かない状態なのは初めてだ。
なぜ落ち着かないのかはアレだ。理由は解っている。
多分へーじのあの姿を見たからだ。
あんな事になったのは俺のせいだ。
俺に力が無いから、へーじはあんなにボロボロになったんだ。
戦えない人間が居るのならば、戦える俺が戦わなきゃ行けねぇ。
なのにアイツは一人で戦いやがった。
クソ。
体のモヤモヤを消し去るように体を何度も苦しめる。
いつもは力を身につけるためにやる事だ。
なのに、今はそんな事よりも考えたくないから動いている。
そんな感じだ。
体を動かすのは凄く良い。
頭を空っぽに出来る、徐々に上がる体温や荒くなる息。
苦しくなるにつれて考えるという動作は必要無くなる。
考えるのが苦手な俺には嬉しい限りだ。
なのに心のモヤはいつまでも晴れない。
おかしいなぁ。このモヤモヤは考えてるってわけじゃねーのかなぁ。
俺はバカだから……わからねェや。
部屋に電話の音が鳴り響いた。
その音に我に返る。
少し間を置いて部屋の壁にある受話器を取った。
「へーじさんがお見えになりましたよ?」
うちのお手伝いさんの言葉に、俺は小さなため息を零してしまった。
ああ、来ると思ってたよ。
「ああ……この部屋まで来てもらうように言ってもらっていいかな」
お手伝いさんにいつもの調子で話しかける。
軽い返事と共に電話は切れる。
………。
…………………どの面さげて、会えばいいかなァ。
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「おお! へーじじゃねーか!! 態々来てくれたのか!?」
腹筋をして、良い汗をかいているサクが居た。
しかも飛び切り良い笑顔だ。
「……何ずっこけてんだお前?」
「扱けるに決まってるだろーがボケ!! 何? 停学食らったショックで凹んでるとかじゃなかったの!?」
「イヤー休みだったら暇でよー、いつもの4倍筋トレしちゃったぜ☆」
再び僕は思いっきり扱ける。
「4倍ィィィィ!? いつも何時間筋トレしてんだよ!」
叫び声を上げる僕にキョトンとした表情でサクは応える。
「4時間」
今日三回目のズッコケ。
もう扱けるのも痛いんですけど!?
僕怪我してるんですけど!?
「16時間!? 馬鹿だろ! 正真正銘の馬鹿だろ! 君時計読めないんじゃないの!?」
「失敬だな! 俺だって時計くらい読めるわ! 20時間の筋トレだ!」
「それ5倍だよ! 掛け算すら出来てないよ!! っていうか20時間って何だよ! 君ギネス乗ったんじゃないの!?」
「ハハ。褒めるなよ!」
「褒めてない!!」
止まらない言い合いに折れたのは僕の方だった。
ゼーゼーと折れていない手の方を膝についていた。
そんな僕とは裏腹にサクはニコニコと笑っている。
何でこの馬鹿はこんな元気なんだ……肺活量の問題か? いや、僕の体力の無さも大概か。
「なんっか、ひっさしぶりだなへーじ?」
っは? 何言ってんだコイツは?
サクはニコニコと笑いながら言葉を続ける。
「久しぶりでもこういうやり取り出来て俺は嬉しいよ」
そう言い出したサクの表情は本当に晴れやかだった。
その言葉に少し違和感を覚える。
「久しぶりって……まだ一週間しか経って無いじゃん」
「俺に取っちゃ一週間でもなげーよ、俺学校大好きだかんな!」
そう言って、笑うサクの笑顔は本当に嬉しそうだった。
そういやコイツ1年2年連続で皆勤賞取ったツワモノだったな……。
勉強は死ぬほど嫌いなクセに学校は好きだと言う。
実際コイツは僕と常に一緒に居るが実はそこ等じゅうに友人が居る。
それは男子女子問わず、誰にでもわけ隔てなく馬鹿をやるコイツだから出来る芸当なんだろう。
いや女子にはタダ馬鹿にされてる感じか?
……僕と違って人見知りをする脳すら無いらしい。
そんなサクを、時々羨ましく思える。
サクだったらきっと。
こんな滅茶苦茶になっても、馬鹿な発言で全てをひっくり返してくれる。
だから。
だからこそ君のとこに最初に来た。
君だけは、絶対に僕を裏切らないからだ。
絶対に僕の味方でいてくれるからだ。
いつもふざけてるコイツだけど……。
僕の表情は真面目な表情へと変わる。
少し小っ恥ずかしいが、小さな声でだけど、サクにはちゃんと聞こえるように零す。
「……僕には君が必要だ」
ずっと君は僕の味方で居てくれるから。
「サク。僕を手伝ってくれ。皆を、取り返そう!」
性悪女を暴力女を、志保ちゃんを、学校の僕たちの空間を。
僕の言葉にサクはニヤッと笑った。
アァ。俺は絶対にお前の味方だ!
コイツならそう言う。絶対にそう言う。
だってコイツは絶対に俺の味方だから、絶対に裏切らないと、信じているから。
だけど俺の絶対の自身は。
覆される。
「なァ……止めようぜ?」
「……え?」
僕は思わず聞き返してしまう。
いつも付いて来てくれていたサクが。
………え?
え?
就職先決まったああああ!
やっていけるのかな、とうとう社会に出ようとしています。
年とったなー