その71.良い子なんだって。きっと悪いやつじゃないんだって
銃刀法違反男の視線が固まっている僕とアリサに向けられる。
こいつは一体なんでいるんだ!?
わ、わけが解らない!
ここはあのクソ会長の巣窟。
そんな所に天敵と言っても過言じゃない悠馬が居るなんてありえなさすぎる!!
良い具合にテンパってる僕に、困った顔でアリサが耳打ちして来る。
「落ち着いて下さい、貴方も似たような事してるんですから」
あ、そうか。
僕も会長の天敵に変わらないのに巣窟に突っ込もうとしてたんだっけ。
うん……人の事は言えないな。
って! そうじゃ無くて!! 妙に対応し辛い突っ込みしないでくんない!?
「私が心読めるからって心の中で突っ込みしないで下さいよ……良いですか? へーじさんは変装してるんですから、変に動揺しないで下さい。悠馬君は勘が鋭いので喋らずやり過ごしましょう」
で、でも、今でもアリサが僕にがっつり耳打ちしてんの見られてんだから既に遅くない? あの銃刀法違反、解り易いくらい疑った視線ぶつけてるよ!?
「……確かに耳打ちは不味かったですね」
その言葉も耳打ちされてもォォ! 君は行動がワンテンポ遅いよ!!
「大丈夫です。任して下さい!!」
そう自信満々な声を返すとアリサはゆうまと向き直る。
だ、だいじょうぶなのか? だけど確かに変に僕が喋って存在が露見してしまうよりも同じ一年生のアリサに任せた方が得策かもしれない。
「こんにちは悠馬君♪ 何でこんな所に居るんでーすか?」
甘ったるい猫なで声が悠馬に向けられる。
一年生のキャラの中でもそんな感じなのか君は。
「……お前こそ何をしている。今は授業中だろう」
低い声がアリサに向けられ、疑いのような目は変わらない。
「アハ♪ それこそお互い様ですよー? 不良のクセにそんな事考えなくても良いじゃない?」
まるで逆撫でするかのような発言に寒気が走る。
お、おい逆上して攻撃して来たらどうするんだよ!! 日本刀持ち歩くような奴だぞ!?
恐々と見ている僕とは裏腹に飛び切りの笑顔のままのアリサ。
僕の予想とは違い、悠馬が逆上する事は無く寧ろ小さく微笑んだ気がした。
「ああ……確かにそうだ」
悠馬の表情を僕は恐怖の視線から驚きの視線に変わっていた。
この男は、笑うんだ。
会って以来険しい顔や仏頂面しか見ていなかった気がしたけど……。
前にも。今と同じような気持ちをこの男に感じたことがある。
それは二度目の出会いで保健室の時。
仲間を保健室まで運び、仲間を傷つけた物に対して純粋に怒っていたあの時。
この男は、やはり良い奴なのか?
「その人は?」
悠馬の視線がアリサから僕に移る。
「あ、えーと……こ、この人はー、その」
明らかに動揺したような言葉を吐くアリサ。
任せとけとかいっときながらこれかい……やはりこの子は嘘が苦手なのか。
戸惑っているアリサの変わりに僕が口を開く事にした。
「始めまして。百合果と申します、アリサとは仲良くさせて貰ってます」
礼儀正しく悠馬に一礼してみせる。
喋るなと言われたけど、ある意味これはチャンスでもあるかもしれない。
アリサが今こちらの味方なら悠馬が何で会長のとこに居たか心を読んでもらおう。
僕が喋ってどう考えているかを誘導させるつもりだ。
どうせ今考えている事もアリサには筒抜けだろう。
今は悠馬の方に視線を向けているからアリサの方は見れないけど何とか解ってくれるだろう。
「この学校に通っている生徒の親戚です。ここの生徒会の会長に聞きたい事があって学校にお忍びでこさせて貰いました。 案内してくれる筈だった親戚の子が来れなくなったので知り合いのアリサちゃんにお願いした次第です」
完結に、びみょ~に信実味を加えて早口で説明を終わらせる。
ここまで明確に説明すれば聞く事は無いだろう。
「……アリサに学校外の知り合いがいたのは知らなかったが、ここの会長と話すのなら気をつけたほうが良い、危ないから」
あれま。
見知らぬ人間の心配までしてくれたよ。
こんな良い子なのに何で僕の命を狙うんだろう……?
「ありがとうございます。そんな危ない人に貴方はどういった用事だったのですか?」
「……ええ、ちょっとね」
ここだ。
やはり口にはしなかったが悠馬の脳裏には何故来たかが浮かんでいる筈だ。
アリサに後で聞けばこれで解る。
「それでは、私達は失礼します」
そういいながら僕は軽く会釈してみせる。
これ以上無駄な喋りは止めておこう。
何処でボロが出るか解ったもんじゃないし。
合わせるかのように悠馬もお辞儀を返す。
アリサも慌てて軽くお辞儀をして見せていた。
それを見て、悠馬はッフと小さく笑ってみせると僕達から離れていく。
手に持っている刀は未だに怖いけど、アリサに見せた表情には温かさがあった気がした。
「……へーじさんの考える通りです、あの人は仲間に対しては優しい心で接します。風紀委員や生徒会では敵視されていますが私や同じ一年生の中では慕われているんです」
アリサは後姿の悠馬を見つめながら少し悲しそうに溢す。
やはりあの子は悪いやつではないらしい。
それでも僕に対する恨みは解らないし、縁の敵であることには変わらない。
「ええ、そうですね。相手の中身が解ったところで戦いが終わるわけではありません」
アリサの言葉はどこか歯痒そうに聞こえた。
お互いが正しければいがみ合う理由なんて馬鹿馬鹿しいと考えるのかもしれない。
心が読めるからこそ、どちらも嘘をついていないのが解るから。
「……うん」
僕は言葉に出さずに小さく、それだけ答えた。
こんな所でそんな話をしたところで自分しか正しくないと思っている男との交渉に役立つわけではない。
敵地の巣窟であるドアに手をかけると、ゆっくりと開けた。
あ、何で悠馬がココに来たのかアリサに聞いてないや。
瞬時に僕の心を読んだアリサがそっと耳打ちをしてくる。
「……もしかしたら私が言わなくてもスグに答えはわかるかもしれないです」
……? どういう意味だろう? まぁいいや。
取り合えず今は頭でっかちの会長との戦いが優先だ!
ハッピーニューイヤー私。
とうとう20才を迎えてしまいました。
さよなら10代。始めまして20代。
この小説が終わる頃は一体幾つになっていることやら・・・・・・
それはそうと皆さん地震は大丈夫だったでしょうか。
私の所は何とか無事でしたが強いて言うならネットが暫く触れなかったくらいです。
被災地の方は大変かもしれませんが頑張って下さいしか言えないのが歯痒いです。
今出来る事は募金と省エネと献血くらいだと思ってます。
そんなことしか出来ませんが、無事をお祈り申し上げます。




