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その94.完敗

「だーかーらー! 何なの君は!」


「何ってちゃんと見てよコレ! めっさ良い出来でしょ!? このマスク作るの本当大変だったんすよ!」

 病院のロビーでギャーギャーと騒いでいるのは右腕をギブスに巻いている僕と。

 マンボウのマスクを被った謎の男。


「いやー! 感想聞こうにも皆どっか行っちゃうんだもん!」


「そりゃそーでしょうよ! マンボウの怪人にしか見えないよ君! 誰だって関わりたくないって!」


「え、ちょ! 怪人!? 何それ面白い!」


 マンボウの死んだような瞳の奥で少年の目がキラキラ輝いている。

 ちょっとトイレに外に出ただけなのにまさかこんな変なのに捕まるとは!!

 病院でくらいゆっくりさせてよ……学校でも変人ばっかなんだから!



「へ、へーじさん……?」

 そんな僕の後ろ姿から、か細い声が聞こえた。

 振り向いた先に居たのは。


「志保ちゃん……?」


「えっと……この変な人はお知り合いですか?」

 ぐは!? 志保ちゃんの目が痛いィィィィ! この変なのと同類だと思われてる!?


「へいへいねーちゃん変な人とはご挨拶だなコンチキショー。だが! 褒め言葉として受け取っとくぜ!」

 そう言いながらマンボウ怪人はッグ、と親指を立ててみせる。


「どー聞いたら褒めた事になるの!?」

 この子サクと通じるバカっぽさがあるよ!


 僕の突っ込みに怪人が少し固まる。


「……お兄さん、素敵な突っ込み! 俺と笑いの世界に行かない!?」

 何か手握られたよ!? マンボウの顔が近いんですけど!? 怖いんですけど!?

 っていうか!


「手ヌルヌルしてるんですけど!?」


「魚っぽさを出来るだけ近づけてみました」


「ヌルヌルの部分真似るより頭から下なんとかしたら!?」

 っていうか君は一体何をしに病院に来てるの!?

 頭!? 頭の方面ですか!?




 頭のおかしい少年と別れ、僕は部屋に帰った。

 ベッドにもたれる僕の横に、俯き座る美少女。

 傍から見たら中々に素敵な光景だが、聞いた内容はあまり素敵とは言い難い事だった。

 


 僕はあの男のせいで入院したわけだが。 

 サクは聞いた話じゃ僕に暴行を加えた濡れ衣を被せられて停学中……。

 ミホも最近は夜遅くに帰ってきて朝早くに出発。

 学校にはいるようだけど殆ど会えない状況。

 そして縁は……。

 今はあんなにも毛嫌いしていた会長に常に付き従っているらしい。

 同じクラスの志保ちゃんが何度話しかけても上の空らしい。

 後……。


 ……。


 その首にロザリオは戻ってきていたそうだ。


 他にも学校の状況は伝えられた。

 縁を失った風紀委員は完全に生徒会に押されてる状況。

 生徒会に反する生徒達もその状況に気圧されるているそうで、まぁ僕をやったのが誰かも何となくで知られているのだろう……上手く見せしめにされたわけだ。


 ぽつぽつと状況を喋る志保ちゃんはとても辛そうだ。

 そりゃそうか。親友がそんな感じになったら辛いよね。


「つ・ま・り、完全に生徒会に僕たちは負けたわけだ……」

 僕が企画する勝負以前に先を越された、いやー見事。

 風紀や一年生組と戦うわけでなく、僕や回りを使って、約束破らずに沈静させたのか。

 確かに約束は守ってるし企画を無くしさえすれば勝負云々も無いわな……いやーヒーローが変身中に攻撃されたような予想外気分だわ……お見事お見事。


 そう思ったら、ムカついてきたな。


「へーじさん……」


「うん?」

 志保ちゃんは泣きそうな声で続ける。


「どうしたら……前に戻りますか?」

 そういうと、志保ちゃんの目から我慢していた物が流れる。


「どうしたら、また縁と喋れますか……どうしたら、前みたいに楽しかった学校生活に戻りますか? どうしたら…………」

 少女はポロポロと涙を流す。

 今の状況があまりにも酷い状況である事は解っているらしい。

 涙を零す彼女に、非力な普通の少女に。

 僕は、ゆっくりと口を開く。


「……うん。完敗だよ、今の状況では何も出来ないね」

 僕の言葉に志保ちゃんの表情は更に暗くなる。


「……ゴメン」


 志保ちゃんは首を振る。

 大丈夫なわけが無いのに、こんな時でも僕の事を考えてくれた反応だ。

 本当に、この子もある意味バカな子だ……。


 長い沈黙が続く。

 すすり泣く彼女の声が、僕の心を苦しめる。

 せめて、頭を撫でたあげたら……この子の涙を消せるのかな。

 でも、それすらも出来ずに僕は項垂れる。

 腕が、動かないんだ。

 ゴメンね。

 ゴメン……。


 本当に、今のこの状況も、彼女の一瞬の安らぎさえも、僕には何も出来ない。

 なにも……。


 僕は唇を強く噛んだ。

 会長にロザリオを奪われた時もそうだ、何も出来なかった……。


 そんな僕を見て、この子は無理に笑おうと表情を作る。


「い、いえ……何言ってるんろう私……へーじさんの方が辛いですよね……こんなに酷い事をされて、そんなへーじさんに頼ろうとして……縁がいないと、誰かに頼らないとダメなのかな私……私、さい、てい…」

 無理に笑顔を作る、だけど目からはボロボロと涙がこぼれている。

 きっと沢山考えたんだろう、縁も、姉も頼れない状況で、一生懸命考えたんだろう。

 それでも、彼女には解らなかったんだ……僕がボロボロなのが解っていても、それでも誰かに頼りたかったんだろう。

 誰かに言いたかったんだろう、その思いを、口に出せない気持ちを。

 学校で、彼女は今たったの一人なんだ……。

 友達は居るかもしれないけど、親友の縁がそんな感じなんじゃ……な。

 ……今一番つらいのは彼女なのかもしれない。

内定一個きまったぁぁぁ!

でもまだまだ内定とるぞ!

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