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その92.変わった『あの日』から

 必死で病院の廊下を走っていた。

 早く病院を出たくて。

 誰にもこの顔を見られたくなくて。

「っひ……うぇ……ぐす……」


 アタシの気持ちに答えるように目から零れる涙は止まらない。

 ボロボロボロボロ。

 大粒の涙は止まって欲しいのに。


 へーじに向けられた言葉が心に突き刺さって。

 いや、心にも無い言葉を吐いた事も自らを傷つけて。

 本当は守ってくれたへーじが嬉しかった。

 弱いくせに戦ってくれたへーじが嬉しかった。

 ボロボロに傷ついているへーじが辛かった……。


 だけど、それは全部アタシのせい。

 前だってそう、銀行のときもアタシに関わってへーじは大怪我した。

 今度こそあんな事が無いようにって、思ってたのに……。

 アタシのロザリオを守る為にへーじはあんな姿になったんだ。

 もうへーじは……アタシ達の争いに関わらなくていい……静かに学校生活を送ってくれたらいいから。

 もうあの人が傷つくのを見たくない。


『アタシがあの男に従っていれば……へーじはきっと二度と傷つけられないから』




 -今から。『あの日』にさかのぼ


 生徒会室にはいない。

 何処だ? アイツは。

 殺してやる……。

 暗い感情がアタシの歩を進めさせる。


 会長はスグに見つかった。


 校舎の裏、過去にアタシとへーじでゴミを分別していた所。

 あの時の元気な姿を思い出し、先程みたボロボロの姿がフラッシュバックする。

 アタシの暗い心は余計に強くなる。

 その憎悪は。


 目の前で一人でゴミを分別している男の背に向けられていた。


 会長がしている行動は素晴らしい事だ。

 だが、今はそんな事どうでもいい。


 ええ、どうでもいい。


 不断とは違う思考。

 いや、きっと思考はもう止まってる。


 アタシが考えている事は一つだけ。



「以外に遅かったじゃないか、穴見縁」

 コチラの方を向かずに会長が突然言葉を発した。

 黙々と、ゴミの分別をしている。

 散らかった大量のゴミを軍手を嵌めた自らの手で燃えるゴミと燃えないゴミで分けているようだ。

 かなり多く分けられている様で、二つの山が出来ている。

 嫌な臭いが鼻に障る。


 だけどアタシにはそんなの関係無い。


「ハァ? 何ソレ、アタシが来るの解ってたってワケ?」


「君が大切なあの男の為に血相変えてくると思っていたよ」


 その言葉に、アタシのイライラは更に募る。

「……ソレ解っててとか、ボコボコにされるの待ってたっての?」


 アタシの言葉に、会長は鼻で笑って見せただけで、コチラを向かない。

 黙々と分別をしている。

 その姿にアタシはギリッと音を立てる程に歯軋りをした。


「こっち向きなさいよ!!!」

 怒りを込めた叫び声に、会長はゆっくりと振り返る。



「アァ。スマナイね、ついゴミの分別に夢中でさ」

 そう言った会長の表情は、あまりにも普通の笑顔で。

 ゾッとした。

 コイツ……。


「何なのよアンタ…へーじをあんなにしといて……何で平然としてるのよ!!」


「んん? ああ、そうだ、君も分別を手伝いたまえ、我が効は全く分別がなっちゃいない」

 聞いてない。

 コイツは! 何処までアタシを馬鹿にする気なのよ!! 


 もう我慢出来ない。

 アタシは地面を蹴った。

 拳を振り上げ、会長の顔面に狙いを定める。

 殺す、待ってたんでしょう? 望みどおり壊してあげるわよ!

 そのワケの解らない笑み諸共ブチ壊す!!

 

 会長も動いた。


 アタシが動いたってのに会長の動きは酷くゆっくりだ。

 右手をポケットに入れる動作。

 何か武器を出す気!? でも遅いわよ!



「なァ、これは燃えるかな? 燃えないかなァ?」

 そう言ってポケットから出して見せてきた物は。

 会長の手からぶら下がる。

 光に当り、小さな水晶が赤く反射するソレは。


 赤いロザリオ。


「っ!?」

 慌てて急停止した。

 目の前にソレが在る。

 でもどうして?


「え…ぇ?」

 無意識に良く解らない声が漏れた。


 怒りは驚愕に。

 そのまま固まってしまった。

 何でアンタが……。


「答えろよ?」

 そう言って嘲笑うかのようにロザリオを揺らす。


 アタシは何も言えない。

 揺れるロザリオを必死に目で追う。

 傍から見れば、どんだけ馬鹿に見えてるかしら?

 犬がオヤツの骨でも目で追ってるような、きっとそんな馬鹿らしい姿。


「私は、断然、燃えるゴミだと思うんだが?」


 そう言って、会長は臭いまでするゴミの中にロザリオを放り込んだ。


 アタシの行動は考えるよりも速く体が動いていた。

 ゴミの中に入る躊躇もせず、飛び込む様にロザリオに手を伸ばした。

 ロザリオを掴むと、そのまま汚いゴミに体を埋めた。 


 キツイ臭い。


 でも、ロザリオを掴んだ事にホッとしてしまう。


「く……クッヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 上から会長の下品な笑い声がした。


「お前等は本当揃いも揃ってッバッカだなァァーー!? そんな首飾り如きで必死になってよォォォォ!? クサイ!! アァ~クサイんだよお前達は! ダダ甘くて眩暈がする!! その感情は愛情か!? 友情かよォ!? 何にしてもキモチワルイんだよォォォ! 生ゴミがお似合いだなオイィィ!!」


 突然の捲し立てられる勢いで頭を踏まれた。

 こ、コイツ、躊躇いも無く……!


 アタシは足に抵抗して瞬時に立ち上がる。


「絶対に! 許さない! 殺す!」

 アタシは構え直す。

 怒りはスグに戻った。

 一瞬固まってしまったけどロザリオは手の中。

 後はコイツを殺すだけ!!

 溜めていた全ての怒りをココで爆発させるのよ!!


「ククク! ゴミだらけで良く似合ってるなクズ女ァ」

 会長はニタニタと笑いながらコチラに嫌な視線を向けてくる。


 何で笑ってられるのよ!

 アタシは何をされてもココまでは怒らない。

 だけど、へーじを。

 アタシのへーじを、よくも、よくもォォォォ!!

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