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その62.友達思いなあの子

 その言葉を聴いた瞬間に僕は固まった。

 ま、まさかバレてる!? あ、あわわわわわわわ!

 心の中グチャグチャの状態で固まっていると、ミホは不敵な笑み……ではなく以外にも焦った表情を見せていた。


「あ、あれ? どうしたんですか? 何で固まってるんですか?」


 君の発言に固まってるんだよ……て、あれ?

 いつもの彼女ならここは押すところだろう。

 今僕は予想外の展開に完全に隙を見せたはずだ。

 もし今の僕をへーじだと疑うなら今のタイミングはチャンスなのでは?

 そして裏を取って脅迫……じゃないのか? ここで焦った演技をしても無駄な筈……?


「あっれ? へーじの親戚のお姉さん、なんですよね? ……おっかしいな、アリサちゃんからはそう聞いたんだけど……」


 あれ!? バレてるわけじゃない!? アリサちゃんから僕が親戚のおねーさんっていう設定を聞いたのか!

 何だ焦って損したじゃん!!


「え、ええそうです! 親戚なんです! へーじのお知り合いの方だったんですか!」

 ここは知らないということにしておこう。

 取り合えず今の僕が完全にミホとは他人という図式で!


 僕の言葉でミホの困惑の表情は一気に明るい表情へ。


「そうなんですよ! 仲良くさせて貰ってます! 皆からはミホって言われてます!」

 何を突然嬉しそうにしてるんだこの子は。


「そうなんですか、へーじがお世話になっていますミホちゃん」

 親戚のオネーサンってこんな感じだろうか……?

 ミホにちゃん付けは鳥肌物なのだがこのさい仕方が無い、

 そんな僕の不安なんて知るはずも無いミホは何故か知らないが興奮している。


「肉親の人と一回喋ってみたかったんですよー!」

 嬉しそうなミホは本当に喋ってみたかったんだろうな、と思わせた。

 そんな表情にミホを疑う気持ちは薄れた。


「……そうなんですか?」


「そうですよー! アイツってば自分の事ぜーんぜん喋んないですからねー! ……だからこうでもしないと本音なんて聞けないですからね~」

 そう言ったミホの表情は少し寂しそうな笑みだった。

 僕はそんなに自分の事を言わないかな……?


 友人を不安にさせる程に。


「ま、彼の気持ちも解るんですけどね。 周りがちょーとつ猛進女にへーじの為なら何でもする変態男+ど変態男……それにへーじ大好きっ子な私まで来たら誰だって冷静にへーじの話なんて聞かないですしねー?」

 そう言ってミホはアッハ! と笑ってみせる。

 ……最後のへーじ大好きっ子って、ネタかコラ。君は僕で遊びたいだけでしょーよ、

 だが、確かにそうなのである。 僕の周りは話の途中で走り出すタイプの馬鹿しかいない。


「それでも、私にだけでも言って欲しいなァ……メンツの中じゃ結構マシだと思うんだけどなァ」

 ミホの遠くを見る視線は僕を通り越して誰かを見ているような気がした。

 きっとその誰かは僕自身なんだろうけど……。

 この子は性悪女で性格悪いし、すぐ人で遊ぶけど。

 ……何処までも友達想いらしい。


「百合果さんが来たのだって、へーじに頼まれて会長と話を付けるためなんでしょう? ……そんなの聞いてなかったしさぁー」

 それもアリサが言ったのだろうか? 僕らの所にアリサを連れてくるまで随分と話をしたんだな。

 仲悪いんじゃなかったっけ?


「アハ……どう思います? 百合果さんは肉親だからともかく、同級生の友達よりも会って間もない後輩を頼るんですよ?」

 ……ッ。 これに関しては何も言えない。

 どうせ僕の周りの人間に相談しても、茶化されるだけだと思ってまともに相談する気何て無かった(実際茶化されたし)ここまで思っていてくれていたとは予想外だった。

 そこで独断でアリサを頼った。

 巻き込みたくなかったなんて格好つけた言い方をするつもりは無い。

 僕だけの問題だと思い込んでいた節の方が強い。

 そのことに関して君をここまで心配させるなんて、思いもしなかったからだ。 


「……マージ殺したくなりますよね」


 ……っちょ、ちょっと本気で怖いんですけど。

 ミホの中でこの件は悲しいことから苛立ちへと変わっていたらしい。

 明日からどんな顔で会えばいいんだホント。


「か、彼にも何か考えがあるんですよ」

 ちょっとでもミホの僕に対する苛立ちを薄めるように半ば必死に自分を庇う発言を零していた。


「……そーなんですよねー。あの貧弱は無駄に頭だけは良いからめんどっくさいんだですよねー」


 お、おお。

 適当に言ったのに何か変に納得された。

 喜んで良い筈なのに何か腹立つのは気のせいだろうか。


「真面目に相談を受けなかった私も悪いんですけどね。アリサちゃんにへーじを取られるくらいならもっと真面目に考えてあげたら良かったな……そんなに、私は頼りない、かな……」

 座った目から、今度は寂しそうに目を伏せて小さく零していた。


 多分僕に『諦めたら?』 と冗談っぽく言っていたあの事を言っているのだろう。

 彼女が後悔している姿は少し珍しいと思った。

 ……彼女に弱気は似合わない。

 普段見せないその姿には性悪女の面影は無い。


 …………そこまで心配にさせるような表情をしていた僕にも問題はある。


「アッハ! すいません百合果さん。愚痴っちゃいました、すいません……」

 誰かに吐き出したくなる程に僕の行動は……僕がアリサを頼った事が辛かったのだろうか。


「……へーじはきっと貴方の事を頼りにしていると思いますよ」


「アハ、気休めですよ百合果さん」

 そう言ってミホは自虐的に笑う。


 確かに咄嗟に言った言葉に過ぎない。

 だけど、彼女は僕が友だと思う数少ない人物だ。

 友達の辛そうな顔を黙って見ている程、最低な人間では無いつもりだ。


「へーじから貴方達の事は良く聞いていますよ」

 僕の言葉でミホは「え?」と小さく零した。


「貴方達には毎度助けられていると言っていましたよ? 話を聞いている感じでは、とても頼りにしているようですけどね」

 不断ならそんな事は絶対に言わない。

 だけど今の僕は百合果だから。

 今のこの姿なら、少しくらいなら。

 ……素直になっても良いと思えた。

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