その７．秩序を愛する沢渡（さわたり） 薫（かおる）
朝のホームルームというのは３年生になってもメンドクサイ物で。
というか日直に先生がいないってどーゆーわけ……？
壇の上では同級生と思われる暑苦しい男が熱弁を奮っている。
「我々はとうとう３年生へと進級したッ！ もうすぐ高校生としての我々では無くなってしまうだろう！ 貴様らはさまざまな道を行くだろう！ 離れ離れになる前に我々は一日一日を大切に生きなければならない!! 堕落するな！ 日々を大切に生きろ!! 貴様等は特別な個人であるのだ!!」
うわーォ、ウルサーイ。
何この人？ 同い年と思われたくない、そして同じクラスと思われたくない。
偶然隣の席のミホは何が楽しいのか男の熱弁に耳を傾けている。
僕はそっとミホに耳打ちする。
「ね……何あの暑苦しい人」
「へーじ、クラスになったの初めて？ 彼は『薫君』だよン？ 名前は聞いた事あるでしょー有名な人だしねー」
む……そういえば聞いた事がある。
沢渡薫
彼は、いわゆる男バージョンの縁だ。
正義を愛し、秩序を愛し、悪を許さない。
今年生徒会長に就任した男だ。
正義や秩序に固執する彼は縁以上に、イヤ、『異常』に悪を許さない。
悪即斬。
縁よりもタチが悪いのはコイツは自分が全て正しいと思っている所だ。
そして、自分以外の人間を確実に見下している。
ある意味危ない人間だ。
出来るだけかかわりたくない人物の一人なのだが、まさか同じクラスだとは……。
どうも今年は去年以上に変人と関わる事になりそうだ。
「おい！ へーじクン！ 聞いているのかね!?」
うぉわ!? こっち見た!!
「ぇ……何いきなり……」
周りから同情の眼を向けられた気がした。
気のせいでは無いだろう、そして隣で面白い事起こった! と言わんばかりに目を輝かせている性悪女……ちょ、その目刺すよホント。
「ぼーっとしていたじゃ無いか！ 少しは気を引き締めたらどうかね？」
僕の思いも知らずに薫君は何やら怒っている。
「はぁ……ゴメンなさい」
「全く！ 君は頭は良い様だが他の部分は残念な様だな！」
お……おおぅ、何いきなり喧嘩越し？
「毎日毎日クズと絡んでいるからそうなるんだっ!!」
ん？ クズ？
あ、あー、サクの事？
サクも嫌われてるなァー。
まぁ、案だけ自由にやってりゃそりゃ嫌われるわ。
「これだからクズは嫌なんだ！ クズ同士で固まる!! 君は多少は勉学ができるんだから少しは友達を選んだらどうかね？ 少なくとも君の頭の良さ「だけ」は僕も買っている!! あの正義気どりのクズ女は君を買っている様だが、所詮頭の悪い人間の意見だったか……」
薫君の言葉は、僕の耳から脳へ、そしてその言葉の意味を理解した時には十二分に。
僕の心は揺れていた。
……は？
クズって何？ 縁の事？
その時に、僕の平静は消えた。
沸々と浮かぶ苛立ち。
僕は少し前に、彼女の信念を知った。
どんな思いで縁が正義を語っているのか、知らないクセに。
何も知らないクセに、知ったような事言ってんじゃねーよ。
自分が全て正しいと決めつけるタイプ。
ムカつくね。
何よりも、人の友達を態々大声で馬鹿にするって何？
……縁がクズならお前は何だ？
「調子乗ってんじゃねーヨ、クソ眼鏡」
僕がぼそっと零した言葉は、クラス内を凍らせた。
暫しの沈黙の後、薫君が口を開く。
「へ、へーじクン、何と言ったのか解らなかったのだが……？」
口の端がヒクヒクと動いている、明らかに不愉快そうにずれたメガネを治す仕草を見せる。
うん？ 聞こえなかった？
「調子乗んなつったんだよ、君は頭だけじゃ無く耳もオカシイわけ？ 病院行って来いよ、ついでにその無駄に動く口を縫って貰って来たらどう？ 後勝手に決め付けんな、サクや縁がクズなら君はカスか？ おっとカスに失礼だ、ゴミ虫。 その無駄な弁舌は虫共とやってろよ、まァ……虫ですら君の話を聞くとは思えないけどね」
そこまで言い切ると僕は口を閉ざす。
フム、久しぶりに毒を吐いた気がする。
「き……貴様ァァァ……」
薫君が壇上から僕を睨みつける。
「なんだよ、人に言うのは慣れてても言われるのは慣れてなかったかい？ ゴミ虫」
薫君は怒りで顔を真赤にさせ、憤怒で震える手で眼鏡のズレを治そうとするも、震える手では上手くは行かない様子だ。
カチャカチャと金属音を鳴らしている。
「どうやら君もクズの一人らしい……君は生徒会のブラックリストの一番上に書いておいてやるよ……誰に舐めた口聞いたか解らせてやる」
「っは、やってみろよ。ついでにその汚いブラックリストに付け加えとけ、口で勝てなかったので実力行使に出ましたって屈辱的にな」
新キャラです。
暫くは新キャラ紹介ばっかになりそうです＾＾；
