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その69.心を抉る言葉。私だって完璧じゃない。結局は人間。

 この子が完全に敵だと解ったんなら、なんとしてでもへーじに伝えるべきよね……でもへーじは今何処に?

 朝っぱらからいないわけだし、そのお姉さん……かどーか疑わしいけどその人を通してみるのも手よね。


「……険しい顔してますよ?」

 アリサちゃんの不安そうな声で我に返った。


「ア、アハハ! 私がそんな顔するわけ無いじゃーん!! アハハ……」

 慌てて誤魔化す笑みを浮かべてもアリサちゃんの表情は曇ったままだ。

 ……やはり簡単に教えて良い事じゃ無かったみたいね。

 さて、どうするか。


 その時、制服のポケットが音を立てて揺れた。

 私の携帯だ。

 こんな時に何?

 アリサちゃんに軽く手を挙げてから携帯を取り出した。

 相手は……今覆面共に紛れ込んでいる私の部下。


「何?」


『やっと校長室に入れました! しかしお二人の姿は無いようです!』

 アー……まだ潜伏させてたまんまだっけ。

 百合果ちゃんの場所も解ったし、もう良いんだけど。


「も良いよー大体の場所解ってたしー、折角の情報無駄骨だったけど悪いね~?」


『そうですか! 流石は我等が情報屋!』

 私の言葉に嬉しそうな声が返って来る。


「……そういうこっ恥ずかしい事言うの止めてってば」

 軽く悪口言ってみたんだけど、この子には何も通じないらしい……。


『あ、それと小耳に挟んだのですが、百合果嬢の正体が解りました』


 私は電話越しで軽く溜息を零す。

 色々と遅い……。

「それももう解ったから」


『あれま、この情報は知らないと思ったんですが……』


 先程アリサちゃんから聞いた。

 彼女はへーじの姉。

 信憑性は低い方だけどアリサちゃんから聞いたんだから、百合果って人を知っているそれ以上はいないんだから信じざるおえない。

 それ以上の情報だったら他の百合果って人との知り合いから聞き出さなきゃ行けないけど、アリサちゃん以外の知り合いは実際いないし……どうせ対した情報じゃないだろう。


『うーん……何せ裏庭で他の生徒が偶然に百合果嬢本人から口に出したという物でして……有力な情報だと思ったのですが……』


 ……え? 本人自身からの?


「……聞いてみようか」

 まさか本人自身の言葉があるなんて、これ以上ない情報じゃない!

  


『なんとあのへーじ氏の親戚の方だったようです! いや~あんな美人な親戚が居て羨まし……』


 ッピ


 私はケータイを切るとポケットにしまった。

 無駄な会話をする気はないのでサッサとケータイを切った。

 普通なら酷いと思われるかもしれないが、この部下にはコレぐらい冷たいくらいで丁度良い。

 ポケットにケータイを戻すと視線をアリサちゃんに向けた。


 ……おっかしいね。


「ど、どうしましたか?」

 眉を寄せる私にアリサちゃんが不安そうな声を掛けてきた。

 そんなアリサちゃんに私は探るような視線を向ける。

 対してアリサちゃんは私と目を会わせないようにしていた。

 アリサちゃんが言った言葉と部下から聞いた話しの違い。

 このアリサちゃんが吐いた嘘のメリットが私には解らない。

 何故ならばメリットが全く思い浮かばないから……


 別に考えれるのは、アリサちゃんは百合果って子の事をよく知らないけど取り合えずで答えた?

 んー……違うな。態々答えた意味合い、『知らない』というよりは百合果って子と『打ち合わせをしていなかった』という方が考えられるかな?

 これが二人の食い違いが生まれた原因。

 そしてその食い違いは、お互い百合果って子の正体を明かさないようにしている。


 ……着眼点は他にもある。


 それはアリサちゃんも百合果って子も言葉は違えど、へーじの肉親である事。

 多分打ち合わせをしていなくて、百合果って子の方でもどたはんばで言い出したことがここでズレているわけだし。

 つまりは百合果って子の存在は口止めされていて苦肉の策で出た言葉が肉親であること。

 百合果って子も、正体がバレたくなくて適当なことを言った。

 肉親と言ったのもへーじの友達関連だったらすぐに調べれば解るからだろう、咄嗟にしちゃ二人とも上出来かな?

 だけど、肉親関係ってのもアリサちゃんの様子じゃ嘘っぱちだし……


 友達でもなければ肉親でも無い。



 ヒントはへーじ関連なわけだし……。


 へーじは会長に直訴しに行くわけで、だけど自分や自分以外の知人が言った所で門前払い……だからこそ入り縦で学校に日が浅いアリサちゃんを使ったわけだし、だったらアリサちゃんだけを行かせれば良いのに、別で知らない美少女を寄こした。

 アリサちゃんが得体の知れない存在だというのは解るし、それを踏まえての保健での自分が信頼出来る人物。

 そして、私が知らないへーじの信頼が厚い人物、だけど肉親以外。


 ……あー良いとこまで来てると思うんだけどなー! へーじに聞くのが一番手っ取り早いのにー! 何でいないのよ!! 

 


 あ、何でいない?。


 あ。 あー……


 そこで理解した。

 私の中で歯車が噛みあった。



 その時アリサちゃんのビクビクしていた顔が溜息と共に諦めた表情に変わった。

 私の顔は人が見ても解るくらいに核心的な顔をしていたのだろうか?



 バレたくないって感じが如何にもね。

 ほんと呆れるやら笑いそうになるやら……。

 カラーコンタクトとウィッグで完全に騙されたわ。

 多分化粧もしてるわね。


 あのへーじが……ぶふ!!

 素質はあると思ったけどまさかアレほどとはねー?






 正体も解ったしそろそろ本題にうつろう。

 へーじの正体が解った事は笑い話で済むけど……アリサちゃんの言葉は冗談じゃ済まない。




「それは警告? 忠告?」

 自分は敵てあるという発言とは別にへーじが殺されるなんて発言は黙っていられない。



「どちらもです」

 アッサリとアリサちゃんはそう言い返してくる。


 ……アリサちゃんは一年生組みの人間であることを告白した。

 でもその告白はアリサちゃんにとってプラスになることじゃない。

 寧ろ裏切り行為にまで思えるくらいだ。


「そんな事言っていいの?」


 アリサちゃんは私の言葉に目を伏せる。

「それはそうですけど……敵だろうと私はへーじさんに死んで欲しくありません、敵なのに……そんな風に考えるのは変ですか?」

 

「……アハ、良いんじゃない? 敵にも好かれるってへーじらしいしね」

 私は小さく笑いながらそう言った。

 そう、へーじなら敵に好かれてもおかしくない。

 何処までも相手に真正面から対峙するあの人は、普通の人から見れば只の口の悪い男だけど。

 何かしら事情のある人間には通じるオーラらしい物を持っている。


「やっぱり、へーじさんが死んじゃったらイヤですよね」


「確かにね」

 アリサちゃんは可愛らしく笑った。

 その笑顔が、ああ本当にこの子は可愛い子なんだな、って認識させた。


「さて、ここで本題です」


「……?」

 突然アリサちゃんの顔つきが変わる。


「今から私が言うことは、物語の最深部を突く部分かもしれません」

 物語。私が良く使う比喩表現だ。

 意味は今の状況。

 そして状況の最後まで。


「まだまだ物語の最初の部分でしかない貴方達ですが、最深部を知っている私からすればあまりにも貴方達が不利過ぎます、ですから少しだけ力を貸しましょう」


 普段なら私はまず嘘かどうかを疑う。

 だけど、その瞳が嘘を言っているとは思えなかった。

 本気で本気の瞳。

 敵からの最大の答え。

 ある意味物語の反則行為。


 それを聞いてたら大分楽になるんだろうね。

 私達が負けることも無いといった。


 だけど。


「……いらないよ」

 私の口は自然とそう言っていた。


 私の言葉にアリサちゃんの目が見開かれた。

 


「な、何故ですか?」


 その未来を見たようなしったかな言い方は気に食わないね……。

 悪気が無いのは解ってる。

 でもね。

 先の事なんて解らないじゃない。


「ありがとね。それを聞いたら面白くなくなるから良いや」

 そう言って私はウインクをして見せた。

 そんな私の様子にアリサちゃんはポカンッと口を開いていたが、呆れたように失笑してみせた。


「呆れた……そんな理由で耳を塞ぐ気ですか?」


 少し攻撃的な言い方。

 軽蔑が籠っているのがわかる。


「アッハッハ! どう言われても結構だけどねェ? アタシはスグに攻略本見るタイプじゃないんだァー?

 考える事をっ楽しむの結果がどうなるか

悩むのを楽しむの。 どんなエンディングになってもそれを受け入れるの」


 いつも通りの私と違いアリサちゃんは笑っていなかった。

 それよりも何処か怒っている様子。


「……ッハ、ゲーム気取りですか? いままでがそれで上手くいっているか知りませんが、今回は遊び気分でいたら痛い目にあいますよ?」

 

 私はニヤッと嫌らしい笑みを向けてみせる。


「アッハッハ! 知らないの? 私『達』は、強いんだよん?」

 






「……」

 黙りこむアリサちゃんに視線を送る。

 折角の親切を存外にされたのがショックだったのかな?

 でもこう言うしかない。

 私『達』は反則なんてしなくても絶対負けないと信じているから。

 へーじや縁ちゃん達と一緒なら、誰にも負けないと信じているから。

 最高で最強の無敵な仲間達だと信じているから。


 その時アリサちゃんがこちらを向いた。

 綺麗な瞳が私を見つめる。

 まるで心を覗かれているかのような気持ちになって私から目を逸らしてしまった。


「……失望ですよ少しは貴方の事を見直したのに、そんな事で大事な情報を見捨てるなんて……」


「そ、そんな事って……!」

 私の思いをそんな事呼ばわりされたのがカチンと来た。

 この子ならそんな風に言わないと思って言ったのに! ふざけたような意味かもしれないけど、何よりも私には、それは私にとって大事なことなのに!


「貴方は純粋な好意を持つ女性? それとも……タダの悪質なストーカー?」

 ゾッとする瞳でアリサちゃんが私の顔を覗き込んでくる。

 気圧された渡しは言い返すこと無く一歩後ろに退いた。


「へーじさんを大事に思う気持ちぐらいは一緒だと思っていたんですよ、だけどとんだ勘違いです。 所詮『アレ』と一緒のストーカーでしたか!」


「ス、ストーカー!?」

 だ、誰が!? 私が!? 私がストーカー!?


「他に誰がいるっていうんですか。相手の為では無く自分の楽しみだけで聞くのを放棄したアナタですよ。私はもうアナタなんかにヒントをあげる気はありません。お陰でへーじさんは死亡です、本当に馬鹿な人ですね」


「……ちょっと、言って良い事と悪い事があるでしょ?」


「言って良い事しか言っていません」


 ……へーじが死ぬのは嫌って言ったじゃない。

 なのに何よその言い方。

 私のせいで? 私がストーカー? ふざけないでよ!!


「そんな事じゃへーじさんにもいずれ嫌われますよ? いえ、もう嫌われてるかもしれませんね!?」


「そ、そんなの何で貴方が知ってるのよ!!」


「そりゃ私は解るンですから仕方ないじゃないですか」

 確かにこの子は突然真意を突くことをいうときがある。

 だからこそ……だからこそ、私の心はその言葉で抉れる。


「何処にでも同じ様なのはいるんですね? 貴方が『アレ』と一緒だとするなら私は二度と貴方達に味方する事は無いでしょう……ええ絶対に!」

 怒りと嫌悪を込めた言葉が私に投げかけられる。

 確かに彼女の助言は聞かないといったけど、ここまで怒るのはオカシくない? そもそも『アレ』って!?


 私も言い返そうとした時、暗い通路の奥から足音が聞こえてきた。

 へーじが来たんだ。

 アリサちゃんも気づいたのか怒りを込めた視線を逸らすと、口を噤んだ。

 私もそれに習うように仮面である笑顔を取り繕った。


 それでも私の中ではアリサちゃんの言葉が渦巻いていた。

 へーじに早くアリサちゃんが敵であることを伝えなきゃ行けない。だけど、それよりも。

 ストーカーと言われた言葉が、嫌われていると言われた言葉が、私のせいで死ぬと言われた言葉が。

 ……気になって仕方がなかった。

 私はそんな憎悪の塊りのような存在じゃない。

 


 私は……私はストーカーなんかじゃ無い……嫌われてなんかいない……ねェ。

 そうだよね? へーじ……。  

大分間が空いてしまいましたね。

何度目のごめんなさいか知りませんがゴメンなさいorz

今回でアリサとミホの話は一旦区切りです。

次からへーじたちも出ます。主人公なのに本当久しぶりな気がします……。


ミホだって年頃な女の子。

好意を寄せる男性の気持ち程気になるものは無いのかもしれませんね?

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