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その63.ツンデレのつもりは無いんですが

「ア……アハハ! ヤダへーじってばそんな事言ってるんですかー? ツンデレやろうめーアハハ!」

 いつもの張り付いた笑顔では無く、心から見せるような笑顔。

 子どもがはしゃいだときのような……取り合えず、嬉しそうに笑った。

 

 釣られて僕も笑う。

 ミホが嬉しそうにしたことが嬉しかった……なんてのはご都合すぎるだろうか?


「……貴方と喋れて良かったです」

 まだ嬉しそうに微笑みながらミホはそう言った。

 

「ええ、私も楽しかったですよ」

 少なくともミホの気持ちが少し見れたのは僕も嬉しかったかな。


「あまり百合果さんを待たせると……お二人に怒られますしね」

 そう言ってミホは笑みを浮かべると、道を譲るように動いた。

 壁にもたれて十分に僕が通れるスペースをくれた。

 これはもう行っても良いですよ、って事なんだろう。

 ……お言葉に甘えさせて頂こう。

 確かに喋りすぎた、そろそろ行かないとね。


 隣を通り過ぎようとしたとき、ミホが口を開いた。



「……-最後に、一つだけ聞いて良いですか?」



「はい?」

 その言葉で僕は足を止めた。

 ミホは間をあけ、悩んだような素振りを見せた後。


 再び口を開いた。


「百合果さんから見て、私は……私はどう見えますか?」

 少し必死な様子で、少し焦った様子で、少し……不安な様子で。


「……?」

 言葉の意味が理解出来ず間をあけてしまった。


「……」

 ミホはそんな様子の僕を見ても、意味を伝え直す事も無く黙っていた。

 表情から笑みは消え、ただただその瞳が僕を見つめていた。

 まるで救いを求めるのかのように。


 彼女は回りくどい言い方をする子だ。

 きっと、何かその言葉に意味があるんだろう。


 だけど、その言葉だけで解るほど僕はミホを解っている訳じゃない……。



 どう見えるか? ……。


 

「とても友達思いの優しい人ですね」

 僕はそう言って優しく微笑んで見せた。


「……そ、そうですか」

 明らかな落胆な表情をミホは見せた。

 あまりにも誰もが言いそうな普通な感想。

 ミホの求めていた言葉ではなかったらしい。

 そんな言葉だけでミホの言って欲しい言葉なんて解るわけがないんだ。


 だったら、解らないんだから。


 自分が思った素直な言葉を……出すしか無いじゃないか。



「……ええ、『ありがとう』」



 僕の言葉に「え?」とミホはまた驚いたように声を挙げていた。

「へーじの事をそこまで想ってくれて『ありがとう』。 捻くれた彼の変わりにお礼を言いましょう……ありがとう」


 その言葉は。

 『百合果』が言った言葉であって『僕』の言葉じゃない。

 イッタイタしい自演でしか無かろうが、僕が言った言葉じゃ無い。

 そう思わなきゃ恥かしくてやってられない。


「……」

 何も言わずに俯くミホに、少しだけ助かったと思ってしまう。

 顔が赤いのを見られたら、僕だってバレたかもしれないし……。

 視線をミホに向けないまま、僕は真っ直ぐ歩き出した。



 最後にミホに背を向けたまま小さく零した。

 小さな声で。

 ミホが聞こえるか聞こえないかのくらいボソッと。

 ちょっぴり聞こえなく良いから、という気持ちを込めた小ささで。

 いくら百合果の状態でも言うのには、恥かしすぎた。



「捻くれた彼の……ずっと大好きな親友であって挙げて下さい……」 



 ミホと別れ、暫く暗がりの通路を進んでいてふと思った。

 あれ? そういえば、百合果が僕の親戚のお姉さんという設定、アリサに言ったっけ?

 離れていく百合果さんの後姿が暗がりで見えなくなっていく。

 その姿を、私はずっと見つめていた。

 最後に聞こえた言葉が、私の胸に響く。

 小さな声で、聞き逃しそうになるくらい小さな声だったけど。

 その言葉を。

 私は確かに聞いた。


「ええ、いつまでも大好きですよ……親友としても……ね」

 とっくに見えなくなった百合果さんに向けて小さな声を零していた。

 その声が聞こえている筈も無く、暗がりで響くだけ。



「…………ありがとう、かー」

 百合果さんの言った言葉を口ずさむ。

 そしてなんとなしに頬が緩んだ。



「アッハッハー……何回目のありがとうかなー?」

 その言葉はもう見えるはずの無い後ろ姿に向けて。


「ゴメンね、百合果さん。 言ったでしょ? こーでもしないと……へーじの本音なんか聞けないんだから、

そー……心からの本音が、『本人の口から』ね?」


 ………………ホントひっきょーかもしんないけどさ。


 こーでもしないと、私がこの学校で『唯一解らない事』がわっかんないの。

 何でも知ってる私がずっと解らないと思う事がどんだけ苦痛か知らないんだろうな。


 へーじの心からの気持ち。わっかんないんだ……。


 突然こんな行動を起こしたのは。

 アリサちゃんと話していて、私がおかしくなったんだと思う。


 アリサちゃんが私に言った言葉が脳裏を過ぎっていた。


 ストーカーとか言われちゃったんだ……へーじに嫌われてるって言われちゃったんだ……私のせいで。




 へーじが死ぬって言われちゃったんだ。




 わ、私はストーカーじゃない……嫌われてなんかいないもん。

 へーじを絶対に死なせないもん。

 私は。

 私は……。

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