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その66.寂しがり屋のサイコメトラー

 水歩さんの心の言葉が頭に響く。

『友達』

 私が欲しかったもの。

 心から信頼し、心から笑えて、心から一緒に泣ける。

 そんなテレビでしか見た事が無い世界。

 きっとテレビ以外にもこのリアルにそれは存在する。

 だけど私はそれを知らない。

 この力が邪魔をする。

 心が響く。

 暗いところが見える。

 じゃあ『心から』って何?


 寂しがり屋のクセに、力のせいで人を寄せ付けるのが怖かった。


 ならば敵として純粋に憎まれよう。

 それだけでも良い。

 それだったら曖昧な感情よりもストレートで良いから。

 甘い言葉や友情のような優しさの裏が見えるより。

 ずっとずっと、心が楽になるから。


 悪い感情でも良いから、と願う私の思いはあまりにも必死で。

 男には欲望の目で、女には嫉妬の目で。

 ある意味求めていた純粋さ。


 人が嫌い。だと思っていたのは故事の守りの為。

 多分、そうでも思わなければ……私は既に崩壊していたのかもしれないから。


 本当は、タダ寂しいだけ。


 悪意ある意識でも。

 もうそれでも良いから人と触れたかった。

 それでも良いからお喋りとかしたかった。



 私をまっすぐ見つめる人間は居なかった。


 でも水歩さんや、へーじさんは違った。


 さっきまで私は水歩さんに敵意を向けていたのに、いつの間にか楽しく喋っていた。

 心でも裏が見えていなくて、普通に楽しいと思ってしまっていた。

 もしかしたら……無意識に元気の無い私の為だったのかな……。


 心が読めるのに気を使ってもらうのが解らないなんて始めて。 



 こうやって、友達って……思ってくれる人なんていなかった。


 へーじさんや水歩さんのように、心から言葉を発せれる人。

 ずっと探してた私と友達になってくれる人。


 ……嬉しい。


 嬉しい! 嬉しい! 変に敵のように意識する純粋さも必要無い、心を読む必要も無い。


 私は……こんな人達を探していた!


 喜んで友達になりますよ!

 嬉しいな! 嬉しいなァ!

 友達って映画に行ったりするのかな! 友達って遊園地とか行くのかな! 毎日メールとかして。

 それと、それと……!


 湧き上がる高揚。憧れた友人との学校生活。


 きっと私は明日から変われる! もう魔女だなんていわせない! この人が……こんな人達が近くにいてくれたらこの力だって意味を無くすから!!



 嬉しい。

 とても。


 嬉しい。




 ……のに。


「気持ちだけ受け取っときます」

 思ってもいない言葉。

 いつものように笑って見せる。

 ちゃんと笑えているかは解らないけど


 

「水歩さん……勘違いしちゃダメですよ。 私は『敵』なんです。それも最高最悪の『敵』です。『敵』に向かって友達になろうだなんて……フフ、愚の骨頂ですよ?」

 口が勝手に動く。

 折角手を伸ばしてくれたのに。

 でも今の私の役目は……『監視者』


 友達を……作ることじゃ……ない。


 最初から敵になんかならなきゃ良かった。

 敵にならなきゃこの人の手を取れたのに。

 今更つく相手を間違えたことを後悔する。


「……そっか、そうだよね」

 そういって引っ込める水歩さんの手を名残惜しく見てしまう。


「……ええ♪ 今は取り合えず助けていただきますけど……明日にはきっとまた水歩さんの立派な敵として帰って来ますのでー?」

 笑いながら敬礼なんてして見せた。

 冗談っぽく、いつものように。

 ……いつものように出来てるかな、いつものように嫌な私かな。

 魔女と呼ばれた、私かな……。


「アハハ、楽しみにしておくよ」

 水歩さんもいつもの様子で返してくれた。

 敵意を向けた笑み、いつも通りの敵対的関係。


 水歩さんと私は似てる。

 お互いが裏を見せないようにしている所が。

 裏の部分は間逆みたいだけどね。

 だから敵対出来るのかもしれないけれど。


 そのいつも通りの敵対関係に戻っただけ。

 ……なんだか、ほっとする。

 バレて、無いよね? 寂しがり屋だなんて思われてないよね?


 もう友達とか云々は忘れよう……

 聞かなかったことに、

 ……。

 しよう……。



 水歩さんは目を伏せる私に向かって笑い声を挙げた。

 私の中の全てを吹き飛ばすかのように。

 

「流石はアタシの『宿敵』かな~? アッハッハ! 簡単にはなびいてくんないんだねェ?」

 宿敵と言う部分を強調して言った言葉。

 そしてそこを何故強調したのか。

 その意味合いが、言葉が頭に流れ込んでくる。

 力が、響く。


 …………ッ!


 始めて……力があってよかったと思った。

 その意味を知れて良かった。


 ありがとう。

 ありがとう水歩さん……


 何でも知りたがるから嫌いだなんて思ってごめんなさい。

 今まで『知りたくない』としか思わなかったから。

 『知りたい』という気持ちがこんなに大事だなんて。

 きっと心が読めなければ貴方が強調した意味は解らなかったでしょう。


 本当に心が読めてよかったと思えたのは始めてですよ。


 『敵』では無く。

 『宿敵』だといってくれてありがとう……。


-----------------------------------------


 先に言われてしまったけど、一応口にもしておく。


「アリサちゃん、友達になろーよ」

 警戒させないように笑みを浮かべながら手を差し伸べる。

 何故ポカン、と固まっているか知らないけど、私は別に自分から敵を作りたいと思っているわけじゃない。

 最初はアリサちゃんの事は何か企んでいると考えていた。

 へーじに近づいたり、一年生の一人であるという概念からそう考えるのは仕方ないかもしれない。

 それでもしっかりと話さずに敵と決め付けたのは私だ。

 今からでも遅くないと思う。

 それに。

 こんな可愛い子を敵にするより友達にした方が絶対に楽しいよね? アハ。



 アリサちゃんは小さく微笑んだ。

 いつもと違う笑みな気がするのは気のせいかな。

 困ったような微笑……という感じだ。

 いつもの得意な笑みが、そんなぎこちなくなってるのに気づいてるのかな?


「気持ちだけ受け取っときます水歩さん」


 アリサちゃんは……拒んだ。


「水歩さん……勘違いしちゃダメですよ。 私は『敵』なんです。それも最高最悪の『敵』です。『敵』に向かって友達になろうだなんて……フフ、愚の骨頂ですよ?」

 馬鹿にしたようにアリサちゃんは軽く笑って見せた。

 馬鹿にしたように、見せようと。と言った方が正しいかもしれないけど。


「……そっか、そうだよね」

 私は伸ばそうとした手を引っ込めた。

 その私の手を、アリサちゃんが盗み見たのを私は見逃さない。

 

「……ええ♪ 今は取り合えず助けていただきますけど……明日にはきっとまた水歩さんの立派な敵として帰って来ますのでー?」

 そう言ってアリサちゃんは冗談っぽく敬礼をしてみせる。


「アハハ、楽しみにしておくよ」

 私はそんなアリサちゃんの姿に笑みを見せた。


 ……なんて、解り易い子なんだろうなァ。

 私が言った言葉に暫く固まっていたアリサちゃんの瞳はとても輝いていた。

 まるで大切な宝物を目の前で見たかのように。

 その瞳が全てを語っていた。

 私に『敵』だと言ったのに。

 瞳だけは友達になりたいんだって叫んでいるようで……

 それを、この子は無理にそれを隠して友達になる事を拒否した。

 名残惜しそうに辛そうに悔しそうに。


 その一瞬の一連が、友達がいないのかな……と余計なことまで考えてしまう。


 話している限りではこの子に友達が出来ない理由は無い気がする。

 理由は解らない……まだ私が知らないことがあるみたいだけど。

 いつかはそれを無くせたらいいね。

 その時は、もう一度友達になろうって言おう。

 それまでは、『最高で最悪の私の敵』でいてあげよう。


 この子は全力で迎え撃つ相手。


 良い子だって事依然に。私の最大の敵で、憎たらしい子だって事も変わらないんだから。


 『友達』では無いけど『宿敵』って言うのもある意味友達に近いんじゃないかな。

 本当の友達になるまでは『宿敵』で。

 アハ、知ってる? 少年漫画じゃ『宿敵』のルビは『とも』なんだよん?



「さっすがはアタシの『宿敵』だね~? 簡単にはなびいてくんないんだねェ?」

 私の言葉にアリサちゃんは一瞬固まった後、表情を緩ませた。

 これは、嬉しくて泣きそうな顔、かな?

 でもその表情は一瞬だけだった。

 アリサちゃんの表情にはいつもの笑み。


「ざーんねんですね♪ ウフフ!」


「アッハッハ! 猫被りめ~!」

 暫く私とアリサちゃんは笑いあっていた。

 静かな廊下に二つの笑い声が響く。


 こういうのも……偶には良いかもね。 

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