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その91.ここから何かが変わった気がした

 ここは……何処だろう。

 白いベッド。

 白い天井。

 あれ……何でこんな事になったんだっけ。



「気が付いた?」


 声は僕が寝ている隣から。

 聞き覚えのある高い女性の声。

 だけど僕がしっているこの子の声はもっと悪戯っぽい感じ。

 今は、何処か優しい。


 その子の方に首を向けた。

 首を向けただけでも体が痛む。

 なんで?

 まァ良いや。

 隣に居るであろう物知りに聞けば。

 君は何だって知ってるからね。



「……ミホ?」


 僕の言葉に隣のショートカットは覗き込むようにして笑いかけてくる。


「なァに? へーじー」


 そういえば、君を探してた気がする。

 ミホが屈託の無い笑顔で僕を見る。

 ……あれ? ちょっといつもの笑みと違うな。

 何処か悲しそう? 寂しそう? 違うな……。

 何その笑顔






「えっと……何でこうなったんだっけ?」

 喋るだけで口の中が痛い。

 後顔も何か熱いし視界もいつもより狭いぞ?

 首は動くけど体は異常に重たい。

 動けないくらいに。



「覚えてないの? 聞いた話だとサクに襲われたんだって?」


「サクが? 僕を?」

 耳を疑った。

 アイツが? 考えられない。


「全身打撲 腕は複雑骨折だって。顔も凄く腫れてるよ?……酷いよねそこまでするなんて」

 淡々と話すミホに違和感を覚える。


「え? え? 待って? ミホはサクが僕を襲ったと、本当に、本当に思ってるの!?」

 絶対に無いと考えられる筈だ。

 僕たちならそう考える筈だ。『僕たちなら』

 一緒にいる『僕達だから』

 あの馬鹿を知っている僕達だから。


「だって……だってそう聞いたよ?」

 不思議そうに首を傾げるミホを、呆然と見てしまう。

 真実がそうだったとしても、僕はあの馬鹿を疑う事は無い。

 サクだけじゃない。君がもし僕を刺したと言っても、僕は信じないだろう。


 思い出せ、誰にやられたんだ? 何で? 何の為? どういう状況で?



 ガラッとドアが開いた。


 開いた先に居たのはサイドテールが揺れる少女。

 縁だ。

 特徴的ないつものむすっとした顔だが、その首にいつも身に着けているロザリオが無い。

 それを見て、フラッシュバックしたように僕の脳裏に会長が浮かんだ。

 ぞっとする視線で僕を見下し、笑い、痛めつけた記憶。

 そして離してしまったロザリオ。

 思い出して、僕は縁の顔がスグに見れなかった


 そうだ、僕はロザリオを渡したんだ!

 縁が大切にしたロザリオを、僕は、僕は……。


 申し訳なさで顔が見れない。


 きっとつらい、きっとかなしい。



「へーじ……」

 縁が呼ぶ声に僕は顔を上げられない。


「アタシのロザリオを守って……そんな事になったって……聞いたよ」


『聞いた』つまり誰かに聞いたのか。

 知っているのは僕と会長だけ。

 つまり会長に聞いたのか。

 どういう経緯かは知らないけど、彼女は知っているのか。

 ゴメン……君が死ぬほど大事にしていたのを知っていたのに。

 守れなかった。

 きっと、彼女の顔は辛く歪んでいるのだろう。


「アタシの為に?」


 顔は上げられず。

 小さく頷いた。


 ……。


 沈黙が続いた。


 その沈黙を破ったのは、縁だった。



「ップ」


 不思議な声につい顔を上げた。

 そこには悲しむ縁ではなく、満面の笑みを広げている縁がいた。


「アッハッハッハッハッハッハッハ! まさかあんな首飾りの為にそんなボロボロになったの!?」


「え?」

 それは完全に疑問の声。

 無意識に出た。

 あまりにも理解が出来なくて。


「バッカじゃないの!? 首飾り如きで普通そこまでする!?」


 あれを君が大事にしているのを僕は知っている。


「ダサ過ぎるよへーじ! アッハッハッハ!」


 君はそんな人間じゃないのを知っている。


「貧弱男のクセに……似合わない事してんじゃ無いわよ!」


 僕は、ただ、君が悲しむ顔が見たくなかっただけで……。


「あのクソ会長を調子乗らせただけで、サッサと渡せば良かったのよ!」


 縁はボロボロの僕を罵倒する。

 僕は、何も言い返さない。

 蛇に睨まれたカエルのように。

 縁を凝視するだけで動けない。


 いつものような対等な言合いとかじゃなくて。

 一方的な。 


 縁の言葉は一つ一つ僕の心に突き刺さる。

 あまりにもソレが辛くて。


 僕は、弾ける。


「……ろ」


「は? 何? 聞こえないわよ!」 



「失せろォォ!! 二度と、二度と目の前に現れるな!!!」

 怒りに任せて叫んだ。

 感情的に、心のそこから、縁に、叫んだ。

 叫んだ瞬間痛みでうめき声を上げ、苦しみに体をくの字に曲げた。 

 慌ててミホが僕の体を支えてくれる。


「…………」

 そんな僕を見ても縁は何も言わない。

 顔を上げて縁を睨む。

 僕の視線を無視して縁は背を向けて病室を出た。


 それを確認して、僕は項垂れた。


 何で、こんな事になったんだ。


 何で……。


「へーじ……」

 ミホが僕の背中を優しく撫でてくる。

 その優しさが、余計に辛かった。





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